「申し上げます!」
息を切らしながら走ってきた兵士が報告する。
「陣地の南方に官軍らしき軍隊が現れ、我らの部隊の指揮官にお会いしたいと・・・」
「官軍らしき、とはどういうことだ?」
「それが・・・通常、官軍が使用する旗を用いず、曹と書かれた旗を掲げているのです。」
「官軍を名乗りながら、官軍の旗を用いず。・・・恐らく五胡征伐に乗り出した諸侯でしょうね。」
「曹といえば・・・許昌を中心に勢力を伸ばしている曹操さんかと・・・」
「そ、曹操?」
曹操っていえば、三国志の主人公格の人物じゃないか。それがどうして俺達に・・・。
あ、でも・・・そういえば曹操と劉備って、演義の方ではライバル関係だったな。じゃあ桃香のことを探りに来たのか?
「どうする、桃香。」
「曹操さんって味方でしょ?じゃあ挨拶はしておいた方が良いと思う。」
「そうですね。上手くいけば共同戦線を張れる可能性がありますし。」
「じゃあ桃香。一度みんなで曹操に会ってみるか。」
「ん、そうしよ。」
桃香は納得したように頷く。
「じゃあ曹操さんに、歓迎しますって伝えてくれるかな?」
「分かりました!ではっ!」
そう言うと、兵士は駆け足で曹操のところに向かっていった。
「曹操さんかぁ~・・・どんな人だろうね~。」
「そうですね・・・。治政の能臣であり、詩人でもあり・・・そして何より、乱世を生き抜く奸雄でもある人物だって噂です。」
「治政の能臣、乱世の奸雄・・・。善悪定かならずというやつだな。」
愛紗は神妙あ面持ちで、顎に手を乗せる。
「そうですね。あと・・・一点だけ分かっているのは、自分にも他者にも、誇りを求めるということ・・・」
「誇り?誇りってどういう?」
そう桃香が雛里に聞こうとした時、
「誇りとは、天へと示す己の存在意義。誇り無き人物は、例えそれが有能であれ、人としては下の下。そのような下郎は我が覇道には必要なし。・・・そういうことよ。」
後ろから、小柄な少女が説明してくれた。
「ほわっ!?びっくりしたっ!?」
「誰だ貴様っ!?」
「控えろ下郎!この御方こそ、我らが盟主、曹猛徳様だ!」
隣のいかつい女性が声を張り上げる。
「そ、曹操さんっ!?え、でも、ついさっき呼びに行ってもらったばかりなのに・・・」
「他者の決定を待ってから動くだけの人間が、この乱世の世の中を生き延びられると思っているのかしら?」
「・・・俺達が君と会うことを選ぶって、分かっていたってことか。」
そんなことは大した事じゃない・・・と、そう言いたげな少女が、
「改めて名乗りましょう。我が名は曹操。官軍に頼まれ、五胡を征伐するために軍を率いて転戦している人間よ。」
憎たらしいぐらいに淡々とした口調で、自己紹介を済ませた。
「こ、こんにちわ。私は劉備って言います。」
「劉備・・・良い名ね。あなたがこの軍を率いていたの?」
「それはその・・・私が率いていたんじゃなく、私達のご主人様が・・・」
「ご主人様ぁ?」
曹操は半ば呆れた口調で聞いてみた。
「はい。えと・・・」
「俺がそれ。・・・天城蒼介だ。よろしく。」
と、片手を前に出してみるが、曹操は見事に無視してくれた。む・・・嫌なヤツ。
「天城蒼介・・・。聞いたことのある名前ね。」
「そりゃそうですよー。ご主人様は最近噂の天の御遣いなんだもん♪」
「天の御遣い・・・?ああ、それなら私達にもいるわよ。・・・一刀ーーーー!」
・・・へ?今なんとおっしゃいましたか?かず・・・と?
「なんだよ華琳・・・。俺、警備の仕事で忙しくて______________。」
とボヤキながら後ろから歩いてく来るのは、
「あーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
「ん?ってあーーーーーーーーーーーーーーーっ!?」
紛れも無く、正真正銘の俺の知る一刀本人だった。
「蒼介っ!?何で蒼介がここに!?」
「それはこっちの台詞だ!何でお前がここいるんだよ!」
あの間抜け面、面倒臭そうなあの態度。本物の一刀だ。
「あら?あなた達、知り合いなの?」
「知り合いもなにも、この間抜け面とは腐れ縁の仲だ!」
「なんだとっ!会って早々、人を間抜け面呼ばわりして!」
「お前以外に、どこにいるんだよ!」
「なんだってぇ!」
「あぁ?やるか?」
俺達がそれぞれ、拳を構えてやり合おうとした時、
「お止めください、ご主人様!」
「北郷、落ち着け!」
愛紗と春蘭に止められてしまった。
「離せ春蘭!今コイツを一発ぶん殴らないと気が済まない!」
「俺だって同じ気持ちだ!最近、戦続きでイライラしてんだよ!」
そんな風に俺達が言い争っているのを、見ているみんなの様子はというと・・・。
秋蘭と桂花は静かに傍観しているし、朱里と雛里は、はわわ!あわわ!と慌てふためいている。鈴々と季衣にいたっては、やれやれーと応援しているぐらいだ。
そんな俺達に苛立つと慌てを見せる、華琳と桃香が、
「お止めなさい!(止めてください!)」
と大声で叫ぶ。俺達は驚き、桃香達に目をやる。
「喧嘩している暇なんてないでしょう!今は一刻も早く、このくだらない戦争を終わらせるために来たのだから。」
「そうですよ!だから落ち着いて!」
そう言われ、俺達は渋々拳を下ろす。
「全く・・・。さて、話がずれたわね。天城蒼介。あなたがこの部隊を率いていたのね?」
「えっ!?蒼介がこの部隊の指揮をしてるの!?」
一刀は驚いた様子で目を見開いている。
「いや、俺だけの力じゃない。みんなの力があってこそ、部隊を率いることができたってだけさ。」
「へぇ・・・」
関心したように呟いた曹操が、俺の顔をジロジロと見つめる。
「・・・俺の顔になにか付いてるか?」
「いいえ。取り立てて特筆すべきところのない顔だと思ったまでよ。」
「あはははっ!言われてやんの蒼介!」
・・・あいつ、後で殺す・・・っ!
「あなたも含めて言ったのだけれど?一刀。」
「ええっ!?俺もかよ・・・」
がっくりと肩を落とす一刀。・・・いい気味だ。
と、俺が苦笑していると、
「天城・・・と言ったわね。あなたがこの乱世に乗り出したその目的は何?」
唐突に質問された。
「さて。・・・俺は天の御遣いっていう御輿だからな。主義主張って言うものはない。ただ桃香・・・劉備達の考えに賛同し、協力してるだけさ。」
「御輿、ね・・・なるほど。ならばこの軍の真の統率者は、やはり劉備ということでいいのね?」
俺の言葉の真意を理解したのだろう。曹操は確認するように俺を見る。
「そう思ってもらっていい。」
「そうか。・・・実際、俺も同じような感じだしな。」
一刀も俺と同じ立場だから、すぐに理解したのだろう。同じ天の御遣いとして。
「ふむ。・・・ならば再び問いましょう。劉備、あなたの目指すものは何?」
「・・・私は、この大陸を、誰しもが笑顔で過ごせる平和な国にしたい。」
「それがあなたの理想なのね?」
「うん。・・・そのためには誰にも負けない。負けたくないって、そう思ってる。」
「・・・そう、分かったわ。」
桃香の言葉に何かしらの得心がいったのか、曹操はゆっくりと頷き、
「ならば劉備よ。平和を乱す元凶である五胡を殲滅するため、今は私に力を貸しなさい。」
傲慢とは少し違う・・・否応なく感じてしまう、威厳に満ち溢れた言葉を続けた。
「今のあなたに、独力で五胡を鎮める力はないでしょう。だけど今は一刻も早く暴徒を鎮圧することが大事。・・・違うかしら?」
「その通りだと思う・・・」
「それが分かっているのなら、私に協力なさい。私と同じ考えを持つのだから。」
「え、でも・・・」
不安そうな瞳を浮かべ、桃香が俺の方を見る。
「・・・申し出を受けよう桃香。曹操の言う通り、今の俺達には、独力でこの戦を鎮めるだけの力はない。だけど力のある人と協力すれば、もっと早くこの戦いを鎮めることができる。」
「あら、良く分かっているじゃない。」
「少し、頭が回るだけさ。・・・でも一つだけ分からないことがある。」
「なんだよ、蒼介?その分からないことって。」
「・・・君と組むことは俺達にとっては大きな利点がある。・・・だけど、君が俺達と組む利点って何だ?」
「違うよ、蒼介!華琳はただ、国が平和になってほしいだけで、利点なんて・・・っ!もごもごっ!」
華琳が急に顔を真っ赤にし、一刀の口を思いっきり塞ぐ。
「そ、そんなこと考えてるわけ、な、ないじゃない!一刀が勝手に言っただけよ!」
「ふーん・・・。案外、優しいとこがあるんだな。」
俺は思いっきりニッと笑って見せる。
「別に違うわよ!あなたが考えて考えて、導き出された答えが、あなたにとって真実というだけのことよ。さ、行くわよっ。」
恥ずかしそうにしながらも、答えをはぐらかす曹操が、もはや長居は無用とばかりに背中を向けた。
「あ、おい・・・」
「話は以上よ。共同作戦については軍師同士で話し合いなさい。そして言葉ではなく、その行いによって人の本質を理解しなさい。」
そういうと曹操は、一刀の耳を引っ張りながら帰っていった。
「・・・なんというか、取っつきにく女の子だな」
一刀、あんな人の世話になっているのか・・・。
「自信の塊のような人でしたね・・・」
「鈴々にはあいつが言ってることが、ほとんど分からなかったのだぁ~・・・」
「去り際のあの言葉は、曹操さんの哲学のようなものなのかもしれません。」
「言葉ではなく、行いによって人の本質を理解せよ、か・・・。あの言を、果たして信じていいのやら。」
「俺は信じても良いと思える。・・・話してみても、つまらない嘘は言わないような感じたし。」
「信じられる人ってこと?」
「少なくとも、今の時点ではな・・・。」
「いつかは敵対することがある・・・。そういうことかな?」
「多分な。・・・俺達には俺達の理想がある。曹操と俺達の理想が違えば、対立することになる。例え理想が同じでも、そこに至る方法が違うのなら、戦いになるというのも必然だと思う。」
本気でこの国に住む人々のことを考えているのならば、ね。
「だから負けてはいられないのさ・・・な、桃香。」
「うん!どんなにスゴイ人だろうと、私達の理想を邪魔するなら、立ち向かってやるんだから!」
力強く宣言する桃香に、仲間たちは皆が皆、一様に頷きを返した。
自分達が目指す理想がある____________。
そのたった一言が、人にこれほどの強い力を与えるのか・・・。
その事実は俺にとって、眩しいぐらい新鮮な感覚だった。そして、理想に燃える仲間達の傍にいられることに、例えようもない嬉しさを感じていた。
・・・しかし、考えてみると、俺と一刀は敵同士なんだ。もちろん、手加減する気は無い。個人の感情で仲間を巻き込むワケにはいかない。
いつか敵対する時が来たら、正々堂々と戦おう、と拳をギュッと握り締めた。
※どうもお米です。今度は一刀と再会を果たした蒼介。友と敵対関係にいる・・・そのことにどう向き合っていくのか、楽しみですね~。さて、次回は、五胡征伐に向かう前の、一刀達の話にしたいと思います。久しぶりのあの人が登場するかも。(覚えているか分かりませんが)それでは失礼します~。
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第十四話目となります。今回はあの人と再会しますよ!誰かは多分すぐに分かると思いますがww