No.136913

『舞い踊る季節の中で』 第29話

うたまるさん

『真・恋姫無双』の二次創作のSSです。
明命√の作品となります。

一刀の覚悟を聞いた翡翠と雪蓮達は何を思う・・・・・・、
そして、祭が明命に語る一刀との出来事とは・・・・・・

2010-04-17 17:27:04 投稿 / 全9ページ    総閲覧数:23510   閲覧ユーザー数:16282

真・恋姫無双 二次創作小説 明命√

『 舞い踊る季節の中で 』

  第29話 ~ 策謀の渦に舞う想い -後編- ~

 

 

(はじめに)

 

 キャラ崩壊や、セリフ間違いや、設定の違い、誤字脱字があると思いますが、温かい目で読んで下さると助

 かります。

 この話の一刀はチート性能です。 オリキャラがあります。 どうぞよろしくお願いします。

 

北郷一刀:

     姓 :北郷    名 :一刀   字 :なし    真名:なし(敢えて言うなら"一刀")

     武器:鉄扇(二つの鉄扇には、それぞれ"虚空"、"無風"と書かれている) & 普通の扇

        :●●●●

     得意:家事全般、舞踊(裏舞踊含む)、意匠を凝らした服の制作、天使の微笑み(ただし本人は無自覚)

         気配り(乙女心以外)、超鈍感(乙女心に対してのみ)

         神の手のマッサージ(若い女性には危険です)

 最近の悩み:最近二人の様子が変だ。無論二人と言うのは、翡翠と明命のことなんだけど、なんと言うか、

         よく分からないけど変なのが分かる。具体的に言うと、時折考え事でもしているのか、ボー

         としているかと思ったら、顔を赤くさせて、なにやら考えを振り払うように、顔だけでなく

         手足を慌てて振り回している事が多くなった。

         もしかして本当に病気かもと、先日のように熱を測ろうとしたら、逆に怒られてしまった。

         うーん、女心は難しい・・・・・・・・

  (今後順序公開)

 

★オリキャラ紹介:

諸葛瑾:

  姓 :諸葛    名 :瑾    字 :子瑜    真名:翡翠

  武器:"双天" 対の双剣

  武力:52(平均的な将を60とした場合)

  智力:81

  政治:89

  家事:92

  魅力:想像にお任せします(w

  焦った時の口癖:『 あうあう 』又は 『 ぁぅぁぅ 』等の類語です

  性格:基本的に温厚で、外見に反して大人の女性

     だが、焦ると地が出てしまう。(朱里と違って、自分を律しています)

     警戒心が強い性格だが、一度心を許されると、親身になってくれる。

     妹がいるため、基本的には面倒見が良く、放っておくと、食事を取るのを忘れる明命を心配してよく

     食事を差し入れていた。

     やはり、妹がいるためなのか、時折人をからかって、その反応を楽しんだり、とんでもない悪戯を仕

     掛ける悪癖もある、だが性質の悪い事に普段が完璧なだけに、周りは怒るに怒れないでいる。

     家事全般は人並み以上に出来、そこらのお店以上と自負していたが、丹陽で知り合った男性の腕を見

     て自信を喪失。 以降こっそり腕を磨いているが、全然敵わないと嘆く毎日を送っている。

     武術は好きではないが、妹達を変態共から守るため、必要最低限身に付けたもの。

     姉妹揃っての発育の悪さをコンプレックスに思いつつも、それを武器にする強かさを持っている。

     自分を子供扱いしない男性が好みだが、言い寄ってくるのは変な趣味の持ち主ばかりで、17の時、現

     実の男(変態の多さ)に愛想が付いた時に『八百一』と出会う。 以降のめり込み、妹達を洗脳する

     も、基本的には周りには秘密にしている。そのうち執筆も行うようになり、掲載されるようになる。

     数年たった現在では、定期的な愛読者もつき『八百一』の主要作家の一人となっている。

     黄巾の乱後、作品が益々洗練され、世に愛読者を急増させる要因となった。

翡翠(諸葛瑾)視点:

 

 

雪蓮様の命で、蓮華様に一刀君を見送らせた後、私達三人は、そのまま私の部屋で、一刀君と今後の事について話し合っています。

 

「どうやら、杞憂だったみたいね」

「でも、一刀君が戦の空気に耐えられるかどうかは、別の問題だと思います」

 

雪蓮様は軽く考えているようですが、私はそのように気楽に考えられません。

 

「そうだな、だがそう心配する事ではなかろう。

 戦と言うものを一度とは言え、その目で見、空気を吸った。

 その上でのあの言葉だ。

 翡翠と明命には苦労を掛けると思うが、ああ言った以上乗り越えて見せるだろう。

 違うか?」

「・・・・・・・・はい、そうだとは思います。・・・・・・・・思いますが・・・・・・・・」

 

冥琳様の言葉に、私は頷きます。

一刀君なら、乗り越えてくれると、本当にそう思います。

以前明命ちゃんに、私が言ったように、一刀君は弱いままにして置くほど、弱くはありません。

現に、今回も明命ちゃんの件さえなければ、回復はもっと早かったと思います。

でも、それでも、一刀君が深く傷つき、苦しんだ事には違いありません。

そして、もし、明命ちゃんに何かあったとしたら、一刀君は今度こそ・・・・・・・・

 

そう思うと、

また、一刀君が壊れる様を見せられるかもしれないと思うと、

また、それを見守る事しかできないと思うと、

苦しみで、気がおかしくなりそうです。

悲しみで、心が潰されてしまいそうです。

今度こそ、私は、きっと傷ついた一刀君に、縋り付いてしまうかもしれません。

 

「北郷の選択は、お前達にとって、辛い物になるかもしれない。

 そして、それを支えてやれるのは、おまえと明命しか居らぬし、いまさら見捨てる気もあるまい」

「・・・・・・はい」

 

それでも、私は冥琳様の言葉に頷きます。

一刀君を見放す、

一刀君から逃げる、

そんな選択肢は最初からありません。

私は、本当は一刀君を好きになる資格なんて、無いのかもしれません。

一刀君が苦しむと分かっていて、こうして、孫呉のため、私の夢のため、一刀君を戦場に送る事に頷いているのですから。

 

好きな人を戦場に送るというのに、一刀君が自ら戦地へ赴く理由の中に、私が含まれている事に気がつき、一瞬とは言え、心を喜びに満たさせてしまったのですから・・・・・・・・本当に、酷い女です。

 

「翡翠、悩みすぎるのはやめなさい。

 貴女の悪い癖よ」

 

ふいに、雪蓮様から、そんな言葉が掛けられました。

幾ら一刀君のことで悩んでいても、今は大事な孫呉の行く末を話している場、顔に出すような真似はしていません。それなのに今の言葉が出るのは、何時もの勘なのか、それとも同じ気持ちなのかです。

・・・・・・・・雪蓮様、貴女はどちらなのでしょうか?

ですが、そんな私の憂苦な考え等、見通すかのように、

 

厳しい目で、

だけど優しさを含んだ瞳で、

過ちなど無いが如く、強い意志で、

私に、言い放ちます。

 

「経過はどうあれ、一刀は自ら歩むと言った、乗り越えると言った。

 なら、貴女は黙って、それを信じなさい。

 戦場では、明命が一刀の心を守ってくれる。

 一刀の身体は、私を含めた皆が守ってあげる。

 なら、貴女は、一刀が帰り着く先に、港になってあげなさい。

 傷ついた心を癒せる、そして、また安心して出立できる港のような存在にね。

 それが、良い女ってものよ。

 翡翠は、一刀と結ばれたいのでしょ?

 なら、それくらい良い女になって見なさい」

 

そんな、突風のような強い意志で、言葉で、

私の暗愚な考えを吹き飛ばします。

そして、

 

「あぅぁぅ・・・・・・雪蓮様・・・・ぁぅ・・・・今は、そのような事を・・・・・・それに、そうはっきり言われると・・・・」

 

雪蓮様の言っている意味を思わず考えてしまい。

顔を耳まで真っ赤にさせて、慌てる私に、

 

「でなければ、きっと諦められない娘だっていると思うわよ。

 城の女官の娘だけで、あれだけ騒ぎになっているんだもの、ましてや一刀目的で、お店に通っている娘が、

 かなりいるって話でしょ? 半端な覚悟なら、一刀盗られちゃうわよ」

「あ゛ぅっ」

 

雪蓮様は、考えたくない事実を、容赦なく私に叩き付けます。

 

「ふっ、確かに、雄として優れているのは確かだな。

 これで戦で活躍しようものなら、英雄としての素質は十分にあると言えよう」

 

冥琳様まで、そのような事を言われます。

ぁぅぅ・・・・・確かに、一刀君に自覚はありませんが、・・・・・・・・一刀君はかなりもてます。

これで、武勇も得る事となったら、正直考えたくも無い結果が、目に見えています。

今のところ、一刀君の鈍感さと、私や明命ちゃん、そして雪蓮様や祭様が店に出入りしているため、遠慮しているのか、今程度に収まっていますが、一刀君だって何時までも気がつかないままとは限らないし、あの娘達も何時までも黙っているとは思えません・・・・・・・・

 

「まぁ私だったら、待つ女なんて真似はできないわね」

「うむ、雪蓮に良い女の資質は、皆無かもしれんな」

「ちょっ、冥琳っ、それってどういう意味かしら」

「なに、雪蓮の言葉を、そのまま当て嵌めただけだが」

「ぶぅー、何でそういう意地悪な捕らえ方するのよ。

 私だったら、どこにでも一緒に行っちゃうのに、って言ってるだけよ。

 それも良い女の資質でしょ」

 

雪蓮様の言葉に、冥琳様は小さく鼻で笑い(・・・・・・・・なにか話が変な方向に・・・・・・・・)

 

「それを相手が望めばな、でなければ只の変質者だ。

 いや、犯罪者か、雪蓮頼むから警邏の連中に迷惑掛けてくれるな」

「どこの世界に、自分の所の王を変質者として捕まえる官吏がいるのよっ」

「ふっ、それこそ冗談だ。

 雪蓮よ、もう少し自分の立場を考えて冗談を言ってくれ、王が勝手に彼方此方に行かれては、臣下が迷ってし

 まう。 それに、その役は明命であろう」

「そんな事分かっているわよ。 只の例えよっ」

「おまえの場合、冗談がそのまま現実になりそうで、冗談に聞こえんよ」

 

・・・・・・・・何時もの雪蓮様と冥琳様の脱線にしては、長い気が・・・・・・・・それに嫌な感じもします。

私は、意を決して

 

「あの、御二方とも、そろそろ本題の方に戻られてはいかがでしょうか」

 

だけど、そんな私の言葉に、雪蓮様は、目をまたたかせて、

冥琳様は、意外そうな顔をされて

 

「何言ってるの翡翠? 今話している事以外に本題ってなによ」

「あの、孫呉の今後の事について話をしているのでは?」

「翡翠らしくもない。

 北郷が快諾した以上、我等のする事はなど、すでに決まっている、今更何を話し合う事がある」

「そうそう、だから、今はこうして、翡翠と明命をどう応援するかを話あっているんじゃない」

 

・・・・・・・・・・確かに、冥琳様の言うとおりです。

一刀君の方が問題なかった以上、するべき事は決まっています。

・・・・・・・・・・でも

 

「あぅあぅ、そ・そ・そっ、そういう事は本人の前でしないでくださいっ!」

 

私は、今度こそ耳まで真っ赤にさせて、思わず怒鳴ってしまいます。

ぁぅぅぅ・・・・顔が熱いです。

 

 

 

 

 

蓮華(孫権)視点:

 

 

「蓮華っ、貴女はそこで黙って聞いてなさいっ!」

 

私の激昂を、

姉様の声が、

姉様の覇気が、

そして、強い意思を籠めた瞳が、

私を押しとどめる。

 

姉様は本気だ。

もし此処で、私がこれ以上口を出せば、斬る事すら厭わないつもりでいる。

何故です姉様っ、この者は、今、我等の宿願を、孫呉百年の願いを穢したというのに!

我等の行いを悪と言いきったのにっ、何故、此の者を庇うのですかっ!

 

だけど、姉様は、

一瞬、此方を優しげに見た後、

独白するかのように、

この者の、北郷の言う事を認めた。

そして、思い知らされた。

 

『 悪行か、そうね。

  一刀の言うとおり、自分の利で、いいえ、そうでなくても、戦をしようなんて人間は悪人よ。

  どんな大儀を掲げたところで、民草にとっては、自分の家族を奪う憎むべき物でしかないわ。

  それを相手が無実と分かっていて、戦をしようとしている私は、とんでもない極悪人に違いないわね。

  きっと、死んだら地獄に落ちる事になるでしょうね。

  でも、それでも、今、動かなければいけないと思っている。

  私は、私の守りたいものの為に、此度の戦に参戦する決断をしたわ 』

 

姉様は、そう言われた。

それは自分の犯す大罪だと、

地獄に進んで落ちてみせると、

 

いままで、孫呉の宿願を果たす事こそ、

孫呉の旗の下、民に平和をもたらす事こそ、

正義だと、民の為だと信じてきた。

私も、民のためになろうと、今まで励んできた。

だから、民もそのためなら、戦に出る事など厭わないとばかり思っていた。

 

事実、そうだろう。

侵略されれば、民達は奪われ、犯され、殺される。

 

だから、自分を、家族を守りたいなら、

信じられる王の下、命を預けてくれている思っていた。

だけど、姉さまの独白を聞いて、

私は、その考えが絶対ではないと、思い知らされた。

まるで胸の奥深くに、剣を突き刺されたかのように、

私の心の奥深くに、姉様の言葉が喰い込んだ。

 

確かに、私の考えも間違えではない。

だけど、それは上に立つ者の考え方に過ぎない。

そうでなければ、ついて来る兵に、命令など発せられない。

国のため、家族の為に死んで来い等、命ぜられない。

 

だが、国のため、家族のため、と言ったところで、家族を亡くした者達に、取り返しのつかない傷を負った者とその家族に、そのような理屈が通るわけがない。

ただ、今の世を、家族を戦に出さねばならない身を、嘆く事しか、恨む事しか出来ない。

 

そう、姉様の言うとおり、心の底から、好き好んで家族を戦に出す者などいやしない。

それでも自分達の心を、国のため、家族のため、と誤魔化しているに過ぎない。

無論、功のため、金のため、と言う者も居る。 だがそれとて、辿って行けば、大半が家族に行き当たるであろう。

 

姉様の言っている事は、上に立つ者として、とても大切な事。

兵の、民の前では決して言ってはならない言葉、だけど、決して忘れてはいけない事。

そうして民のために、自ら地獄の炎に炙られる事で、我等は支配階級としていられるのだ。

否、民を守りたいと思うからこそ、自分が地獄に落ちようとも、民を守り導いていく、そのために、支配しているだけに過ぎないのだ。

 

民の嘆きを忘れてしまえば、必ず驕りや慢心を生み、やがて民の事を忘れ、民を絶望させ、国を荒廃させる。

失ってはいけない原初の想い。

 

『 私の後継者なら、孫呉の王族なら、その身にその事を、その想いを、しっかりと刻みつけておきなさい 』

 

そんな姉様の言葉が、聞こえた気がする。

ははっ、情けない。

そんな大事な事を、私は見失っていた。

幾ら、王族としての自覚を持とうとも、己を磨こうとも、それ失くして、何のための王族かっ!

 

分かりました姉様、

姉様の想い、王族として忘れてはならない想い、

わが魂にしっかりと、刻み込みます。

そして、

 

「北郷」

「ん? もしかして、さっきの事まだ怒ってるのかな?

 あれはその、まぁ俺も少し悪かったと思ってるから、その勘弁して欲しい」

 

目の前を歩く、北郷を呼び止めると、そんな見当違いな事を言ってくる。

 

(・・・・・・・・いったい私をどう考えているのかしら、

 もしかして、怒ってばかりの人間だと、思っているのかもしれないわね・・・・・・・・)

 

私はそう考えながら、呆れて、つい半眼で北郷を睨んでしまう。

 

まったく、この男ときたら、私の調子を狂わせる。

妙に鋭いところがあると思ったら、この察しの悪さ、

他にも、袁術の密偵を追い払うためとは言え、あのような面妖な・・・・・・クスクスクスッ

はっ、駄目、つい思い出し笑いをしてしまったじゃない。

本当に私の調子を狂わせる。

 

先程の北郷の暴言、いや苦言、そしてその後の姉様との喧嘩、思えば、何らかの意図が絡んでいる事が分かる。狙ってやっているのか、それとも偶然なのかは、まだ私には分からぬ。

それに、どちらにしても、見極めれなければ、どちらであろうと同じ事だ。

 

だけど、はっきりと分かった事もある。

この男は、本当に、翡翠と明命のために、民のために動こうとしている事、

そしてそのために、孫呉に力を貸してくれる事が、

 

「その事はもういい、ただ、これだけは言っておく、

 先程の貴様の覚悟、今度の戦で、しかと見極めさせてもらうぞ」

 

私は、今放てる覇気をすべて籠めて、目の前の男に叩き付けた。

だが、目の前の男は、私の覇気を受けても、何事も無かったかのように突っ立っている。

 

ふふっ、思春より強いというのだ、私程度の覇気で何とかなるとは思っていなかったが、こうも効果が無いとはな・・・・・・だが、面白い、その態度何時まで持つか楽しみだ。

もし、今度も明命無しに立っていられないようなら、姉様がなんと言おうと、追い出してくれるっ。

だが、逆に、情けなくとも、格好悪くても、己が力で立っていられた時は、北郷、貴様を孫呉の将として認め、我が真名を預けてようではないか、

 

「ああ、俺に何処まで出来るか分からないけど、頑張るよ」

 

北郷は、そう、温かな笑顔を、

こちらの心が温かくなる素敵な笑顔を、

私に向けて、そう優しく告げる

 

かーーーーーっ

 

顔が熱くなるのが分かる。

 

「し・死なない程度に頑張る事ね」

 

とにかく、こんな顔を見られるわけにはいかない。

私は、此処でお別れだと言わんばかりに、北郷に背を向けて、そう言い放つと、もと来た道を歩む。

そして、北郷と別れた場所が見えなくなる場所まで来ると

 

「・・・・・・本当、調子狂わされてばかりね・・・・・・」

 

そんな私の独り言が、溜息と共に、小さく零れ落ちるものの、

不思議と、嫌な気分ではなく、暖かな気持ちでいる事に気がつき、苦笑してしまう。

 

 

 

 

 

明命(周泰)視点:

 

(あっ、見つけました)

 

各地に散っている部下達からの報告を纏めたものを、祭様に報告しにいったら、祭様の執務室はもぬけの殻、

祭様付きの文官に聞いたところ、城下に出られたとのことで、探しに出た訳ですが、思ったより早く見つけることが出来ました。

 

「お帰りなさいませ、お嬢様」

 

お店に入ると、何時ものように、迎えられますが、今日は客としてきたわけではないので、そのまま奥に席に座る祭様の所に向かいます。

 

「祭様、此処に居られましたか」

「ん、何じゃ明命、おぬしも此処で休憩か」

 

祭様の当然のような発言に、溜息を吐きたくなる気持ちを抑え、

 

「いえ、報告するため、お探し申しておりました。 此処ではなんですので、お城に」

 

そう祭様を催促し、その場を去ろうとしましたが、祭様は一向に動かれません。

それどころか・・・・・・・・、

 

「この者に同じものを」

 

等と、店員に私の分を注文してしまいます。

 

「祭様、どういうつもりでしょうか?」

「べつに、どういうつもりも、報告ならここでも構わぬだろう。

 ほれ、分かったら、早く座らねば、他の客に迷惑であろうぅ」

 

そんな祭様の言葉に、今度こそ、でも小さく溜息を吐きながら、祭様に促されるまま席に座ります。

 

「何じゃ、報告はしないのか? そのために、儂を探して居ったのであろう」

「祭様お戯れが過ぎます」

 

そんな私の苦言も、祭様は、小さく笑い。

 

「おぬしも相変わらず固いのぉ、此処なら、そう心配要るまい」

『それに、近くに密偵が居らぬのも確認済みなのであろう。

 ほれ、とっとと小事は済ませてしまおうぞ』

 

そう、後半は、誰の耳にも入らぬよう、唇だけを動かされました。

 

『幾ら声に出さないからと言って』

『おぬしの席なら、儂以外誰にも見られる心配はあるまい。

 ほれ、とっと話さねば、それこそ不審に思われてしまう』

 

私は強引な祭様に、心の中で大きな溜息を吐いて、

 

『兵達の準備は、明日中には終え、明後日朝には出立できます。

 穏様の準備された輜重隊も、同日の昼には出れるそうです』

『うむ、それで』

 

私の報告に、祭様は頷き先を促します。

そう、此処からが重要です。

 

『各地に散らばった旧臣達の中に一部寝返る者も出ていますが、大方の者達は、雪蓮様や祭様達のお声次第で、

 我等の力になってくれるでしょう。 ですが、気をつけなければいけない一族もおり・・・・・・・・・・・・・・・・』

 

私は、気をつけなければいけない氏族、豪商達と、

今味方についてくれる一族達の名と、その一族の現状をあげます。

無論、その間、周りへの警戒は怠りません。

幸い、今のところ、祭様の言うとおり杞憂に終わっていますが、このような事、密偵に出ている時ならともかく、あまり気持ちの良いものではありません。

 

「あい分かった。 明命御苦労じゃった」

 

報告を終え、祭様からそんな言葉が口に出ると、私は小さく安堵の息を吐きます。

 

「何じゃ、普段出ている時は、先程以上の事を、空気を吸うが如くやっておるのじゃろぅ。

 あの程度で、何を疲れる事があるというのじゃ」

 

そう言って、小さく笑いながら、可笑しそうに茶を口に含みます。

 

 

 

 

「そういえば祭様」

「なんじゃ?」

「祭様が、城下に来て、その・・・・・・お酒ではなく、お茶を嗜まれる等とは、こう言っては何ですが意外です。

 それに、このお店は・・・・・・・・」

 

私は、祭様に会ってからの違和感を口にすると、祭様は、面白そうなものを見つけたような目をされて、

・・・・・・・・あっ、祭様のこの目は、危険な感じがします。

 

「なんじゃ、明命は儂に北郷が盗られないかと心配なのか」

「ち・ち・ちっ、違いますっ!」

 

祭様の言葉に、

からかっていると分かっている言葉に、

私は、それでも顔を朱に染めて、そう大きな声で否定してしまいます。

自分の声の大きさに気づいた、私は、慌てて口を手で押さえ、身を小さくさせてしまいます。

うーー、恥ずかしいです。

せめてもと、私は恨みがましい目で、祭様を見つめますが、

 

「はははっ、あの愚直なまでに真っ直ぐだった、明命も成長したのぉ」

 

そう、大きすぎない程度声で、豪快に笑われてしまいます。

やはり祭様には勝てません。

 

「確かに儂は、北郷目当てで来ておるし、おぬし達と違って、溢れんばかりの大人の色気も持っておる」

「う゛っ」

 

祭様の言葉に、私は、祭様の余りある、零れ落ちる程の色気の元であるものを凝視しながら、自分のそれに手を当ててしまいます。

あはぅぅ、やはり私は色気不足なのでしょうか・・・・・・だから、一刀さんは気がついてくれないのでしょうか?

 

「ふふふっ、大人の色気と聞いて、そこを気にする辺り、まだまだじゃのぉ」

 

祭様はそんな私の行動を、楽しげに仰られると、

 

「良い事を教えてやろう、明命の気にするそれだけが、大人の色気ではない。

 其の証拠に、ほれ、おぬしより持っていない翡翠とて、多少なりとも大人の色気を醸し出せておる」

「はぁぅっ」

 

祭様の言葉に、私は新たに、少なくない衝撃を受けます。

確かに翡翠様は、見た目は私より、色々足りませんが、私より大人な感じがされます。

うぅぅ・・・・・・私の努力不足なのでしょうか、でも、大人の雰囲気を身に着けるにはどうしたら・・・・・・

 

「なあに、無理に背伸びをする必要は無い。

 それにのぉ、お主の一番の魅力は、そのまっすぐな心根じゃ。

 お主は、お主のまま、まっすぐ北郷に、想いのまま向かってゆけばよい。

 ほれ、よく言うじゃろう、『当たって砕けろ』と」

 

祭様の言われる事は分かります。

確かに色気でいったら、一刀さんに思いを寄せる人達は、お客の中にも沢山おります。

ですが、一刀さんは顔を赤くするものの、その方達の気持ちには全然気が付いていないようです。

でも、そんな一刀さんに、向かっていっても・・・・・・・・・・

 

「く・砕けたくないです・うぅぅ」

「馬鹿もん、それくらいの勢いで行けと言うだけじゃ、それが嫌なら、黙って引き下がる事じゃ」

「それはもっと嫌です」

 

翡翠様にも言いましたが、もう一刀さんを諦める気にはなれません。

私には、あの人達のような色気もありません、なら祭様の言うとおり、私らしく向かって行くしかありません。

そうやって、もう一度自分を奮い立たせたのが、祭様には分かったらしく、いつかのように優しい目で私を見ています。

私は、その目を見て、自分の考えが、間違っていない事に安心します。

そうなると、次の疑問と言うか、先程の疑問が再び頭に浮上します。

 

「祭様、先程、この店に来るのは、一刀さん目当てとおっしゃっていましたが」

「ああ、そのとおりじゃが、安心せい。と言うか、儂をその辺りの小娘と同じと考えるでない」

「あっ、いえ、その、すみません。

 あの、では何故でしょうか? 私にはその分かりかねますので」

 

祭様に一喝され、私は再度聞きなおすと、祭様は小さく苦笑され、

 

「なに、最初は策殿の件で、一方的に手玉を取られたのが悔しくてのぉ、

 それで、隙を見て一泡吹かせてみせるつもりだったのじゃ」

「さ・祭様っ!」

 

祭様の発言に、私はつい声を上げてしまいます。

だって、祭様が、ずっと、このように付け狙うなど、とても信じられないことだからです。

そんな私の気持に気がつかれたのか、

 

「驚くでない、言ったであろう、最初はと、

 そのような勘違いは、幾らなんでも儂に無礼と言うものだぞ、

 まぁよい、勘違いさせるような物言いをした儂にも非がある」

 

一瞬祭様は、不機嫌な顔をされましたが、すぐに表情を戻され、

 

「まぁ、そんなわけで、北郷の隙を狙っておったのじゃが・・・・・・・・、呆れた事に、隙だらけじゃった。

 あれだけの武を見せておきながら、最初は罠かと本気で疑ったものじゃ、 だが、二日通っても一向に

 変わらぬ」

 

祭様の仰られる事は分かります。

私もそれで丹陽の街で、一刀さんは、ごく普通の人と思ってしまったのですから。

あの時、こちらが、殺気を放った時ですら、一刀さんは一向に変化を見せませんでした。

でも、今思えばそれは・・・・・・

 

「そこで、幾らなんでもおかしいと思うてな、あれ程の使い手が、儂から洩れる敵意に、気づかぬはずが無い。

 そこで三日目とうとう儂は、思い切って、あやつめに聞いてみた。

 じゃが、あやつは涼しい顔で、

 

 『 お嬢様と争う理由が、何もありませぬ 』

 

 とか抜かしおった」

 

そう、言って、豪快に笑われます。

祭様の言葉に、私は、一刀さんらしいと、祭様につられて笑みが浮かびます。

 

「あやつは、儂の事などとっくに気がついておったのじゃ、 もし、北郷が反応を見せたら、儂が動くと分か

 っておったのじゃろう。

 必要としない限り、戦う状況を避ける・・・・・・、兵法として最高の策じゃ、それに、しっかりと釘を刺されたわ」

 

そう言って、祭様は自分の茶杯を、私の茶杯の横に置かれます。

 

「あの、これは?」

「よく見比べて見よぉ」

 

祭様の言葉に、二つの茶杯を見比べると

 

「あっ、祭様の茶杯の方が、小指一本分ほど、高さが低いです。 それに飲み口がありません。」

「ふむ、そのとおりじゃ」

 

私の出した答えに満足そうに頷かれながら、祭様は懐から、布に包まれた小さな陶器製の輪っかを、そっと出されます。

 

「それが低くなった原因じゃ」

「えっ!」

「おそらく、あやつがその時に斬った物じゃろう。

 あやつが机の前から去ってから、儂が茶杯を持ち上げると、それがずり落ちた。

 どうやったか未だに分からぬが、儂に一切気づかれずに、これだけのことをやって見せた。

 そこで儂はようやく気がついた、あやつは隙だらけなんかではない、自然体からいつでも動ける自信があっ

 たのだとのぉ。

 そしてこれは、もし儂から動いて、何の罪も無い客を巻き込むような真似をすれば、儂の首はこうなってお

 るとなぁ、そう無言で警告されたわい。 無論、今思えば只の脅しだったことは分かるがのぉ」

「そ・そんな事が・・・・・・」

 

祭様のお話に、驚愕させられます。

祭様と一刀さんの間に、そのような事があったなんて・・・・・・、

それにこの切り口、とても滑らかです。 陶器をこのように綺麗に切る程の事を、祭様に気づかれる事なくするなんて・・・・・・、まだまだ私は一刀さんの事について、知らない事ばかりです・・・・・・・・

 

「それで、あやつが、優しいだけの男では決して無いと、思い知らされたわい。

 で、肝と一緒に頭を冷やされ、我ながら下らぬ事をしていたと反省をしてのぉ、そうなると、どういった人物

 なのか、俄然興味を持ってのぉ。

 後はこうして見ての通り、この茶杯を儂専用にしてもらって、こうして通っているしだいじゃ」

 

そう言って、他より背の低い茶杯を手にとって、茶を一口啜ります。

 

「ふむ、やはりあやつが淹れんと、数段味が落ちるのぉ、

 いや、これでも十分美味いには美味いのじゃが、やはりもの足りんのぉ」

 

祭様のその様子に、もう、一刀さんと祭様の間に、もう何も確執が無い事が分かり、安心します。

 

 

 

 

「あの、祭様から見て、一刀さんはどう見えるのでしょうか?」

「ふむ、正直底が知れぬのぉ、

 だが、確かに、翡翠や明命が惚れるのも、無理はないと言う程の男と言う事は分かる」

「はぁぅっ・・・・」

「あやつの持つ雰囲気は、周りの者を自然体にさせる。

 あやつの笑顔は、周りの者を暖かな気持にさせる。

 あれだけ気がつくのは、人の心の傷が分かる、優しい心根があるからじゃろうてぇ」

 

あぅ、祭様の言葉に、一刀さんを褒める言葉に、私は嬉しくなってしまいます。

 

「じゃが、それ故に、女心にあれだけ鈍いと言うのは、もはや、哀れみを通り過ぎて、笑いしか浮かばぬぞぉ」

「はあうっ!」

 

祭様の言われた事実に、

改めて、確認させられた事実に、

私は、悲鳴の声を挙げてしまいます。

其処へ、

 

「その癖に、無自覚に女心を掴むのだけは、長けているのだから、ほんに性質が悪いのぉ」

「ぁぅっ!」

 

追い討ちを掛ける様に、しみじみとおっしゃられます。

 

「以前、あやつに

 

『 儂のような年寄りまで、お嬢様とは、ちと無理がないか? 』

 

 と聞いたら、

 

『 いいえ、お嬢様はお嬢様です。 お嬢様は大変魅力的な上、女性として可愛いらしいところをお持ちです。

  故に、私は、お嬢様と呼ばせていただきます 』

 

 などと、あの笑顔で言いおった。

 さすがの儂も、あれには年甲斐も無く、頬を朱に染めさせられたものよ。

 まったく、そこらの小娘と同じように見られるなど、久しく無かった事ゆえ、不意をつかれたわい」

 

最後の悔しげな言葉とは裏腹に、残った茶を飲み干す祭様は、優しい笑みを浮かべ、その瞳に浮かんだ感情は、とても嬉しそうなものでした。

あうぅぅ、一刀さん・・・・・・

分かっています、一刀さんのその言葉に、他意はないと思いますし、一刀さんの良い処なのは分かります。

分かりますけど・・・・・・・・やっぱり面白くありません。

 

「ふはははっ、子供子供と思っていた小娘がヤキモチとは、成長したものよ・・・・・・

 なに、二人が狙っている獲物じゃ、盗りはせんから安心せい」

「さ・祭さまぁーっ」

 

あぅぅ、からかわれていると分かっていても、つい声を上げてしまいます。

 

「そう怒るでない。 どうやら今日は北郷は休みの日だったようじゃし、そろそろお暇するかのぉ」

「あっ、一刀さんなら今日は、雪蓮様に呼ばれていますから、きっと今頃雪蓮様のところだと思います」

 

 

 

 

 

席を立とうとした祭様は、私の言葉に、再び腰を下ろし、店員に代わりの茶を頼みます。

やがて、新しい茶が注がれ、それを熱そうに一口すすってから、

 

「・・・・・・そうか、となると用件は、此度の一件であろうな・・・・・・、おそらく公謹めは、北郷が賛同しなければ、

 あ奴を将の枠から外し、天の知識のみを役立てようと、思うておるじゃろう」

「そ、そんなっ」

「当たり前の事じゃろう、幾ら武があり智があろうとも、戦場で役に立たぬのなら、それ以外で役に立っても

 らうしかあるまい。それに、その方が奴にとっては苦しまずに済むというもの、違うか」

 

確かに、祭様の言うとおりです。

冥琳様辺りは、そう考えてもおかしくありません。

それに、確かにその方が、一刀さんにとって幸せだと思えます。

一刀さんは幾ら強くても、頭が回っても、戦に出るには優しすぎます。

 

「もっとも、儂はあやつが、今回の話しを断るとは思えぬがな」

「えっ?」

「なんじゃ、お主もそんな不思議そうな顔をしおってからに」

「あの、何故そのようにお考えになられるのでしょうか?

 一刀さんは好戦的な方ではありませんし、此度の一件に自ら賛同するとは考えにくいです」

 

祭様は、私の言葉に、小さく溜息を吐いて

 

「その様子だと、おそらく翡翠も同じように考えているのかも知れんな・・・・・・、

 まったく、一人前の顔をしておるが、公謹同様、まだまだ穴の青い小娘という事か、まだまだ隠居は出来そ

 うも無いのぉ」

「えっ、あの?」

「人を見る目が、まだまだ足りんと言う事じゃ、

 まぁ子瑜の奴は、北郷が罪の意識に苛まされている姿を、間近で見て来ているからのぉ、目を曇らせていて

 も仕方ないとは言えるが、策殿をはじめ、小娘共はまだまだじゃな」

「う゛っ」

 

祭様の言葉に、思わず呻いてしまいます。

色々問題もある方ですが、孫呉の生き字引と呼ばれるだけあって、こう言った事に、嘘はお付になりません。

 

「言ったであろう、優しいだけの男ではないと、

 あやつは強くなろうとしておる。 それも、お主等二人の為にのぉ・・・・・・・・、

 気がついておるか? お主達二人を見る目と、他の者を見る目が全然違う事に」

「ぁぅ・・・・その義妹みたいに見られていると言う事でしょうか?」

「馬鹿もんっ!

 確かにお主を見る目には、それも含まれておるかもしれんが、儂が言っておるのは、その奥にあるものじゃ、

 暖かく優しげな目をしておるが、あれは己より大切な者を見る目じゃ、ああいう目をしている者は、己が身

 に代えても大切な者を守り抜くじゃろう、男にあのような目をさせるとは、お主等もなかなか罪作りよのぉ」

「・・・・・・ぁぅぅぁぅ・・・・・・」

 

あぅ・・・・・・祭様の言葉に、今度は頭の中まで熱く、意識が白くなっていくのが分かります。

一刀さんが私達を大切にしてくれているのは知っていましたが、祭様に此処まで言わせる程のものとは知りませんでした。

そしてその事が、私の心の中を、暖かく、優しいもので満たしていきます。

お日様を浴びたお猫様に、いっぱいモフモフ出来たときの感覚に似ています。

でもあれより、心の奥まで・・・・・・・・、私の心の闇の部分まで暖かくしてくれます。

・・・・・・あぅあぅ、

 

でも、もし祭様の言う事が本当なら、

 

「なら一刀さんが、今度の話を受けた場合は、私と翡翠様のためだと?」

「他に理由はあるまい、まぁあやつの事じゃ、民を守ると言う理由も含んでおるのじゃろうが、決め手にはな

 らぬ、あやつが幾ら心優しくても、此度の様な戦に出る程の義理はあるまい。・・・・・・明命、あやつが心配か」

「・・・・・・・・・・・・・・はい、此度の戦、一刀さんにとって大儀はありません。 一刀さんの気持は嬉しいのですが、

 そのような気持で戦に出ては、今度こそ、戦の現実に耐えられないのではと・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・まぁ、心に傷は負うじゃろぅ、またお主達に負担も掛けるじゃろう。 じゃが、そこは信じてやるが

 良い」

「・・・・・・ですが・・・・・・」

「お主が、あやつを信じてられなくてどうする。

 あやつは、お主達があそこまで強く育てたのじゃ、そのお主達が、あやつの心の強さを、成長を信じられな

 くてどうするのじゃ」

「・・・・・・私達が育てた?・・・・・・」

「そうじゃ、あれ程心の病に陥ろうとも、そこから立ち直ったのは、お主達がいたからじゃ、

 今までは、依存に近かったが、それがお主達と言う巣で守られ、育ち、自らの力で、羽ばたこうとしておるの

 じゃ、・・・・・・なら、温かく見守ってやるべきではないかと、儂は思うとるぅ」

 

祭様の言葉が、私の心の奥に、静かに、自然と溶け込んで行きます。

それはたぶん、祭様の言葉が真実だと感じられたからです。

確かに祭様の言われるとおりです。

今はまだ危なっかしくても、一刀さんは、歩み始めました。

それは、賊討伐の時、一刀さんが見せ始めていた事。

一刀さんは、今大きく成長しようとしている時なのかもしれません。

なら、不安を表に出して、一刀さんの足枷になるべきではありません。

 

「明命、おぬしは、あやつが安心して羽ばたけるよう、道を照らす灯火になってやればよい。

 あやつは、まだまだどう転ぶか分からぬひよっこじゃ、お主の真っ直ぐな心根で、お主の力で、あやつが

 道を間違えぬよう、道を照らしてやるが良い」

「はいっ」

 

そうです、私に出来るのは、一刀さんが闇に落ちてしまわないように、道を踏み外してしまわないように、近くで、見守る事です。

無論、一刀さんのところまで敵をやったりはしません。

やっぱり一刀さんは、笑っている方が似合いますから、私は、私のできることで一刀さんを守るだけです。

一刀さんの力になれなくても、一刀さんが落ち込んだ時、手を繋いであげる事くらいは出来ます。

たぶん、それが一番大切な事だと、思えるからです。

 

 

 

 

「ふふふっ、戦から帰ってきたお主等の仲が、どう進んでおるか楽しみじゃわい」

「はぁぅわっ!」

 

そ・そうでした、それがありました。

・・・・・・でも

 

「あの祭様、行軍中にそれは不謹慎では・・・・・・・・」

「何を言うとる、男と女の色事に、戦中も何も無いわっ

 それに、ここで攻勢に出ねば、ほれ、それこそお主より色気のある連中に盗られてしまうぞ。

 色事自体が戦のようなものじゃ、此処で怖気つくような者に、孫呉の女の資格なんぞ無いわっ!

 うむ、決めた。 お主達が此度の戦から帰ってきた時に、少しでも仲が進展しておらぬようであれば、儂自

 らあやつを、誘惑してくれよう。

 なに、あれ程の男、そうは居らぬし、明命が勝負せぬのなら、儂が誘惑しても文句はあるまい」

 

祭様は、そう言って、面白げにこちらを見つめ、私の反応を楽しんでいます。

あうぅ、祭様の事ですから、きっとからかっているだけなのでしょうが、もし何の進展もなければ、本当にやりかねません。

そして、そうなったら、きっと祭様の豊満な体を武器に、無理やり押し倒したりしそうです。

きっとあの豊満なお胸で、一刀さんの・・・・・・・・

 

ぶんぶんっ

 

思わずその光景を具体的に思い浮かべ、落ち込んでしまいそうになる自分を、首を振って強引に振り払います。

これは祭様なりの応援です。

私が一刀さんと少しでも進展すれば、手を出さないと言っているんです。

それに、私と一刀さんが、もし、む・む・む・結ばれれば、それは一刀さんにとって、この世界で生きる力になってくれると思います。

 

翡翠様には、抜け駆けするようで悪いですが、此処は任務上の役得と言う事で、先に一刀さんに、想いを告げてみせます。

真っ直ぐ、私の想いの全てを、一刀さんに告げてみせます。

 

一刀さんが私の思いを受け止めてくれるかは、分かりませんが、望みが無いわけではありません。

 

そう思った時、

 

『おぬし等も、いつかは好きな男が、出来るやも知れん。

 もし本気に好いた男が出来たなら、決して逃すな、とにかく、押して押して押しまくれ、』

 

ふと、昔、祭様の言われた言葉が頭を過ぎります。

 

祭様の言うとおりです。

 

気づかれなくたって、

 

たとえ想いが叶わなくたって、

 

何度でも一刀さんに挑んでみせます。

 

そして、必ず振り向かせてみせます。

 

孫呉の女は、一途なのですから、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

あとがき みたいなもの

 

 

こんにちは、うたまるです。

  第29話 ~ 策謀の渦に舞う想い -後編- ~ を此処にお送りしました。

今回は、中編の裏側を舞台にしてみました。

例の如く時間系列は無視しまくった演出ですが、私的にはこういう演出は結構好きです。

さて、今回二人は、雪蓮と祭に励まされ、更なる覚悟を決めました。

まぁ一刀とは、覚悟を決める方向性が違いますけど(w

 

そして、書き終えて、まず最初に思ったことが、蓮華・・・・・・二人に喰われてしまったな、哀れな・・・・・・

 

さて、ついに、一刀のもう一つの武器が、ほんの少しだけ出ました。

どのような武器なのか、そして、今後いつ出てくるのか、また、今回の話だけで正解を出す方がいるのか?

私自身も楽しみにしているところが在ります。

 

さて、次回は、いよいよ反董卓軍集結場所に、舞台を移す予定です。

では、頑張って書きますので、どうか最期までお付き合いの程、お願いいたします。


 
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