No.150308

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 二十三の章

Chillyさん

双天第二十三話です。

実際こういった作戦取ることが可能なのかどうか、突っ込みどころがたくさんあるとは思います。実際原作ではこの段階で、三羽烏による調練は始まっていなかっただろうとか、それにこんな拍子抜けに関攻め終わらしてどうしてくれる! とか……。

さて、何はともあれ汜水関攻め孫策との共同戦線は終了。呉へと出向していた晴信は、きちんと公孫陣営に戻ります。

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2010-06-13 16:40:58 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1901   閲覧ユーザー数:1725

 華雄との戦いのに勝利したオレたちは、いったんその場で部隊の再編と負傷兵の後送におわれた。

 

 ここで問題がひとつ出てくることとなった。

 

 それは華雄との一騎討ちで肩を負傷した孫策の処遇についてだ。

 

 周瑜の簡単な見立てでも、鎖骨骨折に裂傷十数箇所、打ち身多数という重傷状態だ。これでこれから汜水関に攻め込むことは、無茶を通り越して無謀と慢心の精霊にでも捕り憑かれているのではないかと心配になる。

 

 孫策に言わせれば、汜水関攻めで彼女がいなくて名声が得られないというのだが、周瑜や周りの人間にしてみれば、無理をしないで後ろに下がって療養してほしいところだろう。

 

「大丈夫、大丈夫。後ろから見てるだけで、前にはでないから」

 

 笑顔でそういう孫策を信用できる人がいるとは思えない。

 

「そう言って誰よりも先に突入しようとするんだろう?」

 

 そしてこんな風に周瑜に突っ込まれるのが落ちだと思う。

 

「しかし、なんだかんだ言っても伯符の言うとおりなのも事実ではあるから困りものだな」

 

「でしょでしょ。やぁっぱり私はこのまま汜水関に向かうということで」

 

 周瑜に自分の言っていたことを認められて、はしゃぐ孫策だけれども思わず右手を上げてしまい、その痛みに蹲ってしまった。

 

 こういったところを見れば無茶も大概にして、大人しく後送されればいいと思うのだけれど、周瑜とのやり取りの様子を見ればきっと聴かないんだろう。

 

「はぁ……。仕方ないな。私の傍を離れないという条件でなら許可しよう」

 

 諦めたようにため息をついて、周瑜は孫策の同行を認めるのだけれど、その瞳にははっきりと孫策の体を心配する気持ちが溢れている。

 

 呉と言うところは、大栄と周瑜のやり取りや大栄のことを聴いてきた孫策を見ていると、なんと言うか上の人間同士の結びつきが家族のように強いようだ。特にこの二人は断金の交わりと評されていただけのことはある。

 

「ええぇぇぇ。公謹のそばだとホントに何もさせてもらえないじゃない」

 

「伯符……」

 

 痛みで蹲っていた孫策は周瑜の言葉に不満を漏らすも、周瑜の一睨みで黙り込んでしまう。じつはこの二人、周瑜の方が偉いんじゃないだろうか? と疑ってしまうようなやり取りだな、これ。

 

「失礼する。汜水関に送った偵察が帰ってきた」

 

 落ち込む孫策を無視するように周瑜が、机の上にある竹簡や貴重な紙による資料に目を通し始めたところで、仮に立てられた天幕の入り口を開けて、伯珪さんが入ってきた。

 

「ん? これは公孫賛殿。……あまりよろしくない事態のようですね」

 

 いじけたように天幕の隅でのの字を書く孫策をいぶかしむように見た後、オレの顔を見て口の端に笑顔を見せてくれた伯珪さんは、真剣な表情に戻すと、周瑜の言葉にうなずいてみせる。

 

「正直、やられたということだけどな……」

 

 再編が終了して汜水関に進軍したオレたちの前に広がる光景が、正直言って信じられなかった。

 

 渓谷に建設された難攻不落の汜水関の城壁の上に翻る何本もの旗。

 

 堅く閉ざされているはずの城門。

 

「ねぇ、公謹。私の目がおかしくなったのかしら?」

 

「ほう、伯符。あなたの目にもそう見えるのか。なら私だけ目がおかしくなったわけではないのだな」

 

「そちらの二人も見えているのなら、真実のようだな。こちらでもあの情景は見えている」

 

 孫策、周瑜の二人が話しているところに、越ちゃんと子龍さんを引き連れた伯珪さんがやってきた。

 

 オレたちが見たもの、それは城壁に翻る曹操の旗、開かれた城門だった。

 

 その光景は今までここを落とすために頑張った孫家の兵と伯珪さんの兵にとって、拍子抜けするものだっただろう。現に様々な部隊で士気の激減が報告されている。

 

「どうなっているんだ? これ」

 

「曹操が汜水関を落としたということでしょうな。しかし、これはいったい……」

 

 唖然と口を開けて城壁を見つめるオレの言葉に、子龍さんが答えてくれるが、彼女自身もその言葉を半ば信じられないように、城壁と城門を見つめている。

 

 実際問題、曹操はいつ軍を動かし、この汜水関を落としたんだろうか。

 

 そしてどうやって落としたんだろうか。

 

 それに華雄は、汜水関に曹操の軍が向かっていることに、なぜ気がつかなかったんだろうか

 

 本陣での顔合わせの後に一刀と話し合ったとき、あいつも軍師と話し合うと言っていたけれど、その結果がこれなのかもしてない。

 

「ふむ……。荀文若の策ですか」

 

「荀文若、演出。曹孟徳、脚本といったところだな」

 

 一刀の話をオレが以前、話したことがある越ちゃんは、この状態を曹操の軍師、荀彧だけの仕業と判断したようだけれど、それを周瑜が一部認めながらも訂正していた。

 

「正直、してやられたという気持ちだ。曹操のところにも天の御遣いがいたのを忘れていた」

 

 そう言って周瑜は、あくまで私見でしかないがと前置きをして、曹操の汜水関攻めの顛末を披露してみせた。

 

 汜水関を空けて華雄が出撃することを天の知識によってわかっているなら、その関を空けた時を狙って攻め込めば、さほど苦労することなく攻め落とすことができる。

 

 しかしその華雄が出撃することが本当に起こるか、その部分が問題になる。

 

 ならばその天の知識において、華雄が出撃する状況と似たような状況を作り出せば、かなりの確率で華雄が関を空けて出撃してくれる。その状況を作るために天の知識を持つものがその場にいれば、よりその状況に持っていくことができるのではないかと考えられた。

 

 しかもその場に赴く天の知識を持つものが、しっかりその仕事をしようとしてくれるのであれば、文句はない。

 

「でもそれではどうやって曹操は、我々に、それに華雄に気取られること無く、関のそばまで軍を動かすことができたんでしょうか?」

 

 越ちゃんの質問に周瑜はニヤリと笑った。

「うむ。そこが問題なのがよくわかったな。これも私見になるが……」

 

 まるで勉強熱心な生徒に教える喜びをかみ締める先生のように、越ちゃんのことを褒めた周瑜は再び私見と注釈をつけながらも、越ちゃんの質問に答える。

 

「私達が曹操の陣についての異変を気取ったときには、すでにほぼあちらの準備は整っていたのだろう」

 

 この言葉から始まった周瑜の説明は、この時代の軍隊の常識から言えば、よくそこまで統制の取れた動きをできるまで調練をすることができたものだと思うものだった。軍をいくつもの小部隊に分け、それを周りに人数の変化がわからないように少しずつ移動させる。

 

 汜水関のそばで合流することは、その軍行動が華雄にばれてしまう可能性が高くなる。かといって小分けに分断したままでは、関を攻めるには連携をしっかりととるのが難しい。

 

 周瑜は曹操が小分けのまま、部隊を隠匿していたと判断した。

 

 関から華雄が出撃したことを知らせ、さらに関攻めの各部隊への合図は嚆矢をもってなし、小分けにされ各々の判断で隠れていた部隊が予め定められた合流地点に集結、集結後その部隊の判断でもって関攻めをする。

 

 たしかにこのやり方なら可能であるように思えるが、問題もある。

 

 この時代の兵士にこの作戦は難しいというものだ。この時代の戦争において人が死ぬことよりも、兵士の逃亡が軍を敗北させるぐらい、兵士の士気が戦争の行末を決定させる。この作戦は兵士の士気がどれくらい落ち込んでいるのか判りづらいため、終結することなく兵士が逃亡することが考えられる。

 

 さらにいえば、予め終結するための合図と終結地点を決めてあるとはいえ、高度な連絡手段を必要とする作戦であるため、よく訓練された兵士と連絡手段がないと不可能である。

 

「はっきり言って私はこの策は不可能に近いと思う。けれども天の知識がどれほどのものかわからないが、その知識でその不可能を可能とするものがあったのではないかと期待している」

 

「なるほど……。確かに天の知識にそういったものがあれば、有用ですね」

 

 話し合っていた周瑜と越ちゃんは、期待のこもった目でオレを見つめてくる。

 

 話は聞いていたけれども、オレはそんな知識は持っていない。正直に言えば、ただの学生にそんな知識を求められても困る。そんな専門的なことを勉強しているわけないし、軍事オタクみたいに調べたことも全くない。

 

「で、御遣い殿、そういったことができるかどうか知識はないかな?」

 

「諏訪、どうなんですか?」

 

 身を乗り出すようにして問い詰めてくる二人の勢いに、思わず引いてしまう。でも彼女たちの気持ちもわからないではないので、この勢いで聞いてくることには納得できる。

 

「さぁ、どうなんですか、諏訪。あるんですか? それともないんですか?」

 

 それでも襟首をつかまれて、前後に思いっきり揺さぶられるのは勘弁してもらいたい。それに揺さぶられて首を絞められれば、返事することは難しいと思うのだがどうだろうか。

 

「どうなんですか!」

 

 なにやら周瑜以上に興奮している越ちゃんは、オレの様子などお構いなしのようだ。

 

「御遣い殿、大丈夫か?」

 

「諏訪! 何か言いなさい!」

 

 慌てる周瑜の声とオレを揺さぶり叫ぶ越ちゃんの声を聞きながら、オレは遠のく意識を留める意識を放棄した。


 
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