大剣を振り回し、馬超の槍を次々といなし前へ前へと押し込んでいく
だがその顔は先ほど見せた笑顔から焦りに一色に覆われていた
馬超の攻撃が予想以上に早く強い事はあったが、それよりも春蘭の心を揺さぶるものがあった
ちっ、何故気が付かない秋蘭!これも我等に流れる夏候の血のせいだとでも言うのか?
自分に流れるこの血が始めて疎ましいと思ったぞ
そして流石は昭の認めた義妹だ、私の動きを封じ昭のことも良く見ている
馬超は気が付いていると言うのにお前は気が付かないというのか秋蘭よ!?
「フンッ!!」
真直ぐに素早い突きが春蘭の右胸に向かって放たれる。それを見切り大剣の重さを利用し地面に
叩きつけた。力の方向を変えられた槍は地面をえぐる
「焦っているな?お前の焦りが槍を通して伝わってくるぞ!」
「ちっ、秋蘭っ!さが」
「させるかっ!!」
春蘭が叫ぼうとするのを防ぐように地面の土を跳ね上げ、馬超の十文字槍が額を狙い払い上げられた
声を塞がれ、苦虫を噛み潰した顔をしながら大剣で槍を払い距離を離す
だが馬超は素早く距離を埋めて更に攻撃を仕掛けてくる
このままでは埒があかん、ならばあれを試すか。見せ技として十分の技だ
春蘭は左手を突き出し、剣を弓を射るように構えると腰を落とし、息を大きく吸い込み絞り込むように
吐き出す。
「シイイイィィィィィッ・・・・はっ!!」
春蘭の右手に持つ剣が矢のように広範囲に放たれる。韓遂との戦いで散々苦しめられた技を
春蘭は既に己のものとしていた。放たれる無数の突き、馬超は予想外の攻撃を見せられ
驚き、態勢を整え槍を構えるが進む脚が止まらず、剣撃の顎が襲い掛かる
「はぁぁぁぁっ!!」
脚の止まらぬ馬超の隣から気合と共に凄まじい槍の突きが放たれる。
槍がまるで壁のように放たれ春蘭の剣撃を打ち落としていく
「ちぃっ、韓遂かっ!」
「その通りよ、貴様にその技は百年早いわ」
片腕で顔を真っ赤にし、放たれる槍は次々と春蘭の突きを弾き、打ち落としていく
「おじ様っ!」
「馬鹿め、勝手に兵を動かしおって、『曹』の牙門旗を確認した敵の援軍が来ている。退くぞっ!」
「くっそやっぱり、夏候惇さえ抑えれば兄様を討ち取れると思ったのに」
その言葉で春蘭の瞳が燃える、怒りを内包した小型の爆弾はようやく爆発の時を迎えた
かのように、小さな身の内に秘めた巨大な熱量を爆発させた
やはりっ!我が義弟に武が無いことを知って私を抑えることに徹底したのか、許さん
貴様のやり方は間違っていない、全力を尽くすと言うのはそういうことだ、しかし私の
心は、怒りは、貴様の戦い方を許しはしないっ!
「ガァッ!!」
突き出される槍にあわせ、一瞬で元の構えに戻し、無数に繰り出される槍に身を晒す
身体は無数の突きに削り取られていくが、更に更に前へ踏み込む、地面は凄まじい踏み込みで深く足跡を残し
爆発する怒りを握る大剣に籠めて槍に合わせた
バリバリバリッ
食いしばる歯から大きな音が鳴り、合わされた槍が弾き飛ばされ、瞬時に片手で槍を構え防御する韓遂の
身体に大剣の刃がめり込む、大剣は槍を叩き折り、鎧に食い込み、韓遂の体を吹き飛ばし
馬超を巻き込み吹き飛ばす
「な、片腕とはいえ私の槍を・・・ぐはっ」
「う、ううぅ・・・おじ様、大丈夫か?」
春蘭は重なり倒れる二人を一瞥し妹と義弟の元へ走り出す。その顔は変わらず焦りの色を抱えて
「秋蘭、下がれっ!もう十分だ、後は私に任せろ」
「姉者・・・」
秋蘭は血相を変えて走ってくる姉が何故そのように慌てているのかが理解できなかった
どうしたと言うのだ姉者は?黄忠も馬岱も追い詰めた。私も昭も無事だと言うのに何を慌てているのだ?
油断とてしていない、なのに何故・・・
目の前では黄忠は腹を抑えうずくまり、馬岱は男の気迫に当てられガタガタと震えている。
反撃されるような態勢でもなければ自分達が追い込まれている劣勢でもない、秋蘭は理解できずに
油断だけは無いように剣を構えた
「気がつかんのかっ!?お前でさえ起き上がれぬ矢を昭は六つ以上受けているのだぞっ!!」
春蘭の叫びで秋蘭は背を合わせて立つ男の顔を伺えば、脂汗を流し顔は蒼白、脚は振るえ
剣を握る手も震えて立っているのもやっと、しかし男の眼は死んでおらず、気迫だけで馬岱の動きを
封じていたのだった
「昭っ!」
「ごぼっ・・・」
よく見ればその身体には脚や腹に被弾しており
腹に突き刺さった矢が原因なのか、口からは大量の血を吐き出し崩れ落ちる
秋蘭はすぐさま抱きかかえるが、男は苦しそうに息を荒げるだけ
何と言うことだ、私は隣にいて昭の怪我の酷さに気が付くことが無かったのか?
昭が来て、暴走し、傷を受けた姿を見て私も頭に血が上っていたと言うのか?
馬岱は男からのプレッシャーから解放されるとすぐさま黄忠に駆け寄る
男を抱える姿を見て黄忠はいまだ体が動かないにもかかわらず、顔に笑みを浮かべた
「舞王と夏候淵、討ち取らせてもらうわ」
その言葉に応えるように背後で混戦している兵達の中から真っ白い衣装に身を固め
蒼く美しい髪をなびかせながら槍を構え秋蘭目掛けて襲い掛かる
「趙子龍推して参るっ!」
突然現れ襲い掛かる趙雲の姿に秋蘭は驚き、男を庇う様に抱きしめた。
私は馬鹿だ、敵が三人だけと安心までしていた。敵にも援軍はある、すまん昭
せめてお前だけでも私は守りぬいてみせる
剣を握り締め振り返る秋蘭の視界に笑みを浮かべる姉の顔が入る
その瞬間、何時もの響き渡る声で春蘭は叫び放つ
「援軍は我等も同様っ!かずまあああぁぁぁぁぁっ!!」
ビリビリと辺りに響き渡る声に応えるように大きな馬体が兵の頭上を飛び越え
秋蘭に襲い掛かる趙雲めがけ、突き刺さるように馬の前足が襲い掛かる
「貴様に姉者をやらせなどしないっ!」
「劉封か!愛紗を退けたこと聞いているぞ」
突き刺さるような前足を趙雲は槍を斜めに構え、体を回転させるようにひらりと身をかわす
一馬はそれを見るなり馬の体を趙雲と秋蘭達の間に入れて二人との距離を離させた
「下がれっ、私の馬は貴方の槍よりも速く蹴りを放つ」
一馬は趙雲を威嚇し、その隙に春蘭は秋蘭のもとに走り寄る。そして男を抱えると一馬の乗る馬の
後ろに乗せ、剣を構えた
「しゅ、春蘭・・・」
「心配するな、秋蘭は私が必ずつれて帰る」
男は一馬の背中に紐で縛り付けられると心配な顔で春蘭の肩を掴む、苦痛で顔をゆがめ
脂汗を流し、春蘭はそんな様を安心させるように強い笑顔で返した
韓遂が見たといっていたのは華琳様の牙門旗、ならば一馬の騎馬隊も来ている
韓遂のことだ、華琳様率いる本隊には足止めの兵を送っているはず
「立て流琉、貴様はこちらから兵の後方を指揮しろ」
「は、はいっ!」
「一馬は兵を抜け、連れてきた騎馬隊と合流し流琉と挟撃、突破だ」
「了解しました姉様っ!」
「突破後、そのまま突き進み本隊と合流、反転し攻撃に移る。行けっ!」
『『はいっ!』』
春蘭の激で流琉は立ち上がり、武器を拾い上げると兵の後方に走る。一馬は馬のわき腹に縛り付けた
矢筒を「姉者これを」と秋蘭に手渡すと、安心させるように背に縛り付ける男と同じように歯を見せて笑う
そして来た時と同じように兵の頭上を飛び、混戦を無人の野を行くが如く走り抜ける
「秋蘭、落ち着いたか?」
「ああ、すまない姉者」
合流し、弓を拾い上げ武器を構える春蘭と秋蘭を遠くから見る韓遂は顔をしかめ
手に握る折れた槍を見つめる
夏候惇があれほどの将とは、武に加え知まで・・・鉄心よお前は早く逝ってしまったことを
天で後悔しているだろう、今ならば舞王と大剣どちらも欲しいと言っていたはずだ
俺がそっちへ行ったときには存分に自慢をしてやるとしよう、今から楽しみだ
「翠よ退くぞ、この戦負けだ。私は殿をさせてもらおう、殿こそが最も面白い場所よ」
「ああ、曹操が来ているなら今の兵数じゃ無理だ。おじ様傷は?」
「傷は大した事はない、槍をもらえればまだまだ戦える。向こうも動き出した、行くぞ」
炎と氷の殺気を放つ夏候姉妹を趙雲と馬岱は武器を構え、黄忠も剣を拾い上げ迎え撃つ
「星ちゃん気をつけて、あの二人、特に夏候淵の弓は悔しいけれど私より上よ」
「ほう、それは面白そうですな。私の槍とどちらが上か勝負と行こうではないか夏候淵殿」
秋蘭は弓を構えながら息を整える、そして趙雲の構え、動き、重心を素早く確認する
昭が前に言っていた。戦いで相手を読むには脚を見ろと、踵に重心が移っているのは
放つ言葉とは逆にこの場から退こうとしているのが解る
一馬が来ていたことで援軍が来ているのを悟っているのだな、隙をうかがい離脱する気だ
向こうから馬超が走ってくる、おそらく撤退を伝えるそして馬岱を回収するはずだ
我等は間も無く流琉が包囲を突破する、そうなれば兵がなだれ込み我等は引くことが出来るが
こやつらは姉者と私に構っていては撤退することも出来ずに華琳様率いる本隊に食い荒らされるだろう
顔に出ずとも脚の運びが焦りを露にしているぞ
静かに趙雲に矢を三射する、貴様の考えはお見通しだ。戦う気が無いならばさっさと失せろ
そんな意味を込めて
「はっ!」
襲いかかる矢を振り払うと、趙雲は少し苛立つ。己を見透かされ、それどころか見逃してやると
言われてそれに従うしかないことを
「皆退くぞ、たんぽぽはあたしの後ろに乗れ、紫苑はおじ様の後ろに」
「うんっ」
馬超は駆け寄り一気に言葉を放つと馬岱を素早く自分の前へ引き上げ走り去る
韓遂も黄忠を後ろに乗せると春蘭の目を見て言葉を放つ
「また見えよう、俺の血を熱くさせる将はお前だけだ」
「良かろう、そのときは馬騰の元へ送ってやる」
ニヤリと歯を見せて心底嬉しそうな顔を見せると韓遂は馬の腹をけりその場を去る
趙雲だけはその場に残り、秋蘭を見つめていた
「風と稟、そして昭殿によろしく伝えておいてくれ、次に見える時貴殿の相手はこの私だ」
「雲の名は二つ要らぬ、稲穂を照らす雷光は貴様と共にあらず」
稲妻は昭殿と共にあるか、何も無い雲に勝てはしないと?
私の雷光はこの槍、我が槍と貴殿の弓どちらが雷に相応しいか見せてくれよう
だが今は退かせて貰う、このような所で命を落としてはまた見えるも何も無いからな
趙雲は軽く笑うと実を翻し、立ち去る馬を追って走り出す。
秋蘭は立ち去るのを確認すると、直ぐに姉を抱きかかえた
「流石に解っているか、やはり頭に血が上っていたようだな」
「ああ、敵は姉者の動きと殺気で気が付かなかったようだが」
姉者は馬超達との戦いで無理をしていたのだろう。槍を体に受け、体はところどころ血を流している
私を助けに青洲からこれほどの速さで来たのだ、身体はボロボロに決まっている。どれほど険しい
道のりを通って来たのか、服は切り裂かれ槍傷ではない枝等で付いたものが多くある
「昭ほど無理をしたわけではない、大丈夫だまだ戦える」
「すまない姉者、流琉と一馬がもう直ぐ道を切り開く、それまでは私が姉者を守りぬく」
姉を抱き、男の残した剣を拾い上げ、流琉の指揮する後曲へと歩を進めていく
共に生き残る為に
「助かりましたわ銅心様」
「礼には及ばん、翠が勝手に兵を動かし俺と星殿は心配で来ただけだ、俺の方が
礼を言わねば、有り難う翠に付き合ってくれたのだろう?」
「いいえ、翠ちゃんの気持ちは解りますし。朱里ちゃんも策を私達に与えてくれましたから・・・」
「どうなされた紫苑殿?」
「私達の策は完璧だった。情報も漏れることなど無かったのに何故これほど早く援軍が」
「紫苑殿、向こうには慧眼の御使いが居る。おそらく今回の策も見破ったのであろう
何しろ俺でさえ気が付かなかった鉄心の病まで見抜いたのだからな」
「・・・舞王の名で忘れていたわ、相手は天の御使い一体どこまで見えていると言うの」
確かに前回の戦で私達の動きが自分の領土の平定に動いていて、あまりにも静かだったのに
疑問を抱くのも当然かも知れない、だけど早すぎるわ
完全に見破っていたのなら逆に私達を罠にはめても良いくらいなのに
・・・途中で気が付いたというの?途中で気が付いた切欠は何?切欠を与えるような情報は
漏らしてない、まるで思いだしたかのような行動・・・未来が見えているとでも言うの?
一瞬にして紫苑の顔が青ざめる。未来を知っている相手に闘いを挑むなど手に平で踊らされている
以外の何ものでもない、いくら最善を尽くそうとも過程や結果を知られていれば全て徒労に終わる
紫苑は自分に呆れるようにため息をつき、自分の考えを自嘲的に笑いかき消す
いいえ、それは無いわ。未来を知っているなら先の戦であれほど舞王が傷つく事はなかったのだから
何処かで情報が漏れたのでしょう、帰ったら朱里ちゃんともう一度今回のことについて話し合い
隙を無くさなければ
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投稿遅くなりました
皆さん申し訳ありません、プライベートが
忙しくて中々書く暇が・・・
楽しみにしてくださってる皆様本当に申し訳ありません
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