No.137135

真・恋姫†無双 ~祭の日々~26

rocketさん

お久しぶりです。更新大幅に遅れてすみません!
ちょっと前のゲームに激ハマリして時間が経つのを忘れていたRocketです。
思ったように話が進まなくて難儀中・・・とりあえず次回は桃香メインですかね。
つーか・・・花粉許すまじ。

2010-04-18 15:59:52 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:6446   閲覧ユーザー数:5350

 

 

――ずぶり、と突き刺さる刃物。倒れていく男。

 

それに最初に反応できたのは、祭だった。

彼の人の名を叫び、駆け寄る。

沈み行く人影を止める事がかなわないのを瞬時に判断して、一度だけ睨んでやると、すぐに一刀に意識を集中させた。

「くっ・・・!」

一刀は意識を失っていた。

恐ろしい思いが頭を過ぎる――事切れたのではないかと。

しかし傷を見れば、意外なほどに浅いことがわかった。

祭は刃を一息で引き抜いた。血は少ししか飛ばなかった。

「何事かっ・・・!?」

騒ぎを聞きつけてか、蓮華と明命がやってきた。目の前にある光景を見て絶句する。

「祭、なにがあったというの!?」

主を前に、祭は無礼であることは承知で、そちらに目をやらずに答えた。

「一刀が襲われました。腹を刺されております・・・!」

視線は、一心に一刀へ向けられている。

・・・おかしかった。

確かに刺さってはいたが、この程度なら気を失うほどではないはずだ。致命傷には至っていない。むしろこの程度なら、痛みで意識が鮮明になるものだ。

「とにかくお医者さんを呼ばなくちゃ!一刀さんは宿へ運びましょう」

桃香の言葉に、一同頷いてそのようにする。明命が医者を呼ぶため走り去り、祭が慎重に一刀の体を抱えた。

 

部屋へ運び込むと、秋蘭が顔を青くして男の名を呼んだ。

「なにがあったのだ」

「襲われた。すまん、儂の失態じゃ」

少ない言葉に万感の思いを込めつつ、祭は寝台に一刀を寝かせた。

「傷は深くはなかった。しかし気を失っておる・・・秋蘭殿、どういうことじゃろうか」

秋蘭も一刀の体を検分し、そして同じ結論に至る。

「わからない。だがまずは医者だ、誰か・・・」

「明命が呼びに行きもうした。すぐに来るじゃろう」

 

その言葉通り、医者はすぐやってきた。

手際よく診察と治療を進めていく。

祭は息を呑んでそれを見つめていた。

 

「・・・一命は取り留めました」

 

医者の言葉に、それをきいた全員がほっと胸をなでおろす。しかし、医者はそのまま言葉を続けた。

「しかし、まだ油断はできません。どうやら刃に毒が塗ってあった様子」

「なに・・・!?」

「早く解毒を!」

ふるふると首を横に振る医者。

「今までに見たことがないもので、処方の仕様がなく。正直に申し上げて、いつどうなるのかさえ不明でございます。私は長く医者をしておりますが、このような毒は・・・」

言葉を言い募ろうとした秋蘭の肩をグッと祭が抑えて止める。

「祭殿っ・・・!」

「彼を責めても仕様がないじゃろう。彼奴は泥より這い出てきおった・・・我らが知らぬ毒を持っていても、不思議ではなかろうよ」

脳裏に浮かぶ、一刀を刺した男のいやらしい笑み。

桃香を襲わんとしていたときにも思っていたことだった。奴が気味の悪い気をまとっていることは。

「くっ・・・では、どうしようもないというのか!」

行き場のない怒りを吐露する蓮華。その背後で、明命も気鬱な顔をしていた。

「ひとり、解毒できるのではと心当たりのある医師がおりますが・・・どこにいるやもわかりません。もし彼が見つかればなんとかできるのでしょうが・・・」

「誰ですか、それは!」

「華陀という者です。その腕は三国随一、治せぬ者などないとまで言われておりますが・・・各地を転々としておるもので」

手詰まりだ、とばかりに皆が気落ちする中。

桃香がすっくと立ち上がった。

「おねえちゃん?」

鈴々が涙目で義姉を見つめる。

桃香の目には、決意の光が宿っていた。

 

「城に帰りましょう」

 

桃香に対する不信に満ち満ちたあの城に。

みな目を見開いて驚いたが、桃香は続けた。

「城に戻れば、少なからずお医者さんがいる。毒に精通している人間もいるだろうし・・・それに、その華陀って人を探してもらえるかもしれない」

「でも・・・」

城に戻れば、幽閉される。乱心した王ほど手に負えないものはないからだ。

星が説明するために帰っているとはいえ、既に世を乱し逃亡まで果たした桃香の言うことを、誰が聞いてくれるというのか。

 

「私は今までいろんなことから逃げて、目をそらしていました。今回の事だってそうだし、星ちゃんを説明のためにと先に帰したことも、今思えば逃げだったのかもしれません。ただ私が謝らなければならないのに。私の罪なのに、星ちゃんに間に入ってもらっちゃった。私は・・・いい加減、立ち向かわなきゃいけないんだと思います。たくさんの人に迷惑をかけたから・・・もちろん一刀さんにも。一刀さんに私、まだ何も返せていません」

 

誰がそれ以上、反駁を示せただろう。

誰もが一刀を助けたかったし――誰もが彼女の決意に抗えなかった。

 

それは、彼女も例外ではなく。

それが伏した男の思いに背くものであると知っていても尚、祭は異を唱えることができないのだった。

 

 

桃香の帰還には、蓮華・明命・秋蘭が連れ立つことになった。

一刀のもとへは祭と鈴々が残った。ふたりとも、余計な混乱を招きかねないからだった。

 

祭は彼女らを見送った後、一刀の側についていた。

体を拭くこと、定期的に水を飲ませること。

そんなものはすぐに終わってしまう。よって、彼女は自責の念に苛まれるのを誤魔化すことができなかった。

 

あのとき、彼がその身に刃を受けたとき。

自分は動くことさえできなかったのだ。

悔しかった。許せなかった。

なぜ自分は、大事な人を守ることができないのだろう。

もう二度と・・・こんな思いはしたくなかったのに!

 

握る拳に血が滲む。爪が己が皮膚に突き刺さっているからだ。それでも祭はそれを止めなかった。

己の力不足を嘆くのは慣れていた。

どんなにその身を鍛えても、戦場で経験をつんでも、力不足はけして無くなりはしない。

だが・・・だが!

自分の力不足で誰かが失われるということは、その苦痛は、何度味わっても慣れることはないのだ!

 

 

その相貌に苦悶を浮かべつつも、祭は決めていた。

 

「あやつは・・・儂が討とう」

 

いやらしい笑みを浮かべた男。愛しき人を毒牙にかけた男。

かつての主が討たれたときは、自分よりもふさわしいお人が怨敵を討ってくれた。あの時は自分が討ってはいけなかった。

今も、もしかしたらそうなのかもしれない。

一刀の仇を討つべきは自分ではないのかも知れない。

それでも。

今回ばかりは、彼女は譲ろうとは思わなかった。

 


 
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