「うぅん・・・・・。」
何故だ?
「これって・・・・・、ねぇ。」
どうやって動いている?
「あ、中ちゃんと冷たいや。」
この時代に電気は無いはずだが・・・・・。
「なんで?」
《第七章 敵 》
時間は五分前に遡る。
普段は兄が朝食を、いや、食事は全て用意してくれる。
決して手抜きなどではなく、かなり美味しい。
兄曰く、
『どんなに美味しいものを食べても、昔食べた思い出の味には敵わなくってな。なら自分で作っちまおうってのが始まりで、四苦八苦しながら料理を続けて、満足のいく物が出来たころには、料理を作るのが楽しくなってた。』らしい。
和、洋、中。
何でもそつなく作る兄。
その中でも特に中華が絶品なのは、
「その思い出の味が、この世界で食べた物なんだろうね。」
一人、うんうんと納得していたのだが、
「兄さんはっと・・・、む、いない。・・・・・まぁ昨日の今日だしね。」
いつもは厨房に立っている兄の姿が見えない。
昨日の出来事を引きずっているのだろうか、まだ部屋にいるようだ。
「・・・・・よしっ!」
今日は自分が朝食を用意しよう!
そう決意し、厨房で優理はありえないものを見た。
「うん。どこからどう見ても冷蔵庫だ。」
考えれば考えるほどわからない。
なぜここにこんなものがある?
配線が見当たらないのになぜ動いているのだ?
しかも、
「なんか、すんごくミスマッチだなぁ・・・・。」
自分たちの感覚でいえば、はるか昔のデザインの厨房。
システムキッチンどころか、キッチンシンクすらない。
いうなれば土間。
ガスコンロではない、薪をくべて火をおこすのだ。
そこに、明らかに異質な雰囲気を纏い、威風堂々と鎮座する冷蔵庫。
「シュールだ・・・・。真空チルドとか書いてあるし。」
「けど、考えても仕方ない!兄さんに美味しい朝食を食べさせるのだ!」
この際、冷蔵庫の存在は気にしない。
さくっと朝食を作ってしまおう。
「えと・・・。料理ってまず、何すればいいんだろ。」
実は優理。料理をしたことがない。
まともな料理を食べたのは一刀と出会ってからが最初だ。
「ま、何とかなるでしょ。」
そして優理は厨房に立つのであった。
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
「なっ!」
今のは!?
「爆発の音が近い・・・。敵か!?」
さっと窓の外を見る。
いつもの起床時間より幾分か遅いことを太陽が告げていた。
「しまったな・・・。優理は起きてるはずだ。」
アイツの近接戦闘技術は、正直低い。
少し出来る奴にでも、すぐにやられるだろう。
「まずいな、優理だけじゃ荷が重い。」
舌打ちとともに、部屋を飛び出すべく手を伸ばした先には、変わり果てた愛刀《千鳥》。
オマエハダイスキダロウ!?
タノシイダロウ!?
ヒトゴロシガ!!
「っつ!!」
怖い。
くすんでしまったこの刀を掴むのが。
この刀で人を斬るのが、怖い。
「くそっ・・・・・。」
千鳥を無視し、一刀は部屋を飛び出した。
「優理!!」
煙が出ているのは・・・・・、厨房?
一刀が厨房に駆け込んだ先には、
「な、なんだこれ・・・?」
「兄さぁぁぁぁん・・・(泣)」
おいおい、そりゃないだろうよ・・・・・。
「はぁ、何だ優理。その頭は。」
声のした方を見てみれば、そこには変わり果てた弟。
「ホントにアフロに、なるんだなぁ・・・。」
そんなことより。
「・・・・・何があった。」
視線を上げれば、煤だらけの厨房。
何をどうすればこうなるんだ?
「うぅ・・・。実は・・・・・。」
『よし。元気を出してもらうためには・・・・・、肉だ!』
『肉、肉っと・・・。おぉ!牛肉発見!しかもブロック!』
『よし!焼こう!』
『串に刺してぇ♪直火で焼いてぇ♪しっかり強火でぇ♪』
『あっ、忘れてた!油、油!!』
ドバドバ・・・・・。
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
「という事なんです。」
「優理。」
「テヘッ♪」
プチッ!
「お前は・・・・・、アホかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
「ひいっ!」
一刀の咆哮とともに両の手が、優理のもみ上げにむかって伸びる。
「い、いだだだだだ!」
「どぉこの世界に火に直接油を注ぐ奴がいる!あぁ!?」
「こ、ここ?」
「・・・・・。」
「に、兄さん?」
一刀の目から感情が消える。
「あ、もしかして、兄さんの怒り(火)に油注いじゃった?」
「上手くねぇよ。」
「あ、やっぱり?」
やっぱり?じゃあねぇ!
さらに、一刀の目が据わる。
「兄さん、怖いよ・・・?」
「お前、禿げてしまえ。」
「へ?・・・・・いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「うぅ・・・、痛い(泣)」
もみ上げを押さえ、涙目で正座中の優理。
「ったく。大体、朝から肉なんてありえないだろ・・・・・。」
結局、一刀が朝食を作ることになった。
今朝のメニューは、白飯・豆腐の味噌汁・ベーコンエッグ・ほうれん草のおひたしだ。
実に手際よく作っていく。
「うむ。いい味だ。」
味噌汁の味を見て、満足そうに頷く。
「ねぇ、兄さん。」
「ん?」
良かった、もう怒ってない・・・。
一刀の返事に、ようやく優理も正座を解く。
決して、一刀が正座を強要させたわけではないというのがミソだ。
「あの冷蔵庫、何?」
「知らん。」
「へ?」
あっさりと知らない宣言が出た。
それにしては、さして驚いていない。
なんで?
「どうせ、管?だろ?」
「ああ・・・。」
一刀の口から出た名に、至極あっさりと納得してしまった。
「確かに、あの人ならそのくらいやりそうだね。」
「だろ?」
「でも、なんで冷蔵庫だけなんだろう?」
そうなのである。
冷蔵庫だって使えるのだ。
どうせならキッチン全てで良いじゃないかと思う。
「うん、まあ・・・。気にするな。」
「・・・そだね。」
「ほら、皿並べろ。もう出来たから。」
「りょーかい。」
考えるのはもうやめよう。
さあ、ご飯だ。
「ふう・・・、美味しかったぁ!」
「ごちそうさまでしたっと。」
二人は朝食もひと段落し、一息ついていた。
「お茶飲むか?」
「飲むー。」
こぽこぽという音とともに、良いにおいが鼻をくすぐる。
「ほら。」
「んー、ありがとう。」
香りを嗅ぎ、一口口に含む。
爽やかな香りが鼻腔を抜けていく。
「ねー兄さん。このお茶、なに?」
「ああ、これな凍頂烏龍茶っていうお茶なんだ。」
「とうちょううーろんちゃ?」
「これ、もともと台湾で作られてるお茶なんだけどな。
その名のとおり烏龍茶の一種だ。味は日本茶に似てるだろ?」
そう一刀に言われて、もう一口啜る。
「あー、確かに。」
「このお茶の特徴はやっぱ香りだな。」
「なんだか、さっぱりした?爽やか?な臭い。」
「そんなとこだな。このお茶、密かにお気に入りなんだ。」
ちなみにこのお茶、アレルギー反応を抑えるメチル化カテキンの含有量が多く、花粉症に有効とされているらしいです。
興味があったら探し出して飲んでみてね!
「ねぇ兄さん。」
「なんだ?」
「この後どうするの?」
「・・・・・・。」
「兄さん?」
「考えてなかった?」
「は?」
一刀の目的は、華琳の身代わり。
そこのところをばれる訳にもいかず、自分のしてきた事に罪の意識を感じている。
それに、どこか華琳や魏のみんなに後ろめたさがある一刀は魏に戻りたくない。
いや、本当は、本当はみんなの下に戻りたい。すぐにでも華琳を抱きしめたい。
だが、それが出来ない一刀は、華琳に異変があっただとか、戦闘が起きなければすることがない。
優理の目的は、一刀を死なせないこと。
そのため一刀が動かない限り、優理もすることがないのである。
「はぁー。」
自然と、まったりとした空気が流れ始めた、その時。
ジリリリリリリリリリ!!
「うわぁ!!な、なに!?」
「警報か?」
『はぁい!ご主人様ぁ、優理ちゃん、元気かしらぁん?』
けたたましい警報機らしきものから、あまり思い出したくない人物の声が流れてきた。
「げ・・・。」
「チョウセンか?」
『この警報はねぇん、魏軍が戦闘を起こすと作動するのよぉん。』
こちらの声に反応はない。
ということは録音された音声なのだろうか。
『それと、この警報では場所はわからないから、場所は勘でヨ・ロ・シ・ク☆』
ヌフゥン!
「なんか今鳥肌が・・・。」
「・・・・・考えるな。」
何故だろうか。
音声終了時の音が、奴のウインクを連想させて気持ち悪い。
「まあいい、行くぞ。」
「了解っ!」
そういって小屋を出た一刀の手に、千鳥が握られていない。
やっぱり、昨日のことが・・・・・。
態度に出さないようにしていたのだろう。
まったく気づけなかった。
兄さんなら必要ない、とは思うけど。
・・・まぁ、お詫びって訳じゃないけどさ。
一応、ね?
「兄さん、これ。」
「これは・・・。」
優理の手には、大振りなアーミーナイフ。
昔、一刀からもらったお守り代わりの代物だ。
「けど、お前・・・」
「兄さん千鳥使わないんでしょ?」
「まあ、そうだけど・・・。」
「だったら持ってなよ。」
一刀は、徒手空拳でも十分戦える。
そして、敵が基本的に武器を持っているなら、ナイフ位持っていたほうが戦いやすいはず。
「わかった、ありがとう。」
「よし!行こう、兄さん!」
爆音とともに、二人は戦闘地域にむかって行った。
「桂花、状況は?」
「は、敵勢力は不明、数はおそらく五千ほどかと。」
「不明ね・・・。あれは何かしら?」
視線の先には、黒い、円筒のようなものが三基。
「それが、真桜にもわからないとのことでして・・・。いかがなさいますか?」
不気味な雰囲気を纏った、目の前の軍勢。
それだけで、若干兵たちの士気が下がっているというのに、くわえてあの黒い円筒だ。
そこにソレがあるだけで、正体不明の威圧感がある。
だが、それだけだ。
魏の王である自分が弱気な姿を見せるわけにはいかない。
「桂花、全軍に通達。これよりわが軍は-------」
しかし、華琳が言葉の全て言い切らないうちに、それは起きた。
------ぐあああ!
------なんだよあれっ!くそっ、うああああ!
あの黒い円筒から、何かがこちらに打ち出されている!?
「何事かっ!?」
「わかりませ・・・華琳様!!」
「っつ!!」
桂花の悲鳴にも似た声に、視線を前に戻す。
そこには、円筒から打ち出された弾らしきものが目の前まで迫って来ていた。
「私の覇道もここまでか・・・・・。」
華琳が自らに迫る死を受け入れようとしたその時、
ギャキン!!
目の前に突如として割り込んだ黒い影が、迫って来ていた弾を打ち落とした。
「怪我はないかね?」
「貴方・・・・・。」
そこには、おそらく最愛その人であろう、仮面の男が立っていた。
To be continue...
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ドモドモ。
お久しぶりです、くまです。
今回はちょっぴり拠点的な話しを書いてみました。
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