No.149164

Cat and me18.ハヅキ再び

まめごさん

ティエンランシリーズ第六巻。
ジンの無責任王子ヤン・チャオと愛姫スズの物語。

「何か思惑があって近づいているようにしか考えられません」

2010-06-09 07:52:20 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:667   閲覧ユーザー数:655

冬も終わりの頃、ひょっこりハヅキが訪ねてきた。

「元気かなって思って」

それにしても、君は本当に王子だったんだな。

「相変わらず野望を抱いているのか」

「それはそれ、これはこれ」

首をすくめて笑った。

「しばらく厄介になってもいいかな。ジンの城にも興味があるんだ」

「それは構わないが」

城の門まで迎え出たわたしにスズも勿論付いてきている。

「あの時の女の子だね。随分と美しくなった」

丁寧に礼をするハヅキに、スズもペコリとお辞儀をした。

わたしの部屋で呑気に茶を啜る男に、かつての暗さはない。

吹っ切れたような、妙に明るい雰囲気だった。

「そういえば、君の探し人はどうなった」

「あの時点でもう分かっていたことなんだけど」

茶器を卓に戻しながら、ハヅキは言った。

「他の男とくっついていたよ。母から聞いて仰天した」

ティエンランの女王は、幼少期の頃事情があって、ハヅキ宅に預けられていたそうな。

「血は繋がっていないが、妹には間違いあるまい」

大学生となったハヅキは、ある商家の家庭教師をしていた。

そこで知り合ったのが、運命の女だったらしい。

「年上のくせに子供とひっくり返って遊んでいる、無邪気な人だった。妹と同じ名でリウヒといった」

スズが顔を上げた。

「お前はまたそんな菓子屑をつけて」

手で払ってやる。

「ジンからの旅人で、田舎の出身だと言った。が、教えてもらった二言は、どこの部族や村の言葉でもなかった」

「どんな言葉なのだ」

が、ハヅキの口から出たのは、聞いたこともない発音でさっぱり分からなかった。

「分かるか、スズ」

分からない、と首を振った。

「結局見つからずに、ティエンランの母の元へと帰ったが、母は宮廷に入った後だった。ほら、女王に子が生まれたからね」

「ああ、それは知っている。ヒスイという名の王子だろう」

たしか父も祝いの品を送っていたような記憶がある。

「リウヒは、ぼくの母の所に一人で身を寄せていたらしい。が、その男が迎えにきて、仲良く去って行ったそうだ」

「そうか」

「ま、それもあって、ちょっと自棄になっていたのかもしれないな。ティエンランと違ってジンは歴史が深い。図書室の入室許可がほしいんだ。調べたいこともいっぱいあるしね」

にっこり笑ったハヅキだったが、カイドウ、リンドウはこの男を嫌った。

「何か思惑があって近づいているようにしか考えられません」

「どうもヤン・チャオさまにたかっているように見えます」

スズはどうでもよさそうだった。

ハヅキも今までの客人とは違い、スズに興味を示さなかった。

「そうは言うな」

お付き二人は不満そうに口を尖らせた。

「まあ、余りにも長期滞在するようならば、丁重に叩き出すから」

 

――あの人は。

ぬくぬくとした蒲団の中で、スズが思い出す様に言った。

――想い人と一緒になっていたら、あんなに悲しそうな顔をしなかったのにね。

「ハヅキのことか」

こくりとスズが頷いた。

――見えないところから血を流しているみたいに、痛そうな顔をしているの。

「そうは全く見えないが」

むしろ吹っ切れたような感じだった。

それにしても、寝台の上で他の男を話題にされるのは気に入らない。

「気に入らないぞ、スズ」

噛み付くように口づけをすると、スズが笑った。

笑い声はその内に甘い鳴き声に変わった。

 


 
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