No.149893

真・恋姫無双紅竜王伝定軍山の戦い編④~黄忠の策謀~

第4話です。今回の話を仕上げた後は、レポートに取りかからなければ・・・

2010-06-12 04:23:50 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:3727   閲覧ユーザー数:3365

「まさか、すでに南鄭が陥落していたとはな・・・」

漢中の要衝・南鄭城にほど近い魏軍本陣で、救援軍先鋒大将の秋蘭は密偵が命を賭けて掴んだ情報に頭を抱えた。彼が掴んだ情報では、『すでに南鄭城は張魯の弟・張衛の蜀軍への寝返りによって陥落しており、現在は蜀に寝返った張衛が守備している。さらに黄忠率いる蜀軍10万が接近中』との事だった。

「秋蘭様、どうしましょう・・・」

「・・・ともかく、情報を集めなくてはならんだろう」

不安げにこちらを見上げる流琉を力づける様に微笑みながら―――とはいっても同席していた楓から見れば弱々しいものだったが――――秋蘭はとある山に物資などを集めて本陣とし、さらに柵などを作らせて砦とした。

この山の名を『定軍山』という。

「・・・というわけで、魏軍は明日にも攻撃を開始するようです。南鄭城の北からは張郃、西からは徐晃、そして東からは夏候淵と典韋が攻めかかる模様」

情報がロクに入ってこない魏軍とは違い、黄忠率いる蜀軍には敵の動きの情報が正確に入ってきていた。

「あら、夏候淵は撤退せずに交戦を選んだのね」

「さすがは夏候淵というところか」

蜀軍本陣で密偵の報告を耳にし、笑みを浮かべるのは蜀軍総大将黄忠と副将格の趙雲。2人の計算としては、魏軍を気がつかないうちに懐深くに誘い込み、気が付いて撤退するところを追撃して撃破。勢いに乗じて織田舞人率いる本隊が長安城に入る前に城を落として魏に対する楔とする―――というものだったのだが。

「しかたない。次善の策で行こうではないか、紫苑」

「ええ」

「テメエら!こんな木っ端城、早々に潰しちまえ!」

淡雪の勇ましい檄に兵たちが喊声で応え、南鄭城へ突進する。しかし南鄭城の兵達も死に物狂いで矢を放ち、岩を落とし、粥を振りかけて城壁を登ろうとする魏軍の兵達を迎撃する。

「クソッ!いったん退くか・・・」

敵軍の思わぬ抵抗ぶりに勢いを崩された淡雪は一時撤退の命を下そうとした時―――血相を変えた兵が飛び込んできた。

「申し上げます!南方より、敵軍接近!旗印は『馬』!涼州の馬超・馬岱の軍かと思われます!」

「なんだとっ!?」

徐晃隊が横腹を馬超・馬岱隊に突かれていた頃、楓率いる部隊も奇襲を受けていた。旗印は『趙』。蜀軍・趙雲隊だ。

「はあっ!」

楓が馬上で刀を一閃させ、敵兵の首を飛ばす。後背を突かれた張郃隊はすでに大将の楓の周りにまで兵が群がり、彼女の直属兵―――親衛隊が周りを固めて守っている状況ですでに指揮どころではなくなっていた。そこに現れたのは白き装束を纏った槍の遣い手―――趙子竜だ。

「そこにいるのは張雋乂ではないか!我は常山の趙子竜、いざ尋常に勝負!」

「く・・・今はそれどころではないというに!」

歯噛みする楓に構わず突っ込んでくる趙雲。楓はしばし迷ったが―――馬首を翻し、逃走を開始した。

「逃げるか、雋乂!それでも紅竜王の誇る将か!」

定軍山に向けて逃げる楓の盾にならんと立ちはだかった親衛隊の兵に阻まれ、悔し紛れに罵る趙雲の罵声を背に、楓は周りの敵兵を斬り捨てながら逃げだした。

(この無念・・・必ず晴らしてやる!)

―――張郃隊、壊滅。

「喰らいやがれ!」

「ちっ!誰が!」

馬超が突きだす銀閃を、淡雪は馬上で紙一重でなんとかかわす。勇ましく城攻めをしていた徐晃隊の姿はすでにない。浮足立った兵たちは生への欲望を剥き出しにし、総崩れとなっていた。

(クソッ、もう合戦どころじゃねぇ!)

淡雪は性格的には秋蘭よりは春蘭に似て戦好き、猪突猛進なところがあると華琳や舞人たちは評しているが、頭の奥底には冷静な一面があるとの評価も下している。

―――つまり、将として自分と武人としての自分。このような状況ではどちらを優先すべきかを理解しているという事。

「大将!わしらが盾になりやす!お逃げください!」

そして彼女の兵達もここで主君が戦うよりも、逃げて体勢を立て直す方が利口だと解っていた。

「・・・覚えてやがれ!馬超!次はぜってー勝つ!」

彼女は吐き捨てると、馬超の罵りに悔し涙を浮かべながら馬を走らせた。

―――徐晃隊、敗走。

ヒュッ!

「くっ!」

ヒュッ、ヒュッ!

「はっ!」

黄忠率いる本隊の奇襲を受けた秋蘭・流琉の隊も押され気味になっていた。その戦場では夏候淵と黄忠、2人の弓姫がその絶技を競わせていた。

2人の腕はまさに神技。三国に並び無き弓の使い手が敵の命を狩り、味方に勝利の凱歌を挙げさせんとその腕を競い合う。

「ふふっ・・・さすがね、夏候妙才!」

「さすがは黄漢升・・・私の心がここまで躍るのは初めてだぞ!」

2人は命の取りあいをしながらも、その顔には凄絶な笑みを浮かべる。

―――しかし、その戦いは些細なことで終わりを告げた。流れ矢が秋蘭の馬に刺さり、棹立ちになったのである。

「うわっ・・・!?」

堪らないのは騎乗している秋蘭である。両手で弓矢を握る彼女は振り落とされ、地面にたたきつけられた。黄忠はその隙を逃さない。

素早く矢を番え、二射連続で放つ!

 

ドスッ!ドスッ!

 

「ぐうっ!」

放たれた矢―――その一本は的を庇った右腕に、もう一本は右手首を貫いた。

「秋蘭様!・・・このぉぉぉぉぉ!」

敬愛する秋蘭が射られた事に激怒した流琉が『伝磁葉々』を一閃させ、武器の大弓でかばった黄忠を吹き飛ばす。

「秋蘭様!大丈夫ですか、秋蘭様!」

「・・・あ、案ずるな、流琉。大丈夫・・・だ」

泣きそうな目でこちらを見てくる流琉を心配させまいとしてか、気丈に笑みを浮かべる秋蘭だが、万人が見ても彼女の怪我は重傷だった。

「夏候淵様!ここは撤退してくだされ!我らが盾になります!」

「そうですよ秋蘭様!ここは撤退して兄様の援軍を待ちましょう!」

秋蘭と流琉の前に壁となった兵たちが進言し、流琉もこれ以上の戦闘は不利と意見した。

「・・・そうだ・・・な。すまんが流琉、私を・・・定軍山まで連れて逃げてくれ」

「はい・・・はいっ!」

激痛の為か、意識が朦朧としている秋蘭を流琉の馬に押し上げてもらい、流琉も騎乗する。周りを囲むは蜀の兵達。突破は容易ではないが―――

「秋蘭様は私がお守りします!」

堅い決意を闘志に変え、流琉は敵中に突入していった。

―――魏軍本隊壊滅。魏軍先鋒、総崩れ―――

―――またこの時負傷した夏候淵を守って敵中突破を果たした典韋だが、その活躍はなぜか織田舞人や曹操が書いた書籍には描かれておらず、彼女の子が母の死後に執筆した典家の歴史を記した書のほんの片隅に書かれるに止まっている。

理由は様々あるが、その中の一つに『控え目な彼女が歴史書に書かれる事を恥ずかしがって主君や夫に書く事を控えるよう懇願した』というものがあるが、未だに真相は闇の中である。

 


 
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