一刀視点
(曹操さまが荀彧の行動に違和感を持ったのは、ほぼ間違いない。そうなれば、荀彧に対して疑念なり疑惑なりを抱いているはずだ!)
前回の謁見と今の違いを考えているうちに浮かんできた重大な問題点に、俺は荀彧の事を思った。寝台から立ち上がり、俺は備え付けの椅子に座った。
(荀彧が曹操さまに疑われているとすれば、曹操さまから荀彧に何かしらの確認なり、問いただしなりがあったはずだ。……いや、でもそうだとしたら、俺がここに連れてこられた理由は何だ?)
荀彧が疑われていることと、俺がここに連れて来られたことは、どんな関係を持っているのか。それは俺と荀彧がいったいどんな関係なのかと言うことだ。
(恋人同士……って言いたいところだけど、まだそんな関係じゃないし。今はそう言った社会的な関係性よりも、荀彧が疑われた原因が俺にあるっていう関係性の方だな)
俺は荀彧が赤壁で完璧な撤退を成し得た原因だ。そのことが、この場合の俺と荀彧の関係性であることは間違いない。つまりは、曹操さまは荀彧を疑い、その原因が俺にあるのではないかと思ったから、俺をこうして軟禁したのではないだろうか。
(でも、そうだとしたら、曹操さまは俺が荀彧の行動の原因であると思ったと言うことになる。だとすると、問題は曹操さまがなぜそう思ったかだ。荀彧本人に聞いたのか、それとも他の要因によるものなのか)
もしかしたら、不審な行動をした荀彧がただ一人直属においている男だからだとか、そう言った理由で、荀彧の事について聞くためではないかと言うことも考えたけど、そうだとしたら、わざわざ軟禁なんてする方が荀彧に怪しまれるだろうし、曹操さまがそんなことをするとは思えなかった。
(どういった経緯で曹操さまが今回の行動に出たにせよ、行動に出るだけの根拠があったと見て間違いないだろう。その根拠がなんであれ、俺と荀彧の関係性に関する重大なものであるはずだ)
そこまで考えてから、一度大きく息をついた。ふと外を見れば、日差しがより強くなったようで、時刻が昼に近付いていることが分かった。
昼が近いことが解ると、途端に腹の虫が鳴いた。
「はぁ。これだけ緊迫した状況だって言うのに、腹は空くもんなんだな」
そう声にだすと、先ほどまで感じていた緊張が少しほぐれた。
「さて、ご飯でも食べてから、じっくり考えるか。焦って間違った推論をしてしまったら、元も子もないし」
そう思いついた俺が、扉の外にいる親衛隊の人に昼食が取りたいという旨を伝えると、部屋まで料理を運んできてくれた。
「至れり尽くせりだな」
その光景に、思わず俺は笑ってしまった。
「ふぅ。おいしかったな」
運んできてもらった昼食を食べ終え、食器などを下げてもらった俺は、その料理のおいしさに驚きながら、椅子にゆったりと体を預けていた。
「さて……と」
そう言いながら姿勢を正して、俺はさきほどまで考えていたことに、思考を戻した。
(曹操さまが何かしらの根拠を持っているとして、決定的な根拠があるのなら、わざわざ俺をここに呼ぶまでもなく、前回の謁見の時と同じように、玉座の間にでも呼び出して、そこで堂々と言えばいい。けれど、それをしないと言うことは、その根拠が決定的とまで行かないと言うことかもしれない)
そうだとしたら、俺がここに呼ばれた理由も少し変わってくる。荀彧の行動の原因が俺にあると睨んでいるとして、そのことがまだ不確定だから、俺が原因であると言う根拠を問いただすことによって見つけ出そうとしている可能性がある。
(確証がないのだとすれば、根拠となりえるようなことを言わなければいいのか?)
あの曹操さまを相手に、根拠となりえないことを言わないようにすると言うことがいかに大変だろうかと想像して、少し身震いをした。
(どれくらい大変なんだろう。きっと、とてつもないプレッシャーがかかってくるだろうしなぁ……。というか、根拠となるようなことを言わないことが、正しい行動なのか?)
そもそも、自分がここにいる原因と、曹操さまがこんな行動を起こした原因を思い出すと、必ずしもそれが正しいものだとは思えなかった。
(曹操さまが荀彧を疑っているから、俺がここに呼ばれたのだとしたら、荀彧の行動の原因は全て自分にあるって言った方がいいんじゃないだろうか? そうすれば、荀彧の疑いは晴れるだろうし、俺はもともと赤壁の戦いで消えるはずだったんだ、その罪で処断されたとしても、悔いはない)
自分が原因だと言うか、それとも根拠を曝さないようにするか。どちらにするかは、荀彧にどんな疑いがかけられているかをはっきりさせてから決めないといけない。そうでなければ、荀彧に迷惑がかかってしまう。問題は、そんなことが自分に出来るかどうかだ。
(曹操さまに探りを入れながら、自分の行動を決めて、その行動をやり遂げるのか。どう控え目に見たって、俺の能力じゃ無理だな。……けど、それをやってのけなきゃ、最悪俺も荀彧も打ち首とかになりかねない)
「こりゃ、気合いを入れないとだな……」
自分と、そして荀彧に差し迫っている危機の大きさに、少し気圧されながら、俺は自分の出来る限りを尽くそうという決意を固めた。
華琳視点
北郷を抑えてから数日が経った。本当なら、抑えたその日に詰問にいきたかったけれど、仕事に追われてしまい、結局ここまで時間をかけてしまった。
桂花に、状況があるから他の仕事はするなといったのは、北郷を抑えたことを悟られにくくするためだったけど、実際にここまで忙しいと、その命令も当然のように思える。
(さて、そろそろ行こうかしらね)
こちらの切り札とも言える書簡を持ち、私は自室を出た。日はもう暮れてしまい、廊下に差し込むのは、昼間の日差しとは違う淡い月明かりで、何とも優しい光が辺りを照らしていた。
(私の目的は、桂花の行動の理由をしること。出来ることなら、これからも桂花を信じられるような理由であってほしいけど、そうでなかったとしても、真実を全て知った段階で、判断するまでね)
少しの間月を見つめた後、私は北郷のいる部屋へと向かった。
桂花視点
華琳さまの直属につき、蜀と呉に関する情報を処理する毎日を送っていた私は、段々と一刀の事が気になって来ていた。洛陽に戻って来た時に、寝顔を見て以来、一度もあいつを見ていないし、話をしたのは、私が一刀の部屋で泣いてしまった時が最後だ。
別に一刀に会えないから寂しいとか、あいつが恋しいとか、そう言う気持ちではない。……と思う。あいつが大切な存在であることは確かだけど、だからと言って、そこまで優しくしてやるつもりもない。
一刀の事が気になると言うのは、華琳さまのことがあるからだ。
華琳さまは、赤壁の撤退の折から、何かを考え込んでいらっしゃるご様子だった。もちろんその考え事の原因は、私の行動にあるだろうことは疑う余地もない。あれだけ完璧な撤退、いや完璧すぎる撤退をすれば、疑われても仕方がない。
恐らく、風や稟、それに秋蘭辺りは私の行動に対して何かしらの疑念を持っているだろう。
今の問題は、その疑念の矛先が、私から一刀に向けられる可能性があると言うことだ。あそこまで完璧な撤退が出来た理由として、一般的に思いつくだろう理由は、他国との通謀だろう。けれど、他国と通謀していたとすれば、私の行動はおかしな点が多すぎるだろう。
そうなれば、私が他の誰かから情報を得て、それをもとに撤退を指揮したと考えるのが妥当だ。そして、その誰かに当たる人物として疑われる可能性があるとすれば、男でありながら、ただ一人私の直属の部下となった一刀を置いて他にいないだろう。
それに一刀は、東の島国から来たと言うことになっているし、出自も不明で、怪しいことこの上ない。なんとか試験に合格出来たから、文官として働けているけれど、他国であれば、文官として働くことなんて決して出来はしなかっただろう。
とにかくそれだけ怪しい人物である一刀に、華琳さまが目を向けないはずがない。いずれ、何かしらの行動を起こしてもおかしくはない。
前回と同じように、玉座のまでの謁見という形にするか、またはもっと内密な形で会談するかは別にして、華琳さまが一刀に私の行動の原因を知らないかと聞いた場合、遺書を秋蘭に託したあのバカのことだ、全て自分に責任があるとか言いだしかねない。
そうなれば、せっかくの私の行動が無駄になる。いや、そうなってしまったら、責任を取らされて打ち首なんてことになりかねない。
仮に華琳さまが、あいつの知識に目をつけて打ち首にしなかったとしても、今後の戦いにおいてあいつの知る歴史通りの結果が、出なくなってしまう可能性が出てくる。それはすなわち、あいつが滅んでしまうことになりかねないと言うことだ。
華琳さまにしてみたら、一刀なんて取るに足らない男だろうし、その一刀が死のうが消えようが、大した問題ではないだろう。
けれど、私にしてみたらそれは大問題だ。せっかく助けた一刀が、目の前で消えて行くのを見ているなんて、私には耐えられそうにない。
そうしたことを避けるためにも、一刀に会ってこれからの対応について話しておかなければならない。そう思っていたある日、いつもより早めに仕事を終えることができた私は、その足で政策決定局の執務室に向かった。
その日は華琳さまも少し早めに仕事終えられ、自室に戻られていた。
「久しぶりだけど、ちゃんと仕事してるかしら?」
そう呟きながら、私は執務室へと続く廊下を歩いていた。
(今後の対応のこともだけど、遺書のこととか、真名を呼んだこととか、私を泣かしたこととか、言ってやりたいことは山ほどあるのよね)
そんなことを思いながら少し頬が緩んでいたのは、きっと気のせいだろう。
(さて、久しぶりのあいつは、どんな顔をするかしらね)
楽観できる状況ではないけど、なぜだか一刀の顔を思い浮かべるのは楽しかった。
――ガチャン
「ちゃんと仕事して……あら?」
扉を開けた先には、先ほどまで思い浮かべた顔はどれもなく、それどころかその顔の持ち主自体がいなかった。
「もう部屋に帰ったのかしら?」
そう思った私は、軽く執務室の中を見回した。思ったほど書簡が増えていないところを見ると、一刀はあまり仕事をしていないのだろうか。
「まったく、あいつに言ってやることが一つ増えたわね」
息をつきながらそうつぶやき、私は政策決定局の執務室を後にした。
外を見ると、夕陽が沈みまさに夜が訪れようとしていた。
「ほ、北郷一刀」
一刀の自室前に来た私は、少し詰まりながら一刀の名前を呼んだ。
一刀に泣かされた日には、なかなか出てこなかった名前が、今回は意外とすんなり出てきた。なんだか少し気恥ずかしい気分になったけど、別に嫌な気分ではなかった。
「……」
「……? 返事がないわね。いないのかしら?」
先ほど声をかけてからしばらく待っても返事がなかったので、もう少し大きめな声で読んだ。
「一刀! いないの!?」
「…………」
それでも、返事がなかった。
「ちょっと一刀! せっかく私が来てあげてるんだから、出てきてお礼の一つでも言いなさいよ!」
段々イラついてきた私は、そう叫びながら、扉を蹴った。
――ドンッ!
「………………」
いくら待っても返事がない。どうやらこの部屋にはいないようだ。
(執務室にも、自室にもいないとなると……書庫かしら? でも、もう閉まってる時間だろうし、待っていれば時期に帰ってくるかしらね)
そう思いながら、私は近くの手すりによりかかった。
(まったく、私を待たせるなんて何様よ!)
脳内で一刀に毒づきながら、私は一刀に話すことについて考え始めた。
(えっと、華琳さまへの対応については、知らないで通すとか、いっそこちらから本当のことを話してしまうとか、赤壁以降は詳細な記憶がなく、今後については良く解らないと言わせるとか、って言う方法があるけど、問題は赤壁でなぜあんなことをしたかについてね。 まぁ、それについては私が説明しなければいけないのだけど……。一刀の歴史を少し改ざんして、私の行動に筋が通るようにすればいいかしら? でも、そうすると華琳さまに不義を重ねることになるのよね……)
夜の帳が下りて、段々と気温が下がっていくのを肌で感じながら、私は結論を出した。
(華琳さまに対する想いは私の問題として、一刀に対する指示としては、いく通りかの方法を示しておいて、その中から場合に応じて対応させるのが一番かも知れないわね)
そこまで考えてから、まだ来ないのかと廊下を見回すと、向こうの方から人影がこちらに向かってくるのが見えた。
考え込んでいる間にのぼったのか、淡い月明かりが廊下を照らしていた。
「……やっと来た」
そうボヤキながらその人影の方に体を向けて待っていると、月明かりの中でもやっと顔が見える距離まで人影が近づいてきた。
「えっ……!?」
やっと見えたその顔は、私が思い浮かべていた男のものではなかった。
「あら? じゅ、荀彧さま! こんな夜更けにどうされたのですか!?」
そこに現れたのは女の文官だった。
「え? い、いえ別にっ……」
一刀とばかり思っていた私は、慌ててしまい、言葉がうまく出てこなかった。
「北郷くんのお部屋の前と言うことは、北郷くんに御用ですか?」
そんな私の様子を見ながら、文官がそう言った。
「……あなた、一刀、いえ北郷を知っているの?」
ふいに出てきた一刀の名前に、私は思わずそう聞いた。
「はい。北郷くんが文官になりたての頃に同じ部署にいましたので」
そう言う文官に、私は少しほっとしていた。
「そう……」
私がそう言うと、文官の女性が私に話しかけてきた。
「数日前から、北郷くんを見かけていなかったので心配していたのです。夜になっても部屋に灯りがついていませんでしたし。けれど、荀彧さまがここにいらっしゃると言うことは、今日は部屋に帰ってくるのですね? 何やら、親衛隊に連れて行かれたと言う噂もあったので、わた――」
「い、今なんて言ったの!?」
文官の言葉に、思わず私はそう聞いた。
「ほ、北郷くんを見かけなかったというところですか?」
すこし驚きながら文官がそう言った。
「そこもだけど、その後よ!」
「えっと、親衛隊に連れて行かれたと言う噂の話ですか?」
私の勢いに押されたのか、少し困ったような顔で文官がそう答えた。
「そう! それよ! もっと詳しく聞かせて!」
私の頭の中を嫌な予感ばかりが駆け巡った。親衛隊を自由に扱える人物は三人しかいない。その中で、一刀の事で親衛隊を動かしそうな人物は一人しかおらず、親衛隊が一刀を連れて行ったのが本当だとしたら、それはすなわちその人物が指示をしたと言うことになる。
「あ、あくまで噂なのですが、数日前の朝、北郷くんが部屋から親衛隊に付き添われてどこかに行くのを見たと言う人がいるらしいのです。ただ、見たと言う人が誰なのかがはっきりしませんし、第一、北郷くんが親衛隊の方々に連れて行かれるなんて、考え難いことですし。ただ……」
そこまで言うと、文官が少し考え込んだ。
「ただ?」
私がそう聞き返すと、文官は少し迷ったような顔をしながら、私に話しかけた。
「ここからは私の個人的な推察なのですが、北郷くんが親衛隊の方々に連れて行かれるとすれば、その原因として考えられるのは、荀彧さまに関ることだと思うのです。親衛隊と言うことは、北郷くんを連れて行く指示を出したのは、おそらく曹操さまでしょうし、その曹操さまと北郷くんを結び付けるものは、荀彧さまをおいて他に考えられませんから……。あの、荀彧さまは何かご存知ではないのですか?」
すこしおどおどしながら、そう尋ねてきた文官に、私は少し驚いていた。
(なかなか鋭い観察眼ね。でも、今はこの文官にかまっている時間はないわ)
噂の真偽がどうであれ、数日前から一刀を見かけていないと言うのは、事実だろう。そうなれば、理由として考えられるのは、華琳さまに連れて行かれたか、滅んでしまったかだ。
ただ、一刀が無事だったことは赤壁から帰って来た時に確認済みだし、数日前に風邪が治ったと言うのも聞いていたから、恐らくは前者が一刀がいなくなった理由だろう。
「あ、あの、荀彧さま?」
そう先ほどの文官が心配そうに声をかけてきた。
「……あなた名前は?」
私がそう聞くと、文官が少し姿勢を正して答えた。
「はい。陳羣と申します」
「そう。覚えておくわ」
私はその名前を頭の隅に閉まってから、一刀がいる可能性がある場所へと急いだ。
(一刀が連れていかれとすれば、牢獄か、または離れか、とにかくその辺りのはず、華琳さまが直接問いただすとすれば、華琳さまのご自室がある棟の近くにいる可能性が高いわね)
私はいくつかの候補の部屋に向かって走り出した。そんな私を照らす月は、先ほどよりも高度を上げ、その光によって、廊下は先ほどよりもはっきりと照らし出されていた。
(一刀! 変なこと言うんじゃないわよ! あんたが死ぬ代わりに私が助かって、それで私が喜ぶなんて大間違いなんだからね!)
華琳視点
私が北郷の部屋の前に来ると、親衛隊の娘が恭しく礼をした。
「北郷と話をするわ、大丈夫かしら?」
「少々お待ちください」
そう言うと、その娘は扉の前で北郷に声をかけてから、部屋の中に入っていった。
少ししてから扉が開き、先ほどの娘が出てきた。その後開いた扉の横に控え、先ほどと同じように恭しく礼をした。
私はそれを確認してから、静かに部屋の中に入った。
「あなたは外で控えていて」
親衛隊の娘にそう言うと、部屋から出た後に静かに扉を閉めた。
扉が閉まるのを確認してから部屋の中に視線を戻すと、北郷が床にひれ伏していた。
私はそれを確認してから、部屋の奥におかれていた椅子に腰を下ろした。
「顔を上げなさい」
私がそう声をかけると、北郷がゆっくりと顔を上げた。北郷の表情は緊張のせいか少し強張っているようだった。
「悪いわね、こんなところに来てもらって」
「いえ。現在の情勢を鑑みれば、当然のことかと思います」
そう答える声音からも、どこか緊張の色がうかがえた。
「そうね。……ねぇ北郷、あなたは変わった視点をもっていたわよね? その視点から見て、今の情勢はどう思う? 私たちはどう動くべきかしら?」
単刀直入に聞くか迷ったけど、まずは相手の反応を見てみようと思った。
「……はっ。南の孫呉と南西の蜀が同盟を組んだことにより、我が国は二正面作戦を展開せざるを得なくなり、兵力の分散を余儀なくされてしまいました。しかし、兵数でいえば、他の二国のそれを足したものより多いと聞いていますので、今は攻勢に耐え、蜀と呉の同盟関係が瓦解するのを待つ方が得策かと思います」
少し考え込んでから話した北郷の策は、決して的外れではなく、むしろ現実的で堅実な策のように思えた。
「あら、案外まっとうな策なのね。もっと突拍子もない策が聞けるかと思ったのだけど」
そうからかう様に言うと、北郷はすこし困ったような顔で答えた。
「ご期待に添えず、申し訳ありません」
そう言う北郷の顔を見ながら、私は少し考え込んだ。
(さすがにボロは出さないわね。まぁ、そうでもなければ桂花が自分の部下にするとも思えないし……。ここは下手に遠回りするよりも、やはり単刀直入に聞いた方がいいかしら?)
どうやら、北郷はここ数日のうちに相当考え込んでいたようで、先ほどの質問でもボロを出さなかった。時間をかければもっと追い詰めることもできるだろうけど、こちらとしてはそこまで時間をかける訳にもいかない。
「そう言えば、北郷。貴方は桂花のもとで様々な政策案を考えているのよね?」
突然話題が変わったことに驚いたのか、北郷が目を大きく見開いた。
「は、はい」
すこし詰まりながらそう答えるのを聞いてから、私は書簡を取り出した。
「あなたの政策案、とても面白かったわ。けど、いくつか気になる所があるのよね」
私がそう言いながら書簡を広げて行くと、北郷の顔がどんどんと青ざめて行った。
「ねぇ、説明してもらえないかしら? あなたはどこでこんなことを知ったの? 故郷? それとも……」
言葉を続ける私を見ていた北郷の顔から、完全に血の気がなくなった。
「未来?」
(さぁ、北郷。貴方はなんて答えるの?)
私は茫然としている北郷を眺めながら、返答を待った。
あとがき
どうもkoamnariです。
待ちに待った恋姫のFD、「真・恋姫無双 萌将伝」が発表されましたね!
僕も早速予約してきました!
さて、猫耳軍師のお話についてですが、
前書きの段階では、今回で一刀くん対華琳さまの対決が終わるかのようなことを書いておきながら、始まったばっかりぐらいで終わってしまったこのお話ですが、いかがだったでしょうか?
とりあえず、その紛らわしい前書きについてはお詫びいたします。お遊びが過ぎました。
前回のお話同様に、華琳さまや桂花さんの行動に対して、違和感を持たれる方もいるかと思いますが、その辺はもう申し訳ないとしか言えません。
でも、今後そう言った違和感を少しでもなくせるように、頑張っていきたいと思います。
8話,9話あたりで少し登場していた一刀くんの先輩が出てきましたが、彼女の名前に関しては、実在した曹魏の高官の名前を使っていますが、そこまで活躍する予定というか、今度これと言った出番もない予定はありません。完全に僕で自己満足でした。
次回で一刀くんと華琳さまの対決は終わる予定で、そろそろ他の要因も動き出すかな?って感じです。
そんな感じのお話ですが、今回も読んでいただきありがとうございました。
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4月中に投稿したかったのですが、間に合いませんでした。
でも、どうにか隔週投稿ぐらいにはなったかな? と密かに思っています。
と言うわけで、17話目です。
前回からピンチな一刀くんに、華琳さまが襲いかかる!
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