「こうなったら変身じゃ!」
幼女は叫んだ。右手には杖。それを振り上げる。
「暗殺! 滅殺! 大☆喝☆采!! へ~~~~んし~~~~~ん!!」
そして幼女は光に包まれた。
魔法少女☆きゅぴるん!
第1夜 『敵襲、犬人間!!』
その日、ボクの家に幼女がやってきた。正確には降ってきた。
運悪く二階建ての二階にあったボクの部屋、その屋根を貫いて彼女は現れたのだ。その衝撃は屋根を破壊し、ベッドを吹き飛ばした。当然、ベッドに寝ていたボクは、ゴミ屑のように転がる。瀕死である。
そんなボクを見下ろして、幼女は言った。
「姓は露梨、名は紺という。ぜひ紺ちゃんと呼んでくれ」
血だるまになっているボクが目に入っていないのだろうか。ここは名乗るよりも先に助けを――具体的には救急車を――呼ぶべきだろう。人道的に考えて。
しかし、幼女に人道なんてものはないようだった。動かないボクを足で小突いて、ビクビクと痙攣する様を楽しんでいる。
その姿はまさに悪魔であった。
「妾の名をフルネームで読んだら殺すからな。そういうわけで、よろしく、ぼうや」
身長は120といったところだろうか。そんな幼女にぼうやと言われてもな。大人になりたい年頃なんだろうか。
しかし、そろそろ意識がやばい。死ぬ。
「おやおや、妾が殺す前に死ぬのか。哀れなことよのう……」
できることならコイツを殺してから死にたかった。しかしボクの儚い願いは叶いそうになかった。小指の先すら動かないのだから。
そんなボクを毛虫でも見るよな目で見ながら、幼女はその手にした杖を振り上げた。その杖は、木刀のような形をしていた。というか、木刀だった。
「暗殺! 滅殺! 大☆喝☆采!! 唾液よ、エリクサーにな~~れ!」
意味不明な奇声をあげたのち、幼女はボクに唾を吐きかけた。それはまるで巷のヤンキーのような、美しい所作であった。鬼の仕打ちである。
しかし、驚いたことにボクの傷がみるみる治っていった。骨が折れ、内臓が破裂した、まさに致命傷であったはずなのに。
吐きかけられた唾液が、本当にエリクサーであったとでもいうのだろうか。
傷がなくなり、健康体となったボク。
「ありがとう。たすかったよ、ロリコン」
爽やかな笑みを浮かべて、左手を幼女に差し出す。幼女はその手を左手で握り。
ボクらは同時に右ストレートを放った。
ボクらが肉体言語でその親睦を深めている頃。街はそれなりに大変なことになっていた。
巨大な謎の生物が街を襲っていたのである。
ビルほどの巨体。その身体は人間そのもの、しかし、首から上は犬そのもの。こういう手合いもある意味で美しいと思って神が造ったのだろうか。なんとも恐ろしい犬人間が、街を火の海に変えていたのだった。
「あれは犬人間のアイゼンシュバルツァーじゃな。奴も人間界に落ちてきたというわけか、厄介なことじゃ」
なにその名前だけかっこいい人。存在自体はひどいもんだけど。
「あれもお前の仲間かよ。じゃあ責任もってなんとかしろよ」
「わかっておる。言われんでもなんとかするわい」
そして、幼女改め――紺は、杖を掲げた。実に嫌な予感しかしない。
「暗殺! 滅殺! 大☆喝☆采!! しゅ~~んかんいどーーーーー!」
そしてボクの視界は暗転した。
気づくと、ボクらは見知らぬビルの屋上にいた。
目の前にはボクの身長の三倍くらいの犬の顔。死んだ。これはもう助かるまい。だってほら、アイツ涎たらしてこっち見てるし。
「わんわん、キャイン、バウバウ、アウウウン」
「キャンキャン、ワンワン、ガルルル、キュウウン」
そして隣の幼女は犬人間となにやら犬語らしきもので会話しているようだった。こいつの怪しげな交渉しだいで、ボクの生死が決まるのかと思うとやるせない気分になってくる。
そして。
「キタロウ、だめだった。奴は完全に正気をなくしているようじゃ」
こいつはなぜかボクのことをキタロウと呼ぶ。ちなみにボクの名前は森野葱市。一文字もかすってない。さすが幼女だ。ちなみに『そういち』と読む。ネギではない。
しかし傍から見ると、紺のほうが正気を失っているように見える。犬人間と犬語で会話する幼女。おかしいのはどう見ても幼女の方だ。
「だめだったって……ボクたちはこれからこいつに食われる運命なのか?」
「ふふん、妾は魔界一の魔女じゃ。こんな犬人間ごとき三秒でフルボッコじゃよ」
「そうか……ボクはここで死ぬのか……」
実に短い人生だった。死にかけて、なんとか助かったと思ったらまた死ぬのか。ボクがサイヤ人だったら戦闘力が二倍になってたのにな。そしたらあんな犬なんか……倒せないか。所詮一般人(戦闘力5のゴミ)が二倍の力を手に入れたとしても、つよいゴミ止まりだよな。たぶん車にも勝てないだろうよ。
「何を勝手に諦めておる。この大魔道士を信じよ。奥の手をつかう」
そう言って、紺はニヤリと笑った。
「変身じゃ!」
紺は叫んだ。右手には杖。それを振り上げる。
「暗殺! 滅殺! 大☆喝☆采!! へ~~~~んし~~~~~ん!!」
そして紺は光に包まれた。
「デュワッ!」
幼女がでっかくなった。犬人間と同じサイズ、つまりビルほどの巨人になった。巨人なのに幼女。ボクはまたひとつ真理に近づいた気がした。
その幼女(紺)が、ボクを鷲掴みにして空中に放り投げた。三度、死を覚悟するボク。
「パイルダーーーーーオーーーーーーーーン!!」
そしてボクは幼女に食われた。
喉を通り、食道を通り、胃に到達する。そこには、ロボットマンガにでてくるようなコクピットがあった。
360度の視界を確保するモニター。二つの操縦桿。コクピット全体から、紺の声が聞こえてくる。
「どうじゃ、これが魔法少女☆きゅぴるんじゃ。妾は巨大化に魔力を使っていて上手く動けないので、操縦は任せたぞ」
「え、これで戦うの? ボクが?」
「お前以外に誰がいる。安心しろ、そこはコクピットであり妾の胃じゃ。五分でお前は消化される」
「結局死ぬんじゃねぇかあああああああ!!」
ボクは絶叫した。生きながら消化されるとか、とんでもなく嫌な死に方だ。あのまま落下してたほうが楽に死ねただろうに。
「さぁ、死にたくなかったら五分であいつを倒すがいい」
それは脅迫だった。こんな腐った根性の幼女がいていいんだろうか。
しかし、ボクはまだ死にたくない。
頬を引きつらせながら、ボクはそのシートに座った。
汗ばむ手で、操縦桿を握る。
モニターに映るのは、狂ったように涎を垂らす犬人間。
ボクは目を閉じて、天を仰いだ。
そして、戦いが始まったのだった。
つづく!
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これがボクの考えた最強の魔法少女です。
だれか魔法少女の絵かいてくんねーかなぁ。
しかし、幼女を出しておけばなんとかなるみたいな考えなのはもうだめかもしれない。