No.143397

【BL】王子と伴侶のとあるゴールデンウィーク

魔界の王子様シヴァは超偏食症。主食はなんとえっち中の相手の精気! そんな王子をトリコにしたのは「極上の精気」を持つ人間、深雪(♂)だった。
そんな魔界王子×人間のいちゃラブ(似非)ファンタジー『LET'S EAT!!』
この作品は、2010年春発行の同人誌(無料配布本)に掲載したものです。

2010-05-16 01:41:10 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:635   閲覧ユーザー数:629

「コイ、ノボリ?」

 シヴァがたまたま人間界出張に深雪を連れ出したとき、そこは初夏・五月だった。

 あちらこちらに風にたなびく魚の形の吹流しを見て、シヴァが深雪に問いかけたのだ。

「そう、鯉のぼり。魚の形をした吹流しのことだよ」

 とある街中の商店街を歩きながら、上から吊るされた鯉のぼりを眺めて深雪が頷く。

「なにか意味があるのか?」

「だいぶ簡略して、子供の健やかな成長を願う、って感じ。魔界にはそんなのないの?」

 ゆらゆらと頭上でゆれる鯉のぼりを眺めて、深雪が問いかける。

シヴァは軽く首を傾げて考えるように視線を上向けた。

「ないわけではないが……こちらは戴剣式というものがあるな」

「なに、そのタイケンシキって」

 聞きなれない言葉に深雪が眉を潜める。

「子供が初めて剣を持つことが許される日だ」

「……魔界って時々堅苦しいよね」

「そうか?」

 辟易とした様子で告げた深雪に、シヴァがまたわからないと言うように首を傾げた。

 なによりも、魔界でイベントがある際は、たいてい王族がかかわっているので、シヴァが多忙になる。

 すると、深雪はその間おとなしく待っていなければならない、という図式が成立するのだ。

 いつぞやのお正月もそうだった。

 深雪はそれを思い出し、軽くむにゅっと唇を尖らせて、商店街の石畳を歩く。

「深雪も、幼い頃はあれを飾ったのか?」

 興味があるといった風情でシヴァが問いかけるのに、深雪は今度こそ眉間に皺を深く刻む。

「……おれは、どっちかって言うと」

 言いにくそうに視線を逸らしてから、諦めたように息を吐いた。

 このままここで逃げても、夜の食事がしつこくなるだけだ。

「女の子に間違えられるくらいとても可愛かったので、振袖着せられたり、スカート穿かされたり、した」

 幼い頃を思い出したのか、『だから女装は嫌い』と半目で告げる深雪に、きらりん☆ とシヴァの目が光る。

「そうか、じゃあ深雪。行こうか」

 きゅっと手を強く引かれて、思わず深雪の体が傾ぐ。

「ちょ、ちょ……まっ、どこ行くの?」

 今日の予定は、これから宿泊用のホテルに行って。

 シヴァはその後所用を済ませ、深雪はその間、久しぶりに人間界を出歩こうということになっていた。

 なのに、そんな深雪の問いかけはなんのその。もうシヴァに指先は一つの店をさしている。

 

【呉 服 店】

 

 そう書かれた看板を見て、深雪は眉を寄せた。

 あまり人間界に詳しくない魔界の王子様。

 それなのに、どうして指をさしたその店が、着物を作るために非常に関わりの深いところだと知っているのか。

「フリソデとは、ユカタとよく似たものなのだろう?」

 脱がせやすい、手を入れやすいと大変お気に入りの寝間着を思い出したのか、シヴァがうっとりしながらそう告げた。

「もう、やだ、この人!」

 

 果たして。

 その日の夜の王子様の食事に、振袖は間に合ったのかとか、伴侶殿は振袖で美味しくいただかれてしまったのか、とか。 

 それはまた別のお話。  

【了】

 


 
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