No.146360

真・恋姫†無双if story 「そしてそれから」

miroroさん

後編にあたるお話です。
終わらせるのって、とても難しいと感じました。
誰中心の話なのか分かり辛くなってしまったのが反省点です。

2010-05-29 20:29:54 投稿 / 全10ページ    総閲覧数:3938   閲覧ユーザー数:3185

 

無数の船が赤々と炎を上げている。

 

その様はまるで赤い壁の様。

 

そして撤退していく……………………孫呉の兵たち。

 

そう、この戦は曹魏の勝利で幕を閉じた。

 

「蜀へ?」

 

華琳はいぶかしむ様に桂花に問うた。

 

「はい。此度の戦は蜀も影から手を貸していた様です。

 

 各個撃破の危険を避ける為、一旦この地は我らに渡し、呉蜀連合で挑んでくる腹積もりでしょう」

 

それを聞いた華琳は微笑を浮かべた。

 

「ずいぶんと信頼してくれたものね。桂花、風、指揮を執りなさい。略奪などは絶対に許すな!

 

 そして体制を整えて最後の決戦に挑むわ。堂々と正面から撃破するわよ!」

 

「御意!」「はいなのですよー」

 

二人は礼をすると早速段取りの為その場を辞した。

 

それを見送る華琳の覇王の仮面が少しだけはがれた。

 

「……一刀……」

 

そのつぶやきはそばに控える夏侯姉妹にも届かずそのまま空に溶けていった。

 

「…………、ん、んん?」

 

気が付くと一刀は寝台に横たわっていた。

 

(どうして? あっ、そうか。急に眩暈がして、そのまま気を失ったのか。

 

 ……それじゃあ華琳たちは勝ったのか?でもそれならこの程度では…………、そうか!)

 

一刀は何かに思い至り、体を震わせる。

 

そうしているとふと人の気配を感じた。

 

「気が付いたのですか?」

 

その声に一刀は泣きそうになるのをぐっとこらえて答えた。

 

「稟、よかった」

 

「それはこちらの台詞ですよ」

 

稟は呆れた様にそう言うと枕元に腰かけた。

 

まだ少し危うさは含むものの、以前の弱々しさはだいぶ薄れていた。

 

「華佗が来てくれたんだな?」

 

一刀は確認するように、稟に問いかけた。

 

「はい、一刀殿が探していた医者ですね。一刀殿が倒れた直後に訪ねてきました」

 

「それで? 稟、診てもらったんだろ。どうだった?」

 

そう一刀が畳み掛けると、稟は感極まった様に絶句したが、ゆっくりと答えた。

 

「はい、何やら怪しげな治療でしたが。時間は掛るが完治すると、また魏の為、華琳さまの為に働けると」

 

「そうか、そうか」

 

そういった涙ぐむ一刀。

 

「まったく、一刀殿が泣いてどうするのですが」

 

そう呆れたように言う稟の目にも涙が浮かんでいた。

 

暫くの間そうしていると、戸口の方から声がかかった。

 

「そろそろ良いだろうか?」

 

その声に一刀がそちらを向くと一人の男が立っていた。

 

「あなたが華佗ですか?」

 

「そうだ。こちらに病人が居て、俺を探しているというのでな」

 

「ありがとうございます、稟を、郭嘉を助けてくれて」

 

「私からも改めて御礼を申します」

 

一刀が頭を下げると、稟もそれに習うように頭を下げた。

 

「俺は医者だからな、病人を助けるのは当然だ。それより郭嘉殿。

 

 いくら治ると言ったとはいえまだ癒えた訳ではない。

 

 安静にしていてもらえると助かるのだが」

 

華佗は照れたように二人に答えると、そう続けた。

 

「そうだぞ稟。ぶり返しでもしたら元も子もないからな」

 

「今の一刀殿に言われるのはいささか不本意ですが。ここは大人しく従っておきましょう」

 

一刀の心配に稟は笑顔で返しながら侍女に連れられて部屋に戻っていった。

 

 

 

「ところで、問題は北郷殿の方だ」

 

稟が離れてから華佗がそう切り出した。

 

「問題?」

 

「そう、俺が診たところ北郷殿は何処も悪いところは見つからない。それなのに三日も気を失ったままとは」

 

「いやー、ずっと忙しくて気を張っていたし、眠りも浅かったので。

 

 貴方が見つかったと知って気が抜けたのかもしれません」

 

一刀はおどけた様に返したが、華佗は難しい顔をしたままだった。

 

「それに、一つだけ気になる事が有る」

 

「気になる事?」

 

「そう、何と言ったら良いか、北郷殿の気が薄いと言うか生きる力が弱っている訳ではないが薄れている様な……」

 

「そうですか。でも、もう何ともないですよ。三日も寝てたんですか俺?でもそのおかげか気分もすっきりです」

 

一刀は笑顔でそう答えた。

 

「そうか。だが気になる事が有ったらすぐに言ってくれ」

 

「ありがとうございます。でも俺、行かなきゃいけないところが、見届けなければいけないものが有るので」

 

 一刀の決意のこもった目を見た華佗はため息をついた。

 

「そうか。だが無理をしないようにな」

 

「はい。それよりも郭嘉の事、よろしくお願いします」

 

「それは任せておいてくれ。必ずや完治させてみせよう」

 

そう言って華佗は部屋を出て行った。

 

一人残された一刀は決意を込めて先の言葉を繰り返していた。

 

「そう、俺は。…………見届けなきゃ…………」

 

 

それから、一刀は旅支度と自分が旅立った後の段取りを急いだ。

 

と、言ってもその辺りの事は桂花が完璧に済ませており、実際一刀がしていたのは稟の看病位なのだが。

 

「俺って実は役立たずだったのか?」

 

旅支度の整った一刀は軽く落ち込みながら稟の下に向かった。

 

 

 

「稟、いいかい?」

 

「一刀殿ですか? どうぞ」

 

「横になっていたのかい? 悪かったね」

 

寝台から体を起こす稟を見て一刀はそう声をかけた。

 

「大丈夫ですよ。それより…………、行かれるのですか」

 

それは問いかけと言うよりは確認に近いものだった。

 

「ああ、稟を残して行くのは少し気が引けるけど、見届けてこようと思う。それが俺の責任だと思うから」

 

「…………そうですか」

 

「稟?」

 

「いえ、わかりました。私の分も皆の為に」

 

稟は一瞬寂しげな表情を浮かべたが、直ぐに気を取り直すと真剣な眼差しを一刀に向けた。

 

「ああ、後の事は華佗に頼んである。しっかりと養生しておいてくれ」

 

「はい。わたしもまだまだやりたいことが有りますからね」

 

「そうだな。稟にはこれからも色々頑張ってもらわなきゃだし」

 

「そうですよ。それより一刀殿はどうなのですか?」

 

「ああ、もう大丈夫だよ。頑丈なのが取り柄みたいなもんですし」

 

「そうですね」

 

なんとなくしんみりした雰囲気の中、何気ないやり取りを続ける二人。

 

その心地よい時間もずっと続けるわけにもいかず一刀は切り出した。

 

「それじゃ、そろそろ行くよ」

 

「あっ、はい、そうですね」

 

「じゃあ」

 

そういって部屋を出て行こうとする一刀を稟が引き留めた。

 

「一刀殿!」

 

「ん?」

 

「あの、戻られたらお話が、大事なお話が有るのですが」

 

「大事な話? 今じゃダメなの?」

 

「駄目です。その、心の準備が」

 

そう言う稟の頬は薄らと赤みがさしていた。

 

「わかったよ。じゃあ戻ったらね」

 

「はい。ではご無事で」

 

「ああ」

 

そう言い残し一刀は部屋を出ると出立の準備に向かった。

 

「戻ったら…………か」

 

誰にともなくそう呟いて。

 

華琳達は呉を出立し、開けた平原で蜀呉連合軍と相対していた。

 

伏兵を置けるような場所も見当たらず、真正面からの激突には相応しい場所であった。

 

とはいえ蜀には諸葛亮、ホウ統、呉には周瑜と言う優秀な軍師がいる。

 

もちろん無策で挑んで来る訳がない。

 

何もないからこそかえって想像のつかない戦いを前にして華琳は高揚感を覚えていた。

 

「桂花、風」

 

「はい。敵がここで挑んで来るのは想定の範囲内です。

 

 あちらがここで挑んできた様に、こちらにもここで受けて立つ理由が有ります。

 

 必ずや華琳さまに勝利をささげて見せます」

 

「そーですねー。桂花ちゃんの策は本当によく練られているのですよー。風は本当に寝ていても良い位なのです」

 

「本当にって、あなた。やっぱりいつもは狸寝入りを」

 

「ぐぅ」

 

「ちょっと、言ってるそばから。起きなさい!」

 

「おぉ」

 

「二人とも、余裕が有るのはいいけれどその辺にしておきなさい」

 

そう華琳が二人をたしなめていると伝令が向かってきていた。

 

「何事か?」

 

秋蘭が問うと伝令は緊張気味に報告した。

 

「はっ。御使い様が着陣なさいました。間もなくこちらに参られます」

 

「一刀が?」

 

いぶしかむ華琳。

 

だがその報にもっとも反応したのは桂花だった。

 

「なんですって! なんであいつがここに来るのよ?」

 

余りの剣幕に伝令は青ざめている。

 

「桂花、伝令に言っても仕方なかろう。おい、ご苦労だったな。もういいぞ」

 

「はっ。それでは失礼します」

 

秋蘭がうながすと、伝令はそそくさとその場を辞した。

 

 

そしてそれと入れ違うように、一刀が姿を現した。

 

「やあ、みんな。久しぶり」

 

「久しぶりって、あなたね」

 

華琳が呆れたように言うと、桂花がそれに続いた。

 

「あんた!留守居は? それに稟はどうしたのよ。言われた事が理解できなかったの? この全身精液男は!!」

 

「いや、留守居と言っても実際俺は何もしていないし。それと稟は探していた医者が見つかってね。もう大丈夫だ」

 

「本当ですか、お兄さん!」

 

一刀の言葉に、珍しく真剣な表情で風が問い詰めた。

 

「ああ、まだ完治って訳じゃないけどな。もう大丈夫だよ」

 

「そうですかー」

 

風は暫く一刀の顔を見つめていたが、一刀がうなずく様を見て安心した様に呟いた。

 

「で? だからと言ってあなたがここに来た理由にはならないわよ」

 

華琳は厳しい眼差しで一刀を見やる。

 

そして一刀も意志を込めた目で華琳を見やるとそれに答えた。

 

「全てを見届ける為に」

 

しばし張りつめた空気が流れた後、それを崩したのは華琳の方だった。

 

「そう、わかったわ」

 

「華琳さま? でもそんな事を許しては」

 

「桂花。一刀にも譲れないものが有るのでしょう。もちろん罰は受けてもらうわ。でもそれは全てが終わった後に」

 

「……わかりました。いい? 邪魔するんじゃないわよ。あんたは華琳さまのそばで大人しくしておきなさい!」

 

桂花はしぶしぶ頷くと一刀が余計な事をしない様に釘を刺した。

 

「ああ、分かってるよ。俺に出来る事はもうないからね」

 

そう、もう一刀の知る歴史とは変わってしまっている。

 

おそらくその結末も変わってくるのであろう。

 

一刀に出来る事は、ただ見届ける事だけであった。

 

 

そして戦いが始まる。

 

華琳と劉備の舌戦はやはり交わる事はなく、戦は不可避であった。

 

それは最終決戦にふさわしい死闘。

 

互いの知力、武力を出しつくし、士気高い兵たちの一進一退の攻防。

 

その壮絶な戦いは意外な方法で決着の時を迎える。

 

呉蜀陣営が華琳の本陣の動きを読み切れず、本陣への侵入を許す。

 

そして始まる華琳と劉備の一騎打ち。

 

互いの思いをぶつけ合いながらの剣戟はそう長くは続かなかった。

 

「ガキッ」と言う鈍い音とともにその持ち主の下から弾かれたのは劉備の剣。

 

長い長い時を経て魏の大陸統一がなった瞬間である。

 

歓喜する魏陣営、落胆する呉蜀陣営。

 

一刀はその様をじっと見詰め続けていた。

 

戦後処理のさなか、観念した様にその時を待つ呉と蜀の武将たち。

 

その元王たちに華琳が声をかけた。

 

「孫策、劉備。貴方たちに呉と蜀はまかせるわ。しっかりと治めなさい」

 

何を言われたのか分からず呆然としている二人に華琳は続けた。

 

「私は統一自体には興味が無いの。貴方たちが民をきちんと導くのであればそれで構わないわ」

 

その言葉にいち早く立ち直った孫策は、華琳をじっと見つめると吹っ切れたような表情を浮かべた。

 

「完全に負けね。わかったわ、その話有りがたく受けさせてもらうわ。ね?冥琳」

 

「ああ、そうだな」

 

その返事に華琳は満足そうにうなずくと劉備に向き直った。

 

「劉備、あなたは? その志が完全に折れたのでなければ、これからの蜀で私を見返してみせなさい」

 

「曹操さん……」

 

劉備が感極まって名を呼ぶと

 

「華琳よ」

 

「えっ?」

 

「これからは華琳と呼びなさい」

 

「じゃー私も雪蓮でいいわよ」

 

そこに孫策も加わる。

 

「じゃーじゃー、私も桃香でいいです!いえ、そう呼んでください!」

 

そう言って華琳に抱き着く桃香。

 

こうして戦乱の世は終わりを告げる。

 

三国の王の宣言によって。

 

「皆の者、戦乱の世は終わった!これからは平穏な世を約束しよう!そしてその平穏を乱す者はこの曹孟徳が!」

 

「孫伯符が!」「劉玄徳が!」

 

「全身全霊をもって処する事をここに宣誓する!!!」

 

「うおぉー」っと両軍から大歓声が上がる。

 

そこにはまだ多少のわだかまりも有るだろうが笑顔があふれていた。

 

その様を一刀は嬉しそうな、それでいて少し寂しそうな表情で見つめていた。

 

 

翌日、蜀では戦乱の終焉を祝って宴が開かれていた。

 

各国の武将たちもまだ多少遠慮がちでは有ったが、親交を深めている。

 

そんな中一刀は魏の武将一人一人を心に刻みつける様に見つめた後、その場を離れた。

 

そして川辺で一息ついていると、後ろから愛しい人からの声がかかった。

 

「誰にも言わずにいくつもり?」

 

「…………ああ」

 

そう答える一刀だが振り返ることは出来なかった。

 

そして華琳もまた一刀を見ていることが出来ずに背中を向けていた。

 

「恨まれるわよ」

 

「そうだな。華琳は?」

 

「それは、……そうよ。貴方は私のものなのに…………」

 

そんな言葉のやり取りの中も、一刀の体は少しずつ薄れてきてぼんやりとした光を放ち始めていた。

 

華琳もその時が迫って来ているのが分かるのに覇王の仮面が外せずにいた。

 

そして一刀が別れを告げようとした時、誰かの叫び声が響いた。

 

「ちょっとあんた。何やってんのよ。これだから男は馬鹿だって言うのよ!」

 

「桂花?」

 

「これで華琳さまの夢が叶ったとでも思ってるの? 違うでしょ、これからじゃない! この国を平和に!

 

 民を幸せに! まだ始まってもいないのに。無責任に消えようって言うの? それに1番大事なものをどうするの?」

 

「大事な?」

 

「華琳さまの幸せはどうするの? あんたもその一部でしょ? ほんの極々少量だけど。

 

 そんな事も分かってないの?そんな事だから全身精液男なんて言われるのよ!!」

 

「華琳の…………幸せ」

 

「華琳さまもそれで良いんですか! 本当に良いんですか!!」

 

桂花のその叫びに華琳は反射的に一刀の方に向き直った。

 

そして今にも消えそうな一刀の体を見、縋り付いた。

 

「一刀、いかないで! 約束したでしょ! ずっとそばにいるって!!」

 

一刀もまた華琳の方に振り返った。

 

そこにいたのは覇王ではなく、泣いている一人のさびしがり屋の女の子だった。

 

(俺は馬鹿だ。本当の事が全然見えていなかった。分かった気になって、悟ったふりをしてごまかしてたんだ!)

 

そして一刀は華琳をしっかりと抱きしめた。

 

「華琳! 華琳!!」

 

華琳も一刀を抱き返す。

 

「一刀! いかないで、一刀っ!!」

 

お互いの名を叫びながらしっかりと抱きしめあう二人。

 

そして二人はそのまま眩い光に包まれていった。

 

 

光が収まってもその余りの強さに桂花の視力は中々戻ってこなかった。

 

「華琳さま?」

 

それでも何とか目を凝らして華琳たちの姿を探す。

 

そして徐々に戻ってきた視界にぼんやりと見えたのはしっかりと抱き合った二人のシルエットだった。

 

「ふん、ほんと油虫みたいなやつね。しぶといったら」

 

そう悪態をつきながら踵をかえす桂花。

 

その表情は…………。

 

 

 

そうして宴会場に戻った桂花を出迎えたのは何やら含み笑いをした風だった。

 

「な、何よ? 気持ち悪いわね」

 

「いやー。さすがの桂花ちゃんもくうきをよんだんですねー」

 

「なっ。あんた、どこで?」

 

「ぐぅ」

 

「寝るな! というかごまかすな」

 

「おやおや。でもごまかしはお互い様なのですよー」

 

そういってさらに意地の悪そうな笑みを浮かべる風。

 

「何がよ?」

 

少し気圧されながらも強がってみせる桂花。

 

しかし風には通じなかった。

 

「ところで、桂花ちゃんは以前華琳さまから空箱を頂いていましたよねー?」

 

「? そうよ。ちょっと誤解しかけたけどあれは私の宝物よ」

 

「そうですかー。ところでその中には何をしまっているのですかー?」

 

「!?」

 

「この遠征にも持ってきていましたよねー。そして時々中を見てはにやにやと……」

 

「にやにやなんてしてないわよ! と言うか風。あなた何を知っているのよ!!」

 

「いやいや、風は何も知らないのですよー」

 

そう言ってすっと逃げ出す風。

 

「こら、待ちなさい、風。風ー!!」

 

そうして追いかけっこを始める風と桂花。

 

「やれやれ、われらが軍師殿たちは何をしていることやら」

 

「何をしているのら秋蘭。こっちに来て一緒ににょもー」

 

「ああ、姉者(姉者はかわいーなー)」

 

そう、そんなやり取りも楽しげな宴の雰囲気にかき消されていった。

 

 

一刀と華琳は互いの存在を確かめ合うように抱き合ったままだった。

 

「華琳」

 

「一刀」

 

「ああ」

 

「ここに居るのね?」

 

「ああ、居るよ。華琳や桂花の、そして俺の思いが俺をここに残してくれたんだ」

 

そう言って一刀は抱きしめる腕に力を込める。

 

「一刀」

 

「ん?」

 

「あなたには勝手をした罰を受けてもらわないとね」

 

「ああ、そうだな。どんな罰でも受けるよ」

 

「そう、いい度胸ね」

 

微笑む華琳。

 

その雰囲気を察して一刀は冷や汗を流した。

 

「うっ、でもお手柔らかにしてもらえると助かるかな?」

 

「……いなさい」

 

「えっ?」

 

「ずっと私のそばに居なさい。私の許可なくどこかにいこうとしては駄目よ」

 

「華琳……」

 

真っ赤になりながらそう告げてくる華琳に愛おしさがこみあげてくる一刀。

 

「ああ、誓うよ。ずっとそばにいる」

 

見詰め合いながらそう告げるとまた二人は抱き締め合った。

 

 

 

 

「さあ、帰るわよ」

 

「ん?」

 

「魏によ。明日にはここを立つわ」

 

直ぐに理解できなかった一刀に華琳は宣言した。

 

「ああ、そうだな。俺たちの国に」

 

「そう、私たちの国に」

 

「そう言えば、稟が何か大切な話が有るって言ってたなー。なんだと思う? って痛てー!」

 

そんな事を言ってくる一刀の手をつねる華琳。

 

(ほんっとーに空気が読めないんだから、この男は)

 

そして一刀の方を見ずに歩き出す華琳。

 

しかし二人の手はしっかりと握り締め合ったままだった。

 

 

 
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