―――バシッ
木と木、気と気のぶつかり合う音がする。
―――バババシッ
打ち合うのは道着と防具で身を包んだ二人だ。
二人が構えているのは竹刀。
身に着けた防具は剣道のそれ。
―――バシッ、バシッ
「オイオイ、手が遅れてきたぞォ。もォ息があがったのか?」
手に持った竹刀を青眼(正面中段にまっすぐ剣を持つ構え)に構える事も無く、
片手でぶら下げただけの男が落ち着いた声を出す。
その声は一片の乱れも見えない。
「っく!…ッハァ…ッハァ!まだまだ!」
両手に竹刀を持った男が右肩をぐるぐる回しながら言う。
まるで持久走でもしたかのような息の乱れである。
「そうかィ、それじゃこっちも打ち込むぞ?」
「…っぐ!?」
―――バババババババババババババババババシッ
一息に17回の音が響く。
その全てが、二刀を構えた男の竹刀に叩き込まれた打撃音だ。
「…っっつぅ!…遠慮ないなぁ!」
「そンな竹刀使って尚、そんなもンして欲しいのかよ?情けねェな。」
「っはは!馬鹿言わないで下さいよ!」
尚も竹刀の応酬が繰り広げられる。
だが、この男を相手にする上での取り決めとして使っている、
特別仕様の、鉄棒が仕込まれた二刀にはもはや亀裂が入り、ひしゃげ、折れかかっている。
「いやはや、大したものでござるな。」
二人の練習試合を見ていた道着姿の容姿端麗な少女が感心したような声を上げる。
「獅子神の十七連撃も凄いが、それを全て受けきった北郷もなかなか。白童、どう思う?」
「ええ、不動先輩。一刀はかなり手加減されてますね。
獅子神さんは、全部わざと竹刀に打ち込んでます。ちなみに、今のは二十六連撃です。」
答えるのは聖フランチェスカ学園の男子制服で身を包んだ、同じく容姿端麗な少年だ。
先の少女の名は "不動如耶(フユルギ・キサヤ)" 。
此処、聖フランチェスカ学園剣道部の主将である。
少女の問いに答えた少年の名は "白童葎(ハクドウ・リツ)"。
彼はこの剣道部の部員ではなく、
今繰り広げられている練習試合に興味を示して見学に来た生徒である。
「…相変わらず度外れているでござるな、獅子神は。
手加減というのも信じがたいが、していて尚二十六撃も繰り出すとは…。」
「でも17回しか音がしなかったということは、一刀は九撃は回避している訳ですね。」
先ほどから話に出てきているので紹介する。
垂らした竹刀から脅威の二十六連撃を繰り出した男が "獅子神湊瑠(シシガミ・ソウル)" 。
その連撃を九撃回避してのけたのが "北郷一刀(ホンゴウ・カズト)" である。
防具の面で見えないが、一刀の容姿は先の二人と同様にやはり容姿端麗。
湊瑠は、「昔負ったひでェ傷があるンだよ。」と、顔面を包帯でぐるぐる巻きにしている。
常にその状態なので、素顔を見たものは教師等も含めて一人もいないという。
「それをしてみると、なるほど。やはり北郷もたいしたものでござるな。
白童、もし獅子神が僅かとはいえ本気を見せたら、何連撃放てると思う。」
「う~ん…、獅子神さんの全力を見たことがないので。でも、そうですね。
とりあえずきちんと構えてからやれば、八・九十くらいは行くと思います。」
「…三倍強か。寒気がするでござるな。して、白童なら?」
「自分の場合、居合いの抜刀術なのでちょっと畑違いですが…。
そうですね、腰を据えないでやったら…え~と、ざっと百二十くらいでしょうか。」
「化物揃いでござるな、この学園は。是非、剣道部に欲しい人材なのでござるが…。」
そう。
ただの竹刀で鉄棒入り竹刀を圧し折らんばかりの二十六連撃を放つ獅子神湊瑠。
そして、直立状態から百を超える居合い抜刀を放てると言ってのけた白童葎。
両名、この学園の剣道部員ではない。
ただ遊びに来ているだけの部外者である。
紹介した内、剣道部員は一刀と如耶の両名である。
「すみません。自己流ですし、居合いなので剣道部は…。」
とは、葎の弁。
「ただの趣味だ。縛られてやる心算(つもり)はねェ。
何より、オレとまともに勝負出来るのなンざ葎くれェなもンだ。」
とは、湊瑠の弁である。
この発言を鑑みると、瞬殺されていない一刀も化物かもしれない。
「…勿体無いでござるなぁ。」
残念無念、といった風に呟く不動如耶である。
さて、試合の方は決着が着こうとしていた。
「どォれ、ワンパターンな戦法にそろそろ飽きて来たぞォ?
面倒臭ェし、そろそろ終わらせるかァ。」
「…ッ!?」
すっ、と九州は示現流に曰く蜻蛉の構えに移行した湊瑠に警戒し、
一刀が防御の為に身構えようとした瞬間――
「面。胴。小手。」
防御も間に合わず、一刀は吹き飛んだ。
「ッゥあ!?」
床を滑っていく一刀を、道場の反対側からいつの間にか移動していた葎が押しとどめる。
「面アリ2本。胴アリ2本。寸止めの突きが3回に、小手アリ2本ですね。」
「いやァ?各3本に突きは5回だ。」
「おや、流石は不動先輩をして化物と言わしめる方だ。」
「示現の蜻蛉をそこまで見切る葎も大概だろォ?あと、さっき脇で話してた内容、
嘘吐いてんじゃねェぞ?百二十だァ?葎なら例え無構えでも軽く二百は行くだろォが。」
葎の行った縮地レベルの移動も、湊瑠が激戦の途中で脇の話を聞いていたことも、
大した事無いとばかりに呆れたような口調で遣り取りする二人に、如耶は溜息を吐いて――
「…勿体無いでござるなァ。」
大事な事を、2回言うのだった。
ちなみにこの時、吹き飛ばされた一刀は――
「…」
意識をアボンされていたのだった…。
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記念すべき初投稿となります。
書いた文章を人目に晒すのも初。
お楽しみいただければ、と。
今回は序章よりもなお前である導入部です。
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