No.140273

マクロスF~イツワリノウタノテイオウ(8.1.Mission Code‘Emperor in the Milky Way’/First volume)

マクロスFの二次創作小説です(シェリ♂×アル♀)。劇場版イツワリノウタヒメをベースにした性転換二次小説になります。【追記】2010.10.11一部訂正しました。

2010-05-02 00:29:09 投稿 / 全1ページ    総閲覧数:1138   閲覧ユーザー数:1129

8.1.Mission Code‘Emperor in the Milky Way’/First volume

 

 

『アタシの歌を聴けー!』

 

 派手な爆音と共にウォーターフロントに巨大戦艦を模したステージが色とりどりのライトに照らし出された。

 会場を埋め尽くす観客の目がステージに向けられている。

 

 フロンティアでの最期のライブの幕が上がった。

 

(俺は歌のプロなんだ――)

 

 これまでも、そして、これからも、ステージに立って全力で歌う。

 それが、自分に出来る戦いなんだ。

 

 

 

 

 

「ええっと……Fの7番……」

 

 いろいろ悩んだけど、家を出てきてしまった。

 きっと、後からお姉ちゃんに怒られるだろうけど、シェリオさんのラストステージを見なくちゃいけないと思った。

 

「ふう。あれ? アルト、まだ来てないんだ」

 

 パフォーマンスの始まった会場で何とか座席に辿り着いたけど隣は空席のまま。

 アルト、どうしたんだろう?

 

「あれ……留守電?」

 

 一息ついたところでオオサンショウウオさんがちかちか光っているのに気がつく。

 誰からだろう?

 

『ランタ?』

 

 イヤホンをつないでメッセージを再生する。

 ――お姉ちゃんからだ。

 

『本当は直接言うべきだったんだけど、言い出しにくくて。

急に仕事が入って、今日は帰れないと思う』

 

「!」

 

 『仕事』という単語に背筋が寒くなる。

 まさか、戦いにいったんじゃ……。

 

『でも、絶対、皆、無事に連れて帰るから、安心して待ってて頂戴』

 

(お姉ちゃん……)

 

 メッセージはそこで終わり。

 曲が終わり、暗転した会場そのままに、気持ちが真っ暗になった。  

 

(また、僕は全てを失ってしまうの?)

 

 前のシェリオのライブがあった時の光景が頭を過ぎる。

 傷を負って、血を流すお姉ちゃんの姿がまざまざと蘇ってくる。

 

(どうしよう。また、あんなことになったら……)

 

 お姉ちゃん、ミシェル、ルカ、そして、アルトに何かあったら、どうすればいいんだろう?

 暗い気持ちで座り込んでいるとステージに再びライトが灯る。

 

『――次の曲(ナンバー)はワタシにとって、とても大切な曲』

 

 汗だくになりながら、ステージ上でシェリオさんが静かに話し始めた。

 

『皆も今日までたくさんの出会いと別れを繰り返してきたと思う。

でも、もう大切な人をなくしたくない――』

 

 その言葉の本当の意味を感じて、息を飲む。

 

(シェリオさん――まさか、知ってる?)

 

『ねえ、皆、ちょっとワガママ言ってもいいかな?

この曲はある人のため――ううん、遠くで戦っている大切な人たちに捧げたいの。

今、遠くで命を掛けて戦っている人たちのために』

 

「やっぱり、知ってるんだ……」

 

 戦場に向かったアルトたちのことを言ってるんだ。

 

 そして、静かな旋律(メロディ)にのせて、シェリオさんの歌声がその想いを紡ぎ始める。

 

(どうか、皆、無事で――)

 

 きっと同じ想いでシェリオさんも歌ってる――。

 僕も祈りをこめて、同じ歌を口ずさんでいた。

 

 

 

 

 

『スカル4、信号(シグナル)オールグリーン確認。出撃可能です』

 

 オペレーターからの指示に深呼吸する。

 これが初陣になるんだ。

 戦うために初めて宇宙を飛ぶ。

 

「了解。スカル4、出ます!」

 

 グリップを握りなおして、発進する。

 G圧に体が押されて、機体が宇宙に飛び出す。

 

 機体が安定したところで視界の端に小さく揺れる赤い石が目に入った。

 シェリオから預かったお守り。

 

『五体満足で戻ってきて、イヤリング、返しに来い』

 

 別れる時の言葉が頭を過ぎる。

 うん、ギャラクシーの人たちを助けて必ず戻るから。

 

 視線を辺りに向ければ、爆撃音と閃光がいくつも見えた。

 グレオの言葉は本当だったらしい。

 

「このままやりたいようにさせるものか」

 

 バジュラに侵攻されるギャラクシーへと機体を向けた。

 

「ひどい……」

 

 近づくにつれて状況がはっきりしてくる。

 ギャラクシー船団の惨状は今さっき戦闘が始まったと思えないくらいに酷かった。

 メインフロントはもちろんあちこちで火の手が上がっているのが見えた。

 ……恐らく、もうまともに機能していないだろう。

 これじゃ戦いって言うより、一方的にバジュラに蹂躙されているっていうのが正しい。

 

『これより、『銀河の帝王』に従い作戦行動に移る』

「スカル4、了解」

 

 オズマ隊長の命令に気を引き締める。

 一人でも多くの人たちを救わなくちゃいけない。

 

「あんたたちの敵はこっちよ!」

 

 それぞれ散開して難民船に取り付こうとしているバジュラに攻撃を仕掛けた。

 突然現れた新しい敵にバジュラたちも攻撃対象を変える。

 

「前みたいなわけには行かないんだからね」

 

 こちらに照準を合わせたバジュラの砲撃をかわし、攻撃に転じる。

 

「よし! まずは一機目」 

 

 こちらの攻撃が当たる。

 この調子で早く敵の数を減らしていかなくちゃ。

 

『ギャラクシー難民船三隻、フォールド圏外に脱出確認』

 

 戦闘の中、オペレーターの現状報告に息を吐く。

 

「このまま他の難民船も……」

 

 一先ずフォールド圏外まで退避出来たなら、安心なはず。

 このまま続けて全ての艦がこの空域を離れることが出来たら……。

 

「――えっ!」

 

 突然、視界に閃光が走った。

 敵影がなかったはずのところから砲撃が放たれた。

 一直線にそれは遙か後方に向かって進む。

 

「まさか……」

 

 戦闘から遠く離れた場所で着弾して大きな爆発が起こった。

 その位置から嫌な予感がする。

 もしかして、今、爆発したのって……。 

 

『新たに敵機確認! 巡洋艦クラスのバジュラです。――フォールド圏外の難民船を攻撃。生存者は……』

「そんな――!」

 

 嫌な予感が的中する。

 オペレーターの言葉に唇を噛み締めた。

 

 功名に隠れていた敵。

 その存在に全く気づけなかったなんて。 

 

「このままじゃ、ダメだ」

 

 新たな敵の出現にこちらは少なからず動揺せざるを得ない。

 このまま押されるなんて冗談じゃない!

 

「もうこれ以上、被害を出させない!」

 

 グリップを握り締め、エンジン出力を全開にする。

 今ここで敵を突破できなきゃ、ギャラクシーは全滅してしまう。

 

『スカル4、先攻しすぎだ!』

 

 突然、戦隊を離れたことでオズマ隊長の諌める声が聞こえてくる。

 

『アルト、無茶よ!』

 

 続いて、ミシェルの声も。

 

 この突撃が無茶なことは分かってる。

 でも、今、どうにかしなきゃ。 

 

「せめて、あの巡洋艦の砲弾だけでも」

 

 難民船を一撃で落とした巡洋艦。

 あの砲弾だけでも、破壊できれば――!

 

「このまま内部に潜入できれば、何とか……」

 

 食らい付いてくるバジュラを何とか振り切り、巡洋艦の内部に入り込む。

 

「――しつこい!」

 

 いくら振り切っても、後から沸いて出てくるようにバジュラが攻撃を仕掛けてくる。

 この巡洋艦といい、一体、敵の数はどれほどになるのか……。

 

「え……」

 

 巡洋艦の内部なのに、場違いな音が耳に入る。

 

「――シェリオの歌?」

 

 でも、気のせいじゃなかった。

 確かに、シェリオの歌が聞こえてきていた。

 

(一体、どこから……)

 

 空耳なんかじゃない。

 シェリオの声はどこから聞こえてくるのだろう?

 

「あ……イヤリングから聞こえて来てる?」

 

 コクピットで揺れる赤い石。

 シェリオから預かったイヤリングから声が聞こえてきていた。

 

 こんなことってありえるんだろうか?

 

「え? バジュラの動きが止まった?」

 

 周りの空気が変わったのに気づく。

 さっきまでの戦闘がウソのようにバジュラたちが動きを止めていた。

 

「まさか、フォールドウェーブ?!」

 

 そんな気配は微塵もなかったはずなのに、フォールド準備体勢に入ったのがわかった。

 

『各機、帰還せよ。これよりバジュラを追跡してフォールド体勢に入る』

 

 微弱ながらも帰還を要請するオペレーターからの指示が聞こえてきた。

 でも、それに応じることは出来そうにない。

 ――恐らく、このまま巡洋艦と一緒にフォールドすることになるだろう。

 

「一体、どこに?」

 

 突然のことに敵側の考えが読めない。

 ギャラクシー難民船の後を追うつもりなんだろうか?

 

「く――!」

 

 巡洋艦がフォールドする。

 世界が歪んで、一気にG圧がかかった。

 

 視界がハレーションを起こす。

 無理にフォールドに巻き込まれた形になって、体に無理な重圧が圧し掛かってくる。

 

(こんなことで意識を失ってる場合じゃない!)

 

 歯を食いしばって、重圧に耐える。

 

 そして、永遠に続くかと思ったフォールド体制が解ける。

 重圧が去って、視界も元通りにクリアになった。

 

「ここは一体――」

 

 軽く頭を振って、状況を理解しようとする。

 未だ敵巡洋艦の内部にいるのだから、外部の状況は全く分からなかった。

 ここはギャラクシー難民船の逃げた空間なのだろうか?

 

『……敵部隊デフォールドしました……現在位置、フロンティア空域と確認……』

 

「そんな――フロンティア空域だなんて!」

 

 突然回復したマクロスクォーターとの通信。

 聞こえてきた言葉に耳を疑う。

 そんなフロンティア空域に戻ってきていたなんて信じられない。

 

 敵の目的は一体?

 ――まさか、ギャラクシーの次はフロンティアってことなんじゃ……。

 

 ギャラクシー船団を壊滅に追いやったバジュラたちに攻撃されたら、どうなってしまうのか。

 フロンティアも無事で済むとはとても思えない。

 

 巡洋艦から出るために再びエンジンを全開にした。

 

「フロンティアをギャラクシーの二の舞になんてさせない!」

 

 後を追ってくるバジュラたちを振り切って、巡洋艦の外に出る。

 

(一手遅れた――っ!)

 

 すでにフロンティアのメインランドは戦場と化していた。

 あちこちで戦火が上がっているのが見えた。

 

(あ――今、フロンティアでシェリオのコンサートやってるんじゃ……)

 

「シェリオ、無事でいて――!」

 

 神様に祈りながら、メインフロントに向かった。

 

 

→to be continued…

 


 
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