三ヶ月前、三人の御遣いは命を賭して戦争を終結させた。
三国同盟、それは人々は平和へと歩み出した証だった。しかし代償はあまりにも大きかった。
「ご主人様・・・」
愛紗はこの三ヶ月上の空であった。他の蜀の将もほとんど同じく、璃々は笑顔すら浮かべない。
今日からここ成都で三国同盟の定期会談が始まるのだ。愛紗も警邏の途中だが城門に立ち寄ったのは、戦争を終結させた彼が好きだった場所だから。
「・・・鈴々」
先客は手のかかるかわいい妹だった。鈴々は空を見上げている。
「天の国ってどれだけ遠いのか、鈴々にはわかんないのだ」
鈴々はいつも笑顔を忘れなかった。その彼女がこれではかなりの重傷だ。
鈴々を後ろから優しく抱きしめ、頭を撫でる。
「鈴々、思いすぎるのもよくない。ご主人様は・・・」
言葉は続かなかった。
思いたくない。言いたくない。理解したくない。何よりも傷付きたくない。
様々な感情が愛紗を支配していた。
しかしその思考は成都を襲う突然の地震で中断する。
「愛紗!この地震は・・・あいつらなのだ!」
鈴々がそう声を上げると、異形の形をした二脚兵器が城門に降り立った。
一話・外 希望 ~Into the World~
「この、なのだ!」
「くっ・・・」
街が異形の二脚兵器に包まれていた。愛紗と鈴々は彼らに対峙するも苦戦を強いられていた。
何せ力は人間では到底及ばず、機動力も高い。加えて弱点もわからないのだ。得物を持っていたのが幸いか。
愛紗も鈴々も目の前の一機に釘付けにならざるを得なかった。しかしその窮地はさらに状況を悪くなる。
(しまった?後ろ!)
愛紗の後ろにもう一機上空から現れた。
「愛紗!」
鈴々が声を張り上げるが間に合わない。無情にも後ろに現れた異形が彼女に向かって足を振り上げた。
―――刹那・・・天からの一筋の希望が異形を引き裂いた。
文字通りまっぷたつとなった異形の前には愛紗と鈴々が待ち望んだ希望がたたずんでいた。
この外史には無いはずの頭部を保護するヘルメットを被り、肩には「忠」の文字と裾にはオオアマナの花が刻まれた羽織りを纏っている。
殲滅の対象を希望に変更した二機が、彼にワイヤー状のマニピュレーターをとばし、両手を拘束しようと試みる。
「愛紗!鈴々!住民を避難させろ!」
そう叫び、ワイヤーを掴み間接的とはいえ二脚兵器を捕まえる。
体をきりもみさせながら門を飛び降り、絡まったワイヤーを思いっきり引き、門から引きずりおろした。
爆発はしないものの動かなくなる。
「まったく・・・衝撃に弱いとは兵器として欠陥じゃないのか?」
腰にマウントしていた太刀を右手に構え、眼前に続く町並みを視界に入れる。二脚兵器の数は5機。
一機で何十人と虐殺できることを考えると十分な数だろう。
寮機を失った5機はこちらに気付き彼を目標とする。彼らの行動原理は殲滅。住人のことを考えるとその対象が自分に集中するのは都合がいい。
彼らの弱点は頭部と、生体部品で出来た脚部を根本からぶった切るの二つだ。
半透明のバイザーが演算装置から送られてきた解析情報を示す。
訓練通りだ。
人間のものとは思えない加速で一機に迫り両足をその長い太刀で切断する。
続いて二機目。頭部と脚部を泣き別れさせ、三機目を正面に補足。補助AIから入る情報では四機目が空中からの逆落としをねらっている。
四機目の逆落としをステップで避け、足を一本ぶった切る。間髪入れず三機目に飛びつき頭部を太刀で貫く。抜く反動を利用して四機目の頭部に乗りかかる。
足を一本失ったところで二脚兵器は止まらないが頭部中枢を破壊すれば否応なしに止まる。それを太刀の突きで実践し、四機目を行動不能にさせる。
そこから五機目の頭部に乗り移るのは今の彼ではたやすいことだ。早々と飛び乗り太刀が五機目を貫いた。
現時点ではこのエリアの掃討は終了。あとはどうなるかわからないが今のうちに逃げ遅れた住人を避難させる。
「Hydra、生体反応を検索してくれ」
『Yes Sir』
センサーからは一つ生体反応が確認できる。狭い路地だ。
駆け寄った先で誰がいるのか一目でわかった。三ヶ月前、随分と自分勝手な別れ方をした、何よりも愛しい女性が腕を抱いてうずくまっていた。
「桃香か!?」
桃香の顔を見据える。
「・・・ご主人様?」
「話は後だ。傷を見せろ」
銃創だ。しかも貫通していない。
「我慢しろ」
太ももにマウントしてあるナイフを抜き、先端で弾丸を摘出する。
桃香の額には脂汗がにじみ出ている。よく声を上げずに耐えたものだ。
「ごめんなさい・・・」
「おおかた逃げ遅れた人を庇ったんだろ・・・桃香が悪い訳じゃない」
腹部装甲に内蔵されていた応急用フィルムを傷に貼る。正史の技術で作られた細胞分裂を促すもので傷跡も残らずに治せる逸品だ。
「だが、自分の身の事も考えろ」
「本当にご主人様?」
「?・・・ああバイザーをあげてなかったな」
先ほどから顔を見にくいのはそのせいだ。左首にある簡易端末をいじりバイザーを上げ、目の保護と情報表示を兼ねる端末を横に移動させる。
そこからのぞく顔は桃香が三ヶ月待ち望んだ顔だった。
この外史を去る頃は、精神的に追いつめられひどい顔だった。しかし今の彼は再会に喜ぶ一人の男の顔だった。
「おかえりなさい。ご主人様・・・」
大粒の涙が大きな目からこぼれ落ちる。
「桃香様!」
「お姉ちゃん!」
義妹二人も駆けつけた。
しかし敵はその再会を祝福してくれなかった。
『Warning!』
彼が武装していた兵器が警告を発する。
どうやら二脚兵器のようだ。路地には入れないが、あまり長居をするとグレネードが投げ込まれる。
「愛紗!鈴々!桃香を連れて城まで撤退しろ!私が奴らの侵攻を止める!」
端においていた太刀を振りかざし、路地から大きく開ける空へと飛翔する。
その姿は蛇ではなく、成都を守護する龍の姿だった。
華琳の目の前では異形が肉片の固まりとなっていた。春蘭と秋蘭ですら苦戦を強いられていた異形がいともたやすく。
「どうした、覇王よ?いや、今は賢王と呼ぶべきか?」
彼女たちを取り囲んでいた異形達が次々と肉片の塊となる。蛇剣が舞い、異形の足を頭部を次々と切り刻んでいく。
彼女を護衛していた恋姫たちはその光景を呆然と見ていた。
「あの世から還ってきたが・・・それがそんなに不思議かな?」
男は愛しい女性に一礼した。彼女たちにとって三ヶ月ぶりの顔だ。
「さて三ヶ月程度勝手に休暇をもらったのはいいが・・・状況がわからんな」
刹那と言うべき時間で異形達が壊滅した。これが三人目の狐の本性だ。
「指示をもらおう」
不敵な笑みと最強という称号は変わらない。
華琳はその顔を今にもひっぱたきたくなる気持ちを抑え、涙を出るのも堪え言い放った。
「殲滅なさい!」
「Yes,My Lady」
狐は再び二脚兵器の群れを見据え、小さな声でこういった。
―――ただいま、寂しがり屋の女の子
ケイン・ウェルナー/Tre=Fox(imageCV:大塚明夫)
「Rock 'n' roll!!」
ガトリング砲の銃口から暴力の嵐が吹き荒れる。大口径のものであり二脚兵器の装甲をたやすく貫通し次々に撃破していく。
「物の怪!」
雪蓮がガトリング砲を腰に抱えている男を指さす。
「雪蓮姉様!斬りましょう!」
「違う!足あるだろ、足!」
今度は男が自分の足を指さす。雪蓮達にとっては幽霊か物の怪の類だと思うだろう。
「説明は後にするが、ちゃんと生きてるよ!それともアレか!?」
彼は大型ガトリング砲の反動を楽しんでいた。
「死んだ男が生き返って嬉しいか!?」
彼は呉の恋姫達の目の前には確かに存在していた。
「俺は誓ったんだぜ!」
―――必ず守るってな!!
ジェームス・R・伊達/Ghost (imageCV:白熊寛嗣)
しかしジェームスの火力が高いとはいえ、何れ一門の重火器では限界がくる。
それを最初から計算していたのか、二脚兵器は動かなくなった寮機を踏みつけジェームスに僅かだが近づいてくる。
「ちょっと・・・不味いか?」
弱音を吐いたと同時にジェームスの後ろから一つの影が二脚兵器に飛び乗り、頭部を蛇腹剣で貫いた。
「すまねえ、旦那!近づく速度が速い奴から仕留めてくれ!」
「了解だ!」
ケインはすぐに次の標的を見つけ、頭部に飛び乗る。
最強のサイボーグにとって動作もない行動だった。ジェームスの火力にケインの援護によって、数は減らないものの勢いは落ちていく一方だった。
「雪蓮!」
「華琳、無事だったの?」
「ええ、どこかの馬鹿が生き返ったおかげでね・・・あなたもそのようね」
「ま、うれしいんだけどね」
「おいおい、勝手に殺すな」
「まったくだ」
漢二人は文句をいいつつも的確に二脚兵器の数を減らしていく。
強力な妨害要素によって二脚兵器は独自に対策を練り上げ、全ての機体が思考を並列化する。狙うは・・・。
「旦那!レディを狙い始めた!」
「ちぃ!」
二脚兵器の三次元的機動力と、区画を軽く飛び越える跳躍力を止めることができず、一機が二人の後ろに躍り出る。
「はあぁぁぁぁ!!」
しかし空中から大空の蛇が舞い降りる。躍り出た一機は、蛇の踏み付けるような強襲攻撃に耐えることができず力なく倒れた。
「ええい!いい所でやたらかっこよく現れよって!」
「そうだそうだ!ギャラは一緒のはずだぞ!待遇が違いすぎないか!?」
「集合時刻は守っているんだ。黙って給料分働け。米軍は労働組合なんてこじゃれたものはないぞ」
完全に無駄口を叩いているものの恋姫達には指一本触れさせる気はなかった。
格闘と射撃両方をこなせる蛇が到着したのだ。もはや負ける要因はない。
「ええい、あとで分け前要求するからな!」
後方からジェームスの大火力で二脚兵器は確実に数を減らし・・・。
「待遇の改善を要求するぞ!」
最前衛で二脚兵器の頭部から頭部へ乗り移るケインによって迫る敵はさらに数を減らす。
「よし、じゃあ貴様らが成都を傷つけたら賠償を要求する。自費でな」
そして前衛も後衛もこなせる最後の一人が仕留め損ねを太刀で叩き斬る。
「まあ随分と五月蠅く戦うものね」
華琳が一言呟いたのに呉魏の恋姫全員がうなずくのであった。
敵味方で離れていた御遣いが今ここに揃っていた。大切なものを守るため、何よりも自分の居場所を守るために。
それから少しして、成都城前は混乱のまっただ中であった。
城内に住民を避難させたものの、二脚兵器の侵攻が止まるわけではない。蜀の将達が文字通りの壁となっていた。
二脚兵器は単純に恋姫一人分が一機分に相当する。その上三次元的機動力を有しているので厄介この上ない。
正史の現行兵器ですら太刀打ちできないのだ。約二千年前にそれに対抗する手段などあるはずがなかった。
「退け!」
どんどんと兵の数は減り、退却した兵は城内で住民を守るために篭城の構えを取っていた。
突破は時間の問題だった。
「皆さん!魏と呉の皆さんがこちらにくるのはもうすぐのはずです。がんばってください!!」
総力戦だ。
朱里や雛里だけではなく、腕に包帯を巻いたままの桃香もやや後方にいるものの前線に立っていた。
「みんな!がんばって!!」
しかし数が違いすぎる。
そのときだった。一体が朱里と雛里に目を付け脚部から二人に突っ込んでくる。
身を丸める二人の前に一人の影が現れる。
「桃香さま!?」
朱里が声を挙げる。だが目の前の二脚兵器は既に足を大きく上げていた。
桃香の力で守れるわけが無い。
(私だって・・・守れるんだから!!)
「はぁぁぁぁ!!」
そんな桃香の目の前に希望が舞い降りた。
二脚兵器は上空からの電撃を纏った強襲攻撃により押し潰される。その二脚兵器の上にはかつての道標が乗っていた。
―――待たせたな
北郷一刀/Atomos Snake(imageCV:宮野真守)
おまけ:本当な裏話
ゴースト「そういや何で旦那は銃を使わないんだ?」
スネーク「機械オンチなんだよ、テレビですらぶっ壊すんだぞ?」
フォックス「そもそもバイクにも乗れん」
ゴースト「・・・威張られてもな」
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・MGSと真・恋姫†無双のクロスオーバー作品です。
・続きものですので前作一話からどうぞ。ttp://www.tinami.com/view/99622