No.136024

華ノ守人第陸話《血》

さて。

今回お届けします第六章。


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2010-04-12 18:44:57 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:2101   閲覧ユーザー数:1791

 

第陸話《血》

 

 

 ~一刀視点~

 

一人窓辺に腰かけ藍色に染まった空を見上げる。

雲ひとつ無く透き通る夜空に、柔らかな光を湛え輝く満月。

 

 

 

 

思い出す。

 

 

 

 

最愛の人と別れた時の記憶。

 

 

 

思い出す。

 

 

 

常に自信を湛えたその瞳に、涙を流させてしまってから自覚した、自らのいるべき場所を、いなければならなかった場所を。

 

 

 

思い出す。

 

 

 

去り際に見た彼女の、震えるその小さな背中を。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・華琳。」

 

 

ポツリと、唇が紡ぐは、再開した愛しの女性、誇り高き王の名。

 

微塵も感じられなかった、別れの余韻。

 

それもそうだろう。

 

 

四年。

 

それだけの時が流れたのだ。彼女ともあろう者が、約束も守れずに消えた男の事など・・・

 

「私に降らない?・・・か。」

 

それが出来たらどれだけ良いだろう。

 

だが、その選択肢を選ぶ事は出来ない。

 

身勝手な男のプライドと、自分が身代わりとして、彼女の代わりに死のうとしている事を隠し通せる自信が無いから。

 

たったそれだけ。彼女の元に行くことができない理由はそれだけのはずだった。

 

「随分とくすんじまったなぁ・・・・・。」

 

視線を下ろした先にあるのは”千鳥”。眩しいほどに白銀に輝いていた愛刀。

 

しかし今は、以前の輝きを失い、くすんだ鉄色になれ果てていた。

 

 

 

 

目を閉じる。

 

血に染まった両の手、無残に転がった二つの首と腕。

 

臭いも、色も、感覚も、全て鮮明に思い出せる。

 

 

 

心を塗りつぶしたどす黒い感情。

あれはなんだったのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・千鳥を握った時に聞こえた声。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヒトヲキッタオマエノココロオクソコニアルカンジョウ

 

ソレハヨロコビダ!

 

 

 

 

覚えていない、覚えていないのだが一つだけわかっている事がある。

 

 

 

 

オマエハワラッテイタダロウ

 

 

 

 

そうだ・・・・・。

 

 

 

あの時俺は、人を斬って笑っていた。

 

 

 

 

 

「なあ、華琳。・・・・・やっぱり、君のところには帰れないや。」

 

俺はもう、ただの人殺しだから。

 

 

 

 

君の瞳を、真っ直ぐに見返す勇気が、資格が、俺には無いから。

 

 

 

君みたいな日輪の側に、血で穢れた獣がいていいはず無いから・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「華琳・・・・・。」

 

 

そっと呟くその名前が、風に溶けて消えていった。

 

 

 

 

~華琳視点~

 

 

 

「・・・・・一刀。」

 

 

ため息しか出てこない。

 

 

ぱぁてぃも無事終わり、自室に戻ってきてから何度目になるだろうか。

 

あの、刃という男。

しかしまあ自分自身は、十中八九あれは一刀だろうと思っているのだが。

 

彼に会って、彼と別れて。

 

そこまでならまだ良かった。

 

 

『次会うときは、戦場で。』

 

 

そういい残して去っていったのだから、また会える。それも近いうちに。

 

 

 

 

だが。

 

 

 

 

『ここに来る途中で見かけた仮面の子・・・、ちょっとばかりやばくないかしら。』

 

 

少々引き攣った顔をして、友人たる呉の王は言った。

 

 

 

『奴は、おそらく修羅に落ちかけている。』

 

呉の王の右腕が言った。

 

 

 

 

 

 

彼は、刃は、一刀は。

 

 

 

血を浴びて喜んでいた。

 

 

 

命を弄んで、笑っていた。

 

 

 

 

彼女たちにそう告げられた時のことは良く覚えていない。

 

 

 

「何があったの?一刀・・・・・。」

 

 

窓から少し身を乗り出し、夜空を見渡す。

 

 

周りの星が霞むほどに輝く満月。

 

 

 

 

彼が、一刀がそんなことするはずがない。

 

しかしあの二人が、嘘をつく理由がない。

 

それは事実。でも心が頑なに受け入れようとしない。

 

 

「一刀、貴方も見ているの?」

 

 

華琳の脳裏に、少し困ったように笑う彼の表情が浮かぶ。

 

大好きだった優しい眼差しが、たまらなく恋しい。

 

 

 

彼に側にいて欲しい。

 

 

「何でいなくなったのよ・・・・・・、バカ。」

 

 

 

 

 

~優理視点~

 

 

 

「はぁ・・・・・・。」

 

やけにため息の多い夜。

 

優理も、どこかの王と同じようにため息をつく。

 

ここは、優理たちが拠点として使うことになった、洛陽、成都、健業の三国全てに程よい距離を保った、名のわからない山。

そこにある一軒のあばら家。

 

気の利いたことに、前もって管?が用意していてくれたらしい。

 

 

 

 

「はぁーーーーー・・・。どうしちゃったんだろ、兄さん。」

 

一刀はすでに自室に戻っている。

 

 

 

あんな事をするような人間ではないことは身をもって知っている。

 

たしかに敵に容赦情けは一切ない。

 

だが彼は、元来優しい男だ。自らに危険が迫っていたとしても、ぼろぼろに傷ついていても。

そこに、救える可能性が少しでもある命があるならば自分の命を投げ出しても救おうとした。

 

抹殺すべきターゲットに妻や子供がいた場合、必ず彼は殺すことを躊躇った。

ターゲットの妻と子供の安全や、その後の人生が守られるように、必ず裏で尽力していた。

 

情に厚い、殺しなどより優しい笑顔が似合う、強い人間。

 

 

ともに戦い続けてきたこの数年で、理解した兄の性質、彼を支える強さの理由。

 

 

だがあれはなんだ?

 

まるで快楽殺人者ではないか。

 

あんな兄は知らない。

 

あんな人間は知らない。

 

 

なんだったのだろう。

 

 

 

--------”一刀”によろしく。

 

 

兄さんじゃない?

 

ならあれは誰なんだ・・・・・・。

 

 

ふと思い出す。

 

 

 

 

『優理君。もしもまた、同じように貴方のお兄さんが今日のようになってしまった場合』

 

 

なんとなく続きを感じ取った優理が、雪蓮から目を逸らす。

 

 

『貴方が止めてあげなさい。』

 

 

 

 

 

殺せ、と

 

兄が手遅れになる前に、自らの手で殺せと言われたのだ。

 

 

 

 

「僕に、兄さんが撃てるかな・・・・・。」

 

 

握った手が、みっともなく震える。

 

 

「もし、曹操さんが兄さんの側にいたら・・・・・。」

 

そんなこと、考えても仕方ない。

 

けど

 

 

 

「僕は、・・・・・・たぶん兄さんを救ってあげられない。」

 

 

「曹操さん・・・・・。兄さんを助けてあげてください・・・。」

 

 

届くわけのない願い。

 

 

聞いているのは、空に浮かぶ月だけだった。

 

 

 

 

 

To be continue...


 
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