はじめに
今回も比呂の出番なし!
(終わりにしなければいじゃない)
俺が俺を見ている
(恨んでやるから)
俺は月明かりに照らされる彼女を見ている
(なんで傍にいてくれないの?ずっといるって言ったじゃない)
目の前にいる俺も
(本当にいなくなるなんて)
『二人』を見つめる俺も
(…ばか)
彼女が泣いている…あの華琳が
(ばかぁ)
だというのに
彼女に触れることもできず
ただ消えゆく俺と
泣き続ける彼女を見ているしかできなかった
「なんで…こんなものを見せる?」
握った拳が震え赤く、やがて白くなっていく
「お主の外史の終焉を…お主は知る必要がある」
どこから聞こえる声にも俺はただ黙って立ち尽くしていた
「いつまでも『この世界』にいられると思うたか?」
「…」
身体が熱くなっていくのがわかる
「自分の居場所は此処に在ると思うたか?」
「…やめろ」
頭に血が昇っていくのがわかる
「自身が知識で思いのままにできると思うたか」
「…違う!」
天の遣いなんて名前に乗せられたことなんてない…だが
「だがお主は歴史を変えるじゃろう」
「そう預言したのはお前だろう!管路!!」
拳を振り払い辺りに怒鳴る
周囲を見回してもその姿はなく
ただ『彼女』だけが
声を嗄らして泣いている
「答えろ!」
視界に入った『彼女』から思わず目を背け暗闇の中へと声をあげる
ショックだった
自分が消えることも
彼女が泣いてしまうことも
彼女を『さびしがり屋』と知って消えた自分のことも
「だがこれが事実にして現実」
耳ではない
頭に直接入ってくる声
「お主は覇王を導き…そして消える」
「だからなんでだよ!」
頭に入ってくる声を振り払うように振って叫ぶ
「その先を…お主は知っておるか?」
「え?」
意味がわからない
「大局を外れ、覇王が統べる歴史を…お主は知っておるのか?」
ふと鳴き声が止んだ
「…華琳?」
目のまわりを真っ赤に腫らし、鼻を啜りながらも彼女は立ち上がり
そして歩き出す
「覇王が自身で歩む世界を、お主は知っておるのか?」
遠ざかって行く彼女の小さな背中が闇に溶け
消えてゆく
「お主が知りえる世界だからこそ…お主は存在しり得たのだ」
彼女の歩いて行った先へ手を伸ばす
だが
彼女の行く先を知らない俺は
追いかけることが出来ない
「此処がお主の終着駅…だが」
途端
景色がテレビをコマ送りしたように流れる
「大局はお主の意思に関わらず変貌を遂げる時がある」
「…これは!?」
炎が上がる宮殿内
「洛陽、帝が住まう都よ」
どこからか現れたビキニ姿の筋肉隆々男の出現に
「うわ!?」
思わず尻もちをつく一刀
「はあい!ご主人様」
続いて聞こえてきた単語に頭をハンマーで殴られたような衝撃が走る
「これ貂蝉、ダーリンが面くらっているではないか」
後ずさりした先にさらに増えた存在の出現に
バタン
彼の意識はシャットダウンされた
「あら~、ご主人様ってばそんな無防備に!」
「いつでもかかってこい来いというわけか!」
それじゃ遠慮無くと飛びかからんとする二人に生存本能が無意識に働き彼の意識を呼び戻した
「んなわけあるか!てゆうか誰だよ!?管路はどうした?そして此処がなんだって言うんだ!?」
ズササっと飛び退きながらの質問に二人は顔を見合わせ
「なんじゃ貂蝉、知り合いではなかったのか?」
「忘れてたわ卑弥呼、ここじゃ初めましてだってこと」
またもや不吉な単語が耳に入りシャットダウンしかけるが
「…管路はどうした?」
声からするに爺だというのはわかっていた
だがその姿も声もそこにはない
「あの人ああ見えて忙しい人だからねえ、あとは私達にって帰っちゃったわん」
「うむ!此処は我らがダーリンを支えよう」
腰をクネクネさせながら筋肉がうごめく様に胃液が込み上がる衝動をなんとか堪え
「お前さっき此処が洛陽って言ったよな!?なんで此処に飛ばされたんだ?」
辺りの惨状にただ事ではないと怒鳴りがちになる
「まあつまり…コンテニューってことよ」
「はい?」
またしても意味がわからない
「さっき虎牢関でご主人が消えたのはあくまで警告、歴史の大局を外れるとどうなるかを知ってもらうためのね」
「それってつまり」
立ち上がり二人を見据える一刀
「うむ!救済処置というやつだな」
卑弥呼(信じたくないが)と呼ばれた男が腰に手を当て胸を張る
「ご主人様、此処が分岐点…終着駅は変わらないわ、でも選ぶことはできるの」
「選ぶ?」
一刀の問いに二人は頷き
「このまま世界から消えるか、最後まで見届けるか」
「ちなみに現状を静観すると袁家が帝を救済して袁家の天下になる、ダーリンはやっぱり消えることになるのう」
(袁家の天下…大局を外れるということか)
自分の知る歴史上ではない出来事だ
スッと目の前に日本刀を差し出す貂蝉
「さあ、どうするの?」
貂蝉の問いかけに一刀は目を閉じ二度深呼吸した後
「決まっているさ」
彼女(?)の持つ日本刀に手を伸ばした
―現在―
遠く流れる雲を
ただぼんやりと
一刀は仰向けのまま見上げていた
何処までも気ままに流れる雲の上
天の遣いなどど自分でも名乗ってはいるものの
まるで届く処ではない
目を閉じ深く息を吐く
(届かないからこそ在るのかもな…天の世界ってやつが)
其処が自分のいた世界なのかはわからないが
「気が済んだかしら?」
視界の隅に現れたのは彼が敬愛する小さな覇王
自分がたどり着く終着駅で泣かせてしまう少女
「…華琳」
「まったく…手合わせ願うなんて言うからどんなものかと思えば」
先ほどまで一刀と剣を交わしていたというのに汗一つ掻かず、涼しい顔で此方を見下ろしている
「とんだ肩透かしね…」
絶を肩に担ぎ、はあっと溜息
「確かめたかったんだ」
上体を起こし彼女の瞳を見つめる
「俺と君に何処までの差があるのかを」
一刀のはにかんだ笑顔に華琳はしゃがみ込み『目線』を一刀に合わせる
「へえ…それで?」
何処までわかったのかしらと一刀の腫れた頬に手をあて首を傾げてみせる
「まだ遠く及ばないってことがよく判ったよ…後は」
「…後は?」
つんつんと然も楽しそうに一刀の頬を突く華琳
「今日は『白』ってとこかな?」
お互い満面の笑みで笑い合う
「春蘭との修行は?」
ツカツカと廊下へと歩きながら同じく横を歩く秋蘭に尋ねる華琳
「最近は十合は持つようになりました」
最初の頃のように一撃で気絶することは無くなったのだが
(あれではな)
中庭で顔面に絶を突き立てられ大の字に寝そべる『物体』に溜息が出る
「中々の『成長振り』じゃない?」
先ほどから満面の笑みのまま歩く様はかえって恐ろしい
「先の戦で貴女に足手纏いと評されたのがよほど堪えたのでしょう」
「…そのようね」
ピタリと立ち止まり振返る
未だ突き刺さったままの絶が風にゆらゆらと揺れていた
立ち止まったままその様子を見つめている華琳に秋蘭は目を細める
(結局…聞けず終いか)
何故姿を消したのか
何故洛陽に現れたのか
その間何をしていたのか
どうやって洛陽から虎牢関へ戻ってきたのか
一刀から何も聞けないまま、ただ半年という月日が流れてしまった
一刀が言えないと言った以上
此方もその後は聞けないままだ
(華琳様ならもしやと…思っていたのだがな)
彼女であれば一刀も教えてくれるかもしれない…そう思っていた
だがその期待も、儚く露と消えた
誰にも言えない何かを一刀は体験したのだろう
何より戻ってきた時のあの目が気になる…決意を秘めた目だ
他の者には明かせない…とても重要な何かを
それを感じ取っているからこそ
(最近の華琳様も変わられてきたのだろう)
「何時まで寝てるのよ!?午後の政務が始まるでしょう?手伝いなさい」
再びツカツカと一刀の元へと歩いていき顔面に突き刺さった自身の武器をズボリと抜く
(建前はな…)
ゲシゲシと一刀を蹴りつけ起こそうとしている華琳の姿に秋蘭はふうっと溜息
(目を離したくないのでしょう?…もっと素直な言い方もあるだろうに)
あの日
姿を消して戻ってきて以来、秋蘭の中で一刀の評価は昇り続けている
そして同時に
言い知れない不安が常に付き惑う
北郷は…また消えてしまうと
あとがき
ぎりぎりセーフ
昼休み中…夜より捗るとは
最近TINAMIの友人の作品で予告なるものを見かけたので自分も物真似してここは一つ
~次回予告!~
次回も比呂の出番はありません…以上!
それでは次の講釈で
Tweet |
|
|
32
|
4
|
追加するフォルダを選択
第35話です。
なんとか昼休み中に…いけるか?