No.137844

恋姫異聞録53 -西涼の英雄-

絶影さん

涼州攻略終了

長かった、馬騰が死んでしまって悲しむ声が多い中
私は彼を生み出すことが出来て本当に良かったと思っています
彼を好きになってくれて有り難うございます

続きを表示

2010-04-21 23:22:16 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:14197   閲覧ユーザー数:11188

 

 

草原の丘に石碑が一つ、刻まれる墓標は馬騰とその妻紅

風に吹かれ、周りに生える草花は柔らかく揺らめく

 

「有り難う、父様をちゃんと弔ってくれて」

 

「いや良いさ、俺も息子になったんだこれぐらいさせてくれ」

 

俺の答えに馬超は悲しそうに顔を伏せる。足には相変わらず扁風がしっかりとしがみ付き俺の顔を覗き込んでいた

 

「・・・ああ、父様が言った事は絶対だ。でもやっぱり」

 

「解ってるよ、俺たちと共に行く事は出来ないのだろう」

 

「ゴメン」と言うと馬超はまた目を伏せて悲しい顔をする。隣にいる馬岱はそんな馬超を心配そうに覗き込んでいた

 

「謝る必要は無い、華琳は父を殺したのだから当然だ」

 

「だから・・・えっと・・・お、お兄様とは敵になるけど」

 

俺は恥ずかしそうに兄と言う言葉を口にする馬超の頭を優しく撫でた。目を見れば解る、心の中では複雑な感情が

入り乱れているのに、父の最後の言葉を素直に従おうとしているんだ

 

「気にするな、最後に父さんが言ったろう。戦う時は容赦をするな、あれはお前にも言った言葉だよ」

 

「・・・ああ、有り難う」

 

少しだけど顔に柔らかさがもどったようだ、良かった俺はこれから妹になったばかりの娘と戦場で戦わなければならない

だから少しでもこの娘の心に力を与えたかった。俺を前にして戦えなくならないように

 

「俺の真名を預ける。俺の真名は魏の者以外に預けた事はない、大切にしてくれ」

 

「え?い、いいのか?あたしなんかに」

 

「妹に真名を預けるのがいけないことなのか?」

 

俺の言葉に目を丸くして驚く馬超に目を細めて柔らかく笑うと顔を赤くして顔を伏せてしまう、それを見ていた

馬岱は安心したように笑顔になる。馬超の心が少し軽くなったことに気がついたようだ

 

「俺の真名は叢雲だ、また父の墓参りに来るときは俺の名を出せば良い」

 

「有り難う兄様、私の真名は翠」

 

「えへへ、良かったたんぽぽも真名を預けるよ。よろしくねお兄様!」

 

翠と握手をする俺を嬉しそうに見上げて蒲公英も俺に真名を預けてくれた。そして握手を交わすと翠はまた

顔を悲しみで染めてしまう。父が亡くなったのだ、そう簡単に心に整理がつくわけも無い、後は時間が解決

するのを待つしかないだろう。きっと蒲公英と韓遂殿が翠の心を救ってくれるはずだ

 

「もう行くよ、次に会う時はきっと敵同士だけど」

 

「ああ、蜀に行くのだろう?フェイは任せろ」

 

「うん、今のあたし達を受け入れてくれるのは蜀の劉備くらいだろうし、覇王とは決着を着けたい」

 

俺は頷くと最後にもう一度翠の頭を優しく撫でた、翠は「なんだか父様に似てる」そういって笑顔を見せてくれた

 

「ところでフェイ、この間」

 

蒲公英がそこまで言うと扁風は両手でぺチンと蒲公英の顔を挟み込み、「む~!」と言った感じで睨みつけている

 

「いった~!たんぽぽがなにしたって言うのよー!!」

 

そういうと無言で走って逃げ出す扁風を蒲公英は追いかけいってしまった。それを見ながらまた翠はやれやれと

笑顔を見せる。俺はこの笑顔とも戦わなくてはならないのかと思うと少し胸がずきりと痛んだ

 

「それじゃまた、父様のお参りに来るよ」

 

「ああ、それまで元気でな翠」

 

俺が真名を呼ぶと少し悲しそうな顔をしてから無理やりに笑顔を作って身を翻した。本当はもっともっと話したいことも

あったんだろう。父が息子と呼んだ俺に伝えたいことが沢山あったのかもしれない、だがこれから敵になるなら

情は多く移らないに越した事はない、俺は敵になる出来たばかりの妹の立ち去る姿を静かに見送った

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい兄様、西涼のほうはどうでしたか?」

 

「ただいま、何事も無かった。無事に埋葬も済んだしな」

 

許昌に着くと最初に出迎えてくれたのは流琉だった。どうやら他の者達は戦の勝利を祝っているらしい

都に帰ってから華琳は珍しく長い休みを兵たちに与えたようだった

 

「秋蘭は?」

 

「秋蘭さまは涼風ちゃんとご自宅にいらっしゃいますよ。あ、兄様が帰ってきたらこれを渡してくれって」

 

俺は手渡された箱を開けると中には二つ菓子が入っていた。それを見て理解した俺は流琉の頭を撫でて

扁風を流琉に任せると城壁へと歩を進めた。

 

「流琉、しばらく城壁には誰も近寄らせるな」

 

「え?は、はい解りました」

 

流琉は首を傾げて不思議そうな顔をするが素直に扁風をつれて近くの兵士達に指示を出し始め、俺はそれを

横目で見ながらその場を後にした

 

 

 

 

 

 

空は雲ひとつ無い快晴、正に蒼天、太陽が優しく輝き暖かい光が大地を照らす。風は頬をくすぐるように心地よく吹き

やわらかい風に押されるように階段を一段一段登っていく、登りきると城門の平らな屋根で座る一人の少女

 

「・・・・・・」

 

「・・・・・・」

 

男は華琳の背後に背中合わせで腰を下ろすと、華琳は男の背中に身体を預けるように寄りかかる

 

「はぁ・・・」

 

「・・・・・・」

 

空を見上げ、溜息を着く華琳の表情は悲しそうで、そんな表情に気が付いても男は無言でただそこにいるだけ

 

「・・・疲れたわ・・・・・・もう、やめようかしら」

 

王である彼女の口からそんな言葉が出る。だが男は相変わらず表情を変えずにただ後ろに座っている

 

「・・・・・・いいぞ、やめたいなら」

 

「うん・・・そしたら色々な本を読みたいわ。時間に左右されないでゆっくりと」

 

「ああ、良いんじゃないか?」

 

「それとも新しいお酒でも造ろうかしら、そうだ春蘭と秋蘭と貴方で何処かに旅に出るのも良いわね」

 

「楽しそうだな、羅馬にでも行くか?あそこは華琳が好きそうな美術工芸品や珍しい技術があるぞ」

 

「フフフッ、それは良いわね。きっと見たことも無いようなものが沢山あるでしょうね」

 

二人は笑い合う、笑い声は何処か悲しげで痛々しさを感じさせるそんな笑い

 

「フフッ夢ね。今の私がそんなことをして許されるわけ無いわ、どれだけ私の手は血を吸い悲しみを増やしたのか」

 

笑いは自嘲的な笑いへと変わり自分の掌を見つめ、苦しそうに眼を伏せる

 

「王として戦い続けるならばこんな事は当たり前なのにね。馬騰をこの手で殺めた時、今までのことが全て私の心に

圧し掛かってきた。平穏を求めながら数多の人を殺し悲しみを増やしてきた、覚悟していたはずなのに」

 

「・・・」

 

「そんな私が逃げられるわけが無い、覚悟って難しいものね。貴方みたいにうまくいかない」

 

「・・・俺は・・・俺はお前の姉弟じゃない、親でもない、だから道を示すことも手を引くことも出来ない」

 

「・・・うん」

 

「でも俺はお前の友だ、世界中がお前の敵になったとしても俺は、俺達はお前の味方だ」

 

「うん」

 

「だから、自分の信じた道を行け。俺はずっとお前を支え続けてやる」

 

「・・・・・・ありがと」

 

そういうと華琳はまた背中を男に預けて、身体を伸ばす

 

華琳の頬には光るものがあったが男は気がつかない振りをして真直ぐ前を向くだけだった

 

言葉は無く、それでも確かなつながりを感じて暖かい光の中二人は蒼天を見上げた

 

 

 

 


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
110
26

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択