「華雄将軍!連合の先陣が進軍してきました!将は平原の将・劉備という者だそうです!」
「例の黄巾党の混乱の中で目立っていたヤツらか…しかし、百戦錬磨たる我らの敵ではない!」
戦を求め逸る気持ちを、己の武に対する自信で固めたような、配下の誰もを魅了した笑みで持って号令をかける。
「全軍!出撃準備だ!!鎧袖一触、先陣の劉備を殲滅し、連合の総大将に目に物見せてくれる!!」
誰も止める者はいない。戦いを望むこの想いこそが自分たちが華雄軍である証明であるのだ。そう言わんばかりに。
「なぁ、愛紗よ?」
「どうした?星?」
予定位置に到着した星と愛紗だが、星が不意に質問をする。
「あの相沢という男、どんな者だ?」
「騒動と悩みの種だ。」
秒も間をおかずに即答する愛紗。
「ほぉ…」
「む?なんだ?その面白いものを見つけた~みたいな目は?」
「それはそうだろう。お主のような堅物がそのような評価を下しているのに、その言葉はむしろ楽しげだ。」
「堅物とはなんだ!私はただ桃香様や民たちのためにと…!」
「おや?待て、愛紗。汜水関の方で何やら動きがあるようだが…」
その言葉の通りに、それまでまったく動きの無かった砦の上の華の旗が動いていた。
「ぐぬ…後でこのことについては必ずはっきりさせるからな…」
「ふっ…最近物忘れがひどくてな。……だがあれは…華雄が突出でもしてくるのか?」
「そうなれば楽なのだが、砦という絶対的な有利を捨てて突出してくるような愚行は犯すまい。」
「それはそれで難儀なことなのだが…と言っている間に開門したな……旗は漆黒の華一文字。華雄だな。」
「なあ、星よ。」
「どうした?」
「後ろの方でものすごい絶望的な声色で『俺の罵倒の出番は!?』と叫んでいるヤツを後でとっちめてやろうと思うんだが、協力してくれるか?」
「此処を万事無事に潜り抜けられれば、な。では、雲長殿。我が背中、お主に預けよう。」
「私の背中も同様だ、子龍殿。……では、参ろう!」
「うむ。」
それまでの軽い雰囲気を一気に吹き飛ばして、そこに居るのは少女ではなく英雄。
「聞け!!勇敢なる戦士たちよ!!敵を恐れるな!己が内にある勇気を示し、想いも力も全てを、勝利の栄光を手にするために振りしぼれ!!」
「我らに、勝利を!!」
「全軍!抜刀!!」
「位置に付け!!」
「「行くぞ!!突撃!!!」」
「「「おおぉぉぉぉぉぉー!!!!!」」」
大地を揺るがすような大音声と共に劉備・公孫賛混合軍は華雄の率いる軍勢へと向かう。
作戦では、魚鱗の陣にて突撃に思いっきりぶつかりに行き、その勢いで敵の勢いを止めた後、次の攻撃に合わせて指揮系統などが崩れたように見せかけ名がら後退というもの。
現在、祐一の居る場所から確認できる分には、華雄の軍が前進を止め距離をとって吶喊を始めたところだ。
作戦、予想通りにその吶喊に合わせて、ぎこちなくグチャグチャになりながら後退している。
華雄軍は鋒矢の陣で攻めてくる。先陣を撃破するというよりは本陣まで狙っているような動きだ。
「あゆ、華雄っていう奴は馬鹿だったりするのか?」
「うぐ?ボクはそうは思わないよ?」
ちなみに、『は』の部分に若干アクセントがあった。
「そうか、あゆ基準では馬鹿とは思わないけど、あゆの周りのヤツらは馬鹿と評価を下してるんだな?」
「……遠回しにボクまでバカにしてない?」
「全然そんなことないぞ?」
「あの?お頭?じゃれあってないでちゃんと戦場見て下せぇ…姉御たちの先陣と譲ちゃんの本陣がそろそろ合流しやすよ?」
「太郎ならちゃんと戦場から目を離さないと信じてのこの行動だ。」
耐えきれずに苦言を呈する太郎に、悪びれずに即答する祐一。
「ものすごくうれしい台詞なので、ぜひともあっしの目を見て言ってほしいです。」
「いつの間にか切り返しが美汐に似てきたな……」
「多分お頭に付き合う人は姐さんみたいになるか、朱里のお嬢みたいになるかのニ択なんじゃないでやすか?」
「あゆはいつでも素敵な反応を返してくれるぞ?朱里だって俺個人への対応こそ変わってしまったが反応そのものはまだ鮮度を保ってる。」
「近い将来変わりますよ?」
「あゆ、いつまでも、そのままのお前でいてくれ。俺はありのままのお前が好きだ。」
「その会話の流れだと全然嬉しくないよ!!」
「照れるな照れるな。よし、そろそろ行くからあゆ、準備しろ。太郎は打ち合わせ通りに。」
そのままのノリで軽く言って砂を払う祐一。
「このことは絶対はっきりさせるから…」
「いちゃつくのも程々に頼みますぜ?」
これから戦場に赴くと言うことで緊張感はあるが、必要以上の緊張も特になく、良い精神状態の二人がそれに続いて立ち上がる。
「さて、華雄は吹けば飛ぶような脆弱な兵とか言ってるが、俺たちは本気で吹けば飛ぶような寡兵だ。二人とも余計なことをしようとするなよ?」
「なんと言ってもボクたち三人だけだからね…遊撃隊……」
「あっしに至ってはコレを投げるだけなんでやすがね……だいたいこれは何なんですか?やけにでかくて重たいんですが…」
「ああ、それか?」
質問をされた祐一は想像するだけで、面白くて仕方がないとばかりに笑いをかみ殺して告げる。
「工兵隊長就任時に三郎に頼んで作らせたちょっとしたおもちゃだ。ホントに作れるとは思わなかったが……でも、効果はきっと絶大だぜ?」
所変わり、袁紹軍の本陣。
「ねえ、文ちゃん?」
「どうした~斗詩~?」
「なんか、砂塵の舞い方が尋常じゃない気がするんだけど…」
「んー…あ、マジだ。まあ、弱小だからな~劉備ってお姉ちゃんとこ。…ありゃ、こっちまでながれてくるかな…」
「じゃあ、私は姫に伝えに行くから、文ちゃんは戦闘準備の指示出しておいてね。」
「ほーい。」
龍と鳳の描いたシナリオに、未だ狂いなし。
「さて、あゆ。覚悟はいいな?」
「うん。」
劉と公孫の牙門旗が翻る本陣から弓の斉射が二回なされ、そこに愛紗と星が率い、鈴々が殿を務める形になった先陣が吸収され、槍を構えた兵が一斉に移動する。
袁紹の部隊がいる地点までもう少しと言ったところ。
あゆの目的を達するための最初にして最大の難関まであと少し。
「さて、どでかい花火を打ち上げよう…」
「はなび…?」
「締まりが悪くなるからツッコまないでくれないか?あゆ。」
「うぐぅ……」
情けなく呻くあゆをみて軽くため息を吐きながら、いつものように鬼丸を抜き、思考を戦闘用のそれに変える。
あゆもこの時代の中国の武器としてはあまりにも短い剣を両手で構える。
「最後にもう一回確認するぞ?あいつのいる場所が目的地でいいんだよな?」
「うん。」
見た目には一際頼りない武器を腰に下げる二人。
一人は常の尊大とも言えるような態度を完全に消しさり、無表情に。
一人は常の子供らしさが残りながらも、相対するものが思わず居住まいを正しそうになるほど真剣に。
「例の合図と同時に走るからな。助けられるとは限らないからこけるなよ。」
「うん。」
「あと、走り出してから200数えるまでは別行動だ。場所が分かるようになるべくまっすぐ走れ。」
「わかったよ。」
二人は未だ息を殺す。
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二十四話投稿です。
戦闘が始まったというのに戦闘の描写が………
まあ、まだ始まったばかりですし、挽回……できるよ…ね…?
追記:今現在この作品の続きを投稿する予定はありません。理由等が気になる方は、私のクリエイタープロフィールをご覧ください。