凪、沙和、真桜は今日の仕事をすべく警備隊の詰所に向かっていた。
華琳から命令で隊長である一刀の分の仕事をすべて引き受けることになっていた。
「何でウチらが…」
「華琳様の命だ、仕方ないだろう」
「ホントは隊長が悪いのに何で私達なの~」
沙和、真桜はいまだぶつぶつと不満を口にしていた。
凪は自分がしでかしたこともあり、いつも以上に気合が入れている。
凪は今、隊長も華琳様達と大事な仕事の真っ最中なのだろうと思うと自分も頑張らなければという思いが巡ってくる。
どんなに一刀が凪達に隠し事をしているとはいえ凪は一刀を殴ってしまったのでその罪悪感はなかなかぬぐうことは出来なかった。
だから今は一刀のためにも華琳から与えられた罰を実行するだけだった。
(私が頑張らなくては!!)
「ほら二人とも!もう詰所に着くぞ」
「「は~い…」」
だがそんな決意も目の前のものに崩れそうになった。
詰所に入った三人は驚愕の表情を浮かべている。
いつも自分たちがさばいている以上の竹簡の山が机に並べられていたのだった。
三人がさばく三倍近い量だろう。
「あ!三人共いらっしゃったんですね!」
そこに新人の将校見習い、孫礼が駆け寄ってきた。
「孫礼…あれは…?」
凪が孫礼に聞いた。
「私が来た時にはもうありましたけど…」
「そうか、ありがとう。なぁ…二人とも」
「だろなぁ…」
「間違いないと思うの…」
孫礼は不思議そうな顔で三人を見た。
そう、これは一刀がしていた仕事の資料だった。
一日で全てを片づけているわけではないがそれでも自分たちの仕事より多い。
その量に改めて一刀の仕事の量に三人は目を丸くした。
凪はその中の竹簡のひとつを手に取った。
中身は都の治安状況とその報告をまとめたものだった。
内容はこと細やかに整理されており一刀の努力の跡が見て取れる。
他にも治安維持の改善案や市意をまとめたもの、警備隊の編成状況、道順、装備、費用や訓練兵の錬度、進行状況、訓練方法等の報告書だった。
その竹簡の山を見て凪は思う。
(隊長はいつもこんなことをしていたのか…)
「凪!ちょっとこれ見てみぃ!」
「どうした?」
真桜の手には一つの竹簡があった。
その中には…
「なになに…楽進、李典、于禁についての報告…?」
「わたしたちのことなの~」
「…見てもよいのか?」
それは三人の仕事を報告するものだった。
おそらく華琳や秋蘭、軍師達に知らされるだろう情報で一刀が三人の仕事を見て評価できる所や良くない所をまとめたのだろう。
なぜこんなものが?と三人は疑問に思う。
好奇心に負けたのかその中を三人は覗いてみる。
『~楽進、李典、于禁、についての報告~』
『楽進…警備や訓練に関わらず、まじめに仕事をこなし俺の補佐をしてくれている。警備兵からも慕われており、少々厳しく当たることもあるが厳しさは優しさの表れであり兵達は理解しているのか信頼は厚い。町の人間からも良い評価を受けている。戦場では冷静な判断で指揮をとるが多々融通のきかないところや無理をしてしまう所もあり、誰か無茶をしないように抑えなければいけない。だがその力と能力は信頼することができ、これからに魏の武官の中でも大切な存在となるだろう』
「信頼…」
『李典…警備の仕事を怠っていることも多々あるがそのおおらかな性格は部下からも慕われており、ここぞというときはしっかり仕事をこなすことができるため兵からも信頼されている。またからくりに関する知識と探究心は官渡の戦いでも実証済みであり今後の武器開発や戦時出なければ土木関係で大きな力になってくれることは間違いなくこの国に必要不可欠な人材となる。ただ研究のこととなると没頭して周りが見えなくなることがあるので要注意』
「不可欠…」
『于禁…彼女も真桜と共に警備を怠っていることがあるが凪、真桜や誰かの力になろうという思いが強い。性格は明るく部下にも町の人間にも慕われているが、少し気の弱い所がある。しかし新兵の訓練を行うようになってからは以前より積極的になっており改善に向かっていると思われる。その訓練に関しては三人の中でも最も効果が出ており、先日の新兵同士の模擬選では沙和の部隊はもっともよい動きをしていた。このように沙和は新兵訓練には最も貢献している、今後もその訓練には期待してもよいと思われる。』
「貢献…」
これはおそらく三人が見ることはできるものではなく、華琳たちにしか見ることができないものであることは間違いないだろう。
少なくとも評価の対象の凪達の手に渡る物では無いはず。
持ち込んだ誰かが間違って持ってきてしまったはずだ。
だが三人は見てしまった。
一刀の持つ三人への強い思いを。
『この三人はこの国の今、そして未来において大事な存在であり、俺が心から信頼できる大事な娘達である』
「「「…」」」
「…みなさん?」
「…っなんでもない、さぁ今日の仕事を始めよう///」
「そっそうやな!///」
「はじめるの~///」
その目には涙を浮かべ、顔は赤くなっていた。
だが現実は非情だった。
感動もつかの間、目の前に積まれている竹簡を見る。
「…どないする?」
「どうしよう…」
「どうするか…」
三人は頭を抱えた。
「三人共そろそろ見回りの時間ですよ~急いでください~」
孫礼が急ぐように声を掛けてきた。
そして三人は顔を見合わせ決断する。
隊長が自分たちにあれだけの期待を抱いている。
(自分たちがやらなくてどうする!!)
そんな思いに三人は動き出した。
「今日の新兵訓練は!?」
「お昼過ぎなの!」
「なら沙和、そっちは任せていいか!」
「おっけ~なの!」
「じゃあ新兵訓練があるまでウチと沙和で見回りや!」
「私はこの山をどうにかする!」
「昼からの見回りは隊長やったから…」
「私がやる!」
「よっしゃー!午後はそれぞれ終わり次第この山をどうにかするで!」
「凪ちゃん!お昼までまかせたの!」
「わかった!」
三人は矢継ぎ早に互いに指示を出す。
その状況に孫礼以下警備兵達はその気合の入った声に驚き、声も出ない。
「よっしゃ!全員聞き!今日凪は別に仕事やから昼までウチと沙和で見回るで!」
「それじゃいくの~!」
「ま、待ってください!李典様!于禁様!皆さん行きますよ!!」
「「お、おお!!」」
見回りの警備兵は二手に分かれ進みだした。
(頼んだぞ!真桜、沙和!)
そして凪は目の前にある竹簡の山に向かった。
(先ず私のわかる範囲を終わらせる…迷うのはその後だ!)
凪は一刀の手をつけていないだろう部分に手を出した。
ここならば後で変更はあるかもしれないが自分がやるぶん融通が効くだろう。
凪はいつもより3倍は早いだろうペース竹簡に向かった。
トントンッ!
とそこに来客があった。
凪は「どうぞ」と声だけ掛けた。
「入りますよ~」
と間延びした声が聞こえた
(この声は…)
「おやおや、結構な量ですね~」
魏の軍師である程昱こと風だった。
「風様?ここへどのような御用ですか?」
風が来ることなんて何か緊急だろうか?と凪は思った。
外で見かけることはあるがここにはめったに来ないはずだからだ。
「そうですね~お兄さんからお仕事頼まれちゃいまして~」
「隊長が?」
「はい~」
そう答えると風は凪の隣の椅子に座り竹簡を手に取った。
「風様!一体なにを!?」
「凪ちゃん達を手伝ってくれって頼まれたんですよ~」
風はにっこりと笑いながら答えた。
一刀は華琳と会った後、風の所に行き頼んだのだった。
「凪ちゃん達が困ってるだろうからって…大事にされてますね~」
「ふ、風様!///」
「事実ですよ~。羨ましいくらいです♪」
風の顔にはどこか羨望のまなざしがあるのを凪は感じた。
凪はそんな視線を送ってくる風を見て顔を赤くしながら渋々座った。
「風様…よろしくお願いします」
「お願いされましょう~」
凪は風と共に竹簡を手に取り仕事を再開した。
それから何刻かたった。
その後三人は何とか仕事を終わらせた。
時間はもう日が沈んでいる。
「終わったで…」
「終わったの…」
「終わったな…」
三人共机に突っ伏して動かなくなっていた。
あの後沙和の訓練に秋蘭が来て手伝い、警備の最中にはには春蘭・霞が来て手伝っていった。
書類整理には風、午後に稟が来て途中で抜けて行ったものの手伝ってくれた。
それでも疲労はピークに達していた。
「お疲れ様です。楽進様、李典様、于禁様…」
「孫礼…」
孫礼は水を三人のそばに置いた。
三人共一気に飲み干す。
「プハー!ありがとな、孫礼」
「ありがとうなの~」
「すまないな…孫礼まで手伝ってもらって…」
「いいえ、かまいませんよ。私だって北郷隊の一人なんですから」
そうやって四人は笑顔で談笑する。
「しかし今日はなんや秋蘭様とか姐さんとかえらく手ぇかしてくれたな~」
「そういえばそうなの~、私が訓練してたら秋蘭様が通りかかったからって…」
確かに今日は変だった。
三人の仕事の最中誰かしら手伝いをしている人がいたのだ。
「私の所に風様が来た時は隊長が手伝ってくれって言ったらしいぞ」
「じゃあみんな隊長の~」
「かもしれへんな…」
「あはは…」
三人が今日のことを怪しんでいる中、孫礼は苦笑いをしていた。
「ともあれ仕事は終わったんや…飯でも食いにいこか!」
「もうお腹ぺこぺこなの~」
「そうだな」
と三人が夕飯に出かけようとしたその時。
「あの…待ってください!」
「「「ん?」」」
孫礼が三人を引き止めた。
「どうしたんや?」
「なにかあったの~?」
「言伝がありまして…忘れてました…」
あはは、と笑う孫礼。
「なんだ?」
と優しい笑顔の凪が聞いてくる。
「隊長からです」
「隊長から…?」
「なんやなんや?」
「なんなの~?」
三人が孫礼の言葉を待つ。
「俺が来るまで待ってろ…とのことです」
「隊長が来るまで…?」
「いつになったら来るんや?」
「わかりません…そう言われただけなんで…」
申し訳なさそうに俯く孫礼。
知らないことは確からしい。
三人は顔を見合わせる。
「わかった…孫礼、そんな顔しなくてもいいぞ」
「だったら待っとこうや」
「ならもっとおしゃべりするの~」
「みなさん…」
孫礼は顔を明るくさせた。
「ならお茶を入れます!!待っててください!」
それから一刻ほどたった。
一刀はなかなか現れない。
「なんや…隊長おっそいなぁ」
「本当なの~」
姿を見せない一刀にいらだちを見せる二人。
(隊長…早く~…!)
孫礼も同じようで違うことを考えていた。
するとそこに、
ダンダン!
と強めのノックの音が聞こえた。
「凪、真桜、沙和!いるか!?」
「この声は…秋蘭様か?」
「ど、どうぞ」
秋蘭は扉を開けて中に入って来た。
走ってきたらしく、肩で息をしていた。
「すまない、北郷が来るはずだったんだが…」
ガタ!
凪が立ち上がる。
「隊長に何かあったんですか!?」
「心配するな、凪。大事ではないさ」
「じゃなにがあったんですか~?」
秋蘭は笑顔で答えた。
「来ればわかるさ」と。
「「「?」」」と三人は首をかしげる。
「とそうだ…孫礼と言ったな?」
「はっはい!」
「北郷がお前も来いと言っていたぞ、良かったな」
「いっいえ、そんな///」
じゃあ行こうかという秋蘭の声に四人はその後をついて行った。
凪達は城の一室である会食などをするための広間の前に連れてこられた。
「秋蘭様!」
「待たせたな流琉」
部屋の前に流琉が待っていた。
その手には布が三本握られていた。
「さて、三人にはこれをつけてもらおうか」
といって秋蘭は凪、沙和、真桜に目隠しをしていく。
「これは一体…?」
「秋蘭様~前が見えへんですよ~」
「真っ暗なの~」
「我慢してください、三人とも」
孫礼の声に三人はおとなしくなる。
「孫礼はつけんの?」
「私は…大丈夫なんですよ」
「「「?」」」
「すまんが私がいいというまで取ってはいかんぞ」
改めて秋蘭が注意する。
三人は「はぁ」と返事を返す。
そこで三人は朝、華琳に呼ばれた時『ご褒美』と言っていたことを思い出した。
(なんや…そういや華琳様がご褒美って言うとったけどまさか…///)
(華琳様が…でも隊長が呼んでいるって言ってたから…まさか隊長も!!///)
(そっそれはちょっと…困るというか///)
普段の華琳のことを考えるとまさか三人いっぺんに…とか考えてしまう三人だった。
そんな三人の様子を見て秋蘭は笑った。
「三人ともおびえなくてもいいぞ、今回はそんなことじゃないからな」
秋蘭の声に三人は顔を赤らめてしまう。
どうやら考えていたことがしっかり顔に出ていたようでバレバレだったみたいだ。
三人はそれぞれ手をつなぎ先頭の凪が秋蘭の手を握る。
(暖かい…)
手には優しい暖かさがあった。
朝、華琳から言われた話を思い出した。
一刀を介抱したのは秋蘭だと。
(この手で隊長を…)
寝ている一刀の頭を優しくなでる秋蘭の姿が浮かぶ。
考えていると胸に痛みを感じる。
(また…だ)
時々、一刀と秋蘭が談笑しているのを見かけるときがある。
秋蘭の顔はその時はとても幸せそうなほほえみを浮かべている。
凪は思う。
今の自分はあんな風に隊長のことを見ることができるのだろうか、と。
自分勝手な感情で隊長である一刀に手をかけた。
(笑うことなんて…できない)
秋蘭の手を握る力が強まる。
目隠しをしているため見えるはずもないが凪は秋蘭が笑ったのを感じた。
秋蘭のことだから何かわかっているのかもしれない。
凪は目隠しをとった。
秋蘭は足を止める。
「どうした?凪?」
「秋蘭さまは…隊長のことを…」
(あの笑顔を浮かべることのできる秋蘭様は隊長の事を…)
凪は秋蘭に訪ねた。
きっと手から自分の思いは伝わっているかもしれない。
だが思いきって聞いた。
「隊長のこと…好きなのですか?」
凪は秋蘭を上目づかいで見つめた。
「…ふふっ」
「秋蘭さま…?」
そんな凪の必死な表情に秋蘭思わず笑みを浮かべる
そして秋蘭は問いに答えた。
「好きだよ…一刀の一番でいたいくらいに…な」
「…///」
その答えに凪は顔を思わず赤くさせた。
秋蘭も顔を赤くさせている。
「凪も一番になりたいのなら…奪うくらいの気持ちにならなければな」
「…しかし、私は隊長を殴ってるんです。手を出したんです。隊長は私の、私たちのことをあんなに思ってくれているのに…私は、私を許すことができないです…」
凪の声が次第に涙声になる。
「凪」
「…はい」
秋蘭は凪に優しく語りかける。
「あまり自分を責めるのはよくないな」
「ですけど…!!」
「華琳様も言っていたと思うが…そんなこと誰にだってあるさ」
「…」
「好きなのだろう、北郷のことが…ならば今回のことは仕方ないさ」
「なぜですか…!」
「お前は一刀と他の娘たちが仲よくしているのをよく思わんのだろう?それは嫉妬だよ」
「私が…嫉妬?」
「そう、そしてそれは私や姉者に華琳様もしてしまうものだ」
「華琳様も…」
確かに華琳も言っていた。
「つらい時はあまり悩むな…そんな時は、一刀にあたるんだな」
「隊長に…あたる?」
「そうだ…結局あの男が悪いのだからな」
凪は思わず笑ってしまった。
「あはは!…そうですね」
「さてそろそろ行かないと、皆が待ちくたびれてしまう。凪悪いが目隠ししてくれ」
「はい…秋蘭様…」
「なんだ?」
凪は今までで一番いい笑顔で宣言した。
「私…負けませんから」
「そうか」
そんな凪に秋蘭は笑顔で応えた。
その後、二人はそれ以上の言葉は交わさなかった。
目の前の秋蘭は凪には見えないが優しい笑顔だった。
そんな二人の後ろで…
(なんやなんや!凪と秋蘭様で隊長の奪い合いか!)
(すっごいの~///)
(秋蘭様…すごいなぁ…私も!///)
(ドキドキ…///)
野次馬根性全開な4人がいた。
今回でラスト…と思ったら分割しないとすげー長くなりそうだったんで分けました。
ということで今回は凪の宣戦布告?でしょうか。
秋蘭に「嫉妬」を恥じるものではないと教えられた凪は改めて一刀への思いを強めます。
秋蘭の一刀への思いを聞いたためでもありますが…
さらに途中でありました凪たちへの一刀の思い。
これも凪の心象変化に影響を与えています。
ちなみに真桜、沙和もこれにより一刀への不満は無くなっています。
ちなみにあの書簡はあるお方が紛れ込ませたものです。
一刀も知らないですね。はい。
しかし今回ラストまで書くつもりで書いてたんでちょっと無理やりだなぁ…
なにかありましたらご一報どうぞよろしくお願いします。
ではラストはそんなにかからず書けると思います。
では失礼します。
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ラストにしようとしましたが長くなったんで分けました。