〝刀〟
西涼襲撃一日前。
〝徐州〟
―――――ポンポン。
「・・・・・・・・」
打粉で刀身を軽く叩いてっと。粉を刀身の両面に満遍なく付けてっと。
拭い紙でその白い粉を拭いてっと。最後に軽く下から上に向かって刀に油を塗って・・・。
「・・・・・よし」
最後の一本の手入れが終わり、鞘に収める。
「ふぅ、最近忙しくて刀の手入れやってなかったから、久々にやるとすっきりするなぁ」
さっき愛紗たち武人連中と軽く汗をながすために鍛錬をしたあと、刀の手入れのことを思い出し、現在に至る。
軽くやっただけなのですべてはわからないが、愛紗たちも日々どんどんと強くなっていっているのがわかる。
「・・・あれ?打粉が切れかかってる」
道具をバッグにしまっているところで気づく。
大切な刀を手入れする道具だ。きちんと揃えておきたいなぁ・・・。と考え、俺は街に出ることにした。
以前、この徐州は鉄や銅などが産出することができると朱里が言っていた。
だから街にも武器や防具を取り扱っているところがあり、打粉もあるんじゃないかと。
「確か朱里の話だとこの辺に・・・・あ、あった」
看板はちゃらがき見たいのでよく読めないが。
「ごめんくださーい!」
中に入ってみるとあたりまえに武器がたくさんあった。
奥の方を少し覗くと鍛冶屋みたいな道具があった。どうやら武器も作っているみたいだ。
「・・・いらっしゃい」
そうして待っていると奥からいかにも職人です、みたいな格好したおじいさんが出てきた。
「あの、打粉ってありますか?あったら売ってほしいんですけど」
「・・・・・・」
おじいさんは無言で俺を上から下へ値踏みするように見る。
「・・・ふーん。・・・!」
とそこでおじいさんは俺の腰に差してある刀を凝視する。
「お前さん、ちょっとそいつを見せてくれんか?」
「え?・・・これか?」
刀を腰から鞘ごと抜き、和道を渡す。ちなみに街に出るだけなので刀はこれ一本しか持ってきてはいない。
「・・・・・おお。これは・・・」
鞘から刀身を抜き、じっくりと見るおじいさん。刀身にはおじいさんの顔がくっきりとうつっている。
さっき手入れしたばかりだから恥ずかしくなく見せられる。・・・手入れしていてよかったぁ。
「ふむ・・・いい剣じゃ。こんなに細いのにしっかりしておる」
「・・・・・」
ちょっといい気分になる。剣をわかっている人に褒められるとなんかうれしいな。・・・俺が作ったわけじゃないけど。
「最近はあまりいい剣を作れなくてなぁ。しかし、この剣をみていい刺激になった。・・・ありがとう」
「いえ。それよりも打粉なんですが・・・」
「ああ。そうじゃったな。・・・金はいらんからもっていけ」
「え!?いや、そういうわけには・・・」
「いいからいいから。お前さんのおかげでいい作品が作れそうなんじゃ。・・・これはほんのお礼じゃ」
そういっておじいさんは俺の手に打粉を渡してくれる。
「・・・ありがとうございます」
俺は断るのも失礼な気がして、素直にもらうことにする。
「・・・・ふーむ」
「・・・?どうしたんですか」
「いや、その剣を見て思い出したんだが・・・・。確かその剣に似たような奴をワシも持っていたような・・・」
へぇー、それは少し興味あるな。この世界に日本刀に似た刀があるなんて。
「それって見せてもらうことできますか?」
「それはかまわんのじゃが・・・。どこにしまったのか覚えてないんじゃ。何せ昔のことなうえ」
「・・・そうですか」
少し残念だがどこにしまってあるかわからないなら、今すぐ見れることもできないな。
「なら、思い出したときでいいんで、見つけたら教えてください」
「ああ、すまんのぅ。きっと思い出すから」
「はい。それじゃ、失礼します」
俺は扉のほうに歩いていく。がそのときに、
「・・・・・・・」
武器が山ほど立てかけられてある方が気になった。
「ん?どうしたんじゃ?」
「い、いえ。急にあそこの武器ら辺が気になって・・・。ちょっと見ていってもいいですか?」
「かまわんよ。ワシは奥にいるから終わったら声を掛けておくれ」
俺はそれに返事すると気になった武器のほうへと歩き出す。
なんだろ・・・?なんか・・・ここら辺から・・・・。――――――!。
ガサガサと探していると、立てかけられてある奥の方に一本だけ鞘が木で出来た、形状が日本刀に似た刀があった。
「おじいさんの言っていたのってこれじゃないのか・・・?」
それに手を伸ばし掴むと、俺は一瞬背筋に寒気が奔る。
「な、なんだ?今の感覚・・・」
手に持った刀をじっと見る。そして抜こうとするが、
「・・・抜けない?」
どんなに力を込めてもぜんぜん抜ける気配がない。
「んーーーーー!!っ!・・・だめだ」
しばらく試すがやっぱりダメなので、おじいさんに聞いてみることにした。
「おじいさん、これじゃない?さっき言っていた剣って」
店の奥のほうで次なる作品を作ろうと考えていたおじいさんに声を掛ける。
まだ始めたばかりだったのか、すぐに振り向いてくれる。
「おお。それじゃそれじゃ。どこにあったのじゃ?」
「えっと、あそこの剣の山に」
指で見つけたところを指す。
「そうか。あんなところにあったのか。・・・それにしてもお前さん、これがよくあそこにあると気づいたな」
「そうだよなぁ。俺も何でかあそこが気になっただけで・・・。まさか本当にあるとは」
「・・・気になってか。・・・・ふむ」
おじいさんは手を顎にあて、何か考えている。
「あ、それとこれさ。ぜんぜん抜けないんだけど」
「・・・ん?」
俺は目の前で鞘から刀身を抜こうと頑張るがやっぱりさっきと同じでぜんぜんだった。
「・・・な?」
「抜けない剣、かぁ・・・。・・・おお!思い出した」
「・・・?」
「それは妖刀じゃ。昔ワシの知り合いにすごい刀工がおっての。そやつが作った剣がそれなんじゃ。そやつはとても剣が好きでの。年がら年中、剣のことを考えていた」
「・・・・・」
俺は黙ってその話を聞く。
「そやつがある日、凄くいい鉄があると山に探しにいったんじゃが、そやつは一月経っても帰ってこなかった」
「ワシは心配になって様子を見に行ったんじゃが、そやつは洞窟の中で死んでいた・・・。傍にその剣があっただけで、他には何もなかった」
「何で死んだのか気になったワシじゃが、その時はそやつの死体の不思議さに恐怖して逃げだ出したんじゃ」
「・・・不思議?」
「うむ。そやつの死体はあり得んほどの斬り傷が体中になったにも拘らず、血が一滴も地面になかったんじゃ」
「え?」
確かにそれはおかしい。
「ワシはしばらく眠れぬ夜を過ごしていた。そんなある日のことじゃ。その剣を再び見ることになるのは」
ここからは、俺が聞いた話を簡単に説明する。
おじいさんはいつもの通り店を開いているとそこに客が来たらしい。しかもその客の腰にはその妖刀がぶら下がっていた。
おじいさんはあのことを思い出しながらも、客に聞いた。
「その剣はどうしたんだ?」
「ああ。これか。とある洞窟に落ちていた。あまりにいい剣だったんで拾ってきてしまった」
客はすぐに帰ったが、おじいさんはあの剣が気になってその客の後をつけた。
客は誰も人目につかないところまで行くと、信じられない行動をする。
目にしたものは、自分で自分の体を斬り刻んでいる客がいた。
おじいさんは止めに入ったそうだが、簡単に振りほどかれた。
客は完全に目が逝っていたらしい。斬ったところからは血が出ず、まるで剣が吸っているようにみえたそうだ。
しばらく客がそうしているのを黙ってみていることしか出来ないおじいさん。恐怖で体が動かない。
そして客はおじいさんの知り合いと同じような死に方だった。
「・・・・っと、そんな感じだったかの」
「・・・・・・」
話を聞いているだけで、怖くなっていく俺が居た。
手には話しに出てきていた、よ、妖刀が・・・・。
「同じ犠牲者を出さないために、ワシが抜けないようにして保存しておいたんじゃ。こんな剣でもあやつの最後の作品じゃからのぅ」
「・・・そ、そうなんですか」
「しかし、その剣をお前さんが見つけるとはのぅ。これもなにかの縁じゃ。どうかなそいつを貰ってはくれんかのぅ」
「・・・え、え、遠慮しておきます!?」
「・・・そうか。残念じゃ。この剣もこんな妖刀に生まれてこなければ、もっと大事にされておったのにのぅ」
なんですか!?その目は!?
「・・・ああ。残念じゃ。お前さんならこの剣をしっかりと使ってくれると思ったんじゃが」
・・・・・・・・。
「・・・ああ。残念じゃ」
「・・・・わ、わかりましたよ!貰ってきますから、そんな目で見ないでください!」
その瞬間――――。
―――――――ドクン。
とおれの手の中で鼓動が聞こえた気がした。そこには見た目は普通の刀。鞘は木で出来てある仕込み刀みたいな刀があるだけだった。
「今・・・・。・・・いや、気のせいか」
「その剣大切にしてやってくれ・・・」
「・・・善処します」
こうして、俺の刀が一本増えた、今日一日だった。・・・妖刀だけど。
〝???〟
「さて、そろそろ、私も徐州に攻めるとするか」
徐州にもすぐそこまで、五胡の魔の手が迫ってきていた。
〝袁術?の進行〟
次の日。
自室で昨日手に入れた妖刀をじっと見ながら考える。
おじいさんは大切にしてくれと言ったけれど、正直な話今すぐにでも手放したい気分・・・。
持ち主が自分で自分の体を切り刻み血を吸う刀。そんな話をおじいさんはしていたけれど、俺もいつか自分で切り刻んでしまうのだろうか?
そんな自分の姿を想像してみる。・・・・・・・・。
やべ、まじで洒落にならないんですけど・・・。見た目はどこにでもあるような刀なのになぁ。
いつまでも見てるだけでは進展しないので手に取って鞘から刀身を抜こうとする。
「・・・・・・・あれ?」
いくら引っ張っても全然抜けない。
・・・・・・あ。そういえば抜けなくしてあるんだった。う~ん・・・、おじいさんが若い頃に抜けなくしてそのままってことは、抜けたとしても使い物にならないんじゃないか?
ふとそんな疑問が頭を過ぎった。まぁでも一応抜けるようにしてもらうためにおじいさんのところに行ってみるか。
出かける仕度をしてドアに手を掛けようとしたとき、
「ご主人様ーーーーっ!」
と朱里が廊下で大声をあげながら、こちらに向かってきた。
「どうしたんだ?そんなに大声を上げて」
「大変ですっ!袁術軍がこの徐州に攻めて来ました!」
「何っ!?数は?」
「具体的な数はわかりませんけれど、かなりの規模だそうです。後、みなさん軍儀室にいらっしゃるのでご主人様も来てください」
「ああ、わかった。すぐにいく」
すぐに出陣だろうから刀を三本とり、さっきまで持っていた妖刀を部屋においていく。
〝幻蜘蛛の絡新〟
「・・・拍子ぬけなぐらい簡単に操れたわね。裏があるんじゃないかと疑えるほどに」
隣に軍全員を操るために媒介にしている袁術を傍におきながら、考える。
「(ま、裏がないのはここ数日見ていたらわかるんだけど。)」
絡新は数日の間、袁術を操るためにひそかに観察していたのだった。
「茅需のほうもうまくやっているってさっき連絡あったし、袁家っていうのは操りやすい人間が多いのね」
少し呆れながら袁術を見る。目に生気はなく、完全に操れていると絡新は確信する。
「さてと、天の御遣いの実力確かめにいこうかしらね」
〝一刀〟
軍儀室に着いた俺が最初に聞いた声は、
「袁術め、宣戦布告もせず奇襲をしかけてくるとはっ!」
愛紗の怒り声だった。
「国境の警備隊を突破され猛烈な勢いで進行中。州都に到着するのは時間の問題、か」
「すぐに迎撃するのだ」
「うーん・・・」
「どうしたの、ご主人様?」
「いや、なんか・・・。雛里、近隣の諸侯に援軍を頼むのって可能かな?」
「それはやめておいた方がいいと思います。この状況では下手をすれば袁術さんたちに合流される可能性もありますから」
「・・・そうか。うーん・・・」
「なぁに。袁術軍など、さして強敵ではないでしょう。我等だけで充分事足りる」
そう言われればそう思うだけど、なんか嫌な予感がさっきからするんだよなぁ・・・。気のせいならいいんだけど。
「大丈夫だよご主人様。私達は絶対に袁術さんになんか負けないよ」
桃香が両手に握り拳をしながら俺の目を見て言う。
その力強い瞳は俺の心配など杞憂だと思わせるほどだった。
「そうだな。その意気で行こう。・・・じゃあみんな。出陣準備よろしく」
「私たちは輜重の準備をしてきます」
「なら、こっちは兵たちの準備をしてくる」
などなど、各自が自分の役割をこなすために移動する。
そして―――――――――――・・・。
「朱里、状況はどんな感じ?」
「はい。斥候さんの報告では敵兵力は約五万ほど。それに対してこちらは約四万。後は、なにやら袁術軍の様子が少し変だそうです」
「変とはどういうことか?」
「斥候さんも少しの違和感を感じただけで、何が変かと問われてもと言いあぐねていましたら。・・・すいません、こんな曖昧な返事で」
「いや、朱里のせいでもなんでもないよ。・・・お疲れ様って斥候の人にも伝えておいて」
「はい」
さて、違和感か・・・。その違和感は俺が感じていた嫌な予感と合わさなければいいが。
「ご主人様、どうする?」
「そうだな・・・。とりあえずその変な違和感のことは置いておこう。あまり意識して動きを乱すのも馬鹿らしいから」
「お兄ちゃんの言うとおりなのだ。あんまり深く考えると頭がこんがらがるからやめるのだ」
「はは、鈴々らしい答えだ。うむ。我が方より多い敵の軍勢を、どうやって撃退するか」
「そうだな。・・・雛里。敵との会敵予想地点はどの辺りになる?」
「ここより東方、東海地方曲陽辺りかと」
「曲陽・・・って、張角さんが死んだって場所だっけ。でもあそこってすごく東じゃない?なんでまたそんなところから来たんだろう?」
張角という名に少し反応してしまう。そういえばみんなは天和が生きていることは知らないんだったな。
「私達が本拠おく彭城。曲陽はその裏口ですから」
「あ、なるほど。奇襲するためにそこから・・・って言っても遠すぎるよな」
「なにかある・・・とみて間違いはないだろう」
奇襲を掛けてきた割には動きが鈍重。相手の動きが読めないなぁ・・・。
「何かしらの策があるんだと思います。用心しておいたほうがいいかと」
「そうだね。いつでも対応できるように曲陽に向かおう」
「・・・大丈夫。みんな、恋が守る」
「さすがは飛将軍。頼もしい奴だ」
「鈴々だって負けないのだ」
「それじゃあみんな移動開始ー!」
と桃香が手をパンパンと叩いて合図する。
「(桃香が最後しめるとなんか和むなぁ)」
などと思いながら歩き始める。
〝幻蜘蛛の絡新〟
「あの動き方・・・。まだこちらの策には気づいていないようだな」
だが、何かあるかもしれないと警戒しながら近づいてくるのがわかる。
「けど、いくら警戒しながら近づこうとも、もう私の策の中だとは誰も気づかない」
相手はここまで何もなかったと思っているかもしれないが、それは油断しすぎている。
私の指先から出る細極糸。これは肉眼では決して見えない糸。この糸を私はあいつ等の通ってくるであろう道に張り巡らせてある。
つまりいつの間にかあいつ等の体は糸まみれになっているということ。
細極糸は一本ではたやすく切れてしまうが、何百にも重なると鋼鉄の強度になり、決して切れることのない鋼の糸になる。
「ふふ、そろそろ自分の体が動かしにくいと気づく奴も出てくるかも知れないが、もう遅すぎる」
砂塵はもう目の前まで来ていた。
「それでは、料理開始と行こう」
〝一刀〟
もう目の前には袁術軍の兵士たちがいる。
だが、様子が変だ。まるで生気をかんじない。
それに、
「・・・・・??」
違和感は歩くごとに増していた。だがなんでこんなに体が動かしにくいかと思っても深く考えずここまで来てしまったのは失敗だったと後で気づかされる。
愛紗たちも自分の体が何か変だと感じていたようだが、微々たるものだったのであまり気にせずここまで行軍してきた。
だが、その違和感が瞬間的にわかることになる。
「なっ!?」
それは突然だった。あまりの出来事に全員が驚く。自分の体がまったく動かなくなってしまったのだ。
「これは、一体!?」
「うーん!動けないのだ!」
「・・・・・・・・・・うう」
「な、なんでこんな・・・!」
とみんなも俺と同じような状況だった。そんなとき、
「ごきげんよう、みなさん」
声のするほうに顔をむけるとそこには見たことのない、人?が立っていた。
見た目は三十そこそこ。髪は紫色で長さは桃香とどっこいだ。顔は泣きホクロがあり、はっきり言って美人だ。
しかし・・・。なんだろ。この異様な感じは・・・。この人はヤバイと俺の直感がいっている。
「貴様何者だ?・・・いや、この質問は愚問だったな。この状況で我らの前に来たということは」
「そう。あなた達が動けないのは私の仕業って事」
「・・・・・・お前、人じゃない」
「あら?一発で人じゃないなんて言われたのはあなたが初めてよ」
どうやら恋もこの人のことを只ならぬ人物と感じているんだろう。
「人ではないとはどういうことですか、恋殿」
「こういうことよ、お嬢ちゃん。・・・・ハアアアアアッ!」
―――――バキ、グチャ、ボキ・・・。
「い!?」
「な、ななな」
「うそ、こんなことが・・・!」
「ふぅ・・・。やっぱり戻るときは気持ち良いわね」
そこに立っていたのはさっきまでの紫髪の美人ではなく、手が六本の・・・・化け物だった。
「自己紹介がまだだったわね。私に名前は絡新。幻蜘蛛の絡新よ」
幻蜘蛛の絡新・・・。名前に蜘蛛がついてるところを見るとっていうか、見た目で蜘蛛だとわかるが、本当にこんな奴が世にいるなんて。
「これは親切に。それではこちらも名乗ろう、私は」
「知っているからいいわ。あなた、趙雲でしょ?あなた達のことは調べてあるから」
「ほほう、我らのことを調べたとな。それは如何様な理由で?」
「戦いを仕掛ける相手を調べるなんて当然のことじゃない」
「しかし、あなたは見たところ人間ではない。ならなぜ我らに戦いを仕掛ける?」
「それをあなたに言う理由はないわ」
「だろうな。しかし、一度気になると知りたくなってしまう性分なのでな。避ければ冥土の土産に教えてくれぬか?」
「なに?あなた、もう諦めてるの?」
「この状況では仕方あるまい。こちらは動けない。しかしそちらは後ろに袁術の大軍。どう勝ち目があると?」
その瞬間俺は星のアイコンタクトを受け取った。時間を稼ぐから主がなんとかしてくだされ、と。
確かに口の達者な星なら長くとまではいかないが、ある程度なら・・・。
わかったとこちらもアイコンタクトで返事をする。その間、一秒。
「後ろの袁術軍。生気を感じないが、それも絡新がなにかしたのか?」
「あなた、これから死ぬというのによくそんなに質問できるわね」
「死ぬからこそ、疑問を残さぬ死にたいのだ」
「ふーん・・・。後ろの兵士たちは恐怖で顔が真っ青だというのに。あなた、変よ」
「(恋、この動けないのなんとかできるか?)」
「《フルフル》(さっきから動こうとしているけど・・・・、無理だった)」
「(そうか・・・。どうしたらいいんだ?)」
感覚で何かに縛られているような感じはするが体のどこを見ても何も付いていない。
「絡新、奇襲を仕掛けたのに動きが鈍重だったのはなぜだ?」
「これが最後の答えよ。それは仕掛けを施すため」
「仕掛け?」
「そ。あなた達を動けなくする仕掛け。あなた達には肉眼では決して見えない糸が絡み付いているのよ。それをここまでの道に仕掛けてたから動きが遅くなったってわけ。その糸は何百にも束ねると絶対に逃げ出せない鋼の鎖になる。・・・これでいいかしら?」
「(星、さすが。・・・なるほど糸ね。なら・・・)」
「それじゃあ、そろそろ逝こうかしら?」
「くっ!鈴々、どうだ!?」
「ダメなのだ!全然動けないのだ!」
「朱里ちゃん、大丈夫?」
「私は大丈夫だけど。・・・桃香さま」
「ん?なに、朱里ちゃん」
「軍師なのに相手の策を見抜けなくて申し訳ありません・・・」
「それは朱里ちゃんの所為じゃないよ。こんなこと誰にも予測できないよ」
「で、でもですね・・・!」
「それに今ご主人様が何とかしてくれるから大丈夫。そんな悲しそうな顔しないで」
「桃香さま・・・」
「(ご主人様、いつもあなたに頼ってばかりだけど。お願い、あなたの暖かな力でみんなを守ってください)」
「全軍―――――。突撃ぃぃぃぃ!」
袁術軍に戻っていった絡新は合図を出す。その信号は袁術を媒介にし一気に全軍にいきわたり、
「うぉぉぉぉぉぉぉ!」
さっきまで動かなかった兵士たちは電源が入った機械のように動き出す。
「来たっ!・・・主っ!」
「もう少しだ、あと―――――」
「もう限界なのですっ!」
「くっ!」
俺が糸から脱出するのにこまねいている間にも抜刀した兵士たちはどんどんと近づいてくる。
「ご主人様っ!」
「〝天の――――〟」
その声の後に聞こえてきたのは刃物が肉を切り裂くような鈍い音だった。
〝幻蜘蛛の絡新〟
〝幻蜘蛛の絡新〟
「さて、ここから高みの見物といくか」
私は袁術軍の後方へと下がり、突撃の合図を出す。
相手は動こうとしているが、ピクリとも動いていない。
「(もう一つの策もそろそろ始めようかしら)」
今突撃の信号を出している手とは違う手でさらに兵達を動かす。
「気づいたときには城が落ちていたってね、ふふ」
そろそろ悲鳴が聞こえてくるであろうことを心待ちにしながら私は笑う。
だが、聞こえてきたのは予想とはちがうものだった。
「――――!?」
それは近くに雷が落ちたような雷鳴のような音。その音のするところに眼を向けるとそこには、体が淡い蒼白く光り、時々その周りに蒼白い放電がはしっている、
「天の御遣い・・・!」
が立っていた。
〝一刀〟
「ふぅ、なんとか間に合ったな・・・」
とりあえず今の攻撃でみんなが傷ついていないことに安堵する。
「ご主人様、それ・・・」
「ああ、連合の時に使った技だ。そうか、桃香は近くで見るの初めてだったな」
「それはいいとしても、お前、どうやって動けたのですか?」
「それはな・・・」
「ウオオオオォォォッ!!」
「っと、その話はまた後でだ。まずはこいつ等を倒さなくちゃな」
腰に差してある刀に手を伸ばし、鞘から抜く。
「(無理やり戦わされている人たちを斬るのは、嫌な気分だが・・・。)」
チラッと後ろにいる俺たちの兵士たちを見る。
「(俺は仲間を守らなくちゃいけないんだ・・・!)」
「一世三十六煩悩・・・。ニ世七十二煩悩・・・。三世・・・、百八煩悩。三刀流・・・!〝百八煩悩鳳〟!」
〝羽衣〟の状態での飛ぶ斬撃は前方に螺旋状に飛んでいき、雷の属性が付いているため威力は普通の百八煩悩鳳とは比べ物にならない。
「――――――――」
前方にいた敵兵士達は言葉にもならない悲鳴を上げながら、吹き飛んでいく。
「あわわ・・・!人が飛んでいますぅ・・・!」
「主!」
「ああ、わかってる」
俺は星に近づき、体に触れる。すると、ブチブチと糸が切れる音が聞こえてくる。
「ありがとうございます、主」
「とりあえず愛紗たちを動けるようにしてくる。兵士達はさすがに人数が多すぎるから、動けなくしている本人を倒そう。それでみんな開放されるはずだ」
「はっ、わかりました」
他のみんなも星と同じように、手で体に触れ糸を切っていく。
「やっと自由に動けるのだ!」
「動けないとはこれほど辛いことだったのだな」
と愛紗と鈴々は体をほぐすように動かしていた。
「・・・・・ご主人様、大丈夫?」
「ああ、まだ大丈夫。それよりも早く兵士達が動けるようになるためにも絡新を倒そう」
俺は一旦〝羽衣〟を解除する。
「《コク》、もう油断しない」
「それじゃそろそろ反撃しましょう。と言っても・・・」
「はい、動けるのは今のところ私達だけですので正直に言って絶望的です・・・」
「相手はさっきのご主人様の攻撃で態勢を立て直していますから、今が好機なのですが・・・」
「こんなときに援軍でも来てくれたらいいのに・・・」
「桃香、そんな都合のいいことは」
―――――ドドドドドドドォォォォォォ!!!
ってなんか地鳴りが聞こえてくる?
「ご主人様、むこうの方から砂塵が上がってこちらに向かってきます!」
「敵の増援か!?」
「いえ、あの旗は・・・」
「あーーー!白蓮ちゃんの旗だー!」
「桃香ー!助けに来たぞー!」
白蓮は俺たちの近くに軍を寄せると、馬に乗りながらこっちにやってきた。
「よっ、桃香」
「白蓮ちゃん!なんでここに?」
「そんなの決まっているだろう?私はお前たちを助けに・・・」
「公孫賛。ウソはいかんぞ」
え・・・。今の声って・・・。
「いいだろう、ちょっとは格好つけたって・・・。華雄」
〝幻蜘蛛の絡新〟
「くそ・・・!うまく兵士たちに信号が伝達しない・・・!」
北郷一刀の一撃のせいで・・・!あまく見ていたか・・・!
おまけに援軍まで来てしまったし、あんな攻撃があるとはな、不覚。
こうなったら、
「向こうも武将しか動けていないようだし、私が直に相手するか」
〝一刀〟
「なっ!?華雄!?」
「おお、北郷様、お久しぶりです」
「北郷様・・・?・・・・ふふっ、ご・主・人・様・?」
ひぃ!?こわっ!?一気に極寒の中に居るような寒気が・・・!
「あ、愛紗ちゃん。ここは落ち着いて、ね?」
桃香・・・!ありが――――。
「後でちゃんと聞こうね。華雄さんを助けたことは知っていたけど、もう少し詳しく聞くべきだったかな?」
・・・・・・・・・・・・。
「どうしたのですか、北郷様?」
「いや、なんでもないよ。それよりもなんでここに?」
「はい、それはですね・・・」
華雄が話を始めようとしたとき、
「随分と余裕があるのね」
「貴様・・・!よく単独でここまで来たな、さっきまでと違い、我々は動けるのだぞ」
「ええ、それはわかっているわ。よく私の糸から脱出できたわねと褒めてあげたいくらいよ。だから、ご褒美にいいこと教えにきたんだけど」
「褒美だと?」
「そうよ。この戦いが始まってからすぐに私はある信号を兵士達に送っていた。なにかわかるかしら?」
「言いたいことがあればさっさと言えばよかろう」
「ふふっ、そうね。なら、あなた達袁術軍は約五万の兵士が居るって知っているでしょ?」
「ああ。それがどう――――――」
「ここに居る袁術軍、五万にしては少ないと思わない?」
「――――――――」
言われて気づいた。確かによく見ると五万の兵士にしては・・・!?
「どうやら気づいたようね。あなた達動けないことで頭が一杯で気づいてないんだもの。笑っちゃうわ」
「くっ・・・!」
パッと見だけでも五万の半分近くは居ない・・・?だとしたら残りの半分の兵士はいったい?
「ご主人様、おそらく私達の城に向かったんだと思います!」
「なっ・・・!?」
「そう。残りの兵士はこことは違う道から、あなた達から気づかれないように少しずつ移動していったのよ」
くそっ!一体、どうしたら・・・!今から絡新と戦闘を開始してどれぐらいで倒せるか。この手の操るタイプは本人が
死ぬか操れない状況になれば術が解けるもんだが・・・。ってそんなことを考える時間も惜しい。
「白蓮、頼みがあるんだが!」
「お前の言いたいことはわかっている。まかせろ。私達が城に向かっているやつらを止めればいいんだな?」
「ああ、白蓮の軍ならたぶん追いつけるはずだ。頼む!」
「それじゃ、早速行くか!・・・華雄も来てくれるんだろ?」
「当然だ、北郷様の城が危ないのだ、私も行くに決まっている」
「・・・・・・・華雄」
「呂布か、お互い挨拶を交わしたいがそんな時ではないらしい。また後で会おう」
「・・・(コクッ)」
「それでは全軍全速力で行くぞーーーーっ!」
「うおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
白蓮は馬の上で剣を抜刀し、号令を出し白蓮たちは敵兵を止めるために走って行った。
「お願いね、白蓮ちゃん・・・!」
「さて、そろそろ良いかな?」
「一応聞いておこうか、なぜ追わせる?」
星、愛紗、鈴々が俺たちの前に立ち、武器を構え、絡新に突きつけながら問いただす。
その間に朱里、雛里、桃香、ねねを兵士たちの近くに移動させる。
「恋、みんなを頼んで良いか?」
「・・・(コクッ)まかせる」
恋の返事を聞いて、俺は愛紗たちのところまでいく。
そこには、
「袁術と張勲・・・?」
二人が絡新の隣に立っていた。
「愛紗!」
「ご主人様、桃香さまたちは?」
「ああ、恋にまかせてきたから大丈夫だ。それよりも、あの二人は?」
「わかりません、あの者が手を動かしたらやってきたので」
愛紗の言葉に耳を傾けながら、二人を見る。
生気は他の兵士たちと同じ感じられず操られているのは明白だった。
「主、どういうわけか絡新の奴、兵士を動かそうとしません。前に出てきたということは・・・」
「何か理由があってうごかせないのか、単に動かさないだけなのか・・・ということか」
「だけど、相手が少ない分鈴々たちにはありがたいのだ」
「そうだな。とにかく急いであいつを倒そう。みんな準備はいいか?」
「御意」
「はっ」
「応!」
「それじゃあ・・・散!」
〝絡新〟
「(なにやら話しているが、こっちとしてはありがたい。これで伝達の回復に集中できる。保険のために二人を隣にまで連れてきたが)」
六本の腕のうち一本が敵兵士の束縛に使っていて動かせない。もう一本はこっちの兵士を操るための腕。
「(この二本は死守するために〝コーティング〟しておくか・・・)」
口から糸を出し、巻きつけていく。何百の糸を巻きつけ硬度を高めていく。
「・・・・よし」
完了して相手に意識を向けると、
「(・・・!囲まれたか)」
〝一刀〟
「・・・うまく囲めたな。後は―――――!?」
油断していたわけではないが、一瞬に絡新が手を動かし、袁術がこっちに襲い掛かってくる。
「くっ!」
咄嗟に刀を抜き、ガードする。袁術の持っている剣とぶつかり合い、鉄の音が響く。
「な・・・(袁術がなんでこんなに力を持っているんだ・・・!)」
俺は驚く。ガードして押し合いになっている中、俺のほうがどんどんと押されて行くからだ。
「ぬうう・・・!」
脚に力を入れて踏ん張る。押されることはなくなったが、これはさすがにきつい・・!
「お兄ちゃんっ!」
鈴々が俺を助けようとこちらに向かってくるが、それを張勲が阻んでいる。
「退くのだ!」
鈴々は容赦ない一撃を張勲にお見舞いするが、その攻撃をいとも簡単に防がれていた。
「にゃ!?」
「(張勲もか・・・!どうやらこの二人はあいつの何かの術で強化されてるみたいだな・・・!)」
意識を袁術に向け、距離をとるために、後ろへと飛び退く。
〝愛紗・星〟
「「はあああああっ!」」
「フッ!」
関羽と趙雲は絡新の側面から同時に攻撃を仕掛ける。しかし、その攻撃は見切られ、得物のを掴まれ投げ飛ばされる。
「くっ・・・!」
二人は投げ飛ばされながらも態勢をなおし、着地する。
「我らの攻撃をこうも簡単に見切られるとは・・・なかなかやる」
「人間にしてはやるようだけど、まだまだね」
「なら、これならどうだ!〝青龍逆鱗斬〟!」
本来どんな者でも得物を振り回すとき、眼にはわからない程度にブレるものだが龍の一撃の如く極限まで高め、ブレのない一撃を最大限に発揮させる。
絡新はその攻撃を細極糸を巻きつけた腕三本で防ぐ。
「確かにすごい一撃だが・・・この程度なら・・・!?」
守りきったと思った絡新だがすぐに顔いろが変わる。防いだ腕の中二本がダランを力が入らなくなってしまう。
「(なっ・・・!ありえないっ!?腕三本で守っているんだ、なのに・・・!)」
「星っ!今だ!」
「星雲神妙撃!」
以前北郷一刀に見せた技と同じだが、今度は神速の参連突きになっていた。
「ちっ・・・!」
さっきの関羽の攻撃があるので、同じ失敗はしないと今度は受け止めずに避けようとするが、
「はやっ・・・!?」
あまりの速さに敵兵士たちを束縛するために使っていた腕に攻撃が当たってしまう。
しかし、保険のため掛けていた細極糸のお陰でなんを逃れる。
〝一刀〟
「・・・・ん?」
突然だが袁術の動きが乱れ始める。さっきまで中々の動きをしていたのに今ではそこいらの兵士より動きが悪くなっている。
「(愛紗と星が何かしてくれたのか?だったら今がチャンスだ)」
今までの戦いで袁術がどうやって操られているのかわかったことがある。
それは、首の後ろについている小さい蜘蛛のせいだと。
髪のせいでよくわからなかったが、こう動き回ってくれたおかげで髪が揺れ、丸見えになってくれた。
「弱点さえわかれば袁術を傷つけずにすむ・・・」
袁術は敵だが、さすがに女の子を斬るのはあまりしたくない。
両手に持っている天月・雷切を強く握り締め、一瞬の隙を突こうとしたとき、
「・・・助けて・・・ほしいのじゃ」
「!?」
何もしゃべらなかった袁術が涙を流しながら、俺に助けてといってくる。
どうやら本格的に愛紗たちのほうで何かしてくれたらしい。
「待ってろ、今開放してやるから・・・!」
「お願いじゃ、こんな・・・戦い・・・わらわはいやなのじゃ・・・」
涙を流しながら剣を振るう袁術を見ていると、怒りでどうなかなりそうだ。
「・・・・・・・」
・・・大丈夫。集中しろ。狙うは・・・・!
「そこっ!」
袁術の攻撃を避けたあと、すぐに振り向き髪の間を抜き、蜘蛛を殺す。
「――――――――」
袁術はその途端、操り人形の糸が切れるように動かなくなり崩れ落ちる。
「よっ!」
地面にぶつからないよう支え上げ、背中に抱える。
「・・・・・・・」
〝絡新〟
「・・・・・!?」
袁術についていた蜘蛛の信号が途絶える。
「(ちっ・・・!どうやら兵士を操るのはここまでのようだ・・・)」
袁術の媒介にしていたので元がやられた今、絡新に袁術軍を操る術はなくなった。
「星、見ろ。兵士達が・・・」
「ああ。糸が切れたように倒れていくな・・・」
「愛紗ー!星ー!」
「鈴々!そっちは終わったのか?」
「うん!なんか急に張勲が動かなくなったからツンツンしていたら勝手に倒れて気絶してたのだ」
「袁術と張勲は桃香たちのところに預けてきたよ」
「ご主人様!・・・ご無事で」
「主、油断めされるな。あやつ相当に強い」
「ああ、わかってる」
「後は、兵を自由にするだけなのだー!」
〝白蓮・華雄〟
「ふぅ、なんとか防ぎきったな」
「公孫賛、大丈夫か?袁紹との戦いのときの疲れはまだとれていないだろう・・・。無理をすると」
「いや、いいんだ。桃香たちを私のように領土がなくなることにさせるわけにはいかないから」
「・・・・・・」
公孫賛は劉備たちが危ないからここにきたのではなく、袁紹に領土を奪われ、保護してもらうためにここに来たのだ。
そのとき、逃げる手助けをしてくれたのが華雄だ。落ち延びるのは恥だとわかっていた公孫賛だったが、華雄の説得のおかげか、こうして公孫賛はいきている。
「それじゃあ、ここで桃香たちの帰りを待つとするか」
兵士たちに休止を言い渡し、休みにつく。
〝一刀〟
「・・・ってことだ。多分袁術についていた蜘蛛を殺したから、城に向かった兵士たちも止まっていると思う」
桃香たちに説明したことを愛紗たちにも同じように説明する。
「なるほど。・・・では後はあいつを倒すだけですね」
「ああ、それでおれたちの兵士たちも解放されるはずだ」
「愛紗の攻撃で腕二本は使えなくなっていますから、残りは四本、左三本に右一本」
「その計算間違っているわよ」
「・・・!」
「だってこうしてしまえば・・・」
絡新は口から眼に見える糸を使えない腕に巻きつけていく。
「自分で自分を操れば簡単に腕は動くのよ。(痛いけど・・・)」
「・・・厄介だな。・・・とにかく早くあいつを倒そう」
「「「応っ!」」」
そうしないと、少ししか使ってなかったとは言え、そろそろ痺れが出始めるころだ・・・。
はぁ、ちゃんとコントロールできればこんな苦労しなくて済むのになぁ・・・って嘆いたところで始まらない。今は目の前のことに集中だ。
「そろそろ行くわよ・・・」
グッと脚に力を入れているのがわかる・・・!来るっ!
「ハアアアアッ!」
腕を大きく広げこちらに向かって突撃を仕掛けてくる。
「そんな単純な突撃なんて食らうはず・・・って、なっ!?」
―――シュルルルルっ!
絡新の指先から糸が・・・しかもこの糸粘着して離れないっ!
「ご主人様!?」
「うお!?」
俺は腕にくっついている糸から絡新のほうへと引き寄せられ、
「はあっ!」
――――――ドゴンッ!!。
「ごはっ・・・!?」
腹を渾身の力で殴られ、後ろへと吹き飛ばされ、地面に背中からすべるように落ち、
「がはっ・・・ごほっ・・・」
口から血の味がする。
「貴様ーーーーっ!」
「よくもお兄ちゃんを・・・!」
「待て!愛紗、鈴々迂闊に近づいたら危険だ!」
「そんな怒りまかせの攻撃じゃっ!」
絡新は二人の攻撃の先を読むようにかわす。
「避けられるわよ・・・!」
「愛紗、鈴々後ろだ!」
「なっ・・・!?」
「遅い!」
絡新は二人の背中を左右の腕二本ずつで殴りつけようとするが、二人は咄嗟に前に飛び出し、若干当たるものの直撃は避けていた。
「危なかったのだ・・・」
「こいつ並みの動きじゃない・・・!」
どうやら絡新の戦闘法は接近戦主体の戦い方のようだ。離れて戦おうとしてもさっきの粘着性の糸で引き寄せ殴りつける。
「(操るとかそういう奴は漫画とかなら接近戦は不慣れなもんだが・・・やっぱり現実はそうでもないな)」
立ち上がった俺は、呼吸を整え、星の近くまで移動する。
「主、大丈夫ですか?」
「ああ、モロに腹に決まったがなんとか大丈夫だ・・・」
こうしている間にも愛紗と鈴々は絡新と戦闘しているのだが、苦戦しているみたいだ。
「あの二人が苦戦してるなんて・・・」
「あの腕が厄介ですな。あれのせいで攻撃が防がれ、おまけに体は鉄のように硬い」
確かに、あの硬度は厄介だな・・・。鈴々や愛紗の攻撃も技の集中力がないと傷も付けられないみたいだし・・・。
「とりあえず・・・。愛紗、鈴々一旦こっちに戻って来てくれ!」
「あ!ご主人様!・・・はっ」
「お兄ちゃん!」
愛紗は振り払うように得物を振り、飛び退いてこっちに来てくれた。
それに続くように鈴々も来る。
「(ん?なんだ?なにか作戦でもあるのか?)」
絡新は追わずに止まってくれた。なぜかはわからないがこっちにしてみたら大助かりだ。
「三人ともよく聞いてくれ。・・・ごにょ・・・ごにょ・・・」
「え?・・・本当にそれでいくのですか?」
「ああ、兵士たちもそろそろ動きたいだろうから、な。頼む」
「私は別に構わん。・・・鈴々は?」
「鈴々も別にいいのだ。本当は一人で戦いたかったけどそうも言ってられないのだ」
「・・・わかりました。この関雲長、きっと成功させて見ましょう」
「よし、ありがとう。なら・・・」
膳は急げだ、俺は、
「一刀流〝三十六煩悩鳳〟!」
を繰り出す。
「(飛ぶ斬撃か。しかしこんな離れたところからだと避けてくれと言っているような・・・!?)」
しかし、斬撃は絡新には飛んでいかず、その周りの地面に落ちていき、砂煙を巻き上げる。
「(なるほど。地面にあて、身を隠すための煙幕がわりにしたわけか・・・)」
絡新はあせらずに周りを見渡す。
「(だが、どこから来ようが同じこと。さっきの関羽の攻撃を参考に今度は絶対に食らってもダメージを受けないほどの細極糸を巻きつけたのだ)」
いわば鉄壁の鎧。絡新は先に動かずカウンターを狙うことだけに集中する。
「(後だしでも負けることは・・・・って、な・・・にっ!?)」
絡新は驚愕する。目の前から来るのは四人同時の、
「三刀流・・・」
「青龍・・・・」
「猛虎・・・・」
「星雲・・・・」
「(くっ・・・!四人同時だとっ!そんな・・・!?)」
「逆鱗っ!」
「粉砕っ!」
「神妙っ!」
「〝六百煩悩〟っ!!」
愛紗は上、星は右、鈴々は左、俺は中央から渾身の技を繰り出す。
「「「「斬っ!!!!」」」」
「が――――――・・・・!!??」
同時に出した俺たちの技は絡新の体全体にすさまじい衝撃を与え吹き飛ばしていく。
そして・・・。
「・・・勝ったな」
「はい、なんとか・・・」
「合体技がこんなにかっこいいなんて知らなかったのだ!」
「お、主。桃香さまたちがこちらにやってきますぞ。どうやら兵士たちを縛っていた糸もなくなったようですな」
俺たち四人は仲間がこちらに向かってくることに安堵しながら、合流する。
「ご苦労さま、みんなっ!」
「みなさん、ご無事で何よりですっ!」
「・・・・・よかった」
「あ、恋殿!そんな奴に抱きつかずとも・・・!」
「そっちは何事も無かったみたいだな、よかった」
「いえ、それが・・・ご主人様。・・・袁術さんが話しがあるそうです」
「ん?・・・話?」
そこに袁術が雛里に案内されてやってくる。
「その・・・今回は助けてもらってありがとうなのじゃ・・・」
袁術は本当にすまなそうに頭を下げている。連合で感じた印象とはまるで違ういい娘のようだった。
「ああ、その言葉は受け取っておくけど、袁術は大丈夫なのか?体に異変とか体調は?」
「そなたを殺そうとしたわらわを心配してくれるのか?・・・いい奴なのじゃ。・・・決めた」
「え?・・・決めたって?」
「わらわ、おぬしを今日から主様と呼ぶぞ。それで仲間にして欲しいのじゃ」
「なっ・・・なんだと!?そんなこと・・・許されるわけ・・・!」
「ああ、いいぞ」
「って、ご主人様!?」
「だって、このまま放って置くわけにもいかないだろう?・・・な、桃香」
「うん、困ったときはお互い様だよ。助け合わなくちゃ」
「・・・・・・はぁ」
「愛紗、そう手を眉間に当てて落ち込むな。疲れるぞ」
「もう疲れておるわ」
「でも、袁術の城はどうするのだー?まだあるんでしょ?」
「おお、鈴々!」
「それなら多分孫策さんに取られちゃったと思うので気にしないでください~」
いつの間にか来ていた張勲が安心してください、みたいな顔で言って来る。
「わらわの真名は美羽じゃ。よろしく頼むぞ」
「私の真名は七乃って言います。これからよろしくおねがいします」
それから、ここで一晩休み。次の日、城の様子が心配だと急いで帰る俺たち。
袁術軍の兵士達も美羽と七乃と同じで大した怪我もなく、一緒についてきている。
しかし、操られていた恐怖があったのか逃げ出したものも多く、五万の兵士はたちまち一万まで減ってしまっていた。
一晩で四万もいなくなるって、どんだけって思うだろうが、ここはスルーしよう。
城の近くで待っていた公孫賛たちとも合流し、俺たちは城に無事帰ってこれたのだった。
〝絡新〟
「ぜっだいに・・・・がはっ・・・はあ・・・はあ・・・ゆるざないぞ・・・・!!」
「復讐じでやる・・・・!!」
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早いものでもう六月って感じております。
気温は安定せず暑い日寒い日がランダムに来るので体調管理には気を付けましょう。
それではどうぞ