No.137679

真・恋姫†無双 金属の歯車 最終前話

・真・恋姫†無双をベースにMGSの設定を使用しています。

2010-04-21 00:50:36 投稿 / 全7ページ    総閲覧数:1945   閲覧ユーザー数:1785

 襄陽では呉蜀連合と魏が対峙していた。

これが最後の戦いになる。両軍の誰もがそう思っていた。だが他の世界から来た天の御遣いが決戦に待ったをかけた。

二人が戦い、スネークが勝てば劉備との理想が。フォックスが勝てば曹操の覇道が叶う。

未来をかけた戦いが、たった二人の、それも一度の戦いで終了する。

納得できない兵士はたくさんいるはずだ。

今までに死んでいった同士たちの弔い。

憎悪。嫌悪。差別。執念。憤怒。

処理できない感情は無数にあるはずだ。

しかし反対者は少なかった。御遣いたちではなく兵士たちもこの戦争につかれきっているかもしれない。

多くが死ななくていい。一人が勝てば戦争が終わる。一人が死ねば戦争は終わる。

あまりにも他人任せで、あまりにも重責で、あまりにも自己犠牲すぎる一騎打ちが始まろうとしていた。

その一騎打ちに向けてスネークは同盟の陣営で準備を整えていた。

「済まない、雪蓮。わがままを聞いてもらって」

「いいわよ。それに赤壁のあの暴れよう。こっちにも分はあるんだから」

 大切なものを失った雪蓮は気丈だった。スネークの暴力的な咆哮によりマグナの包囲網を突破し無事であった。

「必ず帰ってきて・・・ご主人様」

「行ってくる」

 いつもの笑顔も、余裕もなかった。

一人の冷徹な蛇がふたりだけの戦争に出陣した。

魏の陣営ではフォックスが、歩みだしたスネークの姿を確認していた。

その脇にはいつもより小さく見える華琳がいた。

「ケイン」

「なんだ?」

「どちらでもいいわ。勝っても負けても」

「それは覇王としての言葉か?それとも君自身の言葉か?」

「・・・」

 華琳は答えなかった。答えられなかったかもしれない。

だがフォックスはそれを聞かずに、ただ静かに一言彼女に声をかけた。

「特等席で見ているがいい」

 蛇腹剣を彼女の眼前にちらつかせる。

「これはお互いの信念(Sence)を賭けた戦いだ。どちらが正しいかは戦いで決める」

 フォックスはそう言うと静かに歩を進めた。

スネークはこの世界で繕った羽織も袴も脱ぎ、正史のスニーキングスーツのみだった。しかし彼の表情はひどく冷徹で目の下には隈が出来上がっていた。

「一刀・・・どうした、その顔は?」

「良心の呵責なんかじゃあないさ」

 静かに刀を構えこちらを見据える。それに応じるように彼は蛇腹剣を左に持つ。珍しく最初から本気のようだ。

「いくぞ!アトモス・スネーク!!」

「こい!トーレ・フォックス!!」

 

 

最終前話 Zanzibar Land ~因縁ノ地~

 

 

 遠巻きから桃香たちは一騎打ちを眺めていた。

時折花火だけではなく、電撃も走るのはスネークが本気で彼を殺そうとしているからだろうか。

「おかしいよ・・・なんで」

 桃香はその戦いを目を背けずに見つめていた。

「つらいなら・・・見なくていいのよ?」

 横には大切な人を無くした雪蓮もいた。

両軍の将たちはおろか、兵たちもこの戦いに野次も飛ばさず、静かに見つめていた。戦いはむなしく、あまりにも悲しい戦いだった。

人に戦いの愚かさを伝える。そんな戦いだった。

 

 * *

 

 はや二人が斬り付けあって、そろそろ五十合というところだった。

あまりにも静か過ぎる戦場に一つの叫び声がこだました。

「戦いたくて戦った人が何人いたと思ってる!」

 鍔迫り合いの果てに優しき蛇がついに声を荒げる。

「絵の得意な人が!音楽が好きな人が!学者になりたかった人だってきっと!」

「いつからそんなに子供になった、スネーク!人間にとって平和という状態は不安定に過ぎない!」

「だからこそ手を取り合うんだろ!手を差し伸べるんだろ!」

 真正面からの鍔迫り合いとなり、相手を押し出そうと頭突き寸前の距離まで顔が近づく。

「あの時あんただってそうしてくれた!」

「子供なのもいい加減にしろ!お前は戦士だ!お前は敵だ!それだけで戦う理由には十二分だ!」

「じゃああんたは何で戦うんだ!」

「お前こそどうなんだ!?」

「質問を質問で返すな!」

 フォックスの目を覚まさせるような頭突きが炸裂する。

痛みよりも脳に与えられた振動にフォックスは思わず頭を抱えてひるんでしまうが、しっかりと斬り下ろしの二撃目を防御する。

「平和が不安定でも構わない!俺は戦争が憎い!俺は戦争を終わらせる!」

「物事の本質を見ろ、スネーク!おまえはこの世界で何を成す!」

 サイボーグの怪力と、ファンデルワールス力による固定が火花をあげる。

蛇腹剣が舞い、狐と蛇の間合いをあける。中距離以上では明らかにフォックスが有利だ。間合いを空けようとするが必死にスネークが食らいつく。

力量差は歴然だ。スネークは必死に喰らい付いている方だろう。

「外史の戦争を終わらせるために来たのでは無いだろう!」

「PMCはいずれこの世界を蝕み、正史をも喰いはじめる!」

 体が損傷するのをものともせず蛇腹剣の舞いに突っ込み喉元にねらいを定め、フォックスはその一撃を柄で受け止める。

「この三国が力をあわせることも必要だ!そのためにこの戦争を終わらせる!」

 スネークが息を整え、正眼に構える。

「・・・もう誰も死んでほしくない」

「いいだろう!」

 フォックスが叫ぶ。蛇腹剣を大きく振り回し、そのまま彼を中心に回し続ける。次の一合で雌雄を決する。その合図でもあった。

「いずれにせよ力を示さねば華琳は動かん!お前のなす事はこの俺を倒し、この戦いを終わらせることだ!」

 よくもまあ論戦をしながら何十合も斬りあったものだった。そのせいかお互い息が上がりきっている。

スネークの目が赤く染まり、彼をアトモス・スネークに変える。彼の背に雷の翼が走り、次の一撃に電撃を上乗せさせる。

フォックスは蛇腹剣をさらに大きく振り回し遠心力を利用する。

「俺を越えてみろ!」

「言われなくとも!」

 己の意志を剣に乗せ、狐と蛇がぶつかり合う。

 

 

「はぁ!!」

「たぁ!!」

 

 

 あたりに気と雷がぶつかり合った余波が走った。

誰もが勝負が決したと思っていた。フォックスもそう思っていた。

しかし彼の目に映ったのは、降り降ろされた蛇腹剣がナイフとブレードによって抑えられている光景であった。

(しま・・・)

 フォックスが思うより早く、スネークが動いた。運動エネルギーを失った蛇腹剣を支点にフォックスの体が浮きあげる。

「くっ!」

 地に叩きつけられ、眼前には拳。本能的にそれを避けたフォックスの左手には蛇腹剣はあらず。スネークの右手にもブレードは無し。

彼が立ち上がるが早いか、再び彼の眼前に拳が迫っていた。反射的にそれを手のひらで受け止めるが腹に衝撃が加えられる。

その衝撃を利用して間合いを空ける。

「戦いの基本は格闘だ」

 スネークはすでに構え終わっている。その目に焔の力は宿っていないということは勝つ自信があるということか。

勝負はすでに決していた。武器の天才トーレ・フォックスも、CQCの天才には敵わなかった。

フォックスの拳も蹴りもすべてあしらわれ、カウンターを受ける。

(ならば・・・)

 凪が使用している気孔を利用した攻撃だ。筋がいいと言われ彼女に教わったものだ。

正拳突きがスネークの腹に吸い込まれるように叩きつけられた。しかし・・・

「初見なら喰らっていたかもな」

 彼は凪と戦っていた。とっさに肘で防御したらしい。

「今度こそ終わりだ、トーレ・フォックス」

 腰を大きく落とし腹に左手が伸びる。とっさにそれをガードしようとするが、その拳は寸前で止まり、代わりに彼の顎に強力な一撃が加えられた。

フォックスの体は大きく吹き飛び、大の字となって倒れた。

「一刀」

「ん?」

 体力を使い果たしたか一刀も片膝を付き、彼の言葉に耳を傾ける。

「俺はただ死に場所を求めていた。しかし・・・」

 フォックスは上体を起こす。その視線の先は差し伸べられた手だった。

「この世界が・・・気に入った?」

「・・・俺に生きる実感をくれた世界さ」

 その手を取り、蛇と狐の、人外の戦いが終結した。遠目に仲間達が走ってくるのが目に入る。

しかし、正史はその平和を許さなかった。

 

―――地震。

 

 スネークとフォックスは地面に転がっていた得物を手にし、互いに背中を預ける。

「来るな、華琳!」

 ふつうの地震ではない。正史から何かが送られようとしている。外史に存在している物質を押しのけ、そこに存在しようと動き始める。

この振動は物質が押しのけられる時に生じる衝撃波だ。

刹那、視界が光に包まれその中から一機の兵器が現れた。

 

 

『久しぶりだな、兄弟!』

 

 

おまけ:次回予告

歴史は繰り返される。何度でも。

 

最終話 青空になる

 

それは儚く消える、悲しい物語。


 
このエントリーをはてなブックマークに追加
 
 
11
0

コメントの閲覧と書き込みにはログインが必要です。

この作品について報告する

追加するフォルダを選択