流れ出す時
「髪、切ったのか」
リザが書類から顔を上げるとあなたの顔があった。
確かに今まではだいぶ伸ばしていたし印象もかなり変わるだろう。
「ようやく、終わったような気がしたんだです。
……戦争が」
リザの言葉に、ロイはペンを止める。
今日からイシュヴァール政策が本格的に始動する。
まだ罪が贖い切れるなどとは思わない。
きっと、この罪を私とあなたは一生背負って生きていく。
それでも、ようやく自分自身の時間が動き出したような気がしたから。
そう言って、リザは小さく笑った。
「髪って結構重いんですね。
お店の方にはもったいないと言われたんですけど」
「ああ……似合ってる」
ロイが懐かしい目でリザを見た。
ええ、私も同じ気持ちです。准将。
リザが心の中で呟く。
「……マスタングさん」
こういう風に呼ぶのは、いつかの作戦以来だっただろうか。
プライベートでは、ずいぶん久し振り。
「これからも、よろしくお願いします」
「ふっ……何を今更」
言ってから、目があって二人で笑った。
いつもとまるで逆ではないか。
ひとしきり笑って、それから再びリザは彼の地へ思いを馳せる。
沢山の死によって埋め尽くさていた大地。
あの日から約15年。
自分にとって長い、長い戦争だった。
「リザ」
ふいに、名前を呼ばれた。
彼女がいつの間にか目前に立っていた男を見る。
短髪の自分と、酷く優しい表情をした彼と。
一瞬、戦争よりももっと前、出会った頃にタイムスリップしたような気がした。
軍人になってから、互いに名前で呼び合うのはいつのまにかタブーのようになって、時間も止まっていたような気がする。
それが、今日は二人の時がを一気に流れ出す。
「私たちの戦いは、まだ始まったばかりだ。
……また、ここから始めよう」
「…はい」
かつて破壊の成されたあの土地もやがて再生するだろう。
錬金術と人の手によって。
等価交換とは簡単にはいかないが、全ては私たちしだいだ。
歩みが地獄に至るその日まで、私はあなたと共にあろう。
だから、今度こそ……
リザはたまらず、顔を伏せた。
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鋼の錬金術師最終回を受けて。ロイアイの日には間に合いませんでしたorzブログから転載。短いです。