「……一刀」
あれから三年。
天の御使いという、一人の男がこの世界からいなくなってから。
少女――華琳――は窓際で満月を見る。
長きに渡る戦乱を沈めた『大陸の覇王』
「あれから3年。あなたはいつになったら帰ってくるのかしら?」
その背には覇気はなく、あるのは年相応の少女の姿。
戦線に立っていた頃とは比べるまでもない。
「あなたの言葉を信じて私達は今を生きている……。でもそろそろ限界よ?」
眼からは涙が込み上げてくる。
それを耐えねばならないと思うが、どうしてか溢れ零れる。
「早くあなたの顔を見せてよ―――一刀」
3年前の一刀が天の世界に帰ったあの日、三国が手を取り合い、共に平和を願えるようになったあの日。
他の皆は宴会をし、騒ぎ互いに健闘し合っていた中、私は告げねばならなかった。
「皆、ちょっと集まりなさい」
「は、何でしょうか華琳様――って! その眼はどうしたのですか!? は! さては北郷に何かされたのですね! 北郷!って、あ奴はどこに居る!」
「春蘭、静かになさい」
「あ、すいません」
まったくこの子と来たら……
ここまで自分の家臣に愛されているのはうれしいけど、もう少し落ち着きを持ってもらいたいものだわ。
「で、何か御用でしょうか?」
「凛……」
「せっかくの宴会です。今日くらいは無礼講――いえ、出過ぎた真似でしたね」
「いいわよ、今日は無礼講だもの」
「なら華琳っち~。一刀はどこにおるん~? せっかく酌をしたろう思ったのにどこにもいぃひんねんもん」
「霞……お酒はほどほどにしなさいよ?」
「そうやで大勝。隊長はどこにおるん? 結構探してみたんやけどどこにもおらんねん」
「そうなの~」
「外にでもいかれたのでしょうか……」
「真桜、沙和、凪……」
本当にあの男は愛されている。
というより、王である私より大事にされてないかしら?
「せっかく兄ちゃんとご飯食べようと思ったのにー。ねぇ流流」
「もう……」
「季衣、流流……」
「はぁ、皆して北郷北郷ってあいつはどこにも行かないでしょ? 何ていっても種馬よ? 自分が手を着けた女を放っておいてどこかに行くなんてありえないでしょ」
「桂花……」
桂花の言葉が胸に突き刺さる。
どうやらそのことが顔に出たようだ。
「華琳様? どうかしたのですか?」
「何かあったのですかー?」
「秋蘭、風……」
それでも私は伝えなければならない。
それがあいつを見送った私の使命。
「皆、心して聞きなさい」
私の声がよく響き渡る。
それはもしかしたら外に居た兵士達まで届いていたのかも知れない。
「……一刀は天の国に帰ったわ。その天命を終えて」
誰も声を発しない。
いや、発することが出来ない。
「華琳っちでもその手の冗談は怒るで?」
唯一反応出来た霞も、その顔は引き攣り、今にも泣き出してしまいそう。
他の人達も同じようで、未だにその言葉を理解出来ずにいた。
「もう一度言うわよ? 一刀はもう――いない」
「どういうことですかッ!?」
「春蘭……」
「ほんまどういうこっちゃ? 流石の私もこれは堪忍袋の尾が切れるで?」
「霞……」
やはり、一番の直情型の二人が感情を顕わにする。
その言葉が引き金となったのか、他の人達も声高に口にする。
「大将、流石にそれは嘘やよな? どうせ隊長のことやからどっかで眠りこけてんのやろ?」
「そうなの~。それでどこかの女の人を引っ掛けてるの!」
「…………」
「真桜、沙和、凪……」
誰もがその言葉を真実と取れない。
「華琳様……」
「それは本当で……?」
「秋蘭、凛……」
冷静な二人も、この時ばかりは冷静でいられない。
「……ぐぅー」
「風……」
「ねぇ華琳様、兄ちゃんが天の国に帰ったなんて嘘だよね?」
「華琳様……」
誰もが絶望の底に堕ちる。
私はそんな皆を前にして、言葉を掛けることが出来ない。
「華琳様。……本当なのですか?」
「桂花……。えぇ、私が言ったことは本当のことよ。……だって私の眼の前で消えて逝ったのだから」
私の眼から一粒の涙が零れる。
それが証拠となったのだろう。
ある者は激怒、ある者は悲しんだ。
そして全員に共通して見られたのは――絶望。
「なんでやねん! 約束したやないか……。私を連れてってくれるんやなかったのかい!」
「何故だ! お前は私と秋蘭と三人で華琳様を支えると約束しただろう! それを裏切るというのか!」
「姉者……」
「ねぇ流流? 嘘だよね? 兄ちゃんが天の国に帰ったなんて嘘だよね?」
「季衣……私も信じたくないよぉ」
「隊長……」
「凪……」
「何でなの? 何で隊長は私達を残していったの?」
「凛ちゃん……。お兄さんは私達を捨てたのでしょうか? 私達に魅力がなかったから帰ってしまったのでしょうか」
「風!」
誰もが絶望に取り込まれた中、一人だけは膝を屈したりはしていなかった。
「あなた達、しっかりしなさい!」
「桂花?」
全員が絶望する中、ただ桂花だけは絶望に負けてはいなかった。
その瞳には涙は溜まっているものの、零しだしたりはしていない。
「泣くなんてみっともないことは止めなさい! あなた達はこの魏の武将や軍師でしょう!?」
「お前……お前に何が分かる! 北郷を――一刀を失った気持ちがッ!」
その言葉は響く。
誰もが口を開くことが出来ない。
いや、間に入る事が出来ない。
「愛していないお前などに「―――ぃ」何?」
「―――うるさいッ!」
「桂花!?」
一番冷静であった筈の桂花が、春蘭を叩く。
春蘭もその行動に茫然とし、桂花を見ることしか出来ない。
「いつ私があの男を愛していないと言ったのよ!? いつ私が北郷を好きじゃないって言ったのよ!? いつ私が―――一刀を心の底から愛していないと言ったのよ!?」
「桂……花」
「私だって……一刀を愛して居たわよ――」
あの意地っ張りで、一刀には毒舌しか吐かなかったあの桂花が本音を漏らす。
「大体好きでも無い男に私が身体を許す筈がないでしょ……」
「……スマン。気が動転していて言い過ぎた」
「私こそ叩いてゴメン……」
一気にまたドンヨリとした空気に戻る。
それでも桂花だけは前を向いていた。
「華琳様、あいつは何か言い残していきませんでしたか?」
「え?」
「あいつが私達を残して天の国に帰るわけないじゃないですか。そんなこと、この場に居る全員がわかっていることでしょう?」
……そうだった。
あいつはそんな簡単に諦める者じゃない。
「最後の時、何か言っていませんでしたか?」
「……“絶対に帰ってくる”。そう言っていたわ」
「―――そうですか」
桂花は安心したような笑みを見せる。
何故あなたはそんな顔が出来るの?
私にはそんな顔は出来ない。
どうしても最悪の風景が浮かんでしまう……
「―――大丈夫ですよ」
「え?」
「一刀がそう言ったのなら――一刀は絶対に帰ってきますよ。あの男は私達に嘘をついたことがありましたか?」
「あ……」
そうだった。
どんな時でも。
どんな無茶な時でも。
一刀はいつも約束はキッチリと守ってくれた。
「でしょう? だから私達は笑って待っていたらいいんですよ。一刀がその存在を掛けて作ってくれた、この平和を守りながら」
「…………」
「後の愚痴はあいつが帰ってきたら言えばいいんですよ。不満も喜びも全て―――」
はぁ……
本当に私にはもったいないくらいの軍師だと初めて思ったわよ、桂花。
「―――そうだったわね」
「華琳様……」
「皆、眼は覚めたわね?」
全員の顔を見る。
そこには先ほどまで色濃く遭った絶望など微塵も感じない。
「私達はいつまでも待ってるわよ。だから早く帰って来なさい―――一刀」
何て言うか、桂花が主人公ですか?www
そんなこんな二度目の投稿。
そんな早いのもこれまでで、また学業の方に時間を取らねばorz
そういやここのサイトって大体何文字くらいが一作品の平均文字数なんだろう?
皆さんはどのくらいの文字数くらいがいいんでしょうか。
ということでアンケートを取ってみましょう!
①1000文字以下
②1000~3000文字以内
③3000~5000文字以内
④5000~10000文字以内
⑤10000文字以上
この五つでアンケートを取りたいと思います。
どしどし感想にでも書いてください!
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真・恋姫無双の魏√のアフター物語となっています。
一刀君が物凄く強くなっているので、そういうのが苦手な方は戻るボタンを押して退出することを推奨します。