ある晴れた日。
そこには人々が織り成す活気があった。
子供はあちこち走りまわり、商人たちが道を賑わせ、庶人が笑顔で街の中を歩く。
この時代からすると此処の街は十分に平和だといえよう。
だが、平和だと言っても完全というわけではない。
日々問題が起き、中には大きな事件になることもある。
でなくとも小さな問題は日常に起きる。
「きゃあー!!ひったくりーーーー!!」
女性の叫び声が響く。
人々の視線が声の方向へと向くと、地面に尻をついた女性とその女性から逃げる男の姿があった。
男の手には女性が持っていたと思われる荷物が抱えられている。
周りの人たちも突然のことに動きが止まってしまう。
その隙に男はどんどん逃げていく。
そして男が逃げられる!と確信した時だ、
目の前に一人の男が現れた。
その男の姿は変だった。
光輝く服を纏い、腰には細い剣を二本さし、
何よりまだ若い少年であった。
不思議に思ったものの男は今は逃げるのが先と少年を抜き去ろうと虚を混ぜ横を駆け抜けようとする。
男の思惑通り、男の虚に少年は不意をとられてしまった。
その隙を見逃さず男は素早く少年の横を通り抜ける―――
「……え?」
筈だった。
くるり、と男の視界は廻る。
見えていた景色はいつのまにか逆さまになっており、
地面に衝突する瞬間、自分が一回転して投げられたのだと理解した。
それから手を後ろにひねられたまま背中に体重をかけられ押さえられる。
男はさらに理解する。
自分は逃走に失敗したのだと。
「抵抗はやめてくれよ。おとなしくしてくれれば手荒なマネはしないから」
その言葉がかけられると同時ぐらいに警邏隊の者がかけてくる。
男はそれを見て、抵抗することを諦めた。
「大丈夫ですか御遣い様!?」
「大丈夫大丈夫。それよりこの人をお願いしていいかな?
あ、もう抵抗はしないようだし手荒なことはしないでね」
「ハッ!」
礼をする兵士に笑顔で答え、少年は男が盗った荷物を抱え女性の下へとかけていく。
女性は荷物を受取り本当に嬉しそうに少年に頭を下げる。
少年は慣れていないのか照れくさそうにしていた。
「天の……御遣い?」
男は先程、兵士が言った言葉を思い出す。
そういえば聞いたことがあった。
最近、天の御遣いがこの大陸に降りて来たと。
そして、この街にいると。
「噂は本当だったのか?」
「何だ知らなかったのかお前?」
男の言葉に兵士が答える。
その顔は少年を憧れと尊敬の色が浮かんでいた。
「あの方こそ天の御遣いである北郷一刀様だ。
今はこの幽州太守である公孫賛様の客将さ」
此処は幽州、公孫賛が治める街。
一刀たちは客将としてここにいた。
「この変態!アンタ何やってるのよ!!」
城に帰った俺を待っていたのは、ひったくりを捕まえたことの賞賛でもなんでもなく、
桂花の大きな怒声だった。
「な、なんだよいきなり怒鳴って?」
「なんだよ?ですってぇ!?よくもそんなことが言えるわね!
自分が何したのか分かってるの!?」
「ひったくりを捕まえただけだろ?むしろ褒められていいと思うんだけど……」
凄い勢いで怒る桂花に俺は少しムッっとしてしまう。
ひったくりを捕まえたのだ。
つまり良いことをしたのだ。
なのに怒られるとはどういうことか?
けど、次の桂花の言葉に俺は黙殺されてしまう。
「そうね、他の人がやったことなら褒められたことだと思うわよ。
でもね、問題はアンタが捕まえたって所!
アンタは一応認めたくないし気持ち悪いし寒気もするけど私の使える主なのよ?
何かあったらどうするのよ!?
だいたいひったくりくらい警邏の者に任せれば住むことじゃない!
それとも何?自分が考えた警邏の方法、そして星に鍛えられてる兵士が信じられないなんて言うわけないわよね?」
「それは……そんなことないけど」
「それにね、アンタにはやらなきゃいけない仕事があるじゃない!
どうして私が四六時中女を孕ませることしか考えていない馬鹿の尻拭いをしなきゃいけないのよっ!!」
「うっ……」
桂花の言う通り、俺は自分の仕事をサボり街へと出ていた。
もちろん仕事をしないつもりじゃない、ちょっと息抜きしたかっただけなんだけど……。
その回数が回数なだけに、その度に桂花に怒られている。
仕事のことを出されたら何にもいえないなぁ……。
「それはそうだけど、お前変なこと言うなよなっ!
桂花が色んなこと言ったお陰で俺、城の侍女の人たちから避けられてるんだぞ!?」
「フンッ、アンタがどうしようもないスケベってのは間違ってないじゃない。
旅の間何回その汚らしい汚物を私のお尻に押し付けていたと思ってるのよ!」
ぐっ!痛いところを……!
でも仕方ないだろ!?
普通女の子と肌をくっつけていて興奮するなって言う方がおかしいんだ!
「そこまでにしておけ荀イク」
と、そんなところに天の声のごとく助けの声が入る。
俺は笑顔で、桂花は不機嫌な顔のまま声の聞こえた方へと顔を向けた。
「白蓮!」
「お前達が来てくれてから大分治安も良くなった。
街で起きる問題も今日みたいなひったくりといったカワイイものだしな。
北郷の提案してくれた警邏体制の改正、整備、清掃、他にもいろいろ私たちじゃ思いつかなかった興味深い案のお陰でウチも前より良くなっている。
だから、たまのサボりくらい大目にみてやるさ」
「そうだそうだ。俺だって仕事をしてない訳じゃないんだぞ」
「いや、実際サボっているお前が偉そうにいうなよ……」
と、調子にのったらダメだな。
庇ってくれたのに白蓮が呆れた顔をしている。
「………フン。後でちゃんとやりなさいよ」
そう言って桂花は俺を一度睨んだ後、去っていく。
多分俺の分をやっていたから自分のが残ってるんだな。
……桂花って怒るけどいっつも何だかんだいって俺の仕事を手伝ってくれる。
よし、今度から街へいく回数を減らそう。
怒らせちゃったな……。
「フフ、心配はいりませんよ主。
あれはただ主が心配なだけだったのですよ」
「星」
桂花が去っていった反対から星がやってくる。
というか桂花が俺を心配?
う~ん、本当だったら嬉しいけど俺っていまいち桂花にどう思われてるのか分かんないんだよな……。
曹操じゃなくて俺を選んでくれたってことは、一応は俺を評価はしてくれているんだろうけど。
「趙雲、稽古は終わったのか?」
「ええ、誰かに教えるというのも案外楽しいものですな。
それが結果につながっているとなるとさらに」
「趙雲のおかげでウチの兵も強くなっていってるよ。
ウチには趙雲みたいな武に長けた者はいなくてな、助かるよ」
「伯珪殿にそう言ってもらえると光栄ですな」
星はこの城にいる兵たちを鍛えてもらっている。
やっぱり星ぐらいの武将に教えられると違うのか、兵士の人たちも確実に強くなっていっている。
「お疲れ様、星」
「あれぐらい疲れの内に入りませんよ。
でも主に労わってもらえるのは嬉しいですな」
そう言って本当に嬉しそうに微笑む。
うっ、相変わらず見惚れてしまう笑顔だ。
「それよりも主。街に出る時は私も誘ってくれと言ったではないですか」
「あ~ゴメン。誘おうとはしたんだけど、鍛錬中だったから」
「おや?自分は仕事をサボっておいて私には真面目に働けと?」
「うぐっ」
いや、だって他の兵たちに迷惑かかるし……。
俺の仕事も遅れれば迷惑かけるか……。
「今度からは仕事を終わらせてから行くよ」
「そうして下さい。あっ、今度は私も誘ってくれますよな?」
「うん、もちろん」
「フフッ、楽しみに待っているとしましょう」
艶やかしい表情で俺を見た後、星も去っていく。
そういや星と二人っきりでゆっくり話したこと無かったし調度いいか。
うん、今度は星と一緒にデートだ。
「相変わらず仲がいいなお前らは」
「そう言ってもらえると嬉しいな、やっぱり」
「お前達が来てもう二ヶ月か……あっという間だったよ」
「少数しかいない俺達を客将として受け入れてくれた白蓮には感謝してるよ」
「よしてくれ。私はただ少しでも手が欲しかっただけさ。
街の治安は良くなったもののまだ盗賊たちはいるんだしな」
盗賊か……。
俺達が来てからも数回襲撃があった。
追い返すことは出来たが結局盗賊たちを全壊することは出来ずにいる。
その度に人が死んでいく……。
「そう暗い顔するな北郷。
星が入ってくれたお陰で死人も減っているんだ」
「うん……」
星には本当に助けてもらっている。
俺が人が死ぬのが嫌なのを分かってくれて進んで俺達の兵だけじゃなく白蓮のところの兵にまで鍛えてくれているんだから。
うん、暗い考えは止めておこう。
前に進んでいることには変わらないんだ。
「とりあえず部屋に戻るよ。
残った仕事を片付けないと桂花にまたどやされちゃうからさ」
「はは、そうだな。私も政務がまだ残っているからそれを片付けるとするよ。
ひったくりの件ありがとうな」
「うん。あっ、それからあの男の人には何か仕事をあたえてやってくれないかな?
ここに戻ってくる途中に本人に話を聞いたんだけど、働き口もなくて三日も何も食べてなかったみたいなんだ。
話した感じだと根っからの悪人でもないと思うし、仕事さえ与えれば真面目にやってくれると思うよ」
俺がいた現代じゃ生きるために犯罪を犯す人は少なかった。特に日本では。
でもこの時代の人たちは生きるために罪を犯す。
平和な時代ならきっと罪を犯すはずかない人までだ……。
動機が動機だけにやるせなくなる。
「またお前は捕まえた者のことまで……。
はぁ、分かった分かった。私が自分でその男と話してからにはなるが、
北郷の言う通り悪い奴じゃなかったら仕事をやるよ」
「ありがとう白蓮っ!
今は北区の方で人手が足りないっていってたからそこにやればいいよ」
「おいおい、まだ仕事をやるとは言ってないんだが……」
「でも何だかんだいって、いつも面倒みてくれてるじゃないか。
白蓮っていい奴だよな」
「なっ!ち、違うぞ!
私はただ本当に大丈夫だと思ったからしただけで、
やめてくれっ背中がかゆくなるだろ!」
赤い顔をして怒鳴る白蓮。
白蓮って照れ屋だからなぁ。
まぁ可愛らしくていいと思うけど。
「はは、じゃあまた後でな」
「あっまて北郷!」
俺は手を振りながら白蓮から小走りで去っていった。
俺達が旅を始めて四ヶ月。
初めの二ヶ月は大陸を知るため、その大陸に生きる人を知るため色んな所へ行ったもんだ。
途中、盗賊の被害にあっている邑もあり、また戦ったりもした。
やっぱり戦だけあって死人は出たものの被害は少なく、また寄った所によっては、
ありがたいことに俺についてきたいと言ってくれる人も現れた。
そうして気がついてみれば初め五十人だった俺の仲間は、その五倍の二百五十程にまで増えたんだ。
でも人数が増えて困ることがあった。
そんな数の人数を賄っていくための路銀と食料だ。
途中寄った邑のほとんどに別れ際、食料や路銀を譲ってくれたりして何とかなっていたんだけど、少しずつきつくなっていったんだ。
それでどうしようか?と考えた時。
ちょうど幽州の太守である白蓮……公孫賛が盗賊の討伐に困っているという情報を得た。話し合った結果俺達は白蓮のところへ義勇兵として受け入れてもらうことにした。
初めは一般兵としてだったんだけど、街を警邏してる時に思ったことや、
街を見て気になったことなんかを書いて提出したら白蓮が直接会いに来た。
それから色々あって天の御遣いだってバレて客将として扱われることになった。
もちろん星の武、桂花の知も買われてだ。
というか桂花は客将扱いを喜んでいた。
客将になったことで政務の一部を任せてもらい、桂花は俺にとっていい経験になるだろうと嫌味たっぷりで言っていた。
実際言い経験にはなってるしな。
それにしても相変わらず盗賊との折り合いはつかない。
俺達も何度か盗賊との戦に出たが、結局は決着がつかなかった。
ここの人々を安心させるためにも速く決着をつけたいんだけど、
いまいち決め手にかけるのが現状だ。
桂花も盗賊のことにはイライラしている。
桂花の策のお陰で一戦一戦は勝利という形で終われているが、やはり完全な勝利には持っていけていない。
数で負けているというのもあるが、兵たちの質も関係している。
半数が農民から出らしいからな……。
ま、星が教えているから完全決着もそう遠くはないだろう。
……やっぱり人が死ぬのは嫌だけど。
誰かが立ち上がってやらないといけないんだ。
人任せにはしたくない。
「ふ~、とりあえずこんなもんか?桂花」
「見せて」
出来た書類を桂花に渡す。
そういえば言い忘れてたけど、これまた不思議なことに俺はこの時代の字が書けた。
桂花にそこを突っ込まれたけど俺にも分からないんだ。原因なんて分かるはずがない。
でも書けることにこしたことはないので気にせず過ごしている。
桂花とは普段一緒の部屋で仕事をしている。
字はかけても色々まだ書き方がダメらしい。
しょっちゅう怒られてるよ俺……。
それに一緒にいると妊娠するとか、欲情するなとか色々言われるし。
一回出来たら持っていくと言ってみたけど却下された……なんでだ?
「まぁ変態にしたら上出来ね」
っと、どうやら合格をくれるらしい。
そういや仲間になったあの日以来、桂花は俺を名前では呼ばない。
たまに北郷とはいうけど一刀とは言わない。
一度星に話してみたら
「アレは照れているだけですよ」
と、笑って言っていた。
本当かな?
「ただ、この東区の清掃の案件、ちょっと書き方がおかしいわね」
「え?どこらへんが」
桂花に身を寄せて書類を覗き込む。
寄せたとこにより桂花の髪が肌に触れ良い匂いが鼻を掠める。
花の匂い。桂花の香り。
「いい?この部分が――」
いけない。話を聞かないといけないのに……。
自然と手が桂花の髪に伸びる。
「それでね……ってちょっと聞いて――っ」
そして俺の手が桂花の髪に触れた。
その繊細で柔らかな髪を撫でる。
サラサラとして気持ちがいい。
「あ、あ、あ、アンタ何やって……」
「桂花の髪って綺麗だな」
「~~~~~~~~っ!!」
真っ赤になる桂花を無視して俺は髪を撫で続ける。
うわっ、これはくせになるかも……。
「………アンタは一度……いえ、永遠に死ねぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!」
「ぷぐろぱぁっ!?」
だが、桂花が大人しくされるがままになるわけがなく、
そんな風に悦に入っていた俺に特大のグーパンを顔面にプレゼントしてくれた。
「おやおや、これはまた立派な跡が残っていますな」
「笑い事じゃないって……。
てて…まだ痛みが残ってる」
翌日、今度はキチンと自分の仕事を終わらせた後、
訓練の終わった星に約束通り声をかけ、街の中を歩く。
そして俺の頬には昨日、荀イクから殴られた手の跡がまだ顔に残っていた。
「で、どこに行くんだ?」
「ついてくれば分かりますよ」
そういって微笑む星は何処か艶めかしい。
街に出た時間がちょうど昼時ということもあって、俺たちは昼食を食べにきていた。
何でもオススメの店があるらしい。
星の強い押しに興味が出た俺は一緒に行くことにしたのだ。
「きっと主も気に入ってくれますよ」
「うん、期待してる」
お互い笑いあいながら歩く。
そして、商人たちが店を開く通りに入った時だ……それを見つけたのは。
「――――あ…」
カラカラ…カラカラ…と風に吹かれてそれは廻る。
路上で風呂敷を広げ置かれたソレ……。
俺にとっては良く知るモノであった。
花が咲き誇ったように幾つも立てられた小さな風車……ソレがそこにはあった。
「主?」
星の声にろくに反応しないまま、俺は風車を売っている商人のもとへ歩く。
「コレ……君が作ったの?」
声をかけ俯き加減で顔を上げたのは、
髪に並んでいるのよりさらに小さな風車を挿した小麦色したショートカットの女の子だった。
歳は俺より少し下だろうその顔立ちは星や桂花に勝るとも劣らない美少女だ。
「はい。私が心をこめて作ったものにございます」
そうしてその女の子は花が咲いたような笑顔で俺に応えた。
あとがき。
という訳で二章が始まりました。
三人の行き先はありきたりですがハムの所にしました。
今回出したオリキャラ、オリキャラは余り出したくなかったのですが物語りの進行上出すしかなかったので出しました。
オリキャラ嫌いな人はごめんなさい。
そしてこの時代に風車があるのか?って話ですが。
まぁ……それはその……すんません流してくださいっ!
これも出すしかなかったんです……。
とりあえず二章は長くても10話で終わると思います。
原作キャラももっと出てくるので期待してて下さい。
もちろん六花の活躍もたくさんありますw
と、コメントに対しての返事ですが。
返せるようならあとがきにて返していきます。
嬉しいことですが多いときはその場でコメント返事していきますね。
ではコメント返しを……
heinkel さん>ただいまです。これからもっと頑張っていきますね!
ジョージさん>更新しました!次も一週間ぐらいで更新するつもりなので。お待たせしてすいませんでした。
村主さん>そう言ってもらえると嬉しいです。これからも頑張ります!
gmail さん>お待たせしました。はい頑張ります!
SempeR さん>ただいまっす!そしてお待たせしました。次も読んでくれると嬉しいです。
moki68k さん>そこれへんは最後で分かってくるようにしてます。そこまで長いですがお付き合いください。
よーぜふさん>今回桂花は抑え目でいきました。相変わらずツンツンです。本格的にデレるの日はくるんでしょうか?w
たくさんのコメントありがとうございました。
ではまた次回に。
いつも見ていただきありがとうございます。
たくさんの開覧と支持、さらにはコメントをもらえてとても嬉しく力になってます。
また次も見てくれると嬉しいです。
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二章開始です。
この章にはオリキャラが出てきます。