とある街のなかにある飲食店の一角にて……
「ああ~、腹減ったなぁ」
「まあ、昼時だしな……よし、仕事も終わったし食べに行くか!」
この街で警備兵をしている二人の男が話をしている。
「どうせ、いつものとこだろ?」
「そうだけど……今日はなんかめちゃくちゃ混んでるらしいぞ」
「へぇ~、なんかあんのか? とりあえず行って見るか」
二人は馴染みの店へと歩を進めていった。
…………
「おおっ!! 話は本当だったな!」
「ああ、ビックリだ……」
その男達の言うとおり、店は多くの客で溢れている。
彼等はこの店の常連客であるが、長く通ってきた中でもこの人だかりは初めてである。
「いらっしゃいませ! お二人様ですね、こちらにどうぞ!」
そこに、給仕服を着た女性が男達の前にやってきた。
彼女の背は成人女性よりも頭一つ以上高く、成人男性ほどの高さであるものの、伸ばした銀髪は腰まで伸びている。
整った顔立ちに穏やかな表情を浮かべ、胸は無いものの、整ったボディラインとそれを強調するような衣服も伴って、その姿は男性、女性問わず美しいと認識するだろう。
その姿に二人は頬を染めながらも、ある疑問を口にしていた。
「ん? 見慣れない顔だけど」
「はい。臨時で働かせていただいております。それで、何に致しましょう?」
女性は二人が席に着くのを確認すると、ニコリと柔和な笑顔を浮かべ、二人に注文を促す。
「(き、キレイだ……)俺、炒飯と餃子、それに辣子鶏!」
「(可愛い///)俺は……麻婆茄子と回鍋肉……あと炒飯で!」
二人とも、その笑顔にさらに頬を赤らめ、何か訳あって働いている彼女のためにならと、気付けばいつもより多く注文してしまっていた。
「かしこまりました。店主~! 炒飯2丁、餃子、麻婆茄子、辣子鶏、回鍋肉それぞれ一丁入りました!」
「あいよっ! ……あっちの机の麻婆豆腐と青椒肉絲、あがったよ! 運んどいてくれ!」
「はいっ!」
店の中に活気のある声が響き渡る。その声が店の外にまで響き、さらに客を引き込むことになる。
店から出て行った客の口コミで、一度その女性を見に行こうと新たな客が店に来ていることも一つの要因であるが……
「……お待たせいたしました。麻婆豆腐と青椒肉絲、白米は店主からですので気に為されないでください」
「おっ、おっちゃん! 今日は気前良いなぁ!」
「ああ、なんたって今日は大繁盛してるからねぇ! それもこれもあんたが来てくれたおかげだよ」
店主はその店員の肩をポンとたたき、労いの言葉をかける。
「そんな……俺は普通に働いてるだけですよ?」
店長の言葉に手を振って否定する、その人物こそ、旅に出た『天の御遣い』北郷一刀であった……
尤も、彼自身、まさか女性として見られているとは思っていないが……
………………
彼等が来店してきたのが最も客の混む時間帯だったらしく、一刀はひっきりなしに机の間を駆け回っていた。店主も次々と料理を作るためにひたすら手を動かし続けていた。
それでもあっという間に時間は過ぎて夜になり、店を閉める時間になった……
「はいよ。これが一週間分の給金、今までご苦労だったな」
そういって店主が一刀に手渡したのは巾着袋いっぱいに詰め込まれたお金だった。
「そんな……こんなにもらえないよ」
「なに、気にすんなって。これは今日頑張ってくれたお礼だ」
「おじさん……」
「それに、旅において路銀は命をつなぐ大切なもんだ。これはその餞別も兼ねてるからよ」
「ありがとう、おじさん!このお金は大切に使うよ」
「そうしてくれると嬉しいね。道中気をつけるんだぞ」
店主は一刀の前に手を伸ばし、一刀もそれに応えて、二人は握手を交わす。
一刀は店主にもう一度だけ「ありがとう」と一礼をしていくと店を去っていった。
「ああ、惜しい事したかもな……あいつがいればもっと活気あふれる店になってたかもしれないのに……」
一刀が去った後で店主のほんの少しだけ後悔した声が店の中に響いていた。
「ん~、この街ではいい経験が出来たかな」
店を去った一刀は街の中心部を歩いていた。その顔は非常に充実したものになっている。
理想をかなえようと共に誓い合った仲間の為、見聞を広める旅を始めてから、はや一ヶ月……一刀は様々な経験をしてきた。
前に桃香たち4人で旅をしていたときもあったが、いざ一人で旅を始めてみると、至らないこともたくさんあった。しかし、そこは同じように旅をしている人や、行商をしている商人から、旅の助言をもらって、案外順調に過ごせていた。
何故そこまでしてもらえるのか……彼自身は気付いていなかったが、その人当りの良さや彼自身が醸し出す暖かい雰囲気に好感を持たれ、いろいろと構ってもらえるのだった。
また、一刀はただ見聞を広めていただけではない。旅人や商人、または街の人から聞いたさまざまな情報を基にこの大陸の情勢・システムを理解し、自分が住んでいた世界、ここでいえば天の世界での知識を彼なりに応用してみようと画策していた。
そのため何らかのアイディアが生まれると、ついつい足を止めて思案に耽ることがよくあった。ちなみに今も道路で突っ立ったままである。
「治水はこうした方が良いかもな……それに警備も一箇所に集まって効率が悪いから……商いもただ闇雲に並べるんじゃなくて……」
「あの……」
「そうだな……やっぱりこの時代だと紙は貴重だから、紙すきの技術が完成できれば……」
「あの、聞こえてますか?」
すでに彼の中ではどんどん政策のアイディアが生まれているらしい。前から声をかけられても気付かない程だから相当である。
「あのっ!」
「わぁっ!?」
ついに我慢できなくなったのか後ろにいた人物はついつい声を張り上げてしまう。
しかし、それが良くなかった……。その声に一刀が驚いただけでなく周りにいた人たちにまで聞こえる結果になってしまい、皆が二人に注目し始める。
「なんだなんだ?どうしたんだ?」
「うわ~どっちもきれいな顔してんな」
周りから聞こえる声と視線に、その人物、もとい女性は見る見るうちに顔を赤くして、
「あ、あの……「ご、ごめんなさいっ!失礼しますっ!」ちょっ、待って!」
一刀が声をかけると同時に、彼女は腰が折れるのではないかというほど深々と礼をして去っていってしまった。
そして、その場にはなにがなんだか分からないまま立ち尽くす一刀と、様々な妄想を張り巡らす人達だけが残されていた。
「なんだったんだ?……ん? これは……」
一刀は先の原因を考えようとしてふと視線を下に向けると、地面に光る何かを見つけた。
「これは、髪飾り? さっきの娘のかな……」
それは花柄のワンポイントが可愛らしい、髪飾りであった。
「さっきのことも気になるし……あの娘を探しに行くか。とりあえず……」
一刀は気を取り直して歩き出した。少女との邂逅は近い……
~~side ??~~
「はぁ~」
私は大きなため息をついていた。でも、それも無理はない。あんな恥ずかしいことは無い……
「どうしたの桜花ちゃん?」
「奏か……実はな……」
私に声をかけてくれる女性、彼女は私の子供の頃からの友人の奏だ。私は彼女にこれまでの経緯を話した……
「それじゃ桜花ちゃんはその人に何も言えないままここに来ちゃったって事~?!」
「……(コクン)」
「いくら恥ずかしかったからって、それは良くなかったね~」
「面目ない……」
「でもでも、その話だとやっぱりその人が天の御遣い様に間違いないんだよね?」
「ああ、外套を着ていたから服は分からなかったけど、髪は銀色で腰まで伸びていたし、珍しい武器も持っていた。何より綺麗だったし……///」
でも、なんだろうこの感覚は? 綺麗というだけでは片付けられない何かがあるような……
「あ~、もしかして桜花ちゃん御遣い様に惚れちゃった?」
「なあっ!?な、何言ってるんだ奏!」
「だって~、桜花ちゃん顔がにやけてたし」
「そ、そんなことはない!」
「いいな~私も御遣い様に会いたいな~」
奏は気楽でいいな……私は恥ずかしくて顔から火が出そうなのに……
「きゃあ~!!強盗だ~!!」
「人質を取ってるぞ!」
「「!!」」
「桜花ちゃん!」
「ああ、分かってる!行くぞ奏!」
「うんっ!」
―――――……
私達が声のするほうへ駆けつけると、強盗―黄巾党であろう黄色い布を巻いた連中を取り囲むように、人だかりが出来ていた。
「こいつを殺されたくなかったらおとなしく俺達の要求を聞いてもらおうか!」
そのなかでも、頭目と思われる男が人質となった女性を指差す……って
「舞!?」
「!!……その声は桜花ちゃん!? どこにいるの!?」
「前へ出るぞ、奏!」
「えっ? どうしたの桜花ちゃん? って舞ちゃん!?」
私と奏は人ごみを掻き分けて前に出る。やはり人質になっていたのは舞であった……首筋には剣があてられていて、何か不穏な動きがあればすぐにでも舞を斬り殺すつもりなのだろう……
「桜花ちゃん、それに奏ちゃんも……」
私達を見つけた舞の顔は一瞬明るくなったが、すぐに悲しみの表情へと戻ってしまった。
「オウオウ、お仲間の登場ってか! 友情ってのは素晴らしいねぇ……じゃあ、このお友達が殺されたくなかったら、金を用意してもらおうか!」
「クッ、下衆が……」
「そんな顔すんなよ、綺麗な顔が台無しだぜぇ。何なら一緒に来るか? 俺たちとイイこと出来るぜぇ」
ゲヘヘと下卑た笑みを浮かべる黄巾賊……虫唾が走る。しかし、舞がいる手前手出しが出来ない。どうしたら……
「桜花ちゃん、奏ちゃん、私のことはいいから……」
「!? そんな事出来る訳無い! 私達、友達だろう……お前を見捨てることなんて出来ないよ」
「桜花ちゃんの言うとおり! そんなに自分を責めちゃ駄目だよ、舞ちゃん」
「二人とも……ヒグッ、グスッ、ありがとう」
私の言葉に助けられたのだろうか? 舞は泣きだしてしまったが、幾分か表情に安堵が見られるようになっていた……良かった……
しかし、そのやり取りを見ていた頭目は地面につばを吐いて、
「ケッ、反吐が出る。お前らに何が出来るってんだ……そんなにこいつのことが大事なら助けてみな! おいっ!」
「りょ~かい。へへっ、嬢ちゃん、悪く思うなよ」
「キャッ!」
頭目が舞を捉えている男に指示を出すと、男は舞を地面に突き飛ばし、先ほどまで首筋に当てていた剣を舞いめがけて振り下ろしていた。
「「なっ!?」」
あまりに急なことに私も奏も対応することが出来なかった。
それでも私はいち早く体勢を立て直し、男のもとへと駆け出していたが、すでに盗賊の凶刃は舞のすぐ頭の上にまで差し掛かっていて……
もう駄目だ……と思ったそのとき、私の隣に一筋の風が流れた……
「うそっ……」
これは奏の声である。これは私も同じ気持ちであるが……
激しい金属音と共に、男は吹き飛ばされていた。
もちろん何もなしに吹き飛ばされる筈は無い。
突然目の前に現れた人物が瞬時のうちに剣を抜き男ごと吹き飛ばしたのだ……
忘れることの出来ない、その姿……
「御遣い様……」
~~side out~~
「俺はこの大陸に平和をもたらさんと天より舞い降りた、『天の御遣い』北郷一刀! これ以上この人やこの街を危険にさらすというのなら容赦はしない!」
一刀は黄巾賊に向かって名乗りを上げた。『天の御遣い』という名で引いてくれるなら、そのほうが助かったのだが……
「ほぉ、お前が噂の『天の御遣い』か……こりゃ、いい獲物だぜ! こいつを殺れば一躍俺達は有名人だ! 行くぞ!」
「「「おおぉ!!」」」
相手は獣に成り下がった者たち、そう上手くはいかず、黄巾賊は一刀に向かって斬りかかってきた。
―――……しかし
「……はっ!」
「グハッ!」
最後の一人が一刀の蹴りを腹にもろに喰らい、吹き飛ばされていく……
黄巾賊は数えても十数人はいたはずだったが、一刀の相手になどなる筈無く、逆に返り討ちにあい、皆ボロボロの状態である。
「……まだ来るか?」
「ま、参った。だから許してくれぇ!」
「なら、黄巾党を辞めると誓え。さもないと……」
一刀は殺気をこめて黄巾賊を見つめる。それだけで、周囲の温度がすうぅっと下がったような感覚だった。
「ひぃぃい!! わ、分かりやした! 俺達、足を洗いますから、ど、どうか命だけは……」
「……分かった。なら一刻も早くここから立ち去れ……」
そう言い放つと、一刀は黄巾党に背を向けた。それを見た頭目がニヤァッと笑みを浮かべ、近くに落ちていた剣を取る。
「ああ……だが、お前を殺してからなぁ!」
そのまま頭目は一刀に斬りかかった。周りからは悲鳴まで聞こえる。彼は殺った! と確信したが、
「……そこまで堕ちたか」
不意に背後から声がしたかと思えば、次の瞬間には頭目の胸からは刀が突きだしていた。
「は?! ……どう……して、そこに……」
それは、一瞬のうちに背後に回りこんで繰り出した、対の日本刀の一振り『白心』の一撃であった……
一刀が彼の胸から刀を抜くと、頭目は大量の血を流しながらそのまま絶命し、残りの黄巾賊も一刀を恐れるように逃げていった。
これを見ていた街の人々は歓声を上げる。しかし、当の一刀はやるせない表情を浮かべていた。
「出来ることならば、殺さずに済ましたかった……」
ギリッと歯を食いしばる一刀。
黄巾党は多くの民を苦しめ命を奪ってきた。だから倒さなければならない敵である……そう割り切ってきたつもりだったが、やはり命を奪うことに対して後悔の念が消えることは無かった。
「……あ、あの、ありがとうございました」
と、不意に背後から声が聞こえてきた。振り返ると、そこには人質になっていた少女がたっていた。
「気にしないで。それよりも怪我とかしてない?」
一刀は彼女を心配させないようにいつもの笑顔で応える。しかし彼女の顔は未だすぐれない……が、それは当然であろう。彼は目の前で人を殺したのだ。それを目の前で見ていて普通でいられるはずがない。
「はい……大丈夫です」
その少女は未だ止まぬ民達の歓声にかき消されてしまいそうなほどの小さな声で答えた。そんな彼女を見て一刀は、慈愛に満ちた表情で彼女の頭を撫でた。
「あっ……」
「大丈夫。怖かったよね。でも、もう大丈夫だから安心していいんだよ」
「///はい……」
一刀の声に短く応えると、彼女は緊張の糸が切れたのか、そのまま一刀に凭れ掛かるようにして意識を手放した。だが、その顔は先ほどまでのこわばった表情とは違い、とても穏やかな表情になっていた。
その表情を見た一刀も、改めて自分を奮い立たせた。この少女が笑顔を取り戻したように、今も苦しんでいる大陸の人たちの笑顔を取り戻すために戦おうと……
そうしていると、自分のもとに向かってくる二つの人影が見えた。一刀はそのうちの一人に見覚えがあった。
「あ、君はさっきの……」
それは先ほど出会った少女――桜花であった。
「///はい、先ほどは失礼いたしました」
「いや、俺のほうこそ君が話しかけていたのに気付かなくてゴメンね」
一刀はあの後周りにいた人たちに彼女がどうして逃げるように去っていったのか聞いていた。あらぬ誤解もあったが、様子を聞いた一刀はどうしても会って謝らなくてはと思っていた。まさかここで出会うとは思ってもいなかったが……
「いえ、私のほうこそ、突然何も言わずに去ってしまい申し訳ありません」
「いや、多分俺でもそうしただろうから気にしなくてもいいよ。っと、それよりもこれ、君のだよね」
そういって一刀は髪飾りを桜花に渡す。
「!! ……ありがとうございます」
桜花は慌てて髪の毛に手を当てて、それが無いのを確認すると、バツが悪そうにそれを受け取った。
「……さて、俺はもう行くよ。この娘のこと、大切にね」
「お待ち下さいっ! その……御遣い様にお話があります。私の家まで来ていただけないでしょうか?」
「私からもお願いします!」
そこで初めてもう一人の少女――奏も声を上げてお願いをする。
一刀は彼女達の真剣な表情を見て、何か伝えるべきことがあるのだろうと思い、それを了解する。
一刀と3人の出会いが何をもたらすのか? そして彼女達は何者なのか…… それは今は誰にも分からない……
あとがきという名の言い訳
いや、最後のほうは何書いてるか分かりませんでしたね。
どうオチを持っていったらいいのかアイディアが出なかったので無理やり終わらせました。あしからず……
読んでくださっている皆さんに待たせるのも申し訳無く思い、とりあえず導入部分のみ掲載しました。
そのまま続きも掲載したいと思ったのですが、私のほうもレポートやらレポートやらで今週は忙しいため更新は来週になるかと思います。
それまで、あれ?なんて思う箇所もあるかと思いますがそこは長い目で見てくださるとありがたいです。
では次話でお会いしましょう。
おまけ
「むっ?」
「どうしたのだ?」
「今、不思議な感覚が……」
「どうしたの愛紗ちゃん?」
「ご主人様が、旗を立てた気がする」
「旗? 愛紗は何を言ってるのだ?」
「さ~? 私もわかんない」
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久しぶりの更新です。今回は導入です。
(ちなみに序盤にあまり意味はありません……)