『赤壁の鏖兵』
後にそう呼ばれる戦いはまだ始まったばかりだった
「ぐっ、ぐああああああああああっっ!!!」
「姉者ぁーーーーーーーーーーーー!!!」
雪蓮と春蘭との一騎撃ちの最中に放たれた矢が春蘭の左目に突き刺さると
その瞬間ぴんと張り詰めていた空気は一瞬にして瓦解し、困惑と憤怒に満ちた空気へと変わる
「誰!?矢を射たのはっ!!」
久々に己が力を全力で揮え心から高揚する一騎撃ちを邪魔され烈火の如く怒る雪蓮は周りを見回し矢を放った者を探す
すると離れた場所から弓を構えた数十人の荊州兵達がまるで誉めてもらえるかといった風に歓声を上げ下卑た表情で雪蓮と呉兵達に手を振る、そんな荊州兵達の態度が雪蓮の怒りにさらに油をそそぐ事となる
「この屑共がっ!今すぐここから消え失せろっ!!!」
雪蓮の怒号と覇気の前に荊州兵達は怯え、逃げるようにその場を去っていく
一方我を忘れ春蘭に駆け寄る秋蘭は悲痛な叫びを上げる、
「姉者っ!、大丈夫か姉者あぁっ!」
「ぐ、ぐうう…」
「しっかりしろ姉者!、気を確かに持て!!姉者ぁ!」
左目に突き刺さった矢を握り苦痛の声を上げる春蘭に秋蘭は必死に声をかける、と同時に
(くっ、ここで孫策が号令をかければこちらの前衛は崩れ去ってしまう、くそっこんな時に何を考えてるのだ私は)
心の底で姉を心配しつつも軍の事を考えてしまう秋蘭、いつもは冷静な秋蘭も今この時は混乱の極みにあった、その時!
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「姉者っ!」
ぶしゅっ!!
春蘭は心からの叫び、そして渾身の力と気合で左目に刺さった矢を自分の目ごと抜き放つ、噴出す血潮、しかし春蘭は
「天よ!地よ!そして兵士達よ!よく聞けぇい!」
「我が精は父から、我が血は母よりいただいたもの!そしてこの五体と魂、今は全て北郷のもの
断り無く捨てるわけにも失うわけにもいかぬ!!!」
「我が左の眼、永久に我と共にありぃぃ!!!!」
そう言い放つと春蘭は抜き放たれた自らの左目の眼球飲み干す、その苛烈なまでの春蘭の姿に誰もが動けない、
時間が止まったかのようなその場所でただ一人春蘭だけが自らの愛刀七星餓狼を構え直し、
呆然として立ち尽くす自らの妹秋蘭に
「大事無い、取り乱すな秋蘭、わたしがこうして立つ限り 戦線は崩れさせん!」
そう言うとニヤリと笑いかける、その声にようやく我を取り戻した秋蘭は
「あ、姉者、せ、せめて左目の手当てを!」
そう言うと自らの服を破り震える手で春蘭の左目に包帯のようにまいていく、しかしその布もすぐ血で赤く染まる
「ありがとう秋蘭、さぁ、お前は早く兵を率い孫呉の兵共を追い返せ!」
秋蘭に命令すると春蘭は雪蓮の方へ歩いていく、雪蓮でさえ春蘭の行動に息を呑んで動けずにいた、そんな雪蓮に
「水を差されたが待たせたな孫策!さぁ一騎打ちの続きといこうではないか!!」
そう言うと七星餓狼を構えると再び闘気を出す春蘭、そんな春蘭に雪蓮は
「ふっ…、ふふっ… 、あははははははははははは!!!!」
「夏候惇あなた最高よ!、ああほんとにたまらないわ!!、鬼気迫るっていうのは今の貴方みたいな事を言うんでしょうね、こんな所で修羅と出会え、戦えるなんて思ってもみなかったわ!!」
「御託はいらん、来ないのならこちらから行くぞ!」
「ふふっ、いいわよ、もう口上も戦場も関係ない!、私は貴方と戦う為にここにいる、征くわよ!!」
「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」
がああああああああああんん!!ぎいいん!!!がぁん!!!どがあああああ!!!!
そして再び剣を交える春蘭と雪蓮、その戦いはさきほどまでのものよりもさらに激しく、熱い戦いとなる、
その二人の戦いを見た北郷、孫呉の両軍は二人の戦いに刺激されたのか鬨の声を上げ、激突していく。
「姉者に続けぇ!!!!孫呉の兵共を長江へ追い落とせぇえええ!!!!」
「策殿に!我等の王に続けぇ!我等こそがこの大陸一の兵だと北郷の兵共に知らしめるのじゃ!!!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
金属と金属のぶつかり合う音が赤壁に響き渡る
春蘭達は上陸してきた雪蓮達と互角の戦いをしていた、しかし北郷軍中軍は炎と急襲してきた荊州の軍によって崩壊しつつあった、元々風土病で2割の兵がまともに戦えない状態、さらに風に煽られた炎は予想以上の勢いで北郷軍の陣内を兵を燃やし尽くす、必死で火を消そうとする沙和と北郷軍の兵達であったが焼け石に水、勢いを増す炎に沙和の悲痛な声が轟く
「火が、火が消えないの~!!!、誰か!火を消して~!!!」
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!
急襲してきた荊州軍は季衣、流琉の率いる隊が防いでいた、しかし数が圧倒的に違い、
さらに炎に退路を絶たれ北郷軍の兵達は次々と討たれていく
そしてその凶刃は流琉にも襲い掛かる、何百という矢が流琉に襲い掛かる、
それを己が武器伝磁葉々を盾がわりに使い必死で防ぐ、しかし幾本かがその幼い体に突き刺さる
「うっあああああああああっ!!」
「流琉!!こんのおおおおお!!!流琉に何すんだああああああ!!!」
どがああああああああん!!!
季衣の岩打武反魔が荊州軍を吹き飛ばす、季衣は矢を受けた流琉の元に駆け寄る
「流琉大丈夫!!、矢が!!流琉!流琉!痛くない!大丈夫!ねぇ流琉!!」
「だ…いじょうぶ、うっ!き、季衣は早く、敵を…、私は大丈夫…だから、ね」
流琉の手を取り涙を流す季衣、しかし荊州軍はそんな二人にも容赦なく襲い掛かってくる
「うわああああああ!!お前らよくも流琉にいいいいいいいいいいい!!!!」
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!
炎に飲み込まれていく北郷軍の陣を呆然と見る桂花、彼女の中ではまだ絶望的な状況を立て直そうとしていた、だが…
”このままじゃ全滅する…”
心の中でそうつぶやく、すでに兵は半数近くにまで減っていた、炎に追われ混乱する兵がさらに混乱を呼び、いかに精兵とはいえ軍としての機能はなくなりつつあった、かろうじて春蘭秋蘭の隊は秩序を保ってはいたものの呉軍との交戦で着実に削られつあった。
「け、桂花様~、ごめんなさいなの~、火を消し止める事ができなかったの~、ご、ごめんなさいなの~」
沙和が涙を流しながら傷だらけの身体で悲痛な報告をしてくる、沙和は必死で消火作業をしてくれた、それでも勢いは止められなかった、すでに本陣はズタズタに寸断され、手の施しようがなくなっていた。
「桂花さまー!!流琉が、流琉が怪我を!手当てをしてあげてーー!!」
続いて季衣が怪我をした流琉を担いで桂花の所までやってくる、
季衣の活躍で一旦退かせた荊州軍ではあったが再び体制を整え攻め込んできつつあった
「……」
あまりにも絶望的な状況に呆然とする桂花、そして荊州軍の攻撃はさらに勢いを増し、桂花のいる本陣まで迫りつつあった
そして春蘭秋蘭が支えていた前曲の軍からの報告がやってくる、曰く
「敵軍戦線突破!呉軍が押し寄せてまいります!」
雪蓮達とは違う場所から上陸した蓮華、思春率いる呉軍が北郷軍の守備が薄い所を突いて来たのだ、数こそ数千の規模ではあったが突如現れた呉軍に対応が遅れ突出を許してしまったのだ、その報告を聞いた桂花はついに決断をする…
「……、全軍に…撤退命令を…、…全軍に撤退命令を出してっ!!」
桂花の言葉に兵は頷き撤退を知らせる用意をする、桂花はさらに沙和、季衣に命令する
「二人は退路を確保して!本陣は方円陣を敷いて防御に徹するよう命令!
春蘭、秋蘭の隊が合流するまで持ちこたえるわっ!」
「「はいっ!!」」
兵達はその命令を聞きすぐさま行動を始める、撤退の太鼓が鳴らされる、その太鼓を聴いた者達は想う、初めての想い
”敗北”
今までにも数々の絶望的な状況、戦いがあった、しかし最終的には勝った、不敗の軍、
大陸最強の軍、その軍が初めて味わう”敗北”兵達は屈辱に打ちひしがれ、さらに絶望しつつも命令に従い撤退を開始する、しかし敵はその兵にも容赦なく襲い掛かってくる、そしてその撤退の太鼓は雪蓮と死闘を演じている春蘭達にも響き渡る
ドーーン ドーーン
「撤退の合図!?、姉者!撤退するぞ!姉者ーー!!」
がああん!ぎいいいいいいんん!!!!
雪蓮と一進一退のギリギリの攻防を繰り広げる春蘭、秋蘭の言葉が聞こえたものの
「せんっ!我等が後退すれば敵は本陣へと向かうだろう、我等はここで敵を食い止める!!!」
「その意気は良い、だが最早敵を食い止めることは出来ん、わかってくれ姉者!!」
「しかしっ!」
「冷静になってくれ姉者!桂花の本陣も後方に下がりつつある、今この時を逃しては我が軍は全滅するぞ!
胸の内に感じる悔しさはいつか奴らに返してやろう、今は退く、いいな姉者!」
「くっ…わかった!」
がっぎいいいいいいいいいいいいいいん!!
雪蓮の一撃を跳ね返した春蘭は瞬時に間合いをとる、そして
「悪いな孫策、決着はまたの機会にさせてもらう!」
「だめよ、逃がさないわっ!」
「だぁれが逃げると言っている、いいだろうならば決着「姉者!!」…ぐっ!、そ、そう言いたければ言え!我等はこんな所で終わるわけにはいかんのだ!」
春蘭の言葉を聞きながらもまだやりたりないとゆう感じの雪蓮は春蘭に迫ろうとするが、その時
「雪蓮!!!」
声かけたのは冥琳、これ以上は必要ない!といった風に睨む、二人だけにだけわかる、そういった言葉、雪蓮はものたりないといった感じではあったが冥琳に従い戦いをやめる、そして春蘭に
「ふ、う…、さ、さっさと行きなさい!」
少し苦しそうな表情をしながら雪蓮は春蘭に言う、違和感を感じつつも春蘭は秋蘭と共に撤退していく、残された雪蓮は冥琳の所まで行くと強く抱く、手に力が入り冥琳の肉にくいこむ爪、血が流れ痛みを堪える冥琳に
「ふ、ううっ… ま、ったく、今日は…寝かせないから…」
「ああ…、わかってるよ」
一部の者しか知らない雪蓮の身体、火照る身体を必死で抑える雪蓮を冥琳は優しく包み込む、と同時に祭に命じて深追いしない程度の追撃を命ずる、そして降る北郷軍の兵に対してはそれ以上の攻撃はする必要はないとの命令をする、孫呉としてはここでの戦いはほぼ終了という感じではあった
しかし北郷軍にとってはここからが命をかけた戦いとなる…
撤退
必死で逃げる北郷軍の将兵達、しかしそれを執拗に追撃してくる荊州の兵
殿を自ら志願して盾となっていく北郷の兵士達、撤退していく道は血の川となり、
退路には延々と死体が置き去りにされていく
季節は12月、寒さが厳しくなっていく中での退却は北郷軍の兵達をさらに消耗させていく、次々と倒れていく兵、しかしそれを助ける者はいない、今は自分を守る事だけで精一杯なのだ、極滅の炎の次は極寒の寒さ、朦朧とする意識の中、目指すは我が故郷、我が大地
ようやく敵の追撃を振り切れた北郷軍は休息を取る
付き従う兵はわずか数千、8万の兵がここまで討ち減らされていた、赤壁で半分以上を失い、
残りはちりじりとなっていく、その中には降伏した者もいるだろう
、しかしそれを咎める者などいようはずがない、今この場所、この時寒さに凍え死んでいく者がいるのだから。
桂花はそんな有様を見て凍える手を必死で温め今後の事を考える、しかし
”絶望的状況”
策などというものもある訳がなかった
荊州が裏切ったとなれば荊州の地、全てが敵の領土という事になる、味方の領土は遥かに遠く、
近くに味方などいようはずもない。
援軍もなければ、食料もなく、身体を暖められる場所すらもない、待ち受けるのはただ飢えるか、凍えるかの選択
このまま何もしなければ全滅は確実、それでも考える、それが軍師
「敵の城を奪う」
無理だ、今の兵でまともに戦える者がどれほどいるというのか、春蘭秋蘭といった一騎当千の武将、
そして策をめぐらすにしても時間がかかりすぎる、輜重もなく援軍もなく戦うなど無謀でしかない、
せめて食料だけでも…、考える桂花、しかし思いつく先にあるものは
”略奪”
荊州の邑を襲い兵糧を奪う、敵地での接収、それを咎める者がいようか、
しかしその考えに頭を振ってなかった事にする桂花
「できるわけがない!!!」
北郷一刀と言う人物は民衆が巻き添えになる事を極端に嫌う、桂花自身もそれはやりたくない、
しかし今の状況で出来る事が他にあるのかと、袋小路、どうしてこんな事になってしまったのだろう…、
桂花はただただ後悔する、あの時こうしていたら、あの時この事に気付いていれば!
しかし何を言っても後の祭り、誰かにすがりたい気持ちを抑え桂花は策を考える
「桂花、少し休んだ方がいい」
苦悩する桂花に声をかけたのは秋蘭、秋蘭とて今の状況がどれほどひどいものかはわかっていた
「大丈夫よ…、まだ、きっと何か策があるはず、そうよ、こんな所でこの荀文若がくじけるものですか!」
「そうか…、なら私も手伝おう、一人より二人で考える方が良い策も出よう」
そう言うと秋蘭と桂花は必死でこの状況をどうにかできる策を考える、しかしそんなものがあるはずもなかった。
寒さに震える季衣、傷ついた流琉を看病していた、そこに
「元気をださんか!」
春蘭が元気に声をかけ季衣の背中をバンバンと叩く、それに反応した季衣だったが顔は曇ったままだった、
寒さに震え、不安でどうしたらいいのかわからない、そんな季衣を、ひょいっと抱く春蘭
「しゅ、春蘭様っ!///」
「ほれ、こうやって身体をくっつけて暖めあえば寒くはなかろう!」
「は、はいっ!////、あ、けどボクより流琉を抱いてあげてください、流琉の方がきっと辛いから」
季衣は春蘭にお願いする、春蘭はじゃあ流琉も一緒に抱いてやろう!
という感じで抱こうとするがその前に秋蘭がそっとやさしく流琉を抱く
「流琉は私が抱いてやろう、姉者は季衣を」
「しゅ…、秋蘭さま…////すみません…」
弱弱しい声で流琉は秋蘭に礼を言う、そんな流琉の頭を優しく撫で元気付ける、
そして木の陰に座る、その横に季衣を抱いた春蘭も肩を寄せ合うように座ると
「こうやって固まって暖めあえば寒さもなんて事はないな!はっはっは!」
元気に笑う春蘭に秋蘭達も笑顔になる、そこに沙和がやってくる、
震えた体でこちらを羨ましそうに見ているのを感じた春蘭が
「沙和、お前もこっちに来い!暖めあうなら多いに越した事はないからな!」
沙和は嬉しそうに駆け寄り春蘭と秋蘭の間に入る、そこに桂花もやってくる、
最初は拒否していたものの結局皆の所で一緒に身体を休める
そんな様子を見た兵士達も身体を寄せ合い暖をとる、極寒の中でどれほどの効果があるかわからなかったが
それでも皆は一時の安心を得ていた
太陽が昇り始め、朝を感じるようになってくる
しかし北郷軍の面々にとってはこれで何かが変わるわけではなかった、再び撤退する為敵中を突破しながらの強行軍をしなければならないのだから、食べるものもなく、まともに動ける者もわずかな状況、大陸一の軍の姿はそこにはなかった、そして、そんな中見張りから報告がされる
「荊州軍です!」
春蘭、秋蘭はその言葉と共に起き上がる、季衣、沙和を起こすと武器を携え疲れた身体で兵達に命令をする
桂花は少し遅れて起きる、疲れが抜ききれずさらに寒さに震え寝たせいで身体が思うように動かなかったがそれでも頭を動かし陣を整えさせる、兵達も重い身体を動かし武器を携え臨戦態勢を整える、しかし物見から報告される言葉に兵達は己が運命を悟る
「敵兵、およそ一万!」
北郷軍は強行軍の中残ったのはわずか数千、しかしその中でまともに戦える者となるとせいぜい数百、残りは動くのがやっとの者達ばかりだった、北郷軍を囲むかのように近づいてくる軍勢の音、それは急ぐでもなく、ゆっくりと近づいてくる、すでに北郷軍には逃げる気力がないとみているからだ、動けず、立ち上がれる者もいないなか、春蘭はそれでもあきらめる事無く敵を見据える
対峙する両軍、といってもすでに軍としての様相を呈してない春蘭達、
荊州軍は春蘭達をゆっくりと包囲すると止まる、そして荊州軍からやってくる軍使、春蘭達に降伏するようにと言ってくる
今戦えば確実に全滅する事はわかっていた、しかし降伏したとしても待ち受けるのは過酷な運命
兵達は既に降るしかないといった表情、しかし将達は諦めてはいない、なんとか故郷に、
一刀の元に戻りたい、そう想い願う
「にいちゃん…」
「兄様…」
季衣と流琉は手を取り合い一刀の事を想う、思い出すのは一刀との楽しい日々、許での楽しい日々
「凪ちゃん、真桜ちゃん…」
沙和は友人達の事を想う、ずっと一緒に過ごしてきた仲のいい友達
「北郷…」
秋蘭もまた一刀の事を想う、初めて会った日の事、そして三人で誓い合ったその日の事を
「………」
桂花はもう何も言えなかった、どれほど頭を、策を巡らせてもこの状況を好転できる策が出てこないのだ、なんて無力
死ぬか虜囚として辱めを受けるか、そんな負の考えばかりが浮かび、言葉が出てしまう
「負けだわ…」
桂花の言葉、聞こえた者は数人ではあったが、誰もそれを否定できない……と思われたが、
「あん?何を言っておる、我等はまだ負けてはおらんだろうが!」
元気に、きっぱり言い放つ人物に皆が注目する、声の主は春蘭、春蘭は荊州兵の前にただ一人進むと
「まったく、ちょっと敵に囲まれたくらいで弱気になりおって、こんな奴らに我等が負けるわけなかろうが!」
「な、何言ってるのよ!この状況でどうやって勝つっていうのよ!どうやって戦えって言うのよ!!」
そんな桂花に春蘭がさも当然といった感じで話す
「負けと言うのは心が折れた時の事を言うのだ!
膝を折り、命を取られ、そして信念を叩き折られた時にようやく負けるのだ!」
「私はまだ全然負けてはおらんぞ!心も折られていないし!膝も折って屈してもいない、
そして信念も未だ折られてはいない!
おおそうだ!、私は何も折られてはいない!これからも折られん!そして折られん以上負けることはない!!!」
なんか独自理論で語る春蘭に言葉を失う桂花、しかし同時にこんな状況でも壮志を失わず堂々としている春蘭に改めて将としての器を感じていた、荊州の大軍の前にただ一人立ちはだかる春蘭、そんな春蘭を侮蔑した感じで笑う荊州兵達
シュガッ!!
刹那、荊州兵の一人が眉間に矢を撃ち抜かれ絶命する、矢を放ったのは秋蘭、憤怒の表情で
「姉者を愚弄する者は何人たりとも許さんっ!」
そう言うと秋蘭は春蘭の元に歩みより餓狼爪を構える、
「まったく、姉者にはかなわないな」
「ん?何がだ?」
大軍に囲まれた中でも二人はいつものような会話をする、共に信頼し、共に運命をかける姉妹、それを撃ち砕くものがいるはずもなかった、そんな二人を見て季衣が岩打武反魔を構え、沙和は二天を構え春蘭達の元に駆け寄る
「ぼ、ボクもまだ負けてないですよ、春蘭様っ!」
「さ、沙和もなの!」
そんな春蘭達に刺激されたのか力なくうな垂れていた北郷軍の兵士達が武器を持って立ち上がり荊州軍の前に一人また一人と立ちはだかっていく、その姿はさっきまでの敗軍の姿ではなく大陸一の軍の姿に戻っていた、そんな様子を見た春蘭は笑い、高らかに
「聞けぇい!我は夏候元譲!北郷が一の剣!我等が剣は、我等が心は北郷と共にある!!この剣、この心折れるものなら折ってみよっ!!!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!
沸き起る鬨の声
その声を聞きながら春蘭は蒼天をみつめる
”良い空だ、帰ったら北郷に稽古の一つもつけてやるか”
武器を構える兵達、あっけにとられていた荊州軍も臨戦態勢に入る、
そして
七星餓狼を持った春蘭が荊州軍に向かってゆっくりと歩み出す、そして咆哮を上げる
「いくぞおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
ジャーン ジャーン ジャーン
今まさに両軍が激突しようとしたその瞬間、突如鳴り響く銅鑼の音、そしてその方向から一騎の騎馬が丘から駆け降りて来る
その騎馬の速さはまさに疾風、一陣の風となって近づいてくる、そして近づくにつれその姿がはっきりとみえてくる
荊州の兵達にとっては何事か!?といった程度の感じ、たった一騎で何をしようというのかと、しかし!
その姿を見た事がある北郷軍の将兵達にとってはその騎馬に乗った者を見た瞬間言葉を失う、まさか!?
丘から駆け下りてくる疾風の如き速さの騎馬に乗った少女、その少女の髪は焔のように赤く
手に持った方天画戟は今までに多くの将、数万もの敵を屠ってきた
尋常ならざる威圧感、人々は畏怖を込めて彼女の事を呼ぶ、天下無双、飛将軍、北郷軍の将兵は叫ぶ!
”呂布だっ!!!!”
どおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんんんん!!!!!
一陣の風と共に荊州軍に突っ込んできた呂布こと恋は一瞬にして数百もの荊州兵を吹き飛ばし血の雨を降らしていく
そしてそのまま無人の野を行くかのごとく蹂躙していく、突然の出来事、そのあまりにも圧倒的な力になすすべなく肉塊と化していく荊州兵、初めて目の当たりにする天下無双の圧倒的な力に我先にと逃げ出していく、そんな恋を呆然と見つめる北郷軍の将兵達、そして恋は一段落、といった感じで一呼吸おくと春蘭達の下へやってくる
悠然と、そして畏怖堂々と馬を進める恋、春蘭達の前にたどり着くと方天画戟を荊州軍に向け、近づけさせないように威圧する、先ほどの凄まじい戦いぶりを見た荊州兵たちは動く事もできず、ただ呆然とするのみであった、
静寂、恋は何も語ろうとはしなかった、そんな恋にしびれをきらしたのか春蘭が話しかける
「お、おい呂布!何故貴様がここにいる!貴様は北郷を守ると言ってたであろうが!」
「恋は…かずとに頼まれたから来た」
「北郷に?」
(コクッ)
そう頷く恋、そして話しだす
「かずと、恋にこう言った、みんなを助けて欲しいって、だから恋はお前たちを助ける」
「しかし…、では北郷は今誰が守っているのだ!」
「かずとも恋が守る」
そう言い切った恋、一瞬何の事を言ってるのだと怪訝に思う春蘭達、しかしその意味が次の瞬間わかる事になる
ジャーーン ジャーーン ジャーーン
再び鳴り響く銅鑼の音、それは恋が現れた丘の方から聞こえてきた、
そしてそこから現れたのは北郷軍の兵士達、そして…
「あ、あれはっ…」
高らかに掲げられる旗
「まさか…、どうしてっ!」
誰もが信じられないといった表情、しかしそれは誰もが望んでいた光景、
丘より現れた北郷軍の兵士達、そして高らかに掲げられる…
”十の牙門旗 ”
その兵達の中、現れる一騎の騎馬、その時、太陽が雲間より現れその人物を照らす、その瞬間光り輝く白く美しい服
敗戦の中、絶望の中、誰もがその人物の事を想い、願い、そして会いたかった人物
「ほ、北郷…」
「北郷!」
「にいちゃん!!!」
「兄様…」
「ほんごう…様?」
「ほん…ごう…なの…」
北郷一刀がそこにいた
「抜刀!!!!!」
「全軍突撃!皆を!仲間を救うんだっ!!!」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!
天をも叩き落すかというほどの鬨の声を上げ北郷軍の兵達が丘より駆け降りて行く
その姿を見た荊州兵達は混乱の極みに達する、彼らは北郷一刀が死んだと聞かされていたからだ、死んだと聞かされていたその人物北郷一刀が現れた、さらに初めて目の当たりにする天下無双の呂布の力
「う、うわあああああああああ!!」
悲鳴とも雄たけびとも思える声を出し荊州兵達はちりじりになって逃げ出していく、丘から駆け下りてきた兵達、そして恋はそんな荊州兵達を再び追撃し始める
呆然とし、動けない春蘭達の元にゆっくりと、しかし力強く歩み寄ってくる一刀、そして馬を下りると皆の前までやってくる
突然の事に一刀に何も話しかけることができない春蘭達、少しの静寂の後、最初に言葉を発したのは季衣だった
「に…、にい…ちゃん、なの?…ほんとに、夢…じゃなくて、ほんとに、兄ちゃんなの?…」
「ああ、俺だよ季衣、そして皆生きていてくれて良かった、ほんとに…」
優しい声、いつもの声、その言葉を聞いた途端涙が溢れ出す季衣
「にいちゃああああああああああんんんん!!!」
号泣しながら一刀に抱きつく季衣、そんな季衣の頭を優しく撫でる一刀、
さらに沙和が我慢できず涙を溢れさせやってきて
「ほ、ほんごおしゃまぁあ~、さ、沙和頑張ったの、でも全然役に立てなかったの~、ご、ごめんなさいなの~」
「沙和、もういいから、沙和が頑張ったのは皆わかってるから、だから泣かなくていいから」
「うわあああああああんん」
そう言うと一刀に抱きつく沙和、一刀はそんな沙和も優しく包み込む、
泣き続ける二人と共に一刀は怪我をした流琉の所にやってくる
「流琉、大丈夫かい?すぐ手当てをしてあげるから、だからもう少し頑張るんだぞ」
「は…はい、兄様…、うっううううっ…」
痛みを堪えながらも気丈に振舞う流琉の頭を優しく撫でてやる一刀、それにようやく安心したのか、流琉は寝息をたて眠る、そんな一刀の元に秋蘭がやってくる、それに気付いた一刀が秋蘭に語りかける
「秋蘭、無事でよかった」
「ああ、姉者とお前と夢をかなえるまではそう簡単に死ぬわけにはいかんからな、だが…、北郷、良く来てくれた」
「もっと早く来れればよかったんだけどね、ほんとに…、もっと早く気付いて、もっと早く助けに来れたら…」
一刀は悔しそうに震える、怒りと後悔、自分がもっとしっかりしていればと!しかし秋蘭はそんな一刀の肩に手を置き
「お前は来てくれた、それだけで十分だ北郷、ほんとに、よく来てくれた…」
”死ぬ前に来てくれて…”
続く言葉を発する事はなかったが、秋蘭の言わんとしてる事に一刀はただただ「ごめん…」
と悔しそうに震え続けるだけだった、
一刀は周りを見回す、しかしある人物がいない、一刀が秋蘭に尋ねる
「秋蘭、春蘭は?さっきまでそこにいたと思ったんだけど…」
そう尋ねる一刀に秋蘭も周りを見回す、確かに春蘭がいなかった、「姉者ーー」と呼ぶ秋蘭、しかしそれでも出てくる様子はなかった、恥ずかしがってるのかな、と思う一刀ではあったが、秋蘭は「あっ」と何故春蘭がいなくなった事に気付く、そして一刀に
「北郷、ちょっといいか?」
「へ?うん、何?」
そして秋蘭は一刀になにやらこしょこしょと話す、一刀はそれを聞いて少し考えたが、まぁこのまま春蘭に会えないよりはと思い秋蘭の言う通りにする、一刀はすーーーっと息をためると
「春蘭の大馬鹿ーーーーーーーー!!「だぁれが大馬鹿かぁー!!そこになおれほんごおおおおおお!!!!」!!」
そう言うと隠れていた春蘭がどどどどっと鬼気迫る感じで現れる、
あまりにもすぐ出てきたので呆気にとられつつも、一刀は嬉しそうに
「春蘭、元気そうで良かったよ」
そう言ってにっこりと微笑む、その瞬間春蘭は顔が真っ赤っ赤になり動けなくなってしまう、そして次の瞬間「!」となり再びその場から逃げだす、それを見た一刀が
「ちょ!、春蘭なんで逃げるんだよ!まだ話したいことがあるんだよ!待ってくれ!」
「う、うるさい!来るな!寄るなーーー!!!!」
物凄い勢いで逃げる春蘭を必死で追いかける一刀、
「ちょっと待てよ!春蘭!頼むから!」
「待てるかっ!」
「何でだよ!」
「言えるかぁっ!とにかくあっちへ行け!あっちへ行けぇぇ!!!」
なんか何言っても聞いてくれない春蘭、しかもやたら足が速いのでどんどん差がついていく、このままじゃ逃げられると思った一刀はちょっと汚いかなと思ったものの少し芝居をする事に
「ぐっ、う、ああああああああ!!!!」
苦しそうな声を出し、がくっと膝をつく一刀、その声を聞きその姿を見た春蘭が青ざめ、
凄い勢いで一刀の所まで戻ってくる
「お、おい北郷!大丈夫か!まだ傷が痛むのか!おいっ!北郷!!!!」
がしっ!
「にゃ?」
「捕まえた」
急に手を掴まれ変な声を出した春蘭は笑顔の一刀に騙された事に気付くと真っ赤になって怒るも
「頼むから、逃げないでくれよ春蘭、頼むから…」
悲しそうな一刀のその言葉にようやく落ち着く春蘭、そこに秋蘭、季衣、沙和もやってくる、
春蘭の手を掴んだ一刀は春蘭の顔の包帯に気付き
「その目は…どうしたんだ?」
問う一刀、しかし春蘭は答えない、必死で手で包帯を隠そうとする春蘭に沙和が
「孫策さんと戦った時に流れ矢に当たったの~」
「おいこら沙和っ!貴様っ!「そうか、流れ矢に…」
そう悲しそうになる一刀、そして春蘭の顔に触れる、その瞬間ビクッとする春蘭、そして少し震え、悲しそうに
「頼む北郷…、見ないでくれ…、こ、こんな醜い姿をお前に見られたくない…」
「何が?誰が醜いってんだよ!!!」
春蘭の言葉に激昂する一刀、息を整え少し落ち着くと春蘭に向き合い
「春蘭は変わんないよ、いつもの綺麗で、美人で凛々しい、俺が大好きな春蘭のままだ、だから醜いとか言うなよ」
「ほ、北郷…うっ…!うっ…うぅ…」
ぶわっと涙が溢れる春蘭をそっと優しく抱く一刀
「春蘭、これからも一緒に頑張っていこう、一緒に戦っていこう」
コクンッという感じにうなずく春蘭、そんな二人を優しく見守る秋蘭達だった
「……」
何も言わずに立ち尽くす桂花に気付く一刀
「桂花…」
「…此度の敗北の責任は…すべて、私にあります…いかようにも…罰をお受けします…」
搾り出すような震える声で桂花は一刀に語る、そんな桂花の元に近寄る一刀は桂花に
「桂花、誰かの責任だというならそれは俺の責任だ、何も出来なかった俺の、だから桂花は…」
「責任は全て…私にあります…、いかようにも罰を、お受けします、責任は全て私の…」
「桂花?」
一刀の声にも反応をしない桂花、その顔は依然曇ったまま、今回の大敗が自分の責任だと感じているのだ、初めて敗北を喫した責任、それも七万以上の将兵を失った大敗の責任、荊州の裏切りを察知できなかった責任、一刀が来るまで張り詰めた心が壊れそうになるのを必死で耐え、堪えていた心が限界に達していた
「桂花、もういいから、もう皆助かったから、だからもう桂花は休んでいいから」
そんな桂花に必死に語り掛ける一刀、しかしそんな一刀の言葉も届かないのか、桂花はうつむき、先ほどの言葉を何度も繰り返し続ける、痛々しいまでの桂花を見るのが耐え切れなくなった一刀は桂花を強く抱く、力の入る一刀の手、それは痛いほどの想い、
「桂花、頼むからっ!頼むから俺の言葉を聞いてくれっ!桂花っ!!」
一刀の強く語り、想うその言葉がようやく届いたのか桂花が一刀を見る、そして目にみるみる溜まる涙、
弱弱しい声で発した言葉は
「は…なしてよっ…孕んじゃう…でしょ!この…馬鹿!…」
「離さない、絶対に!、離したら桂花が壊れちゃうかもしれないからな、桂花、もう休んでいいから、後は俺に任せてくれ」
「うっ…ひぐっ、うっ、ううっ…うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
一刀が死士の毒矢で倒れてから王佐の才として国を支え守る為に感情を閉じ込め、
ずっと軍師として耐えてきた心が一気に解放される
泣き崩れそうになる桂花を一刀は支える、そして誰よりも優しく強く抱きしめる、
泣きつかれた桂花はそのまま一刀に抱かれながら気を失う、おそらく今までまともに寝ていなかったのだろう、張り詰めた状況から解放され無事な一刀の姿を見た安心感でほっとしたのだった、一刀はそんな桂花を優しく寝かすと、春蘭達に向かい今後の方針を言う
「皆は手当てを受けたあとは江陵に向かってくれないか、身体を休める場所を用意させてるから」
その言葉に秋蘭が
「江陵?しかし、あそこは荊州の拠点だろう、落とせというのならやってはみせるが…」
「大丈夫、江陵はもう俺たちの支配下になってるから、それと南郡の主だった拠点はすでに落として俺たちが確保している」
一刀のその言葉に驚く秋蘭達、確かに一刀がここにいるという事は北郷の領内からここまでの道を確保しているという事ではあるのだろうが、南郡の主だった拠点といっても何城もあるのだ、それを落としているなどとは考えてもいなかった、驚く秋蘭が一刀に尋ねる
「ここまでの城をを落としてきたというのか!?どうやって?いや、呂布がいるならその武で落とす事は可能かもしれんが、ここに来るまでの日数を考えるならほとんど時間をかけずに落としたという事になる、許近辺の兵を集めたとしても動けるのはせいぜい3万、南郡の各拠点にも守兵はいよう、一体どうやって…」
「それは…あ、来た!」
そう言うと先ほど一刀と共にやってきた兵達を見やる、荊州兵達をけちらした恋達が悠々と一刀の所にやってくる
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ
「ただいま」
「お疲れ、恋」
「我等にかかればあんな奴らどうって事ないのです!」
「あんたは何もしてなかったでしょうが!まったく、さて、これからどうするの?」
恋を優しく迎える一刀、恋にぴったりくっついて幸せそうな音々音、
そしてメイド服ではなく軍師の服を着た詠がそこにはいた。
「詠!?」
「ああ、詠のおかげでここまで来れたんだ」
一刀の言葉に秋蘭は納得する、詠は軍師として弱小貴族の董卓を一勢力にまで押し上げた人物なのだ、反董卓連合の時も寡兵の董卓軍を指揮し戦った実績がある、しかし詠がここにいる事が考えられなかった秋蘭、詠は月にだけ忠誠を誓っている、助言やちょっとした手伝いのような事はしてもこうして一軍を率いて戦うとは思ってもみなかったのだ、そんな疑問を持った顔をしている秋蘭に一刀が
「まぁ、色々あってね」
そう言って許での出来事を話す
-時間は一刀が呉と春蘭達が赤壁で対峙してると知った時まで戻る-
許
赤壁の大敗を知っていた一刀は春蘭達を呼び寄せる為に伝令を送る、しかし春蘭達の事が心配でじっとしていられない一刀は自ら赤壁に行こうとする、しかし未だ身体が毒の後遺症でまともに動かない一刀、当然そこにいる者達に止められる
「離してくれっ!頼む、春蘭達が危ないんだっ!このままじゃ!皆死んでしまうっ!」
悲痛な叫びと死ぬという言葉に恋達は戸惑う、しかしただ一人詠だけがズカズカと一刀の前に来ると
「落ち着きなさい!あんたが今行った所でどうにかできるわけないでしょう!」
「そんなもんやってみなきゃわかんないだろ!それに今から行けば間に合うかもしれない!だからそこをどいてくれっ!」
「兵はどうするの?輜重隊は?もし行って間に合わなかったら今度はあんたが殺されるかもしれないのよ!
そうなったらこの国はどうするのよ!」
「それでもっ!、それでも助けに行きたいんだ!皆を失いたくはないんだっ!そこをどいてくれっ!」
パシイイイイン!!
一刀の頬を思いっきりひっぱたく詠
「あきれた、こんなのがボク達を、袁紹を倒してこの国一の勢力の王だなんて信じられないわっ!この国を守る為に皆が今までどんな想いで戦ってきたのか、民たちがどんな想いであんたに夢を託しているのかを全然考えていない!!今のあんたには誰かを助けるなんて言う資格はないわっ!!」
静まりかえる部屋、恋、音々音はあうあうとし、華陀はとりあえず黙秘、そして月はただ詠と一刀を見守っている
「よく聞きなさいっ!あんたが何を知ってこれから何が起こるかなんてボクにはわからない、けどね、今のあんたはまだまともに動ける状態じゃないのよ!そんな身体で無茶してもし今度こそほんとに死んじゃったらどうするのよ!あんた洛陽で月に言ったわよね、月が死んだら恋や霞、それにボクが苦しむ事になるって!あんたが死んだら誰も苦しまず悲しまないとでも思ってるの!!!」
そう言い放つ詠に一刀は何も言い返すことができない、そんな様子を見ていた月が一刀の傍に歩み優しく声をかける
「御主人様、ここは詠ちゃんの言うとおりだと思います、御主人様は今はお身体を治す事だけをお考え下さい、春蘭様達には私達でなんとかできないか考えてみますから」
月の言葉に一刀は小さく頷く、その様子を見た華陀が一刀に提案をする、少し荒療治だが身体を早く治す方法を試してみるかと、一刀はそれを了承する、こうして一刀は春蘭達の事を心配しながらも身体の回復に努め、詠は音々音と共に情報収集と赤壁への南征の準備を整えていた、そして情報収集の中で詠は荊州の怪しげな動きに気付き始める、そしてあらゆる事を考え、出した結論を一刀に伝える
「荊州が呉と通じてる可能性があるわ」
その言葉に一刀は絶句する、知っている三国志の話では荊州が裏切るなどという事はなかったからだ、と、同時にそれが意味する事にも気付く、春蘭達の退路が絶たれていると、一刀は今度こそ赤壁に行く事を詠達に伝える、ここ数日の華陀の荒療治で体力はかなり回復していたし華陀の了解も得ていると、それに対する詠の答えは
「赤壁に行くとなるとそこまでの城を落とさなければならない、あんたにそれができる?時間をかけずにそんな事が」
「できなくてもやるしかない、じゃないと春蘭達を助けられない!」
一刀はどんな事があろうと行くといいはる、そして今度は恋も一刀についていくと言う、詠ははーーっと溜息を吐くと
「あんた達だけじゃ無理ね、絶対!、けどボクを軍師にするというならできない事はないわ」
その言葉に一刀は驚く、詠が自分の為に軍師として力を揮うと言ってくれてるのだ、詠が月にしか忠誠を尽くさないと知っている一刀は詠に問う、すると詠は
「自分に…、そう、軍師としての自分に嘘がつけなくなった、そういう事よ」
そう語る詠、月の為といい一刀の要請に一切答えなかった、しかしその心の内では軍師として自分の力を発揮したいという想いがどんどん強くなっていく事を感じていた、そんな詠に月が「自分に嘘をつかないで、詠ちゃんは詠ちゃんの為に生きていいんだよ」と優しく言う、その言葉に軍師に戻る事を決意する詠
「すでに許近辺から兵を3万集めて、輜重隊も準備をさせてる」
「あとは…、あんたに託すわ、これからの事、どうするのかを…」
一刀をまっすぐ見つめる詠、一刀は何も迷う事はなかった
「わかったよ詠、そしてよろしく頼むよ詠、いや賈文和!皆を助ける為に俺に軍師として君の力を貸して欲しい」
頼む一刀に詠はビッと姿勢を整え
「御意!」
こうして北郷軍に新しい軍師が誕生する、それからの詠の指揮ぶりはすさまじいものだった、軍を素早く動かし荊州へ入る、今まさに挙兵しようとしていた荊州軍は突如現れた一刀と一刀の軍になすすべなく城を落城させる、そして南陽、新野、樊城、襄陽、江陵といった南郡の主だった城を短期間で次々と落としていく、そして詠は制圧した城を素早く拠点化すると軍をまとめすぐさま赤壁へ出発する、侵略すること烈火の如く、一刀は詠の軍才を改めて思い知るのであった。
そして今に到る、その話を聞いた秋蘭などは
「そうか、また、心強い仲間が増えたのだな」
「ああ、とても頼りになる、そしてとても大切な仲間だよ」
「ふ、ふんっ!//// べ、別にあんたに誉められたっって全然嬉しくないわよっ!!////」
「詠真っ赤」
「ち●こに篭絡されるとは情けないのです!」
「う、五月蝿いわねあんた達はっ!!!//////]
恋と音々音がからかうと詠は真っ赤になって二人を怒る、そんな様子をみて秋蘭達から笑い声が出る、久しぶりの心からの笑い、一通り笑い、落ち着いた後、一刀が
「さて、じゃあ行くか、詠、俺達は皆が無事に江陵に行けるように荊州軍に痛撃を与えて足止めをしようと思ってるんだがどうかな?」
「そうね、江陵に向かう途中で襲撃されたら持ちこたえるのは難しいでしょうしね、
四散した荊州軍の位置を確認して潰していきましょう」
「よし、じゃあ春蘭と秋蘭は皆を率いて江陵に「私も行くぞっ!!」…って、春蘭?」
「ようやく調子が戻ってきたのだ、ひと暴れせんと気がすまん!ダメと言っても行くからな!いいな北郷!!!」
ほんとこの人はどんだけ元気なんだよ、とか改めて呆れる一刀
「はぁ…、わかったよ、じゃあ秋蘭、悪いけど皆をまとめてくれるか、陳宮、君は千の兵を率いて江陵まで皆の警護を頼むよ」
その言葉にねねは恋殿と離れるのはいやですー!と文句を言うが恋が一言叱るとしぶしぶそれに従う
一刀、恋、春蘭、詠、それと許から率いた兵はわずか二千、しかし士気は高く、誰にも、どんな敵にも負ける気はしなかった
「北郷、無茶はするなよ!」
「わかってるよ、俺にはこわーーい女の子が傍で見張ってるしね「誰の事よ!」…ははは、だから命を粗末にするような戦いはしないから安心してくれ、秋蘭」
「…そうか、呂布、姉者、一刀を守ってくれよ」
「まかせて!一刀は恋が必ず守る!」
「まかせておけ!」
秋蘭達に見守れながら一刀達は動きだす、離れていく秋蘭達が見えなくなりはじめると一刀は傷ついた仲間達の事を考える、そして沸き起こる感情、歯を食いしばり、手に力が入る、そして怒りを込めた言葉で小さくつぶやく
”ただで済むと思うなよ…”
あとがきのようなもの
ベタな展開ですね、うん、でもそういうのが好きなんですw
萌将伝、はたしてどこで予約すべきか…
ソフマップかメッセ…うーーんうーーん
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赤壁編その2
風邪をひいてなにもやる気がおきなかった、皆さんも風邪には気をつけてくださいね
何とか4月中に投稿、これで心置きなく帰郷できますw