桂花・稟・風
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
洛陽城内のある一室で、文官3名による無言の作業が続く
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・ぐぅ」
「「寝るなッ!!」」
べちッ
「おぉ」
「ただでさえやることが多いのに暢気に寝てるんじゃないわよ!!」
「そうですよ、風。寝てる暇などありませんよ」
頭に人形をくっつけたゆるゆるとした金髪の少女が、猫耳フードをかぶった少女と眼鏡をかけた見るからに知的な少女に文字通り、叩き起こされた
「でもですね~桂花ちゃん、稟ちゃん。さっきから仕事のし過ぎで風はもう限界なのですよ~」
この金髪の少女、名を程仲徳といい、真名は風という。魏の3大軍師の一人である
ちなみに頭の上の人形は宝譿といい、時々しゃべって(?)いる
「きっと桂花ちゃんも稟ちゃんも思っている以上に疲れているとおもいますよ~。ですから~、そろそろ休憩にしませんか~?」
「・・・・・・仕方ないわね」
渋々といったように答えたのは猫耳フードをかぶった少女。
名を荀文若といい、真名を桂花という。「魏」を建国した時からの軍師であり、「王佐の才」とまで呼ばれている。魏の筆頭軍師でもある。
「・・・それもそうですね。言われてみれば少し疲れがあるかもしれません。一息ついた方が後の作業もはかどるでしょう」
なにか納得したように言うのは眼鏡をかけた少女
名を郭奉孝、真名を稟という。風とは仕官前からの付き合いであり、こちらも3大軍師の一人でもある。
「まったく!!あの全身精液孕ませ無責任男のせいで、ろくな事がありはしないわ!!やっと私の目の前から消えて、清々してたのに!!居なくなってからも迷惑掛けてッ!!」
そんな彼女に微笑ましい視線が二つ
「・・・何よ」
「いえ~桂花ちゃんはお兄さんが居なくてさびしいのですか?」
「!?そ、そそそそんなわけないじゃない!!言ったでしょッ、清々してるってッ!!」
・・・・・・「「(分かりやすいですね~)」」
「まったく。桂花殿は素直ではないですね。」
「おうおう稟の姉ちゃんよぉ~、少なくともあんたは言える立場にはないぜ?」
「なッ!?」
「これ宝譿。そんな天邪鬼が稟ちゃんの魅力なのですから」
「だ、誰が天邪鬼ですか!!誰が!!」
2人の叫び声と1人と1体による掛け合いはしばらく続き、落ち着きをみせたころに稟がつぶやいた
「・・・まったく、一刀殿も大変な置き土産を残していったものです」
稟は机に広がるこの時代には貴重な紙を見た
「・・・あれから・・・3年。一刀殿が残していった天の国の知識や制度。まだまだ活かしきれていませんね」
そう。この紙に書いてあるのは一刀の残した天の国の知識。料理やカラクリなど即物的な物なら材料さえあればどうにかなった。
しかし、政治に関わる制度はそれらのものとはわけが違う。この世界のやり方には合わないものも多い。この世界は天の国のように甘くはない。
慎重に吟味を重ねなければ、後々に大きな被害が出てしまうかもしれない。
そう思い、議論を重ねて・・・3年。実行できたのは本当に僅か。
「でもですね~」
重い空気になったところで、風はいつもの口調で語る
「お兄さんもこのままでは実行不可能だと知って残していったのだと思いますよ」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
それは幾度となく、自分たちに言い聞かせた言葉
「お兄さんは風たちのことを・・・魏のみんなのことを誰よりも信じてくれていました。だから、きっとこれも風たちなら現実に近づけてくれると信じてくれている結果だと思うのですよ~」
「・・・・・・」
「・・・そう・・ですね」
「だからこそ、風は期待に応えたいと思います。なによりも、風はお兄さんのことが・・・・・好きですからね~」
「「!?」」
風の突然の告白。そして、その顔にはとても綺麗な笑顔が輝いていた。
--------お兄さん、風は期待に応えますよ~。だから、もし、もし結果が残せて前よりも良い国になったら、風のこと褒めにきてほしいのです。風はそのためなら頑張れるのです--------
稟は戸惑っていた。風が突然の告白をしたから?
---いや、ちがう---
風の笑顔が綺麗過ぎたから。
「(風、あなたは本当に一刀殿が好きなのですね。正直、私は”好き”という気持ちを持て余しています。でも、あなたのことが羨ましいと感じてしまいました)」
この感情は何なのか。
・・・はっきりとは分からない。
でも、一刀の期待には応えたいと思う。それは真実。
-------一刀殿、あなたの意思は私たちが受け継ぎましょう。ですが、私の感情の答えは一人では出せそうにありません。ですから、一刀殿。いつか私に答えを教えていただきたい。あなたが・・・あなたなら・・・いえ、あなた”だけ”が答えを知っているのだから-------
桂花は風の笑顔を見るなり部屋を出て行ってしまった。
「なによッ!!あの男の期待?気持ち悪い!!」
毒づいては見るものの、その顔は悔しさがにじみ出ていた。
---羨ましい---
風の笑顔を見て、そんなことを感じてしまった自分が悔しかった
「!!!!」
ぶつける先のない怒り。そして、桂花が怒りをぶつけてきた相手。全ての元凶・・・
「!!北郷ッ!!」
その名を呼ぶと体中から憎しみとは別の感情が生まれる
それは何なのか・・・
-------私は認めない。あの男も、私の感情も。絶対に認めてやるものか!!こんどこそアイツの息の根を止めてやる。もし帰ってきたら、覚悟をしておくことね。尋常じゃない程の苦しみにあわしてやるんだから------
3年前から見ることのなくなった久しぶりの意地悪そうな笑みを浮かべ、桂花は部屋に帰っていった
星は苦笑するかのように断続的に煌く
季衣・流琉
子供のような少女が二人、外を見ながら寝台に腰掛けて話していた。
「・・・流琉。綺麗な満月だねぇ」
桃色の髪を頭の上で二つに束ねた少女が隣に座った少女に話しかける
「・・・そうだね、季衣」
隣に座った緑色の髪に大き目のリボンをつけた少女が答えた
この桃色の髪をした少女の名を許仲康、真名を季衣という。彼女は体は小さいながらも華琳の親衛隊を率いており、春蘭を姉のようにしたい目標としている
そして、緑色の髪をした少女の名は典韋(字は不明らしいので・・・)、真名を流琉という。彼女も季衣と同じで小柄ながらも親衛隊を率いており、秋蘭を憧れとしている
「・・・でも・・あんまり見たくないなぁ」
「・・・うん」
そういって、二人は目端に涙を浮かべ俯いてしまった。
「・・・にい・・ちゃん、ぐす」
「・・・にい・・さ・・ま、うぅ」
彼女たちが”兄”と慕う人物。それはこの世で一人だけ、「北郷一刀」に他ならない
兄と慕う一方で、二人は「女の子」として愛していた
だからこそ・・・一刀の消失を聞いたときその悲しみは大きかった
----------もう頭を撫でてもらうこともできない
------もうあの優しさに満ちた笑顔を見ることができない
-----------もう、抱きしめてはもらえない----------
自然と涙が出てしまった
大勢の前で声を出して泣いてしまった
二人はずっと抱き合って泣いた
洛陽に帰ってから数日たったある日
悲しみの抜けない二人に華琳は言った
「いつも、一刀はあなたたちの笑顔が見れるだけで幸せだと言っていたわ。あなたたちの笑顔がいつまでも曇っていたら一刀が悲しむわよ」・・・と
この言葉に二人は決意した
-------そうだよ。兄ちゃんはいつもボクたちのことを見てニコニコしていた。それに兄ちゃんは帰ってくる!はっきりとは分からないけど・・・でも信じられる。だって兄ちゃんはボクと流琉のたった1人の”兄”ちゃんなんだから-------
-------そう・・・ですね。兄様は私たちの前でいつも笑顔でいてくれました。それが私たちの笑顔がそうさせていたのなら・・・。私は・・・私たちは兄様が好きだと言ってくれた笑顔で過ごしていきます。兄様がきっと帰ってくるその日まで!-------
「でもさ・・・やっぱり・・・こんな満月の日は思い出しちゃうよね」
「うん・・・だから・・・」
------今は思いっきり悲しむ時間------
------明日からまた笑えるように------
------いつでも一刀が・・・”兄”が帰ってきてもいいように------
笑顔でお帰りなさいを言うために
星はあたたかな光を煌かす
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続きです。
本当に皆さんのあたたかいコメントありがとうございます。こんなに支持していただけるとわ・・・
それと、作者はハッピーエンドが大好物です♪