No.144011

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 二十の章 前編

Chillyさん

双天第二十話です。

戦になると前後編とかになる双天です。本来はもうちょっと話を進めてからUpしようかと思いましたが、ここで切ったほうがいいような気がしたのでここで切ってしまいました。汜水関を巡るこの戦いが始まり、晴信はどうなっていくのやら。

どうにも冗長気味ではある気がしますが、皆様長い目で見て、許してください。書きたいことはあるのに文才がこんなものなので、冗長かつ意味不明な軽い文になってしまうのです。(TT)

2010-05-18 22:56:36 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:1584   閲覧ユーザー数:1447

 汜水関から李粛の部隊が出陣したのが、伯珪さんが孫策の陣を出て五日後。思ったよりも早い出陣だった。三国志では一月以上の期間があったと一刀は言っていたはずだから、正直一、二週間はこの陣にて準備できると思っていた。だからこの早さはすこし意外だった。

 

「ふむ……。情報を錯綜させすぎたのやもしれん。だからこちらの準備が整う前にと早々に出陣したか」

 

 という分析を周瑜がしていたけれど、袁紹がいつ催促してくるとも知れないことだし、早いに越したことはないかもしれない。そういった意味でもこの早い出陣は歓迎だった。

 

 李粛の部隊を極力、この陣まで引き寄せてこちらは戦うつもりでいるため、会敵予想時間は明日の正午過ぎ。相手側も陣を張ったりすることを考えれば、戦闘開始は明後日の朝以降となるだろう。今日あたり追加の兵糧が届けられるはずではあるので、今夜はちょっと景気付けに豪勢な食事にしようと提案してみよう。

 

 士気を上げるためにするといえば、周瑜とて断るまい。

 

「え? 酒盛り。そんなことやるに決まってるじゃない。なぁんだ天の御遣いなんて言われているから、もっと堅苦しい人間かと思ったら、案外話せるじゃない」

 

 孫策と周瑜が話し合っているところで、この提案をしたのがまずかった。孫策はとたんに上機嫌にオレの肩をバシバシと叩くと、今までしていた話し合いなど知ったことかと言わんばかりに天幕から飛び出していってしまった。

 

 残されたのは渋い表情でオレを睨む周瑜と常時厳しく眉を顰めている甘寧との三人だけ。

 

「御遣い殿。そういった話は伯符がいないところで、私にして欲しかったな。却下するつもりはないが、あれでは伯符が仕事をしなくなってしまう」

 

 クドクドとお小言を言われる羽目になってしまった。

 

 とりあえず残っていた酒と食料を全て出し、火を焚いて暖かい食事を作ることも今日に限っては解禁する。

 

 兵士の何人かが黄河へ魚を釣りに行き、林へ木の実や茸を採りに行って宴の食事に色を添える。今日だけは穴掘りをしないで、そちらに力を入れさせた。

 

 宴が終われば、穴の中に入り、敵が来るのをジッと待たなければならないのだから、少しくらい羽目を外させてやっても罰は当たるまい。

 

 後は伯珪さんのところにも伝令を送って、あちらの動きに合わせて横撃を仕掛けてもらえば李粛の部隊を倒すなんて簡単にできるはずだ。

 

「御遣い殿。なにか勘違いしてはいないか? 私たちは目の前にいる小勢を倒すために来ているのではない。汜水関を落とすために来ているんだ。華雄率いる三万の兵が未だ関にいるのに公孫賛の軍をうごかすわけがあるまい」

 

 周瑜に思ったことを言った瞬間、ため息をつかれた。それから物分りの悪い子供を見るような目でオレを見ながら、オレたちの目的を再確認してきた。汜水関を攻め落とすことが目的なのは当然オレもわかっている。しかしここで李粛を抑え、伯珪さんに横撃を仕掛けてもらえばこちらの被害が少なく二万という相手の数を倒すことは可能であると思う。そうなれば関にいる三万よりこちらの数が多くなるのだから、関を落とすことが可能になるのではなかろうか。

 

「楽観主義すぎるな。たしかに李粛を倒すことはできるやも知れない。だがそれで華雄が関に閉じこもってしまえば、関を落とすのに時間がかかり虎牢関から援軍を招き入れることになる……」

 

 周瑜の説明は現実を見ていた。連合の実情、自分たちの状況、互いの戦力等といったものを全て包括してオレに説明してくれた。たった一度の敗北が連合には命取りであることを、オレは今更ながらに実感したようなものだ。

 

 なんとしても華雄を関から誘き出すためには、こちらが数で相手を圧倒するような戦い方をしては出てくるものも出てこなくなってしまう。だからこそ伯珪さんの軍を華雄が出てくるまで隠し、孫策の軍のみで李粛の相手をしなければならない。

 

「御遣い殿。策を考えるものは一つの方向から物事を見るのではなく、数多の方向から見なくてはいけない。そうでなければ余計な兵を殺すことになる」

 

 自分の陣営でもないオレに忠告をしてくれた周瑜は、甘寧を伴い天幕を出て行った。きっと暴走し始めているだろう孫策を諌めに行ったんだろう。

 

 一人残されたオレは、周瑜のくれた忠告のことを考えた。いかに自分のものにこの忠告をできるか、周瑜の知恵を少しでも吸収できるかは、しっかりと自分なりに考え、咀嚼することが大事だと思う。

 

 だんだんと兵士たちが酒を飲み、暖かい料理に舌鼓を打つ喧騒が聞こえてくる中、じっとオレは己の手を見つめ、この手にこの肩に乗った人の命の事を考え続けた……。

 

 李粛の部隊は予想通りの日時に、この孫策の陣のそばに陣を敷き、睨み合いから今回の戦は始まった。

 

 こちらは陣の前に作った土壁に半分隠れるように兵を展開して弓を構えさせた。李粛の兵は二万の兵を大きく三つに分け本隊を真ん中に置き、その前方左右に広がるように二つの部隊を展開させている。

 

 土壁の後ろを警戒するようにじわりじわりと歩を揃えて進軍する李粛の軍も、前衛に弓を構えた歩兵と盾を構えてその弓兵を守る歩兵を置いている。まずは弓の射ち合いでこの戦が始まるということだろう。

 

 弓を打ち込みこちらの陣形を崩した後、後ろに控えていた騎兵を突撃させ、その突進力をもって孫策の軍を切り裂く。

 

 そういった思惑が李粛にあるんだろう。

 

「告げる! 李粛の軍は弓兵を前面に鶴翼に展開。騎兵は中央本陣にて待機」

 

「告げる! 周泰隊、準備良し。展開終了いたしました」

 

 次々と伝令が様々な報告を持ってやってくる。

 

 伝令が持ってくる情報の真偽を一つ々々周瑜はしっかりと、しかしすばやくとっていた。情報の取捨選択を細かいところまで確認を取ることで決めているのがよくわかる。

 

 盾を構え少しずつ前進する歩兵の後ろから弓を射掛ける李粛の兵に負けじと、こちらも土山から顔を出して弓を射る。矢は放物線を描きそれぞれの陣に降り注いでいく。

 

 降り注ぐ矢の一本は盾に防がれ、土山に突き刺さり、李粛の兵の腕に刺さり、こちらの兵の胸に突き刺さった。

 

 兵が近づいてくるにつれ、放たれる矢が物理的に量を増していく。

 

 陣形を整えて整然と行軍する兵は、順々に弓を構え矢を放っていく人数を増やし、こちらの兵を次々と射殺していった。

 

 相手の本命だろう騎馬隊を投入されていないにもかかわらず、数を減らす自軍。

 

「告げる! 李粛の軍、両翼を広げこの陣を包囲。中央にて騎馬隊に動きあり」

 

 次々と舞い込む自軍不利の伝令が飛び込んでくる。

 

 周瑜はそんな報告を受けても表情を一切変えることなく、動こうとしない。厳しい表情で睨み付けるように前線の戦いを見る。

 オレもなにか打開策はないかと考えるが、何も浮かばない。きっと周瑜にならなにかしら浮かんでくれると思うも、ジッと前を向いたまま未だ動かない。

 

「周瑜、動かないのか? なにかやらないと……」

 

 オレの言葉を無視して周瑜は何も言わない。

 

 その間にも次々と矢に倒れていく味方の兵士。

 

 近付いた前衛同士は各々弓を放し、あるものは腰に佩いた剣を抜き、あるものは戟を取った。

 

 戟を打ち合う音がそこ彼処から響き渡る。

 

 李粛の兵の前衛に蹴り崩される土山。

 

 穴に隠れている兵士たちはどうなったのだろうか。本陣にて戦況を見つめるオレたちにはわからない。

 

 オレには無事を祈ることしかできないが、楽観主義で大丈夫ということはできそうもない。

 

「なんで動かないんだよ、周瑜! こうやっている間にも味方はやられているんだぞ」

 

 焦れたように叫ぶオレをまだ無視し続ける周瑜。

 

 何を待っているかわからないが、もうオレは黙っていることなどできない。撤退の銅鑼を鳴らすため、近くにいる兵に指示を出す。

 

 しかし兵はオレの指示に従わず、動こうとしない。

 

「味方がやられているんだぞ。何で動こうとしないんだよ。……もういい、オレが鳴らしにいく」

 

 兵の胸倉を掴み、怒鳴りつけるも兵はオレの命令を聞こうとしない。確かに今オレに命令権はないけれど、この状況で動かないのはどう考えてもおかしいはずだ。オレは兵が動かないならば、自分で銅鑼を鳴らすべく胸倉を掴んでいた兵を突き飛ばした。

 

「御遣い殿を拘束、後方に移送しろ。邪魔だ」

 

 周瑜が銅鑼を鳴らしにいくオレを拘束するよう周りにいた兵に命令する。この命令は迅速に実行され、暴れるオレの腕を取り、その腕をひねり上げ押さえつける。

 

「周瑜! なんでこんなことをする。なんで動かない!」

 

 二人の兵に腕を押さえられ、引き摺られながら周瑜に向かってオレは叫んだ。足を踏ん張り頑張ってみるも、じりじりと引き摺られていってしまう。

 

 穴を掘っているときに話した兵士の顔、食事を食べながら話した兵士の顔がオレの脳裏に浮かぶ。

 

 妹が今度子を産むんだと笑って話していた兵士、オレのことを天の御遣いと祈っていた兵士が思い出される。

 

 彼らのことを思うと、動かない周瑜に憤りを通り越して悲しみを感じて目に涙が浮かぶ。

 

「周瑜!」

 

 オレの叫びも周瑜はジッと目を瞑ったまま何も言わない。その毅然とした姿がだんだんと滲んでいく。何もできないことが悔しくて悔しくて仕方がない。

 

 ずるずると引き摺られるオレの横を伝令の兵が一人通り過ぎた。

 

「告げる! 甘寧隊、準備よし。展開終了しました」

 

「銅鑼を鳴らせ! 全軍撤退する。天幕に火をつけよ!」

 

 報告を聞いた周瑜はカッと目を見開き、張りのある声で周囲の兵に指示を飛ばした。

 

 その途端に鳴らされる銅鑼の音が響き渡り、戦の動きを変えていく。

 

 孫策の兵は銅鑼の指示に従うべく、迫りくる李粛の兵に猛攻をかけ圧力をかける。その圧力に一時李粛の兵が下がった隙に素早くそして粛々と撤退を開始していった。

 

 天幕に火をつけたことは李粛の兵の混乱をさらに助長させ、撤退をしやすくさせた。

 

 ここに周瑜の指揮の下撤退するオレたちと李粛の兵との命をかけた鬼ごっこの幕があけた。


 
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