No.144529

恋姫異聞録63 定軍山編 -疾風と錦-

絶影さん

定軍山編

まだまだ続きますよー
相変わらず主人公がまだ出てこない、次回は出ますので
昭を待ってくださってる皆様もう少しお待ちください

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2010-05-21 19:38:33 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:12591   閲覧ユーザー数:10048

ガキンッ!ギギンッ!ギャリンッ!!

 

激しく金属同士がぶつかり合う音が馬上で響き渡る

 

その周りでは兵達が互角の戦いを繰り広げる

相手は西涼の騎馬兵、巧に馬を操る精兵に一歩も退く事無く逆に追い上げていく

 

「やるな、流石は兄様の義弟が率いる兵士だ」

 

馬超は一瞬表情を少し硬くしたが、直ぐに鋭い眼差しを持つ厳しい顔に切り替える

対する一馬は無言で馬超の槍を七星刀で器用に捌いていく、その顔は無表情で

 

「みんな、敵の攻撃を巧く受け流せ。歩兵隊が逃げきったらあたし達は直ぐに撤退するぞっ!」

 

兵達に指示をしつつ更に馬上で槍をなぎ払い、突き、そして打ち下ろす

だが一馬は全ての攻撃を無言で受け流していく

 

なんだコイツ?さっきっからあたしの横にきて攻撃を受け流しているだけだ、何を狙っているんだ?

・・・・・・何を狙っているにしろ時間さえ稼ぐことが出来れば兵は帰還できる。何時までも

あたしの攻撃を受けているだけなら問題ない、逃げながら戦わなきゃならないんだ少しでもこちらが

有利にしておかないと

 

ギインッ!

 

喉を狙った突きが急に強引な横薙ぎで弾き飛ばされ、馬超はその反動で馬がよれてしまうが

一馬の操る馬は微動だせずに駆け続ける

 

「なっ!」

 

馬超はつい驚きの声を上げてしまう。今まで御互いの武器がぶつかり馬が寄れるのは何度も見てきた

しかし今目の前で見たものは、自分の馬だけが寄れて相手の馬は寄れるどころかまったく動かない

そんな事は馬超にとって馬騰と韓遂以外で初めてのことだった。その超人的な馬術に近くで戦う

西涼の兵士達も驚いてしまう

 

馬超は馬を立て直し、槍を構え、劉封を睨みつけた

 

流石は兄様の義弟だ、今まで父様とおじ様以外にこんなこと無かった。乗っている馬もそうだけど

あたしは体の軸が馬と一体化している馬術なんか見たことが無い、今の一撃が無かったら解らなかった

 

睨む馬超を尚も無表情で見つめると、ゆっくり口を開いた

 

「・・・・・・貴方は」

 

「・・・何だ?」

 

「義妹でありながら兄者を討ち取ろうとしていた」

 

「・・・」

 

「兄者が貴方を義妹と認めたのが良くわかりました。一度戦に立てば親も兄弟も関係はありません

貴方を私は尊敬します」

 

「・・・あたしもお前を尊敬するよ。あたしに突っかかって怒りをぶつけてくると思ったんだけどな、

あたしの真名は翆だ、同じ義兄を持つもの同士だが手加減はしない全力でいく」

 

「私の真名は一馬、全身全霊を持ってお相手いたします」

 

一馬は熱く言葉を放つと包拳礼を取り、七星刀を握り締めると鐙から脚を放す

 

その瞬間馬超の槍が一馬の額を狙うが、上半身を馬に寝そべらせ槍を避けると同時に

手綱を槍に引っ掛ける

 

「あっ!?あたしの槍をっ!」

 

絡めた手綱を引っ張り自分の方へ引き込むと、柄を掴んで足で鞍に踏みつけ馬の背中に立ち

槍を絡め取られ動きの止まった馬超へ飛び蹴りを放つ

 

「うっ!」

 

顔面に放たれる蹴りをとっさに片手で防ぐ、すると槍は馬と馬を繋ぐ橋のようになってしまい

その橋に一馬は柔らかく着地した

 

な、なんてことするんだっ!!走っている馬のしかもこんな槍の上に立つなんて、これじゃ槍は使えない

 

驚く翠の首に七星刀の横薙ぎが襲い掛かる。辛うじて上半身を寝かせて避けるが、今度は真上から

打ち下ろされる

 

「このっ!」

 

無理やり繋がれた槍を持ち上げると一馬は槍の柄を握り、脚で手綱を引っ掛け引き寄せる

爪黄飛電は引かれる手綱に反応し、翠の馬に体を寄せ、体当たりをぶつけてきた

 

「くぁっ!」

 

握る槍がいきなり引き寄せられ、握る腕を持っていかれ体制を崩し体がのけぞってしまう

一馬は体当たりの反動で槍から飛び降り爪黄飛電の背に立ち剣を翠に向かい振り下ろす

 

咄嗟に槍を無理やり持ち上げ剣を防ぐが、一馬の脚がすぐさま跳ね上がり

翠の顎を鈍い音を立てて跳ね上げた

 

「うぐっ・・・うあああああああっ!!!」

 

蹴りを喰らいながら無理やり爪黄飛電の横腹を蹴り飛ばし間合いを開け、槍を回転させて

ブチブチと音を立て槍に絡まる手綱から引き千切った

 

一馬は引き離される爪黄飛電にふわりと飛び乗り、鐙に脚を掛け冷静に銜を外し手綱を投げ捨て

鬣を握る

 

 

 

 

くっ、いたたたたっ、ちっくしょーなんて攻撃して来るんだ、でもあたしの槍は自由になった

今度はこっちの番だっ!

 

口の中で鉄の味がする唾を吐き捨てると、翠は槍を握り締めその性格を表すような燃え盛る瞳を向ける

一馬に槍を構えた

 

「・・・・・・」

 

一馬はじっと見つめ並走しながら翠の攻撃を待つ、それを見ながら翠はゆっくりと息を絞るように吐き出し

握る槍に力を込める。そして一気に一馬の体に目掛けて槍を放つと、一馬の体が急に沈み込み

一瞬にして翠の前へと踊りだし、爪黄飛電の剛脚が突き刺さるように襲い掛かった

 

翠の乗る馬は驚き、前足を上げ急停止するが爪黄飛電の後ろ足は確実に馬超を狙い襲い掛かった

 

「シイイイィィィィッ・・・いやああああああああああああああああっ!!!!」

 

口から絞込み吐き出される息、握り締められる十文字槍『銀閃』、前足を上げる馬の腹を脚で締め付けるように

体を固定させると、腰、腕、関節が回転しその全てが槍に込められ力が解き放たれる

目の前に襲い掛かる馬脚に翠の必殺の一撃、父馬騰の槍を合わせた

 

「くっ」

 

このままでは馬ごと貫かれるっ!すまない爪黄飛電、耐えてくれっ

 

一馬は左足を鐙から外し、思い切り回し蹴りを馬の尻に叩きこみ馬の蹴りの軌道を変えた

翠はその行動に驚くことなくそのまま真直ぐ一馬を狙い槍を放つ

 

弾丸のように回転し触れる物全てを粉砕するかのように、凄まじい風切音を立てて一馬の心臓に

襲い掛かった。一馬は七星刀を襲い掛かる槍に無理やり合わせ弾こうとしたが、あまりの貫通力に

合わせるのが精一杯になっていた

 

この槍っ、まるで螺旋槍だっ!威力はそれ以上にっ

 

「ぐああああっ!!」

 

ガリガリガリッと削岩機のような音が聞こえ、一馬の七星刀の刃はボロボロに削られる

反らされた槍が右腕の脇を通過した瞬間『ブシュッ』と言う音と共に切り刻まれたように

右腕の鎧と服が吹き飛び血が噴出し右腕が赤く染まった

 

右腕がっ・・・何と言う威力だ、兄者から頂いた七星刀がボロボロに・・・申し訳ありません兄者

しかしこれで私の勝だ、右腕はやられてしまったが翠殿の頸は頂いた

 

槍を構える翠の顔は苦いものへと変わる。自分の馬を完全に止められ率いる兵達の脚も止まってしまった

それどころか後ろを見れば紺碧の張旗が自分に目掛け走ってくるのだ

 

やられたっ、もたもたしていたらこのまま囲まれる。張遼が来るっておじ様はどうなったんだ

 

ちらりと横に目線を向ければ、遠くで銅心がこちらを一瞥して馬の腹を蹴り紫苑達の方へ走り去る

 

その姿を見て体が振るえ、自分の中で何かが沸き立つ、翠はさらに槍を握る手に力がこもり、瞳は

ギラギラと輝きを増して口元が釣りあがっていく

 

おじ様の目はあたしなら抜けると言っていた、あたしなら出来るって

前に言っていた、あたしなら父様と同じ英雄になれると、あたしは父様のような英雄と言われる

立派な人になんかなれないって言ったけど、おじ様は信じてくれているんだ。こんなあたしが

父様のような人間になれるって・・・

 

一瞬にして回りの者達の動きが止まってしまう、翠の体から先ほどの凄まじい殺気が一切消えて

違うものがその体から流れ出し、その身を纏い、周りの空間を埋め尽くしていく

 

「・・・・・・貴方は、覇気を纏うのですかっ!」

 

一馬は驚く、体から華琳ほどではないが覇気を纏い、重苦しい先ほどとは色の違う殺気を放つ

翠に見入ってしまっていた。先ほどまでは色で例えるなら黄色い殺気、威圧感はあるがただの将

今感じるのは濃い赤に染まった重圧感のある殺気、目の前にいる人物は華琳と同じ紅蓮の殺気を放つもの

 

遠くで異変に気が着いた霞が声を張り上げた

 

「あかんっ、退け一馬っ!何してくるか解らんぞっ、片腕一本じゃ殺されるだけやっ!!」

 

放たれる気迫に動きの止まった一馬は声で我に戻り、馬の腹を蹴りその場を退こうとした瞬間に

翠の槍が放たれ、とっさに体を捻るが両肩にほぼ同時に槍が突き刺さり落馬してしまう

 

「退くぞっ、あたしに続け」

 

「まてや、うちが相手やっ!」

 

後ろから迫る霞の声を完全に無視して馬を走り出させる。騎馬兵たちは雰囲気の変わった翠の姿

に何かを見たのか、勝どきのような声を上げて走り出す

 

「無視するんか、ほんでもそのくらいなら追いつくで、一馬っ!兵を連れて行く、あんたは後続の

騎兵といったん退け」

 

一馬の横を通りすぎながら声を掛けると、一馬に率いられた兵を連れて馬超を追いかけていく

 

 

 

 

何があったんか知らんけど敵の兵達の士気が爆発的に上がりおった。ほんで馬超の纏うのは覇気や

まだ華琳や韓遂ほどに無いにしろあれはでかくなる。でかくなった馬超とやりあいたいけどあれは

今のうち潰しとかんといかんな、手が着けられんようになるわ

 

「ウチを無視してこのまま抜けれると思うなよ」

 

凄まじい勢いで馬を走らせ、退いていく馬超たちに追いついていくと、馬超は槍を振り先に行くよう兵に

促し、一人殿へと馬を下がらせていく

 

「ええ心がけや、韓遂と同じようにその槍叩き折ったるわ」

 

馬超は槍を構え、ゆっくりと霞に向ける。そして笑みを作ると握る槍から絞るような締め付ける音が立つ

 

馬超の馬に追いついた霞は隣に近づき、凄まじい速さで偃月刀の横薙ぎを馬超目掛け放つ

 

バキィィンッ!

 

激しい音と共に宙を舞う刃、そして弧を描き地面に突き刺さる

 

馬上の馬超は笑みを作ったまま馬の腹を蹴ると馬を加速させた

 

「じゃあな、もう追ってくるなよ」

 

後ろを振り向く事無く、真直ぐ前に進み兵の中に消えていく

 

叩き折られた偃月刀を突き出したまま霞は固まり、馬を止めてしまう。率いた兵たちも自分達の将軍の異変に気が付き

その場に留まってしまう

 

な・・・・・・なんやったんや今の、腰と腕と回転させて片手でウチの偃月刀圧し折りよった

 

「将軍、どうなさいますか?」

 

「・・・追撃はやめや、ウチの武器も折れてもうたし一馬もボロボロや」

 

霞は走り去る馬超たちを見ながら下馬し、落ちた偃月刀の刃を拾い上げ柄と刃を見つめる

 

・・・・・・これは・・・韓遂とやりおうた時か、ウチの偃月刀の柄に小さなヒビが入っとったんやな

一瞬で小さなヒビ入ってるのを見切ってそこに槍合わせてきおった。そんなん昭がやるようなことやろ

ウチでさえ気がつかんようなこんな小さなヒビやで?

 

霞の体が振るえ全身が総毛立ち、額から一筋流れ落ちる汗が頬を伝い地面を濡らす

そして口の端がつりあがり、喉の奥でくつくつと笑う

 

なんやぁ・・・あれおもろいなぁ・・・・・・誰にもやらんぞあれはウチの獲物や、あの話しで関羽を惇ちゃんに取られて

もしゃあないと諦めとったんやけど、関羽よりずっとおもろい奴見つけたで。駄目やなぁウチは、戦うことが

こんなにおもろいなんて久しぶりや・・・

 

「これじゃ兵は率いること出来んな、一兵卒に戻るか・・・カカカッ!」

 

霞の笑い顔に周りの兵たちはビクリと身をすくめてしまう、その顔は笑顔であるのに恐ろしく

どこか鬼気迫るものを感じてしまう

 

「霞様・・・一兵卒とはなんですか?」

 

「おおっ、一馬~!大丈夫か?はよ戻ろう、怪我治療せんと」

 

血だらけの右腕に雑に包帯を巻き、爪黄飛電にしがみ付きながら後を追ってきた一馬の頭を

クシャリと撫でて馬から下ろし、自分と抱き合うように掴むと腰と腰を紐で結ぶ

 

「あ、あの霞様?」

 

「しゃあないやろ、戻る途中落馬されたら昭に怒られるわ」

 

そういって自分の馬を兵に渡し爪黄飛電に銜を咥えさせ手綱をつけると一馬を抱き上げながら馬に跨る

一馬は顔を真っ赤にして必死に目を瞑って小さく『申し訳ありません』と呟いた

 

「ええよ、李通には内緒にしといたる」

 

「うぐっ・・・・・・た、助かります」

 

顔が赤から青に変わった一馬を見て面白そうに声を上げて笑い出す

 

相変わらず一馬はおもろいなぁ・・・・・・馬超と戦うには兵を考えている暇なんかない

その隙さえ命を落とすほどのもになるやろうな、やっぱり副官に一馬貰うか

さらに大きくなるあれを抑えんことにはウチらどれだけ兵をやられるか解らんわ

 

ゾクゾクと体を走る鳥肌に嬉しそうに身を任せ,笑みを作ると霞は自陣に向けて馬を走らせた

 

 

 


 
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