No.150653

袁術公路Ⅱ 未来予告

わたしの名はメーテル……
どうせ更新するのだから、次回予告ならぬ未来予告を置いておくわね……

2010-06-14 21:35:26 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1932   閲覧ユーザー数:1676

 

「こ……こんなのできるわけないよ!」

 

 静まりかえった場に、少女の悲痛な声が木霊した。

「こんな税率、絶対立ちゆかない! こんなんじゃ民たちは生きていけっこないよ!」

 文官が朗々と読み上げた政策内容、そのあまりに非道な仕打ちに対しての叫びであった。

「お願い月! 考え直してっ!!」

 

 ここは洛陽。

 かつて漢帝国を築いた高祖劉邦がこの地に居城を構えて以来、文字通り政治、文化の中心として栄えた都市である。

 そしていまは、〝魔王〟董卓が治める地であった。

 

 あまりの内容に、竹簡を読み上げた姿勢のままぶるぶると震えている文官の後ろで、その小さな暴君は玉座に座っていた。

 ともすれば巨大とも形容できそうなその玉座は、小柄な彼女の体躯にはまったく合っていない。

 だというのに、その姿は計算された絵画ように、これ以上無いほど美しい構図であった。

 そう実に似合いすぎていた。

 

「恋ちゃん。詠ちゃんを捕らえてください」

「月!?」

 その声に少女は――詠は、まさかという目で王座に座る親友を見た。

 何かの間違いだ。

 あの月が、誰より優しい月が、そんなことを言うはずがない、と。

 けれども、そのとき月の瞳はすでに詠を見てはいなかった。

 

「恋ちゃん?」

 促すようにして、月は一列に並んだ部下たちの一人を凝視していた。

「いや」

 ワンセンテンス。月の言葉にそう答えたのは、体に入れ墨のような紋様がある娘。

 天下の飛将軍、呂布奉先その人である。

「今の月は変。だから、言うことは聞けない」

「………」

 

 その沈黙で、場の空気が凍り付いた。

 それはそうだろう。

 何せあの〝鬼神〟と恐れられる呂布が〝魔王〟に真っ向から刃向かったのだ。

 この場にいる他の誰にだって、そんな真似はできない。

 なぜなら――それだけの戦力を有しているのは彼女の他にいないからだ。

 

「……へぅ。ごめんね詠ちゃん」

 数秒は恋を見つめていた月が、玉座の横に用意された台座に寝かしてあった巨大な朱槍にそっと手を伸ばした。

「恋ちゃんが言うこと聞いてくれないから、私が詠ちゃんを殺さなくちゃいけなくなっちゃった……」

 月は眉を曇らせ心底悲しそうに、気弱そうな声で、

 ――それでいて左手では百斤はあろうかという重長な槍を小枝でも持つかのように軽々と持ち上げる。

 そしてそのまま彼女が起立すると、それだけで堅牢な石造りの床が震えた。

 

「ゆ、月……」

 その言葉に、その姿に、今にも泣き出しそうな顔で、詠が尻餅をついた。

 信じないと、自分の親友は絶対そんなことはしないと、いま目の前にある現実を拒否するように、詠はいやいやと首を振った。

 

「ごめんね詠ちゃん」

 月がその軽く手を振れば、詠の命など儚く消え去るだろう。

 今の彼女には、それだけの圧倒的な力があった。

 けれども、それを実現しようと月が槍を動かさんとしたそのとき、横から割り込む声があった。

「ちょい待ち」

 その声に、表情を変えぬまま月の金色の瞳だけが動く。

 そして、その発言の主を見た。

 視線の先にいたのは張遼文遠、霞であった。

 

「なぁ月。この場でくびり殺すだけでいいんか?」

「?」

「月に逆らったもんを、この場で殺すだけでいいんかって聞いとんのや。どうせやったら見せしめのためにも、もっと酷たらしく殺したらええやん」

 詠は絶句して詠は霞の顔を見た。

 その顔には、何の表情も浮かんでいなかった。

 

 そして――

「……うん、そうだね。じゃあ、詠ちゃんは三日三晩の間、馬さんと豚さんに交互に犯させてから、首を刎ねることにします。首は城門の上に、体は裸のままで城壁から吊しておいてください」

 月の口から出たのは、そんな無慈悲な宣告であった。

 

袁術公路Ⅱ 第一話に続く。

 

 
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