No.136989

真・恋姫無双紅竜王伝煉獄編⑦~凛々しき騎馬武者少女の伝説・合肥の戦い(下)~

煉獄編第7話です。最近ページ数が短いので、ページを多くしたほうがいいなぁとか、蜀ルートを出そうかなぁとか、呉ルートを書きあげないとなぁとか思っている作者です。

2010-04-17 22:57:02 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:3476   閲覧ユーザー数:3074

攻撃開始の銅鑼が鳴り、鬨の声を挙げた呉軍の兵が空堀に橋代わりの板を架けて城壁に群がり、梯子を賭けてよじ登ろうとする。

「来たぞ!落とせ!」

「しっかり狙いや~!」

城壁に並ぶ兵を指揮する凪や真桜の号令の下、柄杓を持った兵が煮だった粥や岩を落として敵兵を叩き落として城への侵入を阻止する。さらに―――

「行くぞ!私に続け!」

合肥城の城門が開き、美しく長い黒髪を靡かせた愛紗が勇ましい声とともに騎兵を率いて討って出る。

「うわぁっ!関羽だ!」

「逃げろぉ!」

先日霞とともに孫呉軍の兵の心に恐怖を植えつけた愛紗の存在は、彼らのなけなしの闘争心をあっさりと砕いた。瞬く間に兵士たちは腰砕けになり、愛紗率いる騎兵たちに蹴散らされる。

「どうした!孫呉の兵に私と戦う勇者はおらんのか!」

愛紗が挑発するも、兵たちは逃げまどい、将たちは彼らをまとめるのに必死で一騎打ちなど出来る状況ではなかった。

愛紗率いる騎兵たちは孫呉軍の中を縦横無尽に駆け回って蹴散らし、夕暮れとともに響いた城からの鐘の音で合肥城に引き返した。

「さらばだ!また明日会おう!」

返り血を浴びた後ろ姿で宣言し、悠々と城内に引き返していく愛紗。

「おのれ・・・!」

孫権は悔しさにうちふるえながら『引き揚げ』の鐘の音を鳴らすよう命じた。

孫呉軍の本陣は、重苦しい沈黙に包まれていた。張遼と関羽率いる奇襲部隊に蹴散らされてから兵たちの士気はどん底にまで落ち、城攻めにも影響を及ぼしていた。そんな中荊州方面で軍事行動を取っている周喩に代わって軍師を務める陸遜が孫権に進言する。

「帰国か・・・」

「はいぃ。もう兵たちの心は完全に折れてますしぃ、これ以上ここに止まって魏軍と戦っていても損害が増すばかりです。もうここらで退くべきかと思いますぅ」

陸遜の進言はもっともなものだった。各部隊の兵の目はもう虚ろで、死に対する絶望感が心を支配している。もう戦闘に投入できる状態ではなかった。

「やむをえまいな。姉様に報告申し上げてから撤退しよう。そうなると・・・」

「あ、蓮華様。明命ちゃんからの報告があるのを忘れていましたぁ」

陸遜は懐から書簡を取り出すと、明命―――周泰から報告を奏上するとともに、孫権の懸念を取り除く。

「追撃なら心配ないみたいですよぉ?」

孫策からの帰国命令を受けた孫呉軍は、周泰の報告を信じつつも念の為に夜を待って撤退を開始した。殿を受け持つ甘寧は常に斥候を走らせて敵軍の行動を探りながら最後尾を進んでいた。

しかし―――さきほどから戻ってくる斥候の報告はいずれも『異常なし』だった。

(どういう事だ・・・?敵軍の撤退時を襲うのは兵法の常道。張遼も関羽もその事は心得ているはず・・・)

しかし敵軍は未だに動かず、こちらに悠々と本国に帰させている。そのうちに、本隊から『孫権様、乗船して撤退を完了しました』という報告が入った。

「ならばもう警戒する必要はない・・・か?」

断を下した甘寧は、放っていた斥候をすべて引き揚げさせて船着き場まで退いた。結局、魏軍からの追撃は一切なかった。

「織田さんと曹操さんの本隊が仲軍に補給路を断たれて窮地に陥っているそうです。張遼さんと関羽さんは私たちを叩くよりいち早く本隊救援に行きたいでしょうから、追撃はないと思いますぅ」

―――その言葉通り、魏漢本隊はかつてない窮地に立たされていた。

「腹、減ったぁ・・・」

「帰りてぇよぅ・・・」

大陸北部、幽州の拠点に本陣を構える魏漢本隊は重苦しい雰囲気に包まれていた。

桂花の進言で天和城攻撃を主に置いていたが、この城は山を利用した天然の要害。反撃激しく、華琳の知謀や舞人の勇を持ってしても城を攻め落とせなかった。さらには并州や青州から派遣された遊撃部隊が魏漢軍の輸送部隊を攻撃。補給路と退路を完全に断ち、四方を囲まれた魏漢軍は危機に陥っていたのである。春蘭や楓たちが遊撃部隊を叩こうと出陣したが彼らは地の利を生かして巧妙に逃げまどってまともに戦わず、事態は一向に好転しなかった。それだけではない。

兵糧が断たれた事により、精強といえども空腹だけはどうしようもなく兵たちが飢えて士気が下がり、さらに退路が絶たれた事により動揺が広まって士気の低下に拍車がかかっていた。

『合肥の戦い』は終わり、ひとまず対呉との戦はひと区切りついた。しかし、魏漢軍の窮地は未だに脱しきれてはいない。

「急げ!北の戦の勝敗如何は我らにかかっているぞ!」

「ウチらは魏漢最速の部隊や!その実力見せたれ!」

「大陸の行く末はお前たち一人ひとりにかかっているぞ!」

「ここが踏ん張りどころや!気張っていこうか!」

本隊を救援するべく、愛紗・霞・凪・真桜は駆ける。幽州の地へと。


 
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