小さな縦書きの看板に
桃色の文字で「駐輪禁止」と書かれていたので
ここでご飯を食べようと思い、隣のベンチに座って
ふたつの巻きおにぎりを紫色の布から取り出した。
ベンベンたる、と
どこかで誰かが叫んでいて
日差しは少し涼しいけれど
ベンチには日があたっていたので
寒くはなかった。十分だった。
ふと、隣に小さな犬が居て、
彼は白い尾っぽを持っていた。
私がおにぎりをあげようかどうか迷っていると
犬はちいさく欠伸をして
とうとつに語りだした。
私の背中は毛がないだろう。
昔は毛むくじゃらだった。
黒い色の猫が居たんだ、
名前はもう忘れてしまったけど。
あいつはこの毛にしがみついていた。
むしりながら。
いつものしかかって
私に言っていた。
「おまえを盾にして、自分を守りたい
そうすれば私はお前を愛せるだろう」と
そんなようなことだった。
だから私は精一杯努力をして
守ってきたのだけど
ふともうなにもかも嫌になってしまって
私だって守られたいのに
何故、お前ばかりを
お守らなければならないのだ、と思った
私は大変苦しくなって
あいつをぶんぶんに振り回して捨てた
あいつは泣いていたらしいが
私は泣いていたらしいが
もう昔のことだ
小さく欠伸をして
毛のない犬はまたうとうととする
あいつは自分がとても好きで
私が好きだったわけじゃない
自分を好きでいるために
私を好きになったんだ
欠伸の所為か
毛のない犬の目に
ふと涙が流れた
私はだいぶ、馬鹿だった
でも
誰も、背負いきれない
ほかの人生を背負って
生きることは出来ない
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