これから仕事だというのに、さっきからあくびが絶えない。
電車の一定のリズムが睡魔を呼び出す呪文のようで。
目指すテレビ局までまだ少し遠いのがまたなんとも眠気を誘う。
昨日は絵理ちゃんに誘われたチャットで男女のアイドルの話になり、あのアイドルはかっこいいとかかわいいとかあのアイドルのコンサートは楽しいとか、そんな話題に盛り上がってしまい、寝るのが遅くなってしまったのだ。
そういえば、今朝メールを確認したら、夢子ちゃんから夜中にメールが来てた。準備をしながら慌てて返信したけど、怒ってないだろうか。
どこからか、かすかに自分の名前が聞こえてくる。
男であることを発表してから普段の姿でもさすがに騒がれるようになってきた。覚悟していたことだし、うれしいことでもある。たまに迷惑なこともあるけど。
それにしても眠たい、早く着いてくれないだろうか。
隣の誰かが駅に到着するとともに降りていった気がした。そのすぐあとに誰かが座った気がした。
夢子ちゃんからのメールは新しい味のアメができたというものだった。最近はイジワル目的なものではなく、市販にはないようなおいしいものを作るというのが目標になっているらしい。
こちらが返したメールは急いでたために謝罪の言葉と食べさせて欲しいぐらいしか送れていない。
改めてメールを送るのと一緒に眠気覚ましに携帯電話でも触りたいところだけど、周囲に印象悪くするようなことはアイドルとしては避けるべきだよね。
だめだ、ねむいや。
昨日のチャットは楽しかった。でもやっぱり夢子ちゃんには……。
……。
「ちょっと涼、もうそろそろ起きないと」
「へ?」
目を開けると、世界は少し傾いていた。
どうやら眠ってしまっていたらしい。しかも誰かの肩に寄りかかって。
「これでも食べて目を覚ましたら?」
目の前に出てきたのは人差し指と親指に挟まれた緑色をした小さな飴玉だった。かすかにミントのような香りがする。
寝ぼけながら口を開けると、そこにそのアメは放り込まれた。
それが舌の上に転がった瞬間、いっぺんに眠気が吹き飛ぶような刺激が襲ってきた。
むせそうになりながら体を起こし、そのアメをくれた犯人――ではなく、親切な人を見てみたら、そこにいつの間に座っていたのか、夢子ちゃんがいた。
「夢子ちゃんっ」
「目が覚めた? もうすぐ駅に着くわよ、降りないといけないんでしょ」
「え? うわ、ほんとだ」
電車が駅に到着するとともに必要以上に急いで降りた。
振り返ると夢子ちゃんも降りていて、
「今日は涼の出る番組のスタジオ近くで私もお仕事なの」
笑顔でそんなことを言った。
先程まで刺激的だった飴玉も小さくなるとともにそれも弱まり、今は口の中でスーっと甘いアメになっている。
「あ」
「あ?」
「ありがとう、夢子ちゃん」
「べ、べつに、お礼なんて。その、涼は売れっ子なんだから、色々気をつけないと」
「うんっ」
髪の毛を何度もかきあげながらこちらを見てくれない彼女を僕は不思議に思いながら見つめていると、
「じゃあ、行きましょうか。テレビ局に」
夢子ちゃんはそう言って足早に歩き出した。走り出したんじゃないかと思うくらい。
「ちょっと待って、早いよ。一緒に行くんじゃなかったの!?」
声をかけて追いついた途端に彼女は振り返り、小さな包みをくれた。
その包みと夢子ちゃんを見比べる。
「あんたが今朝食べたいって言ったから」
「新作のアメ?」
「感想聞かせてね、おいしかったらお姉様にもあげたいから」
「うん、もちろん」
ここでようやく二人して笑顔になれて、僕たちは今日の仕事場へと歩き出した。
どうして眠そうなのか聞かれて返答に困ったりはしたけど。
-END-
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