No.147920

真・恋姫無双『日天の御遣い』 拠点:張遼

リバーさん

真・恋姫無双の魏ルートです。 ちなみに我らが一刀君は登場しますが、主人公ではありません。オリキャラが主人公になっています。

今回は拠点。
霞は意外と奥手だったらいいと自分は思ってます。

2010-06-05 01:47:12 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:7557   閲覧ユーザー数:6518

 

 

【拠点 張遼】

 

 

「ふ~ん、ふふ~ん♪」

 

 雲一つない快晴のその日、霞は鼻歌交じりに城内を歩いていた。

 ぶんぶんと上機嫌に揺れる手に握られているのは、橙色の紙で厳重に口を封印された、上機嫌の源である酒の入った大きな徳利。それも普通の酒ではない。市場に出回るのが珍しいを通り越して稀少な、待ちに待ってようやく手に入れることが叶った格別の代物だ。

 

「(今日は非番やし、天気も抜群やし、日向ぼっこしながら飲むんは格別やろなぁ)」

 

 仕事が休みというだけでも機嫌は上がってくれるのに、加えてこの晴天と念願であった酒。自然と足取りは軽快になるし、頬が緩んでしまう。

 

「どこで飲むんがええかなぁ………………うん?」

 

 酒が最も美味く飲める場所を探し求め、中庭に辿り着いたところで――きらりと。

 草むらの奥で光を放った何かに霞は向ける。

 

「……なんなんやろ?」

 

 単に自分の見間違いか、誰かの忘れ物か、もしくは賊か。

 さっきまでの浮ついた雰囲気を全て引っ込ませ、気配を消してそっと草むらへと近付く。

 気配を消してそっと草むらへと近付き、眩い光が放たれた一本の木の根元を注視すれば――そこにいたのは。

 

「旭日? それにあれは……まさか、絶影〈ぜつえい〉?」

 

 そこにいたのは日天の御遣い――九曜旭日だった。光を放った何かとはおそらく、彼の綺麗な朝焼け色の髪が日を反射したがゆえだったのだろう。

 日天という肩書きを裏切らず、旭日は暇があれば色んな場所でよく日向ぼっこを嗜んでいる。なので、こうしてたまたま彼を見つけても、それはまだ日常茶飯事な光景なのだけれど……旭日の膝の上でくつろいでいる小さな猫の存在が、霞の目を瞠らせた。

 尾の先のみを白色に染めた真っ黒な猫――絶影。

 いつの間にかこの城内に住みついて、そのくせ誰にも懐かない一匹狼ならぬ一匹猫。そんな触れることはおろか近寄ることさえ不可能である黒猫が、どういうわけか旭日と一緒になって心地よさそうに目を細め、のんびり日向ぼっこを楽しんでいる。

 

「……猫までたらしこむやなんて、流石は旭日っちゅうことか」

 

 華琳を筆頭として、名を挙げ出したらキリがなくなるくらいのたらしように溜め息を吐く霞。旭日自身はまるで気付いていないし、意地っ張りな彼女たちが自覚しているのかも怪しいものだが、旭日に対する態度を見れば彼に惹かれているという自分の考えはまず間違ってないはずだ。

 

「まあ、ウチかて気持ちはわからんでもないけどな」

 

 口は悪いが根は優しく、腕っぷしは強く、笑顔はひどく温かい。皆が旭日に心から惹かれるのは無理もないことで、旭日を心から嫌いになるのは誰だろうと無理な話だ。そういう男女の特別に疎い自分だってふとした時、あの日色を目で追っていたりする。

 しかし、こうして自覚できるまで旭日に惹かれつつあるにも関わらず、霞は他の皆のように積極的に彼の傍らへ寄ろうとすることができずにいた。

 それは自分に魅力がないという思いが大部分を占めているが……それだけじゃなくて。

 

「(多分きっと…………ウチは)」

 

 見たくないのだ。

 旭日が時折浮かべる、寂しげな笑顔を――直視したくない。

 どんなに沢山の人に囲まれていても、どんなに日の照らす明るい場所にいても。まるで沢山の人に囲まれた己を、明るい場所にいる己を責めているような、寂しい笑顔を直視したくなくて――傍に寄るのが、怖かった。

 怖かった、けれど。

 

「………………」

 

 もしも。

 もしも絶影が旭日に懐いている理由が、笑顔に隠された寂しさを見抜き、傍にいることで僅かでも和らげようとしているのなら――

 

「…………………………うん。せやな」

 

 ――ちゃぷんと手の徳利を揺らし、霞は踵を返した。

 神速と謳われる張文遠が猫に後れを取るわけにはいかないと。

 怖さを振り払うある決意を――胸に灯して。

 

 

 

 

 久しぶりの休みを趣味の日向ぼっこで満喫していた旭日は、相伴していた黒猫――絶影が身じろぎしたことに閉じかけていた瞼を開けた。

 

「絶影? どうかし――うおっ」

 

 ひょいといきなり膝から飛び降りたかと思えば、どこか急いだ様子で絶影は茂みの中へ消えていき、完全にその姿が見えなくなった――瞬間。

 

「確かここら辺やったような……あ、よっしゃ! まだおってくれたんやな」

「………………霞?」

 

 綺麗な黒色が消えたほうとは逆の茂みから、がさがさ草木を揺らして現れたのは、何故か沢山の徳利を両手にぶら提げた霞だった。絶影が急にいなくなったのはおそらく、彼女が来ることを敏感に察知したがゆえだろう。どういうわけか自分には懐いてくれているものの、基本的にあの尾だけを白く染めた黒猫は人間嫌いの気があるのだ。

 

「うん? なあ旭日、絶影はどこにおるん?」

「あいつならさっさか逃げちまったよ。……つうか霞、その馬鹿げた量の酒はなんなんだ? どっかで酒宴か何かやってるのか?」

「んー……半分当たり、半分はずれっちゅうとこやね」

 

 そう言って数えきれないほどの酒をどさどさ地面に置き、旭日と顔を突き合わせる形でゆっくり腰を下ろす霞。そして、肩にかけている羽織の袖からおもむろに朱色と日色の盃を取り出し、日色のほうを自分のすぐ目の前へと差し出してきた。

 

「ほい、旭日の分の盃な」

「……こんな真っ昼間から酒盛りかよ」

「なぁに言うとるん。おてんとさんの下で飲むのが最高やんか!」

「確かにそうかもしれねえが……俺はまだ夜に仕事が残って」

「ええからええから! 男がそない細かいこと気にせんと、グイっといき、グイっと」

「…………やれやれだ」

 

 仕事を滞らせれば華琳にしこたまどやされる手前、よくはないし細かいことでもないのだけれど……女性に甘い旭日が美人のお誘いを無碍に断れるはずもなく。差し出された盃を受け取り、注がれた酒をくいっと一気に飲み干す。冷たい液が喉に流れ込み、少しの酸味の後、まろやかな甘さが口の中に広がった。酒豪で有名な霞が持ってきただけあって、あちらの世界のものとはまた違った美味しさのある酒だ。

 

「おーっ! さすがに天の人間は勢いがちゃうな!」

「褒めたって何も出ねえぞ。お前も、薦めてばっかじゃ退屈だろ? 野郎の手酌で悪いが……ほら」

「旭日が注いでくれるんやったら全然かまへんよ。……んっ、おおきにな」

 

 彼女の持つ朱の盃に酒を注げば、にぱりと霞は笑顔を浮かべてそれを傾ける。

 単純に酒が好きなのか、他の理由があるのか――というかそもそも、どうしてこんな事態になっているのか。

 旭日にはわからない。

 相手が霞であるのなら――尚更に。

 

「(本当、なんだってんだ……?)」

 

 正直なところ、旭日は彼女に嫌われているのだとばかり思っていた。

 それは桂花のように極端でこそないけれど、あまり自分の傍へ近寄ってくることはなく、常に一定の遠い距離が感じられた。こんな風に二人きり――それも彼女のほうが誘ってくるなんてこと、今までの自分たちの関係から考えるとありえないはずの事態だ。

 だから――わからない。

 彼女がなんの為に、何を胸に秘めて自分の前にいるのかが。

 

「…………………………あんな、旭日。ウチ……ウチさ、逃げるのはもう、やめにするわ」

 

 やがて、ポツリと零されたのは――決意を感じる、彼女の声。

 

「女としての魅力がウチにはない、とか。旭日は女の子に苦労してへん、とか。そうやって誤魔化すんは、今日でやめにする。同じ場所におっても一緒にいようとせんやったら、おらんのと変わらんし、逃げ以外のなんでもないって……絶影に教えられたわ」

「………………」

「せやからもう、絶対にウチは逃げん。そりゃ、やっぱり直視するんは辛いし、嫌やけど。せやけど、そういうの全部ひっくるめて一緒におるんが、仲間っちゅうことやろ? ウチ、ウチは――旭日と仲間になりたい。華琳の下におるってことじゃなくて、そんな形だけのものじゃなくて、本当の意味での仲間に」

 

 でなきゃ、こうして一緒にお酒も飲めんもんな――と。

 霞は照れ臭そうに笑って、言った。

 結局、彼女が何を伝えようとしていたのか、何を決意したのか、そもそもどうしてこんな事態になっているのか――それは結局、わからずじまいだったけど。

 彼女の笑顔があまりにも綺麗で、あまりにも温かくて。

 

「………………霞」

「うん?」

「次に飲む時は――俺に奢らせろよな」

 

 

 これからも彼女と酒を酌み交わす機会に恵まれるのならば、意図も理由もなんだっていい。

 そう素直に笑うことができた昼下がりの酒宴は、山のようにあった全ての徳利を空っぽにし、日が暮れるまで――続けられた。

 

 

 

 

補足・原作ではあだ名だったり真名だったりと華琳・春蘭・秋蘭の呼称がコロコロ変わる霞ですが、『日天の御遣い』では真名に統一しました。最初からずっとあだ名呼びだった無印の頃とは違い、真恋姫で彼女は最後まで華琳の下にいたことから、真名のほうが親密なのではないかと思いまして。そして絶影(曹操の愛馬)ですが、赤兎馬が犬になっているのなら絶影は猫になってるんじゃないかぁ……という自分の妄想から生まれました。(自分は明命に負けず劣らずの純猫派です)

 

以下、前回のコメントへの返信になります。

 

 

スターダストさま>

 

言われてみれば一刀は間が悪いというのか、キレのある不運っぷりですよね。しかし一刀然り、当麻然り、不幸な主人公ほどモテモテだったりして……やはり旭日は主人公体質ですね……

 

samidareさま>

 

コメントありがとうございます。

原作でも最後は積極的になりましたし、可能性はあるかもしれません。……キャラ一人一人の拠点、書いてみようかな。

 

サラダさま>

 

恋姫たちにとってはあまり喜ばしいことではないでしょうが……主人公に鈍感はつきもので王道です(笑

 

宗茂さま>

 

コメントありがとうございます。

確かに、ちゃんと気配りできるのはモテ要素の一つかもしれませんね。旭日は自分が濡れても傘を相手側に傾けたり、歩調を合わせたり、そういう大人な気遣いができる子だと自分は思ってます。

 


 
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