真・恋姫†無双 外伝 蓮の元に降りし御遣い
第一章 『青年、虎に邂逅す』
「ふぅ、困る民草は減らずとも増えていくばかり……どうすれば……」
張魯は難民を救済する為に領地に受け入れていたが私財にも限りがある為、これから問題が増えるばかりである。
臣下から少し休暇を取ってくださいと懇願された為、その願いを無下にできないので近くにある竹林まで散歩に来ていた。
「この綺麗な風景を守るにも、今の情勢では厳しくなるのでしょうね……」
竹林を見渡す様に眺めて、溜息をついてしまう。
そんな折に、まばゆい光が辺りを覆った。
光が収まると、先程とかわらずの静かな竹林であったが少し離れた場所に見知らぬ男が倒れていた。
警戒しつつ近寄って見ると、年は青年と呼ぶのが相応しい年代だろう。
「何故、こんな所に……なっ! これは血じゃないですか!? 私の屋敷に運んで手当てしましょう。燐火いるのでしょ?」
「張魯様、何用でしょうか?」
竹林の影より、一人の武将が姿を現す。
「今は理由聞かずに、この青年を我が屋敷に運んでください」
「命令とあらば。後で、理由を聞かせてもらいますからね」
青年を背負ったかと思うと、竹林に姿を消していった。
「謎の青年……手負いの虎……これは、天の導きとでもいうのでしょうか。あの青年は間違いなく、世で噂されている天の御遣いでしょうね……」
今や民の間で噂になっている管輅という占い師の予言。
”黒天を晴らすは、一筋の流星。流星に乗りて天より舞い降りし者、この乱世を鎮めん”
「私の元にというよりは、あの方と出逢わせる為に天が遣わせたと思っていいでしょうね。これも何か縁でしょう。
あの青年を支えてあげるのも悪くないかもですね……」
張魯は少し頬を赤くさせ、ひとり呟きながら屋敷に戻る。
日も傾き、屋敷の中では夕餉の準備が行われている。
その頃、燐火により運ばれた青年が眠りから目を覚ました。
「んっ……ふぁ~、んんっ? あれ、ここどこやろ?」
自分が何故にこんな所に寝ていたのか不思議であった。
昨晩は友人の北郷一刀と夜遅くまで剣道部の道場で鍛練した後に、
男子寮へと足早に帰ったはずと思考に耽るがその先をどうしても思い出せないでいる。
「一刀と一緒に帰ったはずやのに、それ以降なんで思い出せんのやろ……それにしても……」
この部屋の中華風な佇まいはどこか現代の部屋からかけ離れているともいえる。
日本で言うなれば、平屋建ての武家屋敷の様な雰囲気。
いったん思考を止め、今の状況確認することにした。
「とりあえず、荷物は無事か確かめんと……いつっ!」
急に痛みが走ったかと思うと、胸板あたりに十字にミミズ腫れのように傷がついていた。
足の方も斬り傷のような浅い傷がついている。
「うぅ、知らん間に傷は出来とるし用意には動かれへんなぁ……
とりあえず、痛みが治まるまで待つしかあらへんな」
痛みで動けない為、再び床についた。
まだ起きかけだったせいか、眠りつくまで時間はそうかからなかった。
「……おき……! ……っ!! ……てく……さいっ!!」
青年は近くで人の声がするような気がしたので、寝惚け眼のまま床から起きると
見知らぬ女性が笑顔を向けてこちらを見つめてくるが目が笑っていない。
「はぁ~、やっと起きましたか。張魯様がお呼びですので、今から私についてきてください」
「はっ、はい!」
何か無言で従わなければいけないという気持ちになり、服装を正して素直に女性についていった。
張魯は政務室で悩んでいた。
それは、江東の虎も呼ばれた孫堅と青年を会わせるべき否かを……
「さて、どうしましょうかぁ……」
虎に会わせれば間違いなく青年は乱世に足を踏み入れてしまう。
戦には遅かれ早かれ、いずれ巻き込まれるだろうと答えはでている。
だが、青年にはまだ早すぎるのではないかと悩んでしまう。
天の御使い……それは太平の芽であり、戦の火種にもなりかねない。
この乱世においては、欲望を満たす為に受けいれる輩はいくらでもいるだろう。
天の御遣いの風評が及ぼす影響はすさまじい。
「あの優しい寝顔だけは守りたい……私は偽善と蔑まれても支えてあげたい、
それが私の業だから……」
それは、コンコンと湧く泉のように金や兵力等が集まるだろう。
人間とは力を手にすれば更なる欲が生まれ、理性のタガが緩み外れてしまう。
そう、獣に堕ちる。本能の赴くままに動けば、死が待っている。
「昔を思い出してしまうわね……そう、燐火との出会いを……そして、父親である張衡が引き起こした惨劇を……」
‐回想‐張魯SIDE‐
自分は小さいから知らなかった。こんなにも、世は腐っているのかと。
だが、一人の女性に会ったのを切っ掛けに私は考えを改めて進みだした。
それは、私の記憶の中でもとても暗い部分でもあり大切な部分でもある。
私は怠惰な世に呆れ果て惰弱に時を過ごしていただけであり、父親に対して興味などなかった。
自分が気が向いた事にしか価値を見い出せない為に、気付くと本の虫になっていた。
親族からは子供らしくないとか、可愛げの無いとか色々と散々に言われていた。
小さい頃から勉強や読書は好きなので、本を片時も放した事が無い。
四書六経を学ぶようにと父親から言われたので渡された書物を読んでいる。
私は、勉学を一通り終えた事を報告した。
そして、次の日から父親が持ってくる竹簡に指示される通りに作業している時だった。
ふと、この竹簡に書かれている事に興味を持った私は周りを確認し父親が居ないを確認すると読み始めた。
この竹簡を読んで分かった事は、賊と一部の宦官を結ぶ密書という事。
何故、父親がこんな物を持っているのかがわからないが……
初めて父親の事に対して興味が湧いた。
しかし、これが最初で最後の事になろうとは……
昼食を食べに街まで出かけ食事終えて屋敷に帰ろうと思った所に近くの竹林で父親の声が聞こえたので
私は竹林に向かってみると、遠くからでは分からなかったが父親が走っている。
その後ろからは、賊だろうと思える輩が数人いた。
自分の体が震えるのが分かり息飲み込んで両腕で押さえるが、恐怖で腰が抜けてしまう。
いつのまにかに、父親に賊が追いついてた。二人の大男は逃がすまいと腕押さえて放さない。
父親はその間に賊に囲まれて身ぐるみを剥がされた後に、武骨な剣を抜いた賊が斬りつけて殺された。
目に見えていても、頭が真っ白になって何が起こっているのかなんて把握できるはずがない。
賊はこちらの存在に気付いた。下卑た笑いを浮かべながら、私に近寄ってくる。
ここから逃げようとするが、未だに立ち上がれずにいたので睨みつけることしかできなかった。
賊が私に襲いかかろうとした時に、怖くて目をつぶってしまったのだが……
目を開けると、眼前に居るはずの大男の頭は宙に浮いている。
胴体の方は事切れたのか、力無く倒れていた。
私の目の前には居る人は、八尺はあろうかという双戟を抱えて立つ女性である。
文献で双戟に関して読んだ事はあるが、実際には見た事が無かった。
私と同年代だろうと思える女性が声をかけてくる。
『助けはいるか?』
私は言葉で返せなかったが、ゆくりと頷いた。
賊が罵声を上げながら襲いかかってくる、女性はかまわずに言葉を紡ぐ。
『助けを求める人がいるなら、あたしは見捨てない。手が届く範囲ならば、余計にねっ!!』
紡ぎ終わり、声を張り上げなら賊に立ち向かう。
正面から来た背の低い男に竹を割るかのごとく一刀両断し、左から来る大男の腹を薙ぎ払い分断する。
後ろから襲いかかってきた賊頭の斬撃を背中に目があるのかというくらいに自然にかわして
前につんのめった賊頭の背中を袈裟斬りで仕留めた。
父親が殺された事件後に家督を継ぐ事になり、屋敷や財産を受け継いだ。
助けてくれた女性は、仕官先を探して旅をしていた折にあの場に遭遇したらしい。
私は助けれてくれた女性に恩義を感じて、当主として仕官してくれないかと誘った。
女性もそろそろ路銀が無かったという事だったので渡りに舟だったみたいだ。
女性の姓名は、姓は鳳 名は徳 字は令明。
話を聞く所によると、馬騰軍に仕えていたが気が合わず出てきたということである。
あの有名な錦馬超とは、犬猿の仲であると断言していた。
朝餉を食べつつ旅の話を聞き、これからの事を相談したりした結果。
父親が裏でしていた事の処理に決まる。
父親が私にさせていた事は密書を書き写させて、偽の密書で宦官から金や女などを強請りとっていたみたいだ。
何故、勉強をさせていたのかはすぐ分かる。
宦官を強請って自分を偉い位置に据えて貰い。
代わりに私を働かせて自分はその給金を受け取り。
最低のお金を私に渡して、残りを自分の懐におさめる気だっただと。
今までしてきていた事に責任や憤りを感じて無知は罪なのかと悩んだが、
鳳徳に諭されて自分の知識で人の為にできる事をしようと決意した。
そうすることで、私はこの業を背負っていける。
私には、決断すべき時が来たのかもしれないと心の中で呟きつつ
お茶を飲みながら、部屋の扉が開くのを待った。
どうやら時は来たようです。
天は、これを望んだのですね。
- 回想-了‐
張魯SIDE
虎と天の御遣いが同時に部屋に入ってくるのが見える。
鳳徳……いえ燐火は、相変わらず冷静に私に報告する。
「青年を連れてきました。
孫堅様もどうしてか、ご一緒についてきてしまったのですがよろしかったですか?」
「えぇ、かまいませんよ。ちょうどよかったのかもしれませんし、これは天命でしょうね」
青年は、何故かおどおどした感じで私をみつめてくる。
何故か気恥しく感じて、顔俯いてしまった。顔はきっと真っ赤になってるだろうと自分でもわかる。
虎からは猛禽の目で睨まれた。私は虎の視線の意が何を現してるか分かった。
獲物を取るなという威嚇の意であるという事を……私も睨み返してやった。
何故か分からないが、青年を取られたくは無かった。
その一言に尽きるだろう。
「はっ、はじめまして。俺は時雨 樹夜っていいます。よろしくお願いします。
竹林で倒れていた所を助けていただいて、ありがとうございます!!」
青年はたどたどしく挨拶をしてくれた。笑顔で微笑みながら言葉を返す。
「はい、よろしくお願いしますね。もうすこし、気を楽にして喋ってもいいのですよ?
困った時は、お互い様ですよ。樹夜さんは、お姉さんをもっと頼ってくださいね♪」
私は樹夜さんの頭を撫でつつ、頬を染めながら至福の時を過ごす。
だけど、そこに虎が横から口を挟んできた。
「張魯殿、些か私に失礼では無いかな?私の樹夜に、あまり触れないで貰いたい」
「あらあら、虎は猫にでもなったの?樹夜さん、虎は危ないから鈴を着けておかないと駄目ですよ」
虎があまりにも可笑しな事を言うので、少し皮肉って言ってやった。
「燐火。これは、どうすればええんやろか……」
「あたしは知らないわよ。それにしても、雪華にしては珍しいわねぇ……
あんなに大人しい子がここまで熱くなるなんて。やっぱり、兄上のせいじゃないの?」
私は樹夜さんが燐火を真名で呼んでいたので、不思議に思う。
だから、少し聞いてみる事にした。
「燐火。何で樹夜さんの事を兄上と呼んだり、真名を預けたりしてるの?」
「んー、部屋に来る前に話してた時に兄上って呼んじゃったのがきっかけで呼ばせて貰ってるのよ。
兄上と話してたら親しみやすいなって思ってね。真名を預けるには、十分かなって思ったからよ。
真名に関しては、女の勘ってやつね」
どうやら、ここにも敵が居るようね。どうして、私の邪魔をするのかしら。フフッ。
昔の黒いのが出ちゃいますよ。
「私も鳳徳殿と同じだな。樹夜には当然の如く、真名を預けてるぞ?私の樹夜だからな♪」
「睡蓮、恥ずかしいからやめてや~……」
虎め、私の樹夜さんを抱きしめて羨まし……ごほんっ!!
そうなんですね。わかりました。受けて立ちましょう。
「ふっ、ふーん。そうなんですか。樹夜さん、私も貴方に真名預けます。受け取ってくれますか?」
「えっ、大事な名なんやろ? 俺でええのんか?」
「時間は関係ありませんよ。私が貴方に受け取ってもらいたという想いがあるから意味があるのですよ!」
ちょっと強引に迫りすぎちゃいましたかね、樹夜さんのお顔が真っ赤です。
ふふっ、顔赤くして可愛いです。
「す、すんません。大事に預かります」
「はいっ♪ 私の真名は雪華と言います。ちゃんと呼び捨てで呼んでくださいね?ご主人様♪」
あぁ~言っちゃいました♪ 恥ずかしいです……どうにもでもなれですね。
「張魯殿……」
「雪華……あんた……」
「ええぇぇぇっ!? ご主人様!?」
あとがき
一日一ページ作成を目指してる結城つきみんです。
今回、復帰作として書いてるわけですが以前の様に竜頭蛇尾にならぬように気をつけます!(´・ω・`)
もしかしたら、今休止中の天地の陣のオリキャラがこちらの作品で出るかもしれません。
その時は、キャラ共々温かく見守ってやってください。
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‐(o´-ω-`)o P.s. ‐
作品を読むのも書くのも好きな結城つきみんからのお願いです。
最近、悪質なコメントやメッセージ等が増えて色々な作者様のモチベが下がる要因になっています。
後、自分がこれ大丈夫だなぁっと思っても相手様にとってはというすれ違いな場合もありますのでご注意を。
最近、TINAMIで作品を読んでいて思った事を書かせて頂きました。
楽しくみんなで利用出来るの一番ですからね♪
作品は、鋭意作成中なので牛歩ですが頑張りますっ!
これからも、応援のほどよろしくお願いします!(`・ω・´)ノ
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注意:オリキャラ成分がたくさん含まれています。オリ主である為に、一刀君が出てきません。
鋭意、次話を作成中です。1日1ページ書いて纏めて更新しますので、更新速度は遅いですがよろしくお願いします。
では、注意をしっかりと確認した上で読んでくださいまし♪
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