No.143514

双天演義 ~真・恋姫†無双~ 十九半の章

Chillyさん

双天第十九.五話です。

今回はとても短いです。第十九話と一緒に書いとけよとか、言われるかもしれませんが許してください。
とりあえず戦いの前に前回、晴信が孫策の陣に行った理由とか、これからの戦いに使うネタ仕込とか……。(仕込みというよりモロだよね)
あと晴信の成長の方向性を説明も兼ねております。

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2010-05-16 15:00:32 投稿 / 全2ページ    総閲覧数:1602   閲覧ユーザー数:1507

 華雄を本当に汜水関から誘き出すことができるのか、オレにはわからない。

 

 でもできることをやるしかないこともわかっている。

 

「幽州の御遣い殿は、なぜこの陣に残ったのかな?」

 

 汜水関をジッと眺めていたら後ろから声をかけられた。警戒しているような硬質な声で聴いてきていても、疑問の答えをきっとわかっていると思う。周瑜の眼鏡が光を反射してその表情を隠しているだろうけど、きっとその目は厳しい光をたたえオレを睨み付けるように見つめていることが手に取るようにわかる。

 

「表向きは貴女と協議を密にして汜水関を落とすこと、あとは一応天の御遣いとして名が通っているから、オレがいることで少しでも士気が上がればいいかなとね」

 

 周瑜の方を見ず汜水関を見たまま答える。

 

「表向きか……。さすがに本音を堂々とは言えないか」

 

「さすがに言えないでしょ。まぁ貴女がわかっているなら構わないんじゃないですか?」

 

 裏向きの理由は、オレが伯珪さんが孫策に送った人質というものだ。だからそんなことを言えるはずがない。

 

 いくら連合として表向きまとまっているとはいえ、信頼しあっているわけではない。特に今回のような作戦の場合、孫策側にしてみれば切り捨てられることを常に気にしなくてはならない。その心配を少しでも無くし、伯珪さんを信頼してもらうために人質が送られた。

 

 この人質はオレよりも伯珪さんの従妹である越ちゃんのほうが適任だとは思うが、オレが選ばれたのは表向きの理由がかかってくる。だからこそ表向きの理由も嘘ではない。

 

「たしかに上の人間が把握していればかまわないな。……で、御遣い殿はこのひとつの策のみで華雄を誘き出すことは可能と見ているのかな?」

 

 周瑜の問いかけはさっきまで考えていたことで、オレは自信を持って答えられることが一つある。この策だけでは絶対に華雄を誘き出すことはできないということだ。

 

 鳳統ちゃんが言うにはきっと周瑜のことだから何かしらすでに手を打っているということだったけど、実際はどうなんだろうか。

 

「ふふふ。さすが鳳雛と司馬徽が呼ぶのがわかる。この場に居ないにもかかわらず先を見通すか」

 

 周瑜に正直に鳳統ちゃんの名前も含めて答えたら、連合本陣のある方向を見ながら嘆息していた。

 

 伯珪さんがこの陣を出た瞬間にその表向きの顛末と兵糧不足の情報と、まったく正反対の情報、その両方ともこちらの策略であること、仲違いは本当だが兵糧不足は嘘など様々な情報を同時に相手の細作に流したという。さすがは周瑜というところかな。

 

 これがもし仲違いと兵糧不足だけの情報であれば、タイミングが良すぎるためきっと疑われる。けれども様々な情報を一気に流すことでどれが偽者でどれが本物かわからなくなる効果がある。どれも信じなくても構わない。人は見たいものを見て、信じたいものを信じるものだから、もしかしたらぐらいに思ってくれたら儲けものだ。

 

「さすがですね。もしかして今も情報を流してます?」

 

「もちろん。幽州の御遣いがこの陣にいるという情報もきちんと流しているぞ。あとは何を流したかな」

 

 そう言って周瑜はオレに片目を瞑って笑顔を見せてくれた。

 

 孫策の陣に入り二日目以降、孫家の兵を使っていろいろと準備をしておく。

 

 陣の周囲に二、三人入れるくらいの穴を各所にどんどん掘ってもらう。その穴にとりあえず盾に使う板を置き蓋をしておいた。この穴は落とし穴として使うつもりはない。何に使うかというと、この穴の中に槍を構えた兵士を隠し、騎馬が上を通ったときに槍を突き出すことで奇襲することができる。

 

 もちろん掘り出した土も無駄にせず、しっかり利用させてもらう。馬が通ることを嫌がることを期待して膝ぐらいの高さにしっかりと固めながら土を盛る。この小さな土山は兵士が待機する穴と穴の間に作り、この穴の上に騎馬が通るようにしてある。

 

 他にも野戦築城に役立つよう考えるけれども、なかなか良いアイディアが浮かばない。有刺鉄線とかあれば何かできるかもしれないけれど、無いもの強請りしても仕方がない。あるもので考えていかなければいけない。

 

「御遣い殿。一つ忠告しても良いかな? 餓えに苦しんでいるはずの部隊がここまでしっかり働いていいものなのかな」

 

 この一言の忠告にオレはへこんだ。

 

 ここまで自分のやったことが空回りしているとは考えなかったけれど、本気で空回りしていたのか。

 

 周瑜に相談したら笑って、まだ大丈夫だと言ってくれたけれども、“まだ”ということは大丈夫じゃなくなる可能性も十分あったわけで……。

 

 本当に何が全体の策にとって有用で、何が有害なのかを見る目が軍師には必要なのだとよくわかった。

 

 そんなドタバタ、主にオレのミスだけれども起こりつつ、汜水関の華雄が動くまで待っていたオレたちに待っていた吉報が舞い込んでくる。

 

“汜水関から李粛率いる兵士二万出陣”

 

 きっと鳳統ちゃんと考えた策はうまくいく。

 

 周瑜が細かいところを詰めてくれたので、汜水関を落とせる。

 

 そう自分自身に言い聞かせた。

 

 オレ自身、どこまでやれるかわからないし、どこまで戦えるかわからない。

 

 きっと覚悟がきまっているとは言えないけれども、それでもここにいる責任を果たしたい。

 

 このように始まったこの汜水関をめぐる伯珪さんと孫策連合軍対華雄率いる董卓軍の戦いは、今まで一番厳しいものとなった……。


 
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