梅雨だ。雨は嫌いじゃないけど、こう毎日降り続く
とさすがに気分もふさいでくる。
「ねえ恭介。真人は大丈夫かなぁ」
真人が突然「俺は山にこもる」と宣言して、旅に出
たのが先週だ。バトルで最下位に終わったのが、ショ
ックだったらしい。
「心配ない。あいつは殺しても死なんさ」
その真人が、雨で増水したグラウンド横の川を、い
かだに乗って流れてきた。上半身裸に裸足で、見た目
はまあ元気そうだ。
「真人、上着と靴は?」
「おう、理樹か。暑いから捨てた」
「たった数日で野生に戻るとは、真人恐るべしだな」
「恭介、感心している場合じゃないよ」
真人が「それより見ろよ」と、持ち帰った袋を広げ
て見せた。なめこのような小型のキノコが、ぎっしり
と詰まっている。
「なにこれ、真人が見つけたの?」
「おう、筋肉強化キノコだ。世紀の新発見だぜ」
なんでも修行中にお腹がすいて、食べられそうなものを探したところ、キノコが群生し
ている場所を見つけたそうだ。おそらく、梅雨で大発生したのだろう。
「筋肉強化キノコかなにか知らないけど、よく生で食べる気になったね……」
「まあ、見ていろよ。こいつの効果は半端じゃねぇ」
真人がキノコをひとつかみ取り出して口に入れた。
「うわ、あんなに」
「どうだ、この究極まで強化された丸太のような上腕二頭筋は! 超人ハ○クも真っ青だ
ぜ! うらぁぁぁっ!」
真人が得意気に力こぶを作って吼えた。たしかに、昔から筋トレを続けてきただけに筋
肉隆々には違いないけど、以前と変わったようには見えない。それよりも、真人の目がと
ろんとしてきたことのほうが気になった。
「恭介、これって……」
「ああ、毒キノコだろうな。幻覚を見ているのだろう」
「どうだ! おらぁぁぁっ!」
「真人、どーどーどー」
とりあえず部屋に真人とキノコを運び込むと、ほかのメンバーも好奇心からか集まって
きた。本人はベッドで大いびきをかいて眠っている。
「見た目はおいしそうなのですっ」
クドがキノコをひとつ摘んでくんくんと匂いをかぐと、ひょいと口に入れた。
「うわっクド! 何してるのさ」
「大丈夫ですよ、小さいのひとつだけですから」
言っている先から、目つきが怪しくなってくる。
「リキ、見てくださいっ! たゆんたゆんなのですっ! お子様卒業なのですっ」
「ちょ、クドっ! 抱きつかないで」
「なるほど、幻覚の内容はそれぞれなのか」
「恭介、感心している場合じゃないってば」
「ふむ、楽しそうではないか。どれ、おねーさんも」
「来ヶ谷さんまでっ 駄目だってばっ」
「さあ、クドリャフカ君も小毬君もここにおいで。ふはは、ふはははは」
「ちょっと、みんなっ」
もつれ合う三人を分けていると、背後によどんだオーラを感じた。
「……」
「恭介?」
「小毬。リーダーという立場上黙っていたが、俺は……俺はっ」
「うわぁっ、恭介も!?」
収拾がつかなくなってきた。
謙吾は「まーん!」と叫んで飛び出して行ったし、西園さんはひたすら空を眺めて恍惚
としているし、葉留佳さんは二木さんと泣きながら抱き合っているし、鈴と笹瀬川さんは
バトルを始めるし。
「こんなものがあっちゃ駄目だ」
僕はキノコの袋を奪って走ると、焼却炉に放り込んだ。
「……」
でも、立ち上る煙の甘ったるい匂いを嗅いでいるうちに、意識が飛んでしまって……
僕は女子の制服姿で部屋に戻り、みんなに絡んだらしい。誰も詳しい状況を覚えてい
ないのが、せめてもの救いだった。
Tweet |
|
|
1
|
0
|
追加するフォルダを選択
真人が山から持ち帰った怪しいキノコが引き起こす騒動