幽州琢郡・上空
「う…ん。」
一刀は、ゴォォという異音に目が覚める。
そして、広がる大パノラマ。
「アルェエエエエエエエエ!?」
あまりの事態に脳が拒絶反応を起こし、思わず高速回転しだす一刀。
すぐに具合が悪くなった。
「うっぷ…。…何事ですのん、コレ?」
状況整理。
自分は今どんな状態か。->絶賛、I can fly.
自分の周囲は。 ->高度上空。眼下の景色は日本には見えない。
何か打つ手はないか。 ->(思いつか)ないでござる(キリッ
「ど~すんのコレェエエエエエエ!!?」
あまりの事態に脳が拒絶反応を起こし、思わず高速回転しだす一刀。
更に具合が悪くなった。
(あ~。短い人生だったな~。)
少し時間が経過し、思いつく限りのことをやってはみたものの(「バルス!」とか叫んだりした。)、
望む成果は得られず、理不尽なこの状況に半ば諦めかける一刀である。
「…ん?アレは…。」
眼下に男三人組(チビ・デブ・老け顔)に絡まれる女の子を発見。
抵抗しようとしているが、多勢に無勢、抑え込まれてもがくことしか出来ていない様子である。
「ッシャァアアオラァアアアアア!!!」
一刀は腕を眼前でクロスさせて高速滑空を開始。
老け顔の臭い(!?)男に向かって重力突進を仕掛けた。
ちなみに、この時一刀はのいる位置から少女の元までの距離は直線距離で6kmほど。
その距離を見通した一刀の種馬スキルは、外史に来て早々に輝いていたのだった。
View:桃香
「何でこんなことするんですか!やめてください!放して!」
「うるせぇ!おとなしくしねぇか!」
必死で抵抗するけれど、太っちょの臭い(!?)人に押さえつけられて動けない。
(愛紗ちゃんから一人で出歩かないようにっていわれてたのに…。)
昼間に流れ星が流れていくのを見て、慌てて一人で駆け出してしまった。
今更になって、注意を聞かなかった事を後悔する。
「へへっ、いい女ですねアニキ!あの乳といったら!」
「そうだな、実にけしからん乳だ。俺たちが懲らしめてやらねぇとな!」
胸のことばかり言われて、恥ずかしさで泣きそうになる。
愛紗ちゃんと鈴々ちゃんが助けに来てくれるのを待つ?
でも、別行動を取っているときに出てきてしまったから、駆けつけるにはまだ時間がかかるだろう。
きっとそうしている間に、私はこの臭い(!?)人たちに犯されてしまう…。
(助けて…。誰か……!!)
私は必死に願う。
まるで、流れ星に祈りを捧げるように。
そう、「流れ星」に、私は祈ったのだ。
ならば、叶わないはずがない――
「ゥェェェェェェェェェェェェエエエエエエエエエエエエエエイイイ!!!!(ドップラー効果)」
ドゴーン
「うぇぇえええい!!?」
老けたお顔の臭い(もういいよ!)男の人が、
いきなり空から突っ込んできた般若顔の流れ星に吹き飛ばされた。
予想だにしない事態に、私も残りの男の人たちも呆然として動けない。
「大の男が寄ってたかって女の子いじめるたぁ、恥を知れこの蛆虫がぁ!!」
般若顔の男の人が腰に佩(は)いていた、竹?で出来た2本の剣を抜いた。
ここで、残りの男の人たちがようやく動き出す。
私はその場にへたり込んだまま、まだ動けない。
「なんだオマエは!いきなり降ってきやがって!」
「アニキに喧嘩売るたぁ、命知らずだな!ヌッころしてやる!」
「そ、そうなんだな!痛い目みせてやるんだな!」
「うるせぇしゃべんな臭ぇんだよ!」
ガチの怒鳴りあいが繰り広げられる。
いったい何が起こっているんでしょう。
「君、大丈夫?怪我は無い?」
降って来た白い服の男の人が、振り返って私に声をかける。
凛々しくかっこいいその顔と声に、私はコクコクと頷くだけしかできなかった。
「そっか、よかった。」
ニコッと笑ったその顔を見て、私の顔が熱くなったのを感じる。
やだ、わたし今顔真っ赤だよぅ!
「余所見とは余裕だなぁ!」
「あぶない!」
後ろから不意打ちをかける小さい男の人に気づいて、私は声を上げる。
「大丈夫。」
「え?」
振り下ろされた剣を、白服の男の人は右手の竹の剣を肩に担ぐようにして受け止めていた。
View Out
「な!?竹の剣なのになんで!?」
「鉄棒仕込みの特別仕様だよ、馬鹿野郎!」
右手の竹刀を振りぬくようして、チビの剣を弾く。
勢いを殺さずにそのまま反時計回りに回転、左で逆手に持った竹刀で鳩尾を打ち上げる。
「ぐぉえ!?」
呻き声を挙げて宙に浮くチビに、そのまま回転して右の竹刀を、
鳩尾を突かれて少し下がっていた顔面に下から打ち上げるように叩き込む。
空中で仰け反る姿勢になったチビに、左足を支点にしたままもう一回転、
左足で地面を蹴り、ガラ空きになっている胴を狙って空中回し蹴りを放つ。
「あぎゅ!?」
小さく叫んだ後、チビは残りの男二人の頭上を飛び越えて吹き飛んでいった。
巧みな空中連撃に、絶句して動けない男二人。
一刀は大声で宣言する。
「さぁさ、お立会い!可憐なお嬢さんに男三人誘蛾灯の蛾の如く寄り集まって、
あまつさえ襲うなどとは笑止千万!スケさん、カクさん、懲らしめておっと!?
スケさんカクさん居ないじゃないか!ではこの不肖ちゃっかり七兵衛こと、
北郷一刀さんが直々に相手をして、泣いたり笑ったり出来なくしてやるこの蛆虫ども!!」
なんか変なテンションだった。
「ひ、ひるむな行け!あの男をとっ捕まえて動けなくしてやれ!」
「わ、わかったんだな…!」
腕を広げて、一刀を捕まえようとドスドス走りよってくるデブ。
振りかぶられる腕をバックステップで回避した瞬間――
「示現北星流・十字回廊!!」
一刀の姿が消え、デブの背後を横一直線に走り抜けながら竹刀で胴薙ぎしていく。
◆示現北星流・十字回廊
動く筋道を十字路で例え、ひとつの通路に居る自分に攻撃を仕掛けられた際、
バックステップで回避して通路に消え、まるで十字路が回廊になっているかのように、
突如として相手の横に現れ、横撃奇襲をかけるというカウンター技である。
開けた場所で一刀の様に完璧にこなすのは並みの技術では不可能。
「…い、いたいんだな。でも、大丈夫なんだな!」
「おいおい、どんな頑丈さだよ。奇襲用の技なんだぞ…?」
打ち込んだ右の竹刀を肩に乗せて、呆れたような声をあげる。
キュピリーン!
電球が一刀の頭上で光り、効果音が鳴る。
「…お。使ってみるか。気筋直結…。纏所、両腕、両脚および刀身。放出点、内鉄竹刀先端…。」
技をひらめいたようだ。なんというゲーム脳。
腰溜めに腕をクロスして姿勢を低くする。
デブが再び腕を広げ、ドスドス走ってくる。
「つ、捕まえたんだn…」
「我流奥義!!だ・と・チュ・ジェノサァァァアアアイイ!!!」
左右の竹刀をバツ印を描くように振り上げ、強引にデブの腕を打ち払う。
そのまま広げた腕に持つ2本の竹刀の先に気を集中させ、閃くその竹刀の先端を――
「んごぶぅ…!?」
デブの鳩尾に2本同時に突き込む。
デブは二歩、三歩と後ずさり、どうと倒れこんだ。
◆一刀奥義・打突ジェノサイド
気を内鉄竹刀に直結し、両腕と竹刀を強化。
敵の攻撃を初撃のバツ字斬り払いで弾いて体勢を崩させた後、
隙だらけになった胴体その鳩尾に、2本の竹刀で突きを行う。
正面から来る相手にだけ使えるカウンター技。
賊くずれ相手とはいえ、鬼神のような戦いぶりで魅せた一刀を、
劉備玄徳こと桃香は見つめていた。
速さと力のバランスの取れた戦い方に、興奮で熱い溜息が出る。
と、突きの流れでまた同じ構えのような体勢でうずくまっている一刀の背後から、
いきなり最後の老け顔の男が斬りかかった。
「待っ…!」
ガシッ
止めようとした桃香を、背後から伸びた手が押し留める。
桃香が驚いて振り返る。
そこに居たのは、関羽雲長こと愛紗である。
愛紗は、一刀からめを背けることなく見つめたまま、
止めてはいけない、見ていろ、とばかりに首を振る。
いつの間にか、愛紗の隣に来ていた張飛翼徳こと鈴々も、真剣な表情で黙って一刀を見ていた。
桃香が一刀を振り返った瞬間と老け顔の男が剣を振り下ろしたのはほぼ同時。
そして、時が動く。
「示現北星流秘奥義・刹那、桜花繚乱。」
ブンッ、ドカッ
「「なっ(えっ)!?」」
老け顔男と桃香の驚きの声が上がる。
一刀を切り裂くはずの剣は、地面を砕いただけだった。
一刀は、老け顔男の剣が振り下ろされるその瞬間まで、たしかにそこに居た。
だが、振り下ろした瞬間に一刀は霞のように姿を消し――
スゥゥゥゥ
男を取り囲んだ 五 人 の 一 刀 た ち が、同時に男に殺到する。
「な、なんだ!なんなんだコイツはぁ!ぐぉおおあああああ!!!」
五人の一刀による神速の連撃を受け、最後の男も大地に沈むのだった。
桃香「ありがとうございます、御遣い様。助かりました。」
戦いを終えて、右肩をグルグル回していた一刀に、桃香が話しかける。
一刀「え?いや、気にしないで。君が無事でよかったよ。」
ニコッと、御遣いスマイルを炸裂させる一刀。
とたんに真っ赤になる桃香。
愛紗「ぅうんっ!私からも礼を言います、御遣い様。
我が主を助けてくださり、有り難うございます。」
鈴々「鈴々からも礼をいうのだ。ありがとうなのだ、御遣いのお兄ちゃん。」
御遣いスマイルの流れ弾を受けて、すこし赤らめた頬を咳払いで誤魔化しながら、
自身の主人を窮地から救ってくれた一刀に礼を告げる愛紗。
鈴々は元気スマイルを浮かべながら、同様に一刀に礼を言った。
一刀「あぁ、いや。だから気にしないで。困っている人を助けるのは当然のことだろう?」
一等の言葉に嬉しそうな表情になる少女三人。
そんな少女たちに、一刀はさっきから感じていた疑問を投げかける。
一刀「ちょっといくつか質問があるんだ。聞いていいかな?」
桃香「はい。なんですか?」
一刀「ここってなんていう場所?」
桃香「えっと、琢郡です。」
一刀「琢郡ってどこ?東京?大阪?」
愛紗「そのとうきょうや、おおさかというのが何処かは知りませんが、琢郡は幽州の一部ですね。」
一刀「幽州…ね。ここは日本じゃないんだね。」
鈴々「にほんってどこなのだ?」
事態は紛糾しそうである。
その後も二、三質問してみた結果、日本ではないことを確信した一刀。
一刀「えっと、俺は北郷一刀って言うんだけど、君たちは?」
桃香「あ、はい。私は劉備、字を玄徳といいます。」
一刀「は?」
桃香「え? どうかしましたか?」
一刀「いや、待ってくれ。今、劉備って言った?」
桃香「はい。私の名前です。劉備玄徳。」
一刀「(それって、三国志の武将の名前だよな…。どういうことだ?)
そ、そうか…。それで、君たちは?」
残りの二人を見て言う一刀。
鈴々「鈴々は、張飛翼徳なのだ。」
愛紗「私は関羽、字は雲長です。御使い様。」
一刀(張翼徳に、関雲長。どうやらここは三国志の世界らしいな。)
何が起こっているかは理解してはいないものの、とりあえず状況は飲み込めた一刀。
そして、最後の疑問を投げかける。
一刀「で、その御遣い様ってのは何なの?」
桃香「管輅さんという占い師さんが喧伝して回っているんです。
天より御遣いが舞い降り、乱世を鎮めて世に平和をもたらす、って。」
一刀「で、それが俺の事だと?」
愛紗「違うのですか?」
一刀「さぁ。それがわかるのは多分その管輅さんだけだと思うけど。
第一、乱世を鎮めるなんて、俺にそんな力があるとは思えないよ。」
鈴々「でもさっきの戦いのお兄ちゃん、凄く強かったのだ。」
愛紗「そうだな。私もそれなりに武の心得はあるが、最後の技だけは見切れなかった。」
鈴々「鈴々もなのだ。」
◆示現北星流奥義・刹那
脚に気を通して俊敏性を強化。
相手の攻撃の瞬間を突いて超高速移動で姿を消し、敵を撹乱する。
敵の虚を衝くための目くらまし技。
◆示現北星流秘奥義・桜花繚乱
五人の分身を生み出し、同時に五方向から突撃、高速の連撃を行う。
五人に見えてはいるが、単に超高速移動による残像でそう見えるだけ。
極度に脚力を駆使する大技なので、必中させるために刹那と連携して用いる。
一刀「そりゃあ、あれは秘奥義だからいや、そんなこと今はどうでも…ん?」
言葉を止めて訝しげな声を発する一刀。
愛紗「どうかなさいましたか?」
一刀「…君たち、えと、関羽と張飛だけど、こっちに駆けつける前、何処にいた?」
愛紗「琢県の町ですが?」
一刀「その町、アッチじゃなかったか?」
一等が指を指した方角。
その方向に見えている町から、明らかに普通じゃない煙が上がっていた。
三姉妹 「「「 !! 」」」
三人が驚いている間に、ものすごい速度で一刀は駆け出していた。
残りの三人も慌てて駆け出す。
愛紗「くっ!少し抜け出した間になにがあったというのだ!」
一刀「あの盗賊くずれ、少数で動くにしては弱かった。
おそらく普段はもっと大人数で行動してるんだ。つまり町には…。」
鈴々「鈴々わかったのだ!残りの奴らが町を襲ってるのだ!」
一刀「ああ、多分そういうことだろ!」
桃香「大変!早く助けないと!行こう、ご主人様!」
一刀「ああ、わk…。オイ、ちょっと待て、ご主人様ってどういうことだ!?」
うろたえる一刀に取り合わず、三人は速度を上げる。
一刀「うぉ、速!さすが三国志の武将!」
一刀も一気に速度を上げ、三人と並んで町に向かった。
酷い、町の様子はその一言に尽きた。
一刀が気づいて町に向かったのが早かったおかげか、まだ被害は比較的小さい。
だがそれでも、すでに何人かの犠牲者が出ていた。
一方を見やる。
首がひしゃげた子供の骸の横で母親らしい女が泣き叫びながら犯されている。
近くに転がっている、剣の刺さった首のない死体は夫か。
「あわわ。やめてくだしゃい!その人をはなしt ぅやぁっ!?」
小さな少女が、犯される女性を助け出そうと賊に掴み掛かるも、乱雑に腕を振り払われ、
民家の戸口に積まれている荷物の山に突っ込んだ。
少女は崩れた荷物から抜け出そうと、荷物の中でもがいている。
一方を見やる。
商人のような服装の、口から剣で壁に縫い付けられた男の横の戸口に、
売り物を片っ端からズタ袋のようなものに放り込んでいる男の背中が見える。
「はわわ!駄目です!やめてください!やめt きゃぁっ!」
同じく小さな少女が、商人の店から商品が持ち出されるのを必死に食い止めようとしていたが、
振り払われて、戸口で頭をぶつけて、苦しげな顔でうずくまる。
壁のオブジェにされた商人は、ギリギリこの世の淵にいたのか、
滂沱の涙を流しながら、一刀に目線で訴えかける。
(こいつらを…こいつらをどうにk…)
ついに力尽きたのだろう。
赤く充血した目に、もはや力は宿ってはいなかった。
商人は、最後の願いすら、言い切ることも出来ずに逝った。
ふと、現世の、九州の道場にいたときの湊瑠との会話を思い出す。
「なァ、一刀。おめェ、罪もねェ人間を殺すのを是とする人間をどォ思う?」
「いきなりだね。うん、許せないよ。裁かれるべきだと思う。」
「じゃァだ。おめェ、そんな人間が目の前に居たとして、裁けるか?」
「え?」
「 そ い つ を 殺 せ る か って聞いてンだよ。」
「そ…、そんなの…。」
「イイかァ、一刀ォ!!」
「!!」
「そんな奴ァ、躊躇うな。殺せ。」
「で、でも…。」
「事情はどうあれ、倫理を捨て、やっちまった以上そいつァ最早、人間じゃねェ。」
「…。」
「生きるために、仕方なく殺る事だってあるだろう。だが、駄目だ。やっちゃならねェ。
もし、事情がある奴を救いてェと思うなら、殺る前に救え。殺るなら、殺られて然るべき
人間を殺るようにおめェが誘導しろ。その人間を使って、お前が殺せ。」
「俺が…?」
「そォだ。人を救うってことァ、そいつの人生を背負うってことだ。
そのくらいの覚悟も無しに人様の人生に干渉しようとすんじゃねェ。
おめェはそれでも、その誰かを救いてェと、そう思えるか?」
「…怖い。怖いよ…。怖いけど…、でも救いたいよ。俺が背負うだけで、
その人を救うことが出来るっていうなら、背負うよ。絶対に助けてやる。」
「…。かはっ、イ~イ覚悟だ、一刀。なら、コレも覚えておけ。
手遅れになってしまった人間が目の前に居るなら、お前が殺せ。」
「手遅れ…。」
「そォだ。お前は神じゃねェ。間に合わねェ事も多々あるだろォよ。
間に合わなかった人間はな、もう罪を重ねていくしかねェんだよ。
嫌でも、本当はやめたくても、心でどんなに泣き叫んでも、
もうソレしか道はねェ。もう戻れる道理はねェ。手遅れなんだ。」
「…。」
「だからよ、一刀。それ以上、罪を重ねさせるな。
ただ、殺人が愉快な奴なら、結局死んじったほうが世のためだろォ。
だが、泣きながら、殺すしかない奴は、可哀そうじゃねェか。
嫌なのに、罪ばかり深くなりやがる。だから、お前が止めてやれ。わかったか?」
「…。わかった。」
「…かは!イイ眼だ、一刀。頼んだぜ。」
そして今、鬼神が覚醒する。
愛紗「っ!この賊どもがァァ!!この関雲長が斬り捨ててくr…」
一刀『ガァ゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!!!!!!』
愛紗「…ッッ!!?」
さながら災害であった。
有り得ない速度で駆け抜けるその様は暴風。
血管が浮き上がった、火山の如き力を秘めた手で、
女を犯していた者は首を握りつぶされた。
投擲された竹刀は、天雷の如き速度で、
商人の店の軒の商品をさらっていた男の心臓をブチ抜いた。
踏み抜いた脚によって起こされる地震の如き闘気の震えは、
一刀のその様を畏れ、討ち取らんと襲い掛かかった物たち、
逃げ出さんと走りだした者たちを地に縫いとめ、
その手に持つ嘆きを映す、ボロボロの神罰の竹刀で狩りとっていった。
暴虐の災害と化した一刀の眼からは、ただひたすらに涙が流れ続けていた。
快楽で殺しを、略奪を行った者たちに対する怒りから。
おのれ、と。
立場から殺しを、略奪を行うしかなかった者たちにたいする後悔の念から。
間に合わなくて、すまなかった、と。
泣きながら、ひたすらに泣きながら、災害を振るった。
いつのまにか、雨がしとしとと降っていた。
災害が過ぎ、賊はかくして全滅した。
骸に宿る表情は、怒りを表すもの、怯えを表すもの。
また、肩から荷が下りたような、そんな安らかなものもあった。
そんな彼らの表情に囲まれて、雨の中、一刀は慟哭した。
その様を見守る事しか出来なかった、桃香たちと町の民は思う。
嗚呼、なんて可哀そうなひとなのだろう、と。
きっと彼は、愛しくて仕方ないのだ。
たとえ、幾億の罪に汚れていても。
かれはただ、人が愛しくて仕方がないのだ。
全ての人の罪を背負って生きようとする、優しすぎる覇天の鬼。
だからこそ、皆はこう思った。
この命の全てを賭けて、この人について行こう。
優しすぎる修羅が流した涙は、雨となって、町の戦火を鎮めていったのだった――。
自分たちの主になって欲しいと、一刀に頼み込む者たちがいた。
桃香たち三姉妹と、御遣いの話を聞いて町に来ていた少女2人、そして町に琢県の町の民たちである。
その理由と想いを聞き、一刀は少女たち5人の主になること、
そして桃香の案でつけられた一刀の新しい名と共に、
琢県の県令となり、ここから人々を守るための戦いを始めることを決意したのだった。
一刀が県令となってその後、幾度か賊の大部隊が攻めてくることがあった。
一刀の災害モードは先の事件以来発動せず、せいぜい並みの武将程度の力しかない。
ここで活躍したのが、文官志望で参画した二人の天才軍師である。
一人は諸葛亮孔明、真名を朱里。もう一人は鳳統士元、真名を雛里という。
二人はかねてより天界(現世)の兵法や戦法を一刀から学び、巧みな応用力でこれを利用。
一刀が囮役を率先的に請け負い、最前線に立つ事によって士気はうなぎのぼり。
特に、ご主人様を守らねば!、という愛紗のテンションはちょっとおかしなレベルだったという。
内政が少し落ち着き、久しぶりに時間を取れた一刀一行は、桃園を訪れた。
一刀の知る史実では、ここに訪れるのは劉備・関羽・張飛の三人。
すでに仲間となった諸葛亮と鳳統、そして歴史の異分子である自分に妙な感慨を抱きつつ、
「やっぱやらなきゃだろ!!」
と、桃園の誓いを実行するのだった。
一刀「我ら六人!」
桃香「たとえ生まれは違えども!」
愛紗「この契りを結びしからは!」
鈴々「同じ志、同じ旗の下、戦い抜くことを誓うのだ!」
一刀「姓は北、名は郷、字は白狼。真名は一刀!」
桃香「姓は劉、名は備、字は玄徳。真名は桃香!」
愛紗「姓は関、名は羽、字は雲長。真名は愛紗!」
鈴々「姓は張、名は飛、字は翼徳。真名は鈴々なのだ!」
朱里「姓は諸葛、名は亮、字は孔明。真名は朱里でしゅ!…はわわ!」
雛里「姓は鳳、名は統、字は士元。真名は雛里でしゅ!…あわわ。」
朱里「願わくは、此処に誓いを結んだ我らよ!」
雛里「死する時は、同じ年、同じ月、同じ日であらんことを!」
一刀「それじゃぁ、みんな!いいな!?」
全員 「「「「「「 乾 杯 ッ !! 」」」」」」
一刀たちの物語は、今ここに、動き出した。
Tweet |
|
|
23
|
1
|
追加するフォルダを選択
*旧作
ついに歯車のひとつがはまりました。
この外史という仕掛けは、いったいどう動くのか。
お楽しみに。
続きを表示