No.141010

真・恋姫無双外史 ~昇龍伝、人(ジン)~ 第十二章 冀州夢想、連理の契り

テスさん

注意:
・作品の都合上、よろしくない表現が含まれております。

あらすじ:
 商隊の意図に気付いた北郷は、それを知らせるため劉備達に直接書簡を手渡すという最終手段にでる。――だがその書簡は艶文だったと、劉備から説明された趙雲は、激怒して北郷から真名を取り上げてしまう。

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2010-05-05 14:51:30 投稿 / 全20ページ    総閲覧数:23632   閲覧ユーザー数:17816

真・恋姫無双外史 ~昇龍伝、人(ジン)~

 

第十二章 冀州夢想、連理の契り

 

(一)

 

「何故だ……、何故攻めて来ない?」

 

 隣村へと続く一本道に未だ変化はなく、普段と同じで遠くへと延びている。劉備率いる義勇軍は、その防柵の内側で立ち尽くしていた。

 

「劉備殿! 何ぼさっと突っ立っておるのだ!」

 

 耐えかねた官軍の大将が劉備達の前に現れ、劉備はこの状況を説明する。

 

「相手の追撃に備えるのは当り前ではありませんか! 官軍があそこまで――」

 

 官軍の大将は最後まで言わせまいと、劉備の言葉を大きな声で遮る。

 

「んん!? 劉備殿、勘違いされては困りますなっ!」

 

「あ、貴方も仰っていたではありませんか! 追い討ちしてこない。やはり賊だと!」

 

 その一言に、これは傑作だと馬鹿にした笑みを浮かべる。

 

「どうやら義勇軍よりも、賊の方が賢い様だな」

 

「――何を!」

 

「おい、やめるんだ、劉備!」

 

 侮辱され、掴みかかろうとする劉備を仲間達が止めに入る。義勇軍の誰もが沈黙を守る中、その男は高らかに叫んだ。

 

「我々が官軍だからだ! 官軍と聞いて、恐れを成して攻めて来ぬに決まっているだろう!」

 

 誰もが言葉を失い、異様なまでの沈黙が場を支配する中、再び官軍の大将が口を開く。

 

「それはさておき、劉備殿に少々お願いがあるのだが……?」

 

「……なんでしょうかっ!」

 

「――義勇軍の兵糧を分けて頂きたい」

 

 劉備達に戦慄が走る。

 

「賊の討伐に、これほど時間が掛るとは思いませんでしてな、宜しく頼みましたぞ、劉備殿!」

 

 大声で笑う男の背中を見送った後、劉備の傍に側近達が近付く。

 

「……おい、劉備! どうするんだ!?」

 

 舌打ちした劉備が当たり散らすように叫ぶ。

 

「どうするも何も、仕方ないだろっ!」

 

 そう言い残し、劉備はこの場から去っていった。

 

 

(二)

 

 数日後、義勇軍の天幕で軍議が開かれていた。

 

 兵糧を担当していた男が青ざめた顔で報告する。もう持たないと。

 

 ここに来て義勇軍が危機に瀕している。兵糧尽きた官軍が、義勇軍の兵糧を物凄い勢いで食い潰しているからだ。

 

「くそっ! 何故賊は攻めて来ない! 姿を見せたのに、どうして隣町付近に留まっていられる!」

 

「隣町は何をしているのだ!」

 

 義勇軍の将兵達が、この絶望的な状況を嘆く。

 

「そうだ! 我等が来た道はどうなっているのだ!」

 

「こちらも出口付近に賊が陣を敷いている。かなりの数だ。ただ守っているだけという感じで、攻めて来る気配はない」

 

「我々を閉じ込める気か……、だがここは何としても道を切り開くしかありますまい!」

 

「官軍の二の舞になるだけだ!」

 

 今回ばかりは、私もこの状況を打破できる策が思い浮かばぬ……。意見は出尽くしたと、皆の視線が劉備殿に向かう。

 

 天幕が静寂に包まれる中、劉備殿が皆を見渡し、ゆっくりと息を吸い込む。

 

「隣町が動くのを待つのも……限界だ。だが我等義勇軍がこのまま手を拱いて、何もしない訳にはいかない。だが悲観することはない!」

 

 紡がれた言葉に、誰もが息を飲む。

 

 ――我々義勇軍と官軍では、決定的に違うことがある! 

 

 拳を握りながら力強く立ち上がり、私を見据える。

 

「そう、我々には趙雲殿がいるではないか!」

 

 その一言に、皆がこちらへと視線を向け、期待の声を上げる。

 

「多くの部隊が攻めると、賊はあの場所から動かない。少数の部隊で賊と相対するとても危険な役目だが、……趙雲殿。部隊を率いて先陣を切って頂けないだろうか?」

 

 ……劉備殿が王の器とあろうとするならば、私はそれに答えねばならない。それが例えどんな命令だとしても。

 

「……承知」

 

 

 

 

 軍議が終わり、これで安心だと皆が天幕から出て行く。

 

 一人残された私は天を仰ぐ。

 

 官軍と同じ事をしても結果は変わらぬ。だが代案を思い浮かばぬ以上、反論もできない。

 

 ――危険だ。生きて帰れぬやも知れぬ。

 

 体裁だけで義勇兵の命を散らす訳にもいかぬ。賊を軽く往なした後、殿として、――命に代えても守ってみせる。

 

 

(三)

 

 賊兵が息を切らしながら、他とは違う大きな天幕へと駆け込んで行く。

 

 薄暗いその中で賊兵が最初に目にしたのは、一番奥にいる憎たらしい笑みを浮かべている楽快だった。

 

 一瞬で不愉快な気分にさせられた後、目の前で苦しむ官軍の兵士に視線を移して思う。

 

 ……逃げ道はない。こうなってしまえば、行きつく先は皆同じなのだと。

 

 捕われたという、この危機的状況。良心など意図も容易く崩れ去る。例えその苦みに耐えたとしても、楽快が調合した薬で無理やり衝動を掻き立てられ、心の奥底にいる獣に食われてしまう。

 

 賊兵は苦しみながら叫ぶ男を楽にしてやろうと、楽快の前で立ち止まり、官軍の兵士にも聞こえるように報告する。

 

「楽快様、義勇軍が此方に向かっております」

 

 その男の報告に、声を荒げて立ち上がる。

 

「あぁ!? ……んなこと、ある訳ねぇだろ!」

 

「本当です!」

 

「ちっ! 官軍ならまだしも義勇軍がなぁ……、旗は!? 俺の策を台無しにしようとする馬鹿は誰だ!」

 

「それが、その旗印というのが……」

 

 言い淀んだ賊兵の口からその名を聞いて、楽快は興奮する。

 

「あはぁ……、趙? いやいや、あの女は毒矢で動けねぇ筈だ……。だとしたら……」

 

 その可能性に胸を膨らませ、眼を見開きながら叫ぶ。

 

「そいつが女なら、確実に捕えろ!――追い討ちしてでも、必ず生け捕りにするんだ!」

 

 賊兵は短く返事をして走り去る。

 

「仇を見つけて頭に血が上ったかぁ~、えぇ~? 趙家の女は上玉な上に、あの自尊心だ……」

 

 その昂りを抑えきれず、男は快感に震える。

 

「溜まらねぇ……。子然は捉える事敵わず、調教することはできなかったが……」

 

 前の戦で捉えた官軍の兵士に視線を落とす。箍が外れたその姿を見て唇を吊り上げる。

 

「よう、兄弟。――さぁ、何が見える?」

 

 成り果てた姿に満足した楽快は、連れて行けと命令した後、誰も居なくなった天幕で高らかに奇声を発する。

 

「天がこの楽快に味方したぞぉ!!! 俺の策で名高い趙家の姉妹が――墜ちる! 墜ちる、墜ちる、墜ちる! ……くけけけけ!」

 

 

 

 

 目の前の黒く焼けた道に、前の戦で散った官軍の兵士達の姿が目に飛び込んでくる。この世とは思えぬ悲惨な光景を目にした兵士達に動揺が走る。

 

 私は龍牙を握り締め、振り返る。

 

「聞けぃ! 趙雲隊の勇士達よ! ――恐れる必要はない! 賊は地の利を生かし攻撃していたのだろうが、あそこまで態々出向いてやる必要はない! 我々は賊を誘い出し迎撃する!」

 

 相手がそうやすやすと挑発に乗ってくれるとは思えんが、この部隊の数ならば、可能性はあるやもしれぬ。

 

 私は前に出て、龍牙を突き付けながら、高らかに名乗りを上げた――

 

 

(四)

 

 あの出口の先に、一体どれほどの賊が居るのか……。幾度となく賊の部隊が押し寄せて来る。

 

 戦場は狭く、こうも動きが封じられては上手く走り抜ける事も叶わぬ。それでも私は槍を薙ぎ、賊を弾き飛ばす。

 

 だが義勇兵の皆に疲れの色が見え始めていた。一人、また一人と倒れ、その数を減らして行く。

 

 潮時か!――さすがに、一部隊だけではこれ以上持たん!

 

 目の前の賊を突き殺し、早くも撤退を宣言する。

 

 だがその時、賊の信じられない言葉を耳にする。

 

「今だ! 雑魚に構うな! 殿についた将だけを狙え!」

 

 ――最初から、この私が狙いだとっ!?

 

 目の前の賊を斬り捨て、両側から振り下ろされる剣を交わし薙ぐ。私だけを狙って次々と賊が襲い掛って来る。

 

 気付いた時にはもう遅い……。逃れようともがけばもがくほど、蜘蛛の糸が私に絡みつくように、朽ちた賊が足下に積み重なり私の動きを封じていく。

 

「……昇り龍と謳われる、この趙子龍を――舐めるなぁぁぁ!!!」

 

 その糸を断ち切るように、周りにいる賊を斬り捨て、死体諸共まとめて真上に吹き飛ばす。

 

 視界が開けたその先に、弓を引いた賊共が私を狙っていた……

 

 

(五)

 

 一度に放たれた矢が私を襲う。矢を避け、幾つかは払い落とすも、一本の矢が私の左足を掠める。

 

「ちっ!」

 

「――な、なんて女だ! これだけの矢が当らないなんて!」

 

 ――道は拓けた!

 

 後は駆け抜けるだけ。走りだそうとした瞬間、胸の鼓動が大きく跳ねる。

 

 ――!?

 

 ぜ、全身が焼けるように熱く、痺れる。――い、一体どうしたというのだ、これは!!!

 

 一抹の不安が頭を過る。

 

 ――まさか、毒!?

 

 胸がもの凄い速度で脈打ち、切ないほどに胸が苦しい。呼吸が乱れ、龍牙がいつも以上に重く、手を滑らせて落としてしまう。

 

 何かが私の身体に重く圧し掛かり、立つことすら容易ではない。……目の前がぼんやりと霞む中、私の前に立ち塞がった賊が、安堵した声で話しかけて来る。

 

「びびらせやがって……。矢に強力な媚薬を仕込んでおいたのだ! 矢が命中すれば、その効力に一瞬で気を失っていたものを……。どうだ、男がほしくて堪らないだろう!」

 

「――くっ、毒矢とは、卑怯な!」

 

「何とでも言え! さて、楽快様に報告しろ! 女を捕えたとな!」

 

「――楽快、……見つけたぞ」

 

 負けられない。毒矢と言う卑怯な手段を用い、姉上を戦えぬ身体にした賊に! 何のために、己の信念を曲げてここまで来た!

 

 全身が痺れ、触れられれば一瞬で真っ白に飛んでしまいそうな中、龍牙を手に取りゆっくりと立ち上がる。

 

「――卑劣極まりない、賊共が! 我が槍の前に、滅びろ!!!」

 

 掛け声とともに、油断しきっていた目の前の賊を斬り捨て、賊共に向かって構える。

 

 ――意識が朦朧とする

 

「ひ、怯むな! 相手は弱っているぞ! 縄で締め捕るんだ!!!」

 

 私を捕えようと、賊が襲いかかって来る。数人斬り捨てた瞬間、幾つもの縄が私に向かって投げられる。

 

 背後から投げられたその一つを避けきれず、身体の自由が奪われ、あらぬ方向に持って行かれる。

 

 ――おのれ!……おのれっ、おのれぇぃl!!

 

 捕縛されれば最後。――姉上の仇すら討てず、汚れる!!!

 

 さらに縄が掛けられ、両側に賊が回り込む。

 

「くぅ……、ぁあ、っ!」

 

 縄が身体に喰い込んで行く。もがけばもがく程、身体は疼き、意識が飛びそうになる。……あの夢のように、蜘蛛に捕われた蝶のように為すすべも無く、

 

 ――私は!

 

 暗闇に包まれて行く中、私に向けられる好奇の目が消え失せたのが最後、空を切り裂く一筋の音がした後、義勇軍という言葉を残し、全ての音が周りから消えた。

 

 ……そして私は不思議な世界を漂う。絶望の色から一転、木漏れ日の中に私はいた。暖かな光の幕が――私を優しく包み込む。

 

 残された微かな感覚を手繰り寄せる。何かが私の身体に掛けられ、身体が宙に浮いている。……その感覚がとても心地よい。

 

 北郷……?

 

 だが、その可能性は無きに等しい事に気付く。義勇軍にもう北郷はいない。一体……、義勇軍の誰なのかと、私は最後の力で眼を見開く。

 

「……」

 

 だが霞んでいて良く見えない。その人物は何やら私に話しかけている。

 

 あぁ、きっとこの人物は信用たる者だ。……悪いがその胸で、しばし休ませてくれ。

 

 

(六)

 

 ――また、同じ夢を見ている。暗闇の中を白く輝く蝶が、ふわりふわりと舞う夢を。

 

「そちらへ行ってはいけない!」

 

 私が何度注意を促してみた所で、その白い蝶は蜘蛛の巣に絡まってしまう。糸から逃れようともがけばもがくほど、その細い身体に絡みつき動けなくなる。そして機を見計らったように、何倍もの大きさの蜘蛛がやってくるのだ。

 

 ――またか。これ以上はもう見たくない

 

 だが何やら異変を察知したのか、蜘蛛が蝶から視線を外す。

 

「――!?」

 

 突然、強風が私の身体を吹き抜けて行く。ゆっくりと目を開けると、そこには眩しいまでの青空が広がっていた。

 

 ……何時もとは違う夢の展開に茫然と立ち尽くしていると、捕われていた純白の蝶が、その美しい姿を私の前で披露していた。

 

「ふむ! あの突風に乗り、あの縛から逃げ通すとは!」

 

 指先を差し出してやると、蝶は羽を休める為にその先に止まり、ゆっくりと羽を上下させる。

 

 再び蝶が浮かび、私に礼を言うかのように舞いながら、天空へと昇って行く。

 

「うむ、気を付けて行かれよ!」

 

 清々しい気分で私は見送る。視線を落とすと蜘蛛が私を見ていた。この蜘蛛には、毎朝嫌な気分にさせられた恨みがある。慰めの言葉など、くれてやるつもりはない。

 

「くくっ、あーはっはっは!……残念だったな!」

 

 私は龍牙を手に取り、小さな的目掛けて構える。

 

「か弱き蝶の羽をもぎ取り、淫らに弄ぶだけの蜘蛛よ……。この美しき世界には無用の存在と知れ!」

 

 狙いを澄まして槍を突き出す。槍の先でもがき苦しんだ蜘蛛が、その傷跡から黒い霧を噴き出すと、世界は再び暗い闇に包み込まれた。

 

 

(七)

 

 

「……ここは?」

 

 私は部屋の一室に寝かされていた。

 

 ――!?

 

 ……毒がまだ残っているのか。

 

 手元にある敷布を引き寄せ、熱を帯びた身体を隠す。

 

 このような無様な姿を人前に晒す訳には行かぬ。……だが知らぬ間に寝巻であることを察するに、誰かが私を着替えさせたのだろう。

 

 ……私は、助かったのか?

 

 だが安穏と、病床に伏せている訳にもいかぬ。――姉の仇を見つけたのだ。

 

 着替えは無いかと辺りを見渡していると、誰かがこの部屋に近付いて来る気配を感じる。

 

 ……扉が静かに開く。

 

 中に入って来たのは……娘。私を見て微笑む。

 

「あぁ! お気づきになられましたか、趙雲様!」

 

 知らぬ間に入っていた肩の力を抜きながら答える。

 

「……息災とは言えぬがな。村の娘か?」

 

 短く返事をし、水の入った容器を抱え慎重に歩いて来る。

 

「趙雲様、お身体をお拭き致します!」

 

 流石にこの身体に触れさせる訳にはいかない。やんわりと断り、絞った布で顔を拭く。

 

 火照った身体に、ひんやりとした水がとても心地良い……

 

 愛くるしい顔で私を見ていた娘が、突然頭を下げる。

 

「趙雲様には、予てから御礼を申し上げようと……」

 

 ――私に?

 

「はい! 腹を空かせた子供達にと、大金を御恵みになられたではありませんか。村の者は皆趙雲様に感謝致しております!」

 

 ――そうか。

 

「あ、せめてお背中だけは……」

 

 敷布で身体を隠したままではさすがに無理があった。彼女の好意を何度も無下にするのは気が引ける。

 

「すまない。頼めるか?」

 

 手にしていた布を娘に手渡すと、断りを入れた娘が私の肩に手を置いて、私の背中を優しく撫でる。

 

「その……、趙雲様、お尋ねしたいことが……?」

 

 沈黙で続きを促すと、

 

「北郷さんとは、どのようなご関係何ですか?」

 

「――はっ?」

 

 一体何を質問してくるかと思えば……

 

「……あの男とは縁を切ったのだ。もはや赤の他人だ」

 

 一瞬困惑した表情を浮かべるも、役目を果たせたと、嬉しそうにしていた。

 

「私が村へと戻って来てから、どれほどの時間が経った? 状況は?」

 

「あれから、一夜明けて……、今はお昼です。私は趙雲様のお世話をしておりましたので、詳しい状況までは……」

 

 娘が言葉を濁す中、ゆっくりと扉が開く。

 

「御医者様の言う通りね。そろそろお目覚めになる頃だろうって、――趙雲様、お粥をお持ちしましたわ」

 

 私より年上だろうか。大人びた女性が土鍋を持って入って来る。

 

「何から何まで、世話を掛ける」

 

 その土鍋の中に視線を落とす。村に戻れた事を喜ばずにはいられない。

 

「なんと……、メンマ粥とは!」

 

 腹が空いてはなんとやら。消耗しきった身体では戦うことすら叶わぬ。体力を取り戻す為にも、ここはありがたく頂くことにする。

 

 粥を頬張る私の姿を、羨ましそうにじっと見詰めていた女性が口を開く。

 

「全く、憎いわねぇ~、北郷さんに抱かれて……」

 

 ――けほっ!

 

 咽て粥を土鍋の中に噴き出した私は、聞き捨てならない言葉を吐いたその女性に向かって叫ぶ。

 

「――何の話だ! どうしてまた、ここで北郷の話に!」

 

 ……まさか、北郷が助けてくれたというのか!?

 

「忘れられないわ♪ 北郷様が村の男達と義勇兵を連れて、趙雲様を抱きかかえて戻って来た時の勇ましいお姿!」

 

「義勇兵を連れてだと?――待て! 北郷はもう義勇軍とは無関係。どうして義勇兵が動く?」

 

「確か、北郷さんが義勇軍を焚き付けたんですよね?」

 

 同意を得ようと、もう一人の女性へと振り向く。

 

「えぇ。状況を考えれば、趙雲様の部隊だけでは危険だって北郷さんがね」

 

「です! 趙雲様無茶しすぎですよ! でも本当に無事で何よりです!」

 

 

(八)

 

 勝ち誇った顔で二人が部屋から出て行くのを見送った後、私は近くにあった椅子に座って頭を抱える。

 

「何をしているのだ、私は……」

 

 本来ならば彼女達の言葉を無視してでも、槍を握るべきではなかった。

 

 ――今のお姿では男共を刺激してしまいます!

 

 ――その身を守ることも、できないでしょう!?

 

 この程度の挑発に容易く乗ってしまうとは……

 

 窓を眺める。いつの間にか日が傾いていた。

 

 ――北郷に、助けられた、か。

 

 こればっかりは礼を言わねばならん。だが、顔を合わせたくない。後で文にして渡して貰おう。

 

 北郷……、例えこの戦いが終ったとしても、貴様を許す心算はない。

 

 私がどの様な人物か、知り尽くしている癖に……。賊に襲われ、飢えに苦しむ村人達を助けねばならぬこの状況で艶文だと?……見苦しいにも程がある。

 

 ……北郷、何故私達は別れを決した? 我は昇り龍。私と共にありたいと願うのならば、我が理想を持って応えねばならぬことを、知らぬ訳ではあるまい!

 

 我が想いを何と知る……。お前を想うこの苦しみを……。いや、艶文が証明したではないか。所詮北郷はその程度の男だったのだ。

 

 ……あ奴が憎い。憎くて堪らない。心が張り裂けそうなほど……憎い。

 

 ……どちらに転んでも、私を苦しめるのか、お前は。

 

 

(九)

 

 次の日の朝、文を書こうと机に向かう。筆を持ちながら文面を考えていると、何やら外が騒がしい事に気付き、その筆先を一度も滑らせること無く置く。

 

「趙雲様は面会謝絶よ!」

 

 ふむ、この私に客人のようだ。

 

「わ、我等義勇軍の一大事なのだ! 頼むから……ぐはっ!」

 

 それっきり静かになってしまったので、置いてあった簡単な布を羽織って外に出る。

 

 そこには私の部下が倒れていた。木の棒を持った村の娘達に囲まれて……

 

「ふむ、こっぴどくやられたものだな?」

 

 私の一声にむくりと起き上がった男が、口を開こうとして固まってしまった……

 

 ふふっ、男を虜にする妖術にでもかけられたような気分だ。私が続きを促すと、男は顔を赤くしながら小さな声で報告する。

 

「賊が降伏せよと、申し出て来ました!」

 

 私はその一言に、わざとらしく溜息を吐く。

 

「そのような事で、ぼろ雑巾のようになってまで私の元に来たというのか?」

 

「それが……」

 

 部下の口から出てきた言葉は、冗談でも笑えない報告だった。

 

「……出直してこい」

 

 兜をずらし回転させて、私は背を向ける。

 

「し、しかし! 探している仲間達が不安がって居ります! ご指示を!」

 

 ――嫌な予感がする。もしそれが本当ならば、義勇軍は首の皮一枚。私が取り乱せば、義勇軍は最後だ……。

 

「何人がその事を知っている?」

 

「私に報告してきた者と、探している仲間達が……」

 

「騒ぎ立てず、昼間まで探して見つからなければ……もう一度報告に来い」

 

 男は短く返事をしてこの場から走り去った。

 

 ――くっ!

 

 悪夢はまだ、続いている。……姉の仇を討つどころか、あの男に追い詰められている。

 

 村の娘達が不安がっているのにも気付いてやれず、震え出した体を隠すように、私は部屋へと戻った。

 

 

(十)

 

 ――刻一刻と、その時刻が近付いてくる。

 

 この絶望的な状況に拍車をかける為に、将兵の引き抜いたというのか?……これも楽快の罠だとでも言うのか!?

 

 ……くそっ、どうすれば良いのだ!? 此処に来て、将兵が揃って逃亡などとっ!

 

 床の上に倒れ込む。身体がほんの少し浮いた後、重い体がどこまでも深く沈んで行く。

 

 自分の命ほしさに、義勇軍の仲間を見捨てたか。食えぬ奴等とは思っていたが、まさかここまでとは……

 

 私は北郷と初めて出会った時の事を思い出していた。曹操殿よりも先に、北郷の口から告げられたその名前。

 

 ……頭を下げる目の前の男は、果してどのような人物なのかと興味を持った。

 

「――良いでしょう。……ですが、仮にもこの趙子龍が仕える者ならば、誰にも負けぬ器量を、徳を身につけて貰わねばなりませぬ。……それでもよろしいか?」

 

「も、勿論だとも。私のできる範囲で趙雲殿に応えようではないか!」

 

 私は仰向けに転がり、大きく息を吐き出す。

 

 いや……、その男が率いていた賊紛いの軍を、仇を取る為に利用しようと近付いた私に、あの男を責める資格はない――

 

 仇の為と偽り、己の信念を曲げた結果が、これか……。

 

 これでは常山の迷い龍ではないか……、趙子龍よ。

 

 私はゆっくりと身体を起こす。

 

 ――来たか。

 

 慌ただしく足音を響かせながら、この部屋の前で義勇兵達が立ち止まる。

 

「――ちょ、趙雲義姉さん! い、いらしてますかい?」

 

 私が返事をすると、扉の向こうから予想だにしなかった答えが返って来た。

 

「ほ、北郷ってのは……危険です! あいつは、ご、五胡の妖術使いです!」

 

 

(十一)

 

 扉をゆっくりと開けると、見知らぬ男達がほっとした表情を浮かべた後、私を見て息を飲む。そして慌てながら、棒の先に引っ掛けていた荷物を廊下に落とした。

 

「……これは?」

 

「北郷の荷物です!……俺達同じ天幕だったんです! 開けたら――!」

 

「――お前達は他人の荷物を、無断で開けたのか?」

 

 私は目の前の男達を睨みつける。

 

「ひぃぃ! ととと、突然、なにやら震えだしたのですぁ! 本当ですぁ! 私等気になって調べようと中を覗くと、見た事の無い白く輝く衣と、怪しく光る箱のような物が!」

 

 ――この非常時に、説明するのも鬱陶しい!

 

「安心しろ! 素性はよく分からぬが、五胡の妖術使いでは無い。無害なのは私が保証する。……あとこの事は他言無用だ! 良いな?」

 

 男達は頷く。足下を見れば北郷の荷物が置かれたままになっていた。

 

「全く……、自分の荷物ぐらい――」

 

 龍牙の柄で持ち上げて部屋に戻ろうとすると、結び目が緩んでいたようで、荷がはだけてしまう。

 

 廊下に散らばった北郷の荷物を見て、周りの女性達が驚きの声を上げる。

 

「こ、これって!? この輝く白い服は!」

 

「す、すごい! 綺麗!」

 

 私は転がってしまった携帯とやらを素早く手に取る。そして服を手に取り、土を落としながら説明する。

 

「これは北郷の故郷の服なのだそうだ。安心されよ……、疚しき心を持つ五胡の妖術使いなどに、このような美しい物を生みだす事は不可能……」

 

 腰を屈め、この時代に不可思議な物を次々と拾い上げて行く。

 

「もし北郷が五胡の妖術使いなら、喜んでこの私が息の根を止めよう」

 

 生徒手帳なる物を拾い上げる。残りは確か……

 

 ――無い!?

 

 落としたぐらいで、目の前から無くなるような物では無い。廊下に這いつくばって探すも、アレが見つからない。

 

 ――まさか!

 

「お前達! この荷物に入っていた細い棒のような物はどうした!?」

 

 顔を見合せるも、よくわからないと首を振る。

 

「俺達がその荷を開けた時は……、そんな物入っていませんでしたぜ?」

 

「本当ですぁ。こんな怪しい物ばかりだし、一度見たら忘れませんよ!」

 

「そ、そんな……それでは、私っ……私は!!」

 

 世界が暗く包まれ――血の気が引いて。

 

「……ちょ、趙雲様! お、落ち着いて下さい! 大丈夫ですか!? お顔が青いです!――誰か、お医者様を!」

 

 

(十二)

 

 ここは……。

 

 これは北郷と出会って間もない頃だ。目の前の光景に覚えがある。

 

「北郷? この棒は何――!?」

 

 棒の先を押すと反対側の先から何やら尖った物が飛び出した。

 

 もう一度押せば、カチッと心地よい音を立てて元に戻った。

 

「――ふむ! ……これは面白い!」

 

 この癖になりそうな感覚が溜まらない。何回か繰り返し、私はそれを追求したくなった。

 

「ハイハイハイ、ハイーッ!!!」

 

「はやっ!」

 

 ……疲れた。どうやらこれはそういう物ではなさそうだ。北郷はこの目にも止まらぬ速さに驚いてはいるものの、面白そうにこの私を見ているだけだった。

 

 ……埒が明かぬ。これは何だと質問するも、逆に質問されてしまった。

 

 私は棒に視線を落とす。この先の尖りよう……、如何考えても凶器だ。私は一つの結論に達した。

 

「これは……、こう使うのであろう!?」

 

 瞬時に北郷の背後に回り込み、それを彼の喉元に突き付ける。北郷は両手を胸の辺りまで上げて否定する。

 

「――吐け!」

 

 私の一言が可笑しかったようで、北郷がくすくすと笑いながらこの棒の正体を明かす。

 

「これはボールペンと言って……、この国で言えば、筆のようなものかな」

 

「これが、筆? ほぅ?」

 

 北郷にそれを渡すと私の手を取り、それを軽く滑らせる。

 

 くすぐったさを感じたその後には……

 

 ――おぉ!!

 

 ぼーるぺん。それは使いたい時にすぐに使え、持ち運びができる筆。さらに驚くべきは、この国の技術では為し得ない、とても精密な物から作られていることだった。

 

 どういう仕組みなのかと興味深く触っていると、何やら先が緩んでいく。

 

 ……こ、これ以上は! と、思いつつも手が止まらない。とうとう限界まで来たようで、先は取れ、勢い良く中身が飛び出してしまう!

 

 ……まぁ、大丈夫だろう。それよりもと、この世の物とは思えない部品を手に取り、一つ一つ眺める。

 

 いったい何で出来ているのか――半透明な棒の中に黒い墨が入っている。逆さまにしても零れこない。また、手にすれば遠くへと飛んで消えてしまった不思議なものまで。……もう、この世の物とは思えない。

 

「……ふむ」

 

 思考錯誤の上、何とか元の形まですることはできたのだが、先程とは違い先は出たまま、反対側を押しても先端は元に戻らず、書こうすると先端がへこみ、文字が書けなくなってしまった。

 

「……北郷? ……音が出なくなった上に、先端が元に戻らん」

 

 北郷が様子を見に来てくれる。慣れた手つきでその筆を分解し、一瞬で解を導きだしたようだ。

 

「趙雲、バネは?」

 

 ……バネ? 嫌な予感しかせぬ。

 

「くるくるしたやつなんだけど?」

 

「……それは、な。」

 

「それは?」

 

 私は一つ咳払いをする。

 

「気を込めると、命が吹き込まれたようでな、私の手から旅立って行った」

 

 北郷から送られてくる無言の重圧に、満面の笑顔で対抗する。結局、二人で部屋中を探すことになった。その合間にも、それを見つけた後も、北郷をからかって遊んだのは言うまでもない。

 

 忘れていた、懐かしい記憶――

 

 本当に楽しかった、あの頃の記憶だ――

 

 

(十三)

 

 気付けば、娘達に抱きかかえられ、場は騒然となっていた。

 

「す、すまない。立ちくらみだ。……まだ、体調がすぐれぬようだ。部屋で休ませてくれ。……取り乱して、皆すまなかった」

 

 私はそう言い残し、震える身体でゆっくりと扉を閉め、膝をつく。

 

 あの一触即発の中、北郷が声を震わせながら吐いた台詞に……、私は気付いてやれなかった。

 

 きっと劉備に手渡したあの書簡は、ぼーるぺんで書かれていたのだ。文字が太すぎるなどと、何を見て言う。それはあ奴が北郷の書簡に、目を通していないこと明白。

 

 ――北郷は艶文など出していない。

 

 だが……、気付いたとしても、もう遅い。

 

 北郷を信じることができず、皆が居る前で真名を取り上げてしまったのだ。その事を侮辱され、想像を絶するまでの屈辱と汚名を着せてしまった。

 

 間違いだったなどと、どの面を下げて言う!?

 

……北郷を穢した私に、許しを請う資格などない。為す術はない――、

 

それでも! 後悔の念を止めることはできず、溢れ出てくる。

 

「許してくれ。……許してくれ、北郷。許してくれ、私を――」

 

 

(十四)

 

 時間は待ってくれない。苦しいのに、義勇兵が押し掛けて来る。

 

「趙雲様! 大変です! 趙雲様―!」

 

 まるでもう後がないと、追い詰められたように必死に私の名前を呼ぶ部下達。

 

 ――守らねば……。か弱き者を、義勇兵達を。

 

「――聞こえている。どうした?」

 

「劉備達が義勇軍を見捨てたという噂が! 義勇兵達に物凄い速度で伝わり 皆が劉備達を探し回っております!」

 

 ――くそっ!

 

 やはり楽快の計略か! 何か手を打たねば……。だが、どうすればこの混乱を防げる!?

 

 私ではもう手に負えない!

 

「――趙雲様!? ご指示をっ!」

 

「分かっている! 少し考える時間をくれ!」

 

 冷静でなければならないのに、自分でも驚いてしまうくらい、大声で叫んでしまう。

 

「す、すまない……。劉備達の捜索、御苦労だった……後で私から皆に説明する。皆には早まった事はせぬようにと、伝えて置いてくれ……」

 

「わ、わかりました!」

 

 義勇兵が慌てて走り去った後、私は床の上に倒れ込んで目を閉じた。

 

 

 

 

 ――誰、だろうか……? 目の前には見知らぬ者達が楽しそうに、酒と料理を平らげている。口一杯に頬張る尻尾髪の女性と、赤い髪の娘。その娘の汚れた口元を、怒りながら拭く黒髪を横に束ねた者。その姿見て、優しい笑顔を浮かべる……長い髪の女性。……おや? あれは黄忠殿?

 

 皆が楽しく騒ぐ中、私は一人取り残されていた。……ここに北郷の姿はない。

 

 ――扉を叩く音がする。

 

 一斉に皆が扉に視線を向ける。

 

 ――きっと北郷に違いない!!

 

 私は勢い良く扉を開ける。だが……、その扉の向こう側には北郷はいない……。彼は、居ないのだ……

 

皆が私に戻って来いと手を振る。扉を閉めれば、再び扉が叩かれた。

 

 これは確か……、北郷の国の来訪を知らせる合図。――北郷!?

 

 一瞬にして、虚ろな空間から引き戻される。飛び起き、真っ暗な部屋を彷徨う。置かれた家具に身体を当て、壁にぶつかり、這いつくばりながらも、私は扉の前に辿りつく。

 

 すぐにでもこの扉を開けたい。彼に――会いたい。だが私にはできない……

 

「趙雲?」

 

 私の声ですら、彼を穢してしまいそうで、怖くて……、苦しくて、声が出ない。これが私の犯した罪なのか――。彼にこの想いすら、伝えられないというのか!

 

 不安を滲ませながら小さく扉が叩かれる。存在を知らせたいが為に、私も同じように返す。

 

「……誤解を、解いておきたいんだ」

 

 扉の前で北郷が説明していく。気付いた通りの内容を……

 

「これだけは、君に知っておいてほしいって思ったんだ。……ごめん。それじゃ、俺は部屋に戻るね――」

 

 彼が離れて行く。北郷が離れて行く……!

 

 ――お前を信じられなかった、私を許してくれ

 

 私はもう、扉の前で崩れ落ちるだけしかなかった……

 

 

(十五)

 

「――趙雲!? ……ごめん、入るよ?」

 

 突然、扉の向こう側から北郷が私の名を叫び、扉を開けてしまった。気付いた私はそれを阻止せねばと、急いで扉を閉める。

 

「――いたた!? ちょ! どうして閉める――!?」

 

 扉を押さえつけるのが遅かったようで、北郷の身体がこちら側に半分入って来てしまっていた。

 

 彼から逃げるように床の中へと転がり込む。私の不可解な行動は、北郷の目にさぞ滑稽に映ったことだろう。

 

「――良かった、殺されるかもって……趙雲?」

 

 本当に安心したと呟いた後、私の名前を呼び、彼が近付いて来る。

 

 ――このままでは! 私は意を決して叫ぶ。これ以上私に近付くまいと、彼を止めるために。

 

「――来ないでくれ! お願いだ、私を……見ないでくれ!」

 

 北郷が一瞬立ち止まるも、私の言葉を無視して近付いて来る。

 

「えーと、取り敢えず誤解は解けたってことで、良いのかな? てか、真っ暗だな……、痛っ!」

 

 部屋に置いてある家具に身体をぶつけながら、私の隣に北郷が恐る恐る腰を下ろすと、優しく私に語りかけて来る。

 

「趙雲が俺の事で苦しんでるって……、もし良かったら理由を聞かせてくれないかな?」

 

 静かな時が流れる。私が意を決するまでの長い間、彼は無言で私の隣にいてくれる……。

 

「私は、私は北郷の事が信じられず、真名を――! ……お前に酷い仕打ちを!」

 

「……劉備が嘘を吐くなんて、誰も思わないよ」

 

 私は首を横に振る。

 

「真名とは……、己が認めた相手に、心を許した者だけに呼ぶ事を許す、……信頼の証。……それなのに私は劉備の嘘を見抜けず、お前を信じてやれず、真名を取り上げてしまった!」

 

「間違えは誰にでもあるよ――。それに俺は思うんだ。信頼は築き上げて行くものだって。そりゃ、時には崩れてしまうこともあるかもしれない。でも今回は――」

 

 違うのだ……。北郷は真名を理解していない。必死で私を庇おうとしてくれている。それが辛い。心が痛む。

 

「それとはまた違うのだ……。真名を預かるということは、その真名が己の魂と同化することを意味する。真名を返せと迫ること、それは報復なのだ! その魂を穢してやりたいほど、憎んでいるという」 

 

「なら、あの時の趙雲は……」

 

 私は素直に頷く。

 

「本当にお前が許せなかった。――だが違った! すべては劉備の嘘を見抜けなかった私の責任! 北郷に合わせる顔がない! 私はお前と共に歩めぬ! 私が全てを――、全てを!!!」

 

「趙雲、落ち着いて! そんなに自分を――」

 

「私はお前を穢してしまったのだ! 私は、私が許せない! ……耐えられないのだ!」

 

 それは取り返しのつかない行為。例えどんな理由があったとしても!

 

「もう遅いと、無駄だと分かっている! それでも言わせてくれ! すまない、私を許してくれ。……北郷、許してくれっ」

 

 尽きる事の無い後悔の念――。

 

 そんな中、北郷がぽつりと呟いた。

 

 ――ありがとう、と

 

 ……その有り得ない一言に、私は北郷を見てしまう。不快な感情を含ませること無く、彼は私に語りかけてくる。

 

「俺は、――その、趙雲が真名を返せと迫ったこと、趙雲だから、納得できる。穢されても構わない、とでも言えば良いのか……、えーと、その逆だよ?」

 

 上手く言えないけどと、必死に私に伝えようとしてくれている。

 

 一度大きく深呼吸して、真剣な声で――

 

「……劉備の嘘に騙されたけど、趙雲はその間違いに気付いてくれた。悪い事をしたって、俺何かの為に、こんなに苦しんでくれている」

 

 確かめるように自らの胸に手を当て、私を見据えながら――

 

「趙雲、君の真名は、君の魂は……俺の心の中で、とても強く輝いている――」

 

 紡いだその言葉が、私の心を満たして行く。私の真名を感じてくれている……

 

 ――嬉しい

 

 胸が高鳴る。その連理の契りに胸が熱くなる。だが比翼とはなれぬ現実が私を苛む。

 

 照れくさそうにして、逃げるように立ち上がった北郷の腕を掴む。

 

「北郷、――ありがとう」

 

 北郷は安堵した声で言う。

 

「暗くてよく見えないけど、やっと顔を見せてくれたね……、良かった。――また久しぶりに二人でお酒、飲もうな。……それじゃ、おやすみ」

 

 背中を向けた彼に、私は連理のように、絡みつくように抱きしめる。

 

「もう夜も深い。今日だけ……、私の――傍にいてくれないだろうか?」

 

「えっ!? いや、それはまずいぃ!――」

 

 ふふっ、逃がすものか……。

 

 この腕を放す心算は無い。そのまま閨へと引き摺り込み、こうしてまた北郷をからかえる喜びを噛みしめながら、彼の温もりに身を委ねた。

 

 

(十六)

 

 朝、目が覚めると、私の傍で北郷がぐっすりと寝っていた。起こさぬように身体を起こす。

 

「ん~っ!」

 

 ぐぐっと背伸びをする。身体が羽のように軽い。気持ちが良いほどに目覚めが良い。

 

「こんな朝は久しぶりだ……」

 

 眠る北郷の顔を覗きこむ。思えば、男を閨に誘い込むなどと、思い切った事をしたものだ。

 

 私は寝巻が着崩れしていないか確かめる。

 

 ……ふふっ、懐かしい。最初は酔い潰れてそのまま運ばれたのだ。途中で起きた私がこれでは面白くないと……。だが今回は酔っていない。

 

 ――だが何も無いのはこれ如何に?

 

 年頃の男と女が閨を共にして、何も無いとはこれ如何に!?

 

 多少の間違いくらい……、いやいや、相手は北郷。間違いなど起こる筈もない……。二人だけなら、問題は無いのだが……

 

 きっと村の娘達は北郷がここへと来たことを知っている筈だ。一夜を共に過ごし、何も無かったなどと……。鼻で笑われでもしたら、考えるだけでもおぞましい。

 

 だが今日の私は冴えていた。北郷が寝ている間に既成事実を作り、女としての誇りを守るのだ。

 

 早速行動に移すと、丁度良い具合に誰かが近付いて来る。

 

「……趙雲様~、お目覚めでしょう~か~?」

 

 案の定――、ゆっくりと扉が開かれ、小さな声でこちらを覗きこむ娘に、はだけた姿で振り向き、唇に人差指を立てる。

 

「失礼、しました~」

 

 ……許せ北郷! これはお前の為でもあるのだと、心の中で詫びながら、名残惜しい温もりに別れを告げる。

 

 いつもの服に袖を通す。彼の傍に腰を下ろし、彼の前髪を愛おしく撫でる。その気持ち良さそうな寝顔を見ていると……、起こすのは忍びない……、の、だが……。

 

 閨の上に膝を落とし、重なるように真正面から覗き込む。

 

 ――鼓動が高鳴る。

 

「あっ……、朝でございますよ」

 

 肩を揺すると北郷が眠りから覚める。彼の瞳の中に、私の知らない私がそこに居た。

 

「――おはよう、趙雲」

 

 

(十七)

 

 顔を洗い部屋に戻ると、入れ違いに北郷が寝ぼけ眼で出て行く。

 

 降り注ぐ朝の日差しに目を細める……。先程まで共に寝ていた波打つ敷布。なによりも、不揃いに置かれた机と椅子が、昨日の出来事を物語っていた。

 

 こうありたいと願う、私の夢なのではと不安に駆られる。どちらにしろ、現実から目を背けるのは終わりだ。

 

 ――私は先に行くぞ、北郷。

 

「ん? 趙雲、朝食も食べずに出掛けるのか?」

 

 いつの間にか戻って来ていた北郷に驚く。彼の後ろには粥を持った村の娘達がいた。

 

「趙雲様! 朝食をお持ちしました!」

 

 娘達が私達に意味深な表情を向ける。……何も知らない北郷がありがとうと一言告げ、嬉しそうに粥を受け取ると、一人部屋へと戻って行く。

 

 感謝の言葉を告げ、私の分の粥を受け取ると、鼻息を荒くした娘達が耳元で呟く。

 

「どうでした!?」

 

 ――何も無かった。

 

 とは、口が裂けても言えぬ。適当に誤魔化すと、案の定、娘達はその豊かな妄想を膨らませ、黄色い悲鳴を上げながら戻って行く。

 

「――趙雲、早く朝食にしよう」

 

 ――北郷奴! 何も知らないで……安穏としてくれる!

 

「北郷、私達は賊に追い込まれている。安穏としている場合では無い」

 

 椅子に座って待っていた北郷が、私の一言にきょとんとした後、真面目な声で答える。

 

「――焦る気持ちは分かるけど、大丈夫。取り敢えず朝食を食べよう!」

 

 ――ほら、早く!

 

 北郷が椅子を叩く。

 

 私は戸惑う。何が大丈夫なのだと……。だが北郷の自信に満ちたその表情に、自然と笑みが零れる。

 

 そこまで言うのなら、もう少しだけ一緒にいてやろう……。だがその生意気な表情が気に入らない。

 

 席に座り、湯気が立つ粥を一杯掬い、北郷の口元に差し出す。北郷は一瞬にして困惑の表情を浮かべる。――その困った顔が、私の心を満たすことも知らずに。

 

 

 あとがき

 

 大変お待たせしました! 十二章、冀州夢想、連理の契り。いかがでしたか?

 

 前回の趙雲の信じられない行動に、まさかまさかコメントが大爆発! フォローしたくも、ネタバレはいかんと我慢の日々でした。

 皆さんの疑問の答えは、本文に書いたつもりですが、テスの力量では伝えきれないかもと思ったので、念のため、最後のページに簡単な流れを書いておきました。

 

 さてさて、気になるかどうかは分かりませんが……、趙雲のお姉さんのことを少し。兄じゃないの?……そこは仕様ということで一つ。

 名前は趙空、字は子然(しぜん)楽快の毒矢を受けて、戦えない身体になってしまった趙雲のお姉さんです。昇龍伝オリジナルの設定。

 字を考えるのが大変でした…… 空、様々に姿を変え、そのありのままの姿が美しい。ありのままは自然。子然って感じで決めました。ネーミングセンスがほしい;

 

 お話はガラリと変わりますが、真名の本質も追究してみました。真名を返上すること=怨みや、呪いで相手の魂を穢し、報復すること、とします。真名を物のように扱ってしまうと、何だか軽いものになってしまうような気がしたので……

 間違いに気付き、取り返しがつかない事をしてしまった趙雲。でも趙雲ならその行為は正しいと、逆に光輝いているのだと言われれば、趙雲も救われますかね?

 

 沢山のコメント、応援メッセージ、本当にありがとうございます! 皆さんの趙雲への愛を感じずにはいられません!――嬉しい限りです。

こんな昇龍伝ですが、もしよければ次回もお付き合い頂けると嬉しいです。

 

 

 コネント返しのページです。沢山のコメント、本当にありがとうございます!

 

○ thule様

――いやはや、お疲れ様です! 校正が本当に大変でした;

 

○ munimuni様

――色んな意味で、どうするんだって感じでしたがw こうなりました! どうですかね?

 

○闇羽様

――今回、趙雲は姉の仇の為に動いていました。激怒の理由は、北郷の艶文。真名返上の本音は本文にて。こんな感じとなっております。

 

○ YOMO様

――趙雲の危機や、罪、後悔。幾つもの見せ場があったのですが……、ここでポカすると、かなり失礼なので、全力で挑みました。失敗すると、もう昇龍伝書けません!

 

○相駿様

――な、なんですと! 趙雲は劉備に騙されているのです! 劉備何かに、してやられたままではいけませんよ! ――真名返上、ただ返すだけでは面白くないので、呪いの意味もプラスしてみました。……怨念がその魂を穢す事でしょう!

 

○ Jackry様

――劉備が、見つかりません ( ゚д゚) マジデスカ !? 義勇軍大混乱な予感がします!

 

○ hall様

――本当は、二人とも何も変わっていないのに、擦れ違いでこんなことに! でもこんな感じになりました。良かった? ですが、敵の狙いは趙雲。正直ヤバイです!

 

○フルー様

――ありがとうございます! この小説を書くとき、涼宮ハルヒを参考にしたからでしょうか~ 今回は趙雲がメインです。思うんですが、趙雲って普段、何考えているんでしょう?

 

○ジョージ様

――知らぬは罪、まさに趙雲はその通りになりましたね。趙雲が迷走している理由を知って、皆さんに納得の一言が貰えるか、上手く伝えられたかどうか、気になって仕方ありません!

 

○ねんど様

――信念を曲げた星。まさに迷い龍の一言です。

 

○大うつけ様

――御指摘ありがとうございました! 最後の作業はコピペでして……、今後気をつけます。

 

○とらいえっじ様

――えぇ、もう大ピンチですよ! 駄目な官軍、義勇軍! やはり最後はあの二人かと、言わんばかりですねw

 

○森番長様

――おみごとです。皆さんが、ぁぁぁ、愛紗―っ! っと叫んだ? あの劉備ですw

 

○サイト様

――すべては姉の仇の為なのです!――趙雲も本意ではないのです! 姉の仇は私事。……それが賊となれば、尚更彼等の力が必要ということで。

 

○ルーデル様

――事情が事情なだけに。彼女としては難しい所なのです。一刀に関しては、騙されてしまった趙雲の落ち度でしょうか?

 

○ Raftclans様

――良い読みです。劉備が趙雲の要求に応じようと頑張っているので、彼女は彼を育てようと、彼女は筋を通している。だが義勇軍の志は低い。そんな中に北郷がやってきた。焦りと怒りで劉備の嘘を見抜けず、真名返上してしまった。二人で話ができれば良かったのに、そうもいかなかった所がポイントでしょうか。

 

○ kuzu様

――うっ! 流れでは、まんまそういう展開ですが、彼女が激怒した理由で、納得してやってください。仮にも、一刀は星の主になりたいと船の上で言ってますから。

 

○リョウ流様

――良い男でしょうか? そう思って頂ければ作者としては幸いです。趙雲の行動も理由をしれば納得が行くかなと……。最初NTRの意味がわかりませんでしたが、NTRモノは次編からの予定です。イヤイヤ(´Д`)ムリダロ 

 

○ trust様

――その通りです。星の苦しみは、一刀を主と仰ぎたいと思っていても、それが許されない事、できないこと。冷静で居られなかったことは、一刀が星と共にありたいと願っているのに、彼女の事を全く理解していなかった事に失望したからです。

 いま、趙雲のライバルは曹操、この人です。……彼女が動くのは、まだまだ先の話になりそうです。

 

○働きましょう様

――偽劉備で間違いありません。ただ、都合により宝剣は持たせていません。

 

○ toki様

――目が覚めても、どうしようもない状況まで追いつめてみました。こんなもんでどうでしょうか?

 

○ kaku様

――うっ! 少し無茶しすぎましたが、全力で頑張りました。自分で書いていて、仲直りできて良かったなと思ったので、大丈夫、かな? ふ、不安だー! 萎えないことを祈るばかり(マテ

 

○ジョン五郎様

――モヤモヤが一カ月以上ですから、本当に申し訳ありません;

 思わせぶりな台詞で脈があると思わせながら、迫る相手をひらりと交わし、己の目的を遂行する。……これぞ漢女道の極意(まだ言うか!)というのがやりたかったのですが、裏ではそういうことがありましたと言う事だけ、お伝えしておきますw

 

○ MATSU様

――お待たせしました! 誤解が解けると良いんですけど; 劉備がほんと邪魔でしたが、居なくなったら、居なくなったで大変なことに! やはりこの二人。舞台は整ったって感じですね!

 

○ヒトヤ様

――お待たせしました! 失敗の許されない、趙雲視点の第十二章です;;; 最後は久しぶり過ぎて、ちょっとやりすぎた感がありますが;

 

○ corn様

――うっ! 確かに。ですが趙雲に教育されているので、という言い訳はさすがに無理がありますな; ですが、この失敗を活かし、次に繋げよう精神は健在かと……。再び登場させるかどうかは……、未定であります;

 

○ kazu様

――そうです。姉の為という理由があったのです。 そして劉備達幹部は趙雲を覗き、失踪! さすがにこれは斬られても仕方ないですが、趙雲の嘘に関しては、騙された方が悪いって感じでしょうか? 信用は一瞬で無くなりましたが;

 

○夕顔様

――だいたいそんな感じです。第一章の北郷の台詞で、曹操よりも先に名前が出ていた人物ってのがポイントです。少なくとも、曹操殿と肩を並べる人物――、様子を見てみるか……てな感じです。ちなみに劉備が趙雲の主だとは、伝えていないはず。確か趙雲がそれを断ったと記憶しています(自分の勘違いかも)

 

○ gmail様

――そうです。アニメ版第一期の劉備が下地です。やっぱり逃げ足早いですね。趙雲が負け、どうにもならないと見て、村から去ったようです。――悪い奴です。

 後がないと言う趙雲、でも余裕で朝飯を取る一刀。何を考えているのでしょう?

 

○花様

――そです。編が変わる、つまり見せ場なのです! 物語の尺、考えると滅入りそうですw 恋姫と史実をぼちぼちと繋げつつ、適度な長さにせねばとは思っていますが、さてさて;

 

○鐵 恭哉様

――相変わらずミスが多いです; 報告ありがとうございます!

 

○鳳蝶様

――星を登場させる場合、ただでは登場させまいと決めておりました。今回の話はミスが許されないので、正直不安であります;

 

○ Migista様

――うっ! 理想と誇りを胸に、正義を愛する趙子龍が、どうして!? 趙雲の不可解な行動は確かに辛い所です ですがそれも目的のためなのです!

 

○かもくん様

――ガガーン! だが何も言うまい!

 

○ K2様

――今思えば、逆に入れた方が、星はなんか企んでるなと、皆さん思われたかもしれません。ただ劉備貴様ぁ!と大荒れしそうですがw ( ゚∀゚)o彡゜NTR! NTR!

 

○雪蓮の虜様

――ガガーン! ですが、関係は前以上に! 雰囲気に流されて……、ちとやりすぎましたかね;

 

○ rikuto様

――お預けを喰らった後には、それはそれは素晴らしい何かが……。更新が遅いので、もしかして放置? と思われた方もおられるかと。遅くなって申し訳ありませんでした; せい的なクライマックス? 昇龍伝が終わってしまいますね、いろんな意味でw テスもニヤニヤできなくて、残念で仕方がないのです!

 

○ sink6様

――こうなりました! 良かった良かったとエンディングを迎えた感じですが、まだ終わってません。

 

○ k5810様

――これまた良い読みを。真名の再交換はできませんが、そこは一刀。口説いて、さらりと絆を深めてしまいました。真名は偉大ですね!

 

○皆さんへ

――第十一章での趙雲の迷走、反響が凄い事に! 失敗が許されない十二章、皆さんに納得してもらえたのか不安です。最後は仲直り。予想通りです……許して!

あと、最初から仇打ちの途中って、言ってくれれば良かったのに! と思われている方もいらっしゃるかと。これはまぁ……、趙雲の私事だし、北郷に危機感を持たせるためとでも思って、納得して頂ければ幸いです。

 

 

最後のページに、簡単な説明を。こんな流れになっておりました。

 

○何故、劉備と行動していたのか?

――すべては姉の仇討ちのため。単騎では難しく、その時に劉備に勧誘される。最初に出会った時の北郷の台詞を覚えており、劉備という人物が気になった。義賊を義勇軍へと改革しながら、姉の仇である楽快を探していた。――そんな時に出会ったのが北郷。

 

○趙雲が迷走しているのは?

――趙雲の求める志、信念に達していない集団で、己を突き通す難しさ故の妥協。目的(姉の仇)を達成するまでは見限る事はできなかった。信念を曲げつつも、劉備達を成長させようと行動していた。

 ちなみに、女装していた北郷と出会い、彼の言葉に心はズタズタ。でも彼だと気付いた時は、心の中でとても喜んだ。

 

○北郷を信じず、趙雲が真名返上してしまった理由

――育てている劉備に嘘を吐かれたとは思いもせず、書簡を艶文だと取ってしまったことで、力を持たねばならないことを、全然理解していなかったことへの失望、苛立ちから。

 文中の通り、怨むほど悔しかったそうです。――ちなみに、その恨みを反転すると、苦しいほど好いているという意味ですが……、それを受け入れた北郷の台詞は、まさに趙雲との連理の契り(北郷がここを理解しているかは別問題)

 ただ御存じの通り彼等は空に昇らねばなりません。つまり連理の枝に止まる仲睦ましい二羽の鳥をイメージしていただければ、二人の関係が見えるかと思います。

 


 
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