長安に撤退した俺達は道中で霞たちと合流、ついで長安の都では翠達涼州の軍とも合流した
撤退してきた当初は連合軍の追撃を危惧していたが噂によると洛陽についた連合軍は曹操により黒幕の張譲の存在が明らかになったことにより、空中分解したと言う
(予想とは違う結果になったけど、結果的には曹操に書状を送っておいて良かったな)
史実では、曹操は張譲の家を強襲するほど仲が悪かったので半分賭けで「袁紹を操り、張譲が暗躍。天子殺害、洛陽暴政の噂の黒幕は張譲である。この報を聞き、曹操はどう動く?」と半ば挑発めいた文を送っていたのだがうまく曹操のプライドに火をつけられたようだ
ともかく反董卓連合が瓦解したという事で俺達は洛陽より避難していた人々の生活の安定などを含めた戦後処理に着手した
そして河東の代理太守になっていた王匡さん、そして今回援軍を送ってきてくれた涼州の馬騰さんも月に恭順の意を示してくれ、ここに月による大陸北西の統一がなった
その上馬騰さんは翠と蒲公英を董卓軍に出仕させると言ってきてくれて二人は正式に董卓軍の仲間入りを果たしたのだった…
月 詠 幕間
「…はぁ~~」
私、賈文和こと詠は悩んでいた
「何でこの僕があいつのことなんか…」
董卓連合との戦後という事で事後処理の仕事が山のようにあるのだが全く手につかなかった
こんなんじゃいけない…と頭を振って仕事に集中しようとするのだが直ぐにまたあいつの顔が頭に浮かんできてしまう
「ああ~!!もう!!」
あいつの事ばかりが頭に浮かんできてしまう
僕が史実の未来を恐れていたときに僕と月を守るといってくれたあいつの笑顔
見ず知らずの人を助けるために暴漢に立ち向かっていったあいつの後姿
あの時、僕を背負ってくれた背中のぬくもり…
(って何考えてんのよ僕は!!)
自分の親友である月があいつに…一刀に惚れているのは明らかだ
そんな彼女の気持ちを知っている僕が月の、親友の恋路を邪魔する訳にはいかない…ましてや割ってはいることなんてしていいはずが無い
僕のこの気持ちは自分の心の中だけに留めて置かなければいけない…と考えていると扉を叩く音が聞こえた
「だ、だれ!!僕は今忙しいんだけど!!」
慌てて僕が怒鳴ると、扉の向こうから親友の声が聞こえた
「忙しい所、ごめんね。今ちょっといいかな詠ちゃん」
「最近詠ちゃんの様子がおかしいって一刀さんに聞いてきたんだけど」
(あ、あんのぼけは余計な事を!!そもそも誰のせいでこうなっていると…)
ここにいない鈍感男に怒る詠…その様子をみて確信を持ったような顔をして月が語りだす
「あのね、詠ちゃん…私は一刀さんのことが好き」
「!!」
いきなりの親友の告白に驚く詠、だが月は気にせず続ける
「もちろん、仲間としてじゃなく男の人として一刀さんのことが好き」
「へ、へぇ~。そうなの。あんな奴の何処がいいのかわかんないけど、月がいいならいいんじゃない?」
詠が声を震わせながら言う…そんな彼女を月が咎める様な真剣な眼差しで見つめながら語りかける
「詠ちゃん。それ、本心?違うでしょ?」
「そ、そんな事無いわ!!僕はあんな奴の事…」
「詠ちゃん」
なおも月が見つめ続ける…その眼差しに観念したのか詠はぽつぽつとしゃべり出す
「ほ、本当は、僕も、あいつの…一刀のことが、好き…。でも月もあいつの事好きなの、知ってたから、僕…」
そういって後半は涙ぐんできてしまった親友を月は優しく抱きしめる
「ゆ、月…?」
「正直に話してくれてありがとう、詠ちゃん。でも、そんな理由で詠ちゃんが諦めるなんてそんなの嬉しくないよ…。私達、親友でしょ?」
「で、でも…」
「一人で幸せになるより、二人で幸せになった方が私、嬉しいよ」
「え…?」
「二人で頑張ろう?詠ちゃん…。一刀さんなら大丈夫、きっと私達二人とも受け入れてくれるよ」
そういって親友の背を優しくさする月
…暫らくそうしてもらい落ち着いたのかいつもの調子に戻って詠が言う
「ゆ、月がそういうなら仕方ないわね!それにこの僕と月が組めば一刀なんてイチコロなんだから!!」
「うん!その意気だよ、詠ちゃん。私も頑張って、この国の法律を一夫多妻制にして見せるから」
ビシッッ!!…と突然の親友の発言に固まる詠
「…は?ゆ、え?どうして…」
へ?と首を傾げつつ答えるゆえ
「だって一刀さんを想ってるのは私と、詠ちゃんと恋ちゃんもそうだし、華雄さんも帰ってきてからそんな雰囲気がするし霞ちゃんとねねちゃんはまだわかんないけど…」
「そうじゃなくて!!何処でそんな言葉を…!!」
「え?…ああ、一刀さんが前言ってたんだ。天の国でも昔の権力者は一夫多妻制だったって…」
ぽっと頬を染めつつそう答える親友…それをみてナワナワと震える詠
「あ、い、つ、はー!!月になんてこと教えんのよーー!!」
勢い良く部屋を出て行く詠…怒ってはいるがその顔は憑き物が落ちたかのような晴れやかな顔だった
「もう、詠ちゃんたら…まってよ、詠ちゃーん!!」
そんな彼女に苦笑しつつも、恐らく彼のところに怒鳴りにいったであろう親友を追う月だった…
華雄 幕間
「あの、一刀さん。華雄さんの事でちょっとお願いしたい事があるんですけど…」
俺が非番の日に部屋で暇をもてあましているとそう月に相談された
「華雄の?何かあったの?」
「そういうわけじゃないんですが…。一刀さんは華雄さんに真名が無い理由を知っていますか?」
「うん。本人に聞いた事があるよ。それがどうしたの?」
あれは洛陽に向かう前、天水にいたときだっただろうか、たしか鍛錬の途中に聞いた事があった
「そうでしたか。実は相談とはその事で…華雄さんが私たちのことを真名で呼んでくれるよう、一刀さんに説得して欲しいんです」
確かに華雄は自分が真名が無いからと皆の事を普通の名前で呼んでいるのだが…
「何で今更?いや確かに華雄が気を使って皆と壁ができるのはよくないと思うけど…それに何で俺?」
華雄が皆を真名で呼ぶようになれば確かに今よりも皆とより親密にはなれるだろうがなぜ今更、しかも自分たちで無く俺に説得しろというのだろう
「実は昔から私や詠ちゃんは華雄さんに真名で呼んでもらうようにいってるんですが自分には返す真名が無いからと断られ続けてるんです」
「いや、それなら尚更無理なんじゃ…」
「そんな事ありません!華雄さんは一刀さんと会ってからは少し変わったように思いますし、洛陽から帰った後の華雄さんの様子の違いから見ても一刀さんから話して貰えば何とかなると思うんです!」
そういって力説する月だが俺にはいまいち分からなかった
「様子が違う?…華雄なんかあったのか?それにここまで話を聞いてても俺が説得して上手くいくっていう根拠が見えないんだけど…あ、そうか!俺も華雄と一緒で真名が無い同士だからか?」
やっと思い至った考えを自信満々に披露する俺だが…なんか月に信じられないといった目で見つめられる
「…はぁ、鈍感な一刀さんに分かってもらおうと思った私が間違ってました。いいですから一刀さんは華雄さんにその事を話してきてください!いいですね!」
そういって怒る月に部屋から追い出されてしまった…ここ、俺の部屋なんだけど…
「まあ、どうせ暇だったんだしいっか。今の時間なら中庭に行けばいるかな…」
最近は軍の仕事に加えて、詠から軍略の指導を受けたり霞や恋と戦闘訓練をしている華雄だが今の時間なら中庭で自主練習をしているだろうとあたりをつけ、俺は中庭へと向かった…
「ふっ!はぁあ!!」
そんな俺の予感は的中、華雄は中庭で素振りの最中だった
「やあ、華雄」
「むっ…か、一刀か。どうした、こんな所で散策か何かか?」
なんかよそよそしい態度ではなす華雄…これが月のいってた様子が違うって所か?
「いや、華雄に話があってね。探してたんだ」
「わ、私をか?…そ、そうか、それで話とは何だ?」
そういって顔を真っ赤にしながら俯く華雄…なんだ?訓練のし過ぎでのぼせたんだろうか
「ああ、月から相談を受けてね。ちょっと時間いいかい?」
そう聞くのだが…さっきとは一変、がっくりとうなだれる華雄
「ど、どうしたんだ?さっきから」
「いや、こちらの問題だ。時間なら大丈夫だから気にせず続けてくれ…」
明らかにテンションが下がっている華雄だが本人が気にするなというんだから、と俺は話を進める
「話っていうのは月たちの真名の話なんだ。華雄は皆の事普通の名前で呼んでるよな?」
「…ああ、私は皆に返せる真名が無いからな」
そういって少し暗い顔をする華雄
「でも、皆は華雄に真名で呼んで欲しいっていっているぞ?俺だって真名は無いけど皆のことを真名で呼んでるだろ」
「一刀はその名が真名のような者なのだろう?…だが私の名は…」
「華雄は華雄、だろ?」
え?っとこちらをみる華雄
「華雄、君の名前は親にもらったただ一つの名前だろう?違うかい?」
「…いや、違わない。この名は羌族だった母上から貰ったただ一つの大切な名だ」
「それなら、その名前が君の真名…それでいいと思うんだ。確かに信頼関係以外の人にも呼ばれるって所は真名とは違うけど、それでも自分自身の大切な名前だって事は変わらないと俺は思うんだ」
「一刀…」
それに、と俺は続ける
「皆、華雄を信頼して、仲間だと思っているから真名で呼んで欲しいんだと思うよ。返せる真名がないだなんて誰も気にしていないし、君には華雄って言う立派な真名があるだろ」
そういって俺が言う…そういうと感極まった顔をして華雄が答える
「…また、一刀に教わってしまったな…。その通りだ、私の名は、華雄は私の唯一つの大切な名だ。その事に気付かず、董卓様…いや、月様にはご心配をかけてしまったようだ」
「華雄。。。「華雄さん!!」わっ!」
俺がしゃべろうとしたその時、背後の物陰からいきなり出てきた月が華雄に飛びつく
「やっと私のことを真名で呼んでくれましたね…嬉しいです!」
「ゆ、月様!?なぜここに…」
「僕たちもいるわよ」
そういって物陰から出てくる詠…それに続いて霞、恋、ねねとぞろぞろと出てくる
「なっ!!き、貴様等いつの間に…!!」
「幾ら気配消しとったいうてもこの距離きづかんなんて修行が足りへんで華雄。あ、ウチの事も霞って呼ぶんやで?」
「恋のことも、恋って呼ぶ…」
「お前は頭が固すぎるのです!!もちろん、ねねのこともねねってよぶですよ!!」
「お、おまえら…」
「ねねのいうことももっともよ華雄…もちろん僕のことも詠って呼びなさいよ」
そういって笑いかける皆に、今度こそ感極まって泣きそうになりながら華雄が言う
「ああ、これから、よろしく頼む、月様、詠、霞、恋、ねね…そして、一刀」
この瞬間、俺は本当の意味で華雄と仲間になれたと思ったのだった…
ねね 幕間
「お、いたいた。詠!ねね!…ってなにやってるんだ?」
ある日、俺は詠とねねを探していた
あの戦い以来、自分の無力さを思い知った俺は二人に軍略を習っているのだが、部屋に見当たらないので中庭まで探しに来た所、チェスのような物をしている二人を発見したのだった
「う、うがー!!何で勝てないですか!!」
「ふふんっ。実力の差ってやつよ」
悔しそうに喚くねねと勝ち誇った顔をする詠…遠目から見ても勝敗は明らかだった
「よっ!何してんだ?」
そんな二人に話しかける俺
「あら一刀じゃない。今ねねと将棋を指してたとこだったのよ」
「へぇ、俺の知ってる将棋とは少し違うんだな…」
盤を見ると日本の将棋とは違い騎馬なら騎馬を形どった駒を動かすゲームのようだ
「それで!!一刀は何の用なのです!?」
まだ怒りが収まらないのだろうか、ねねが怒りながら聞いてくる
「そうそう、詠たちに軍略について教わりたいと思ってるんだけど二人は時間あるか?」
「私は今から仕事があるんだけど…。そうだわ、ねねなら暇なはずだから、この将棋を教わって訓練するといいわ」
名案とばかりにいう詠にねねが反論する
「暇とは何ですか暇とは!!大体なんでねねが…」
「だってねね非番でしょ?恋は調練中でいないし…。それに人に教えるのは自分の為にもなるから、あんたでも少しはマシになるでしょう…じゃあ僕は行くからねね、頼んだわよ」
俺やねねが何かいう暇も無く、さっさと行ってしまう詠
「…えーと、それでねね?お願いしてもいいのかな?」
「…癪ですが暇なのは事実なのです。仕方ないから教えてやるのでさっさと座るです」
ぶすっとした声で言うねねに苦笑しながらも教えてくれるならと席に座るのだった
「だから違うのです!!何回言ったら覚えるのですか!!」
「悪い、悪い。こう、だったな」
最初は駒の動かし方を覚えるので精一杯でねねに怒られてばかりいたが、暫らくして何とか動かし方を覚えた俺はねねに教わりつつ将棋を打っていた
そうして一通りルールを覚えたので試しに模擬戦という形で試合をする事にしたのだった
「……」
「うーん、どうすべきか…。ん?ねね、どうかしたのか?」
試合が始まり、中盤に差し掛かった頃から急にねねが無言になるので気になった俺は聞いてみた
「…前から思ってたですが、お前はどうして怒らないですか?」
「は?」
突然の話に全くついていけず、ぽかんとする俺にねねは更に問いかける
「ねねはあまり口が良いほうではないですし、体も大きくは無いです。ですから皆、ねねが何か言うと馬鹿にされたとばかりに怒ったのです。でも、何で一刀はねねが暴言を吐いても怒らないですか?」
「なんでって…ねねは仲間だろう?信頼してる仲間になにか言われたって怒るほどじゃないだろうし、ましてや人の身体的特徴を馬鹿にするなんて最低だろ?俺には何でねねがそんな事言い出したかの方が疑問だよ。もしかして、友達にそんな奴がいたのか?」
俺の問いかけにねねは、悲しそうな顔をして答える
「それどころか、ねねには友達がいなかったのです。恋殿と会うまでは皆に馬鹿にされてたのですよ」
「…でも今は友達がたくさんいるじゃないか」
「いえ、恋殿は尊敬する方ですので友達などとは…」
「そんな事無い」
即答する俺を、え?とみるねね
「恋はねねの事を大事な友達だと思ってるさ。それに月や詠、華雄に霞もだ。もちろん俺だってねねの事、大切な友達だと思っているよ」
「ほ、本当なのですか?」
「こんな事、嘘で言うはず無いじゃないか。胸を張っていえるよ、ねねは大事な友達だ。ってね」
そういって笑いかけるとねねは俯いて肩を震わせる
「お、おい。どうしたんだ?ねね」
「うぅ…そ、そんなこと初めて言われたです」
そういってついには泣き出してしまうねね
「…全く、そんな当たり前のことで泣くなよ」
そういって苦笑しながらも、嗚咽をもらすねねの背中を優しくさすってやるのだった…
暫らくして落ち着いたねねは、さっきのやり取りが恥ずかしかったのか、開口一番「さっきの事は忘れるです!!」といって顔を真っ赤にしていた
そんなねねに苦笑しつつも俺はある提案をする
「なあ、ねね。この将棋なんだけどまた暇があったら教えてもらっても良いかな」
「何なのですか?急に」
「いや、さっきの詠の勝ち誇る顔を見てたら意地でも勝ちたくなってきてな。ねねとふたりでいつか詠をギャフンと言わせてやろうぜ」
その俺の提案にねねは
「フンッ!ねね一人でも詠をやっつけるのは簡単ですが…と、友達の頼みなら仕方ないのです。協力してやるですよ」
顔を真っ赤にして威張るねねに苦笑しつつも打倒詠に向け特訓を開始する俺たちだった…
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董卓IF√幕間第四話です
誤字脱字、おかしな表現等ありましたら報告いただけると有難いです