No.135685

恋姫異聞録48.800 『死線上を舞う修羅達』

絶影さん

クロス作品です^^

これを読んでワクワクしていただけたら嬉しいです><

良かったら感想をお聞かせください^^

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2010-04-11 02:55:38 投稿 / 全3ページ    総閲覧数:14380   閲覧ユーザー数:10908

眼前にはおびただしい数の騎兵、不気味に、声も上げず

 

黒く、生命を感じさせない兵士達がこちらを見据えている

 

後ろを振り向けば、信頼する仲間達が男に不安な眼を向けていた

 

気付いてしまったのだろう、相手が尋常ではないと、同じ人なのかと

 

「安心しろ、俺たちは必ず生き残る。詠」

 

青き外套を纏い両腕には綺麗に巻かれた真っ白い包帯、兵達は親しみを込め「舞王」と呼ぶ

 

男は兵士達に微笑み、兵士達を生きるため戦い続ける修羅へと変える

 

「解ってる、牝陣を組むわよ!右翼前曲に凪を配置、左翼前曲に一馬を、そして中部前曲に」

 

「俺が行く、俺が相手を見極める」

 

男の言葉に少し驚いた顔をするが、少女はすぐに口の端を吊り上げ信頼を込めて笑みを作った。

 

「ならば中軍は私だな」

 

男に寄り添うように凛々しく立つ女性、同じように青い装備を纏い弽には叢の文字

その剛弓と雲に寄り添う姿から兵達は「智勇の雷光」と呼ぶ

 

「解ってるわ、まったく死んだら怒るからね。では沙和は後方に、僕は秋蘭と一緒ね」

 

少女の指示が終わると男は瞳に覚悟と生きる意志を灯し、その身から流れ出る気迫は

兵達の表情を変え、将達もまた修羅の将へと表情を変える

 

やはり出てきたか、あいつを見極めないことには俺たちに勝ち目は無い

 

眼前に立つ男は右腕を闇に染め、黒衣を纏、その瞳には深く暗い虚無を称る

 

正しく人外の者『魔王』

 

「不死の兵を引き連れ民の平穏を奪おうとする者よ、いかに人外のものであろうと天を頂く我等の王を、民を脅かす事は出来ん」

 

見極めろ、少しでも話を長引かせるんだ。あの眼から、あの沼底のような暗く恐ろしい、死を匂わせる瞳から

 

「・・・笑止。

 天を戴いているというならば、何故オレが軍を率いて此処にいるのか。

 それこそまさに、天意が無いことの動かぬ証。

 偽帝を掲げる国より、民を解放せよとの勅命である。民の平穏を願うなら、我が軍門に下れ」 

 

「何を言う、天を語るには天、地、人、三つが揃わねばならない。

劉協様を手中に収め、地を手にしている事は認めよう、

だが肝心の人が俺の眼をもってしても貴様からも兵からも感じられない。

人を捨て天を語り民を開放せよとは、民にその兵のように人を捨てよと言うことかっ!

そのような偽りの勅命など誰が聞こうか」

 

くっ、やはり舌戦など俺には荷が重い、だが何でも良い少しでも話を長引かせろ

あの眼から、あの沼底のような暗く恐ろしい死を匂わせる瞳から少しでもあの男を読み取るんだ

秋蘭に望遠鏡は渡した、敵将を確認するだけなら遠くからでも十分、集中するんだこの人外の者に

 

「語るに落ちたな、曹魏の将。

 淡雪がオレに命を下したと認めた以上・・・貴様に天を語る資格なし。

 武器持ち、兵を従え、人を殺さんと構えるオレに人が無いのなら、即ち、お前にも人が無い。天も地も人も無い、ただ暴力のみの獣と自ら証明したな」

 

「獣と化した逆賊など黄巾党と同じだ。

 そのまま・・・藁の様に死ね」

 

 

汗が噴出す、手が震える、なんて眼をするんだ、今俺は正常に話しているのか?きっとこの男は己の死さえ

投げ捨てることが出来るだろう、いや己の死を他人のように見ることが出来るのか?そんな馬鹿な・・・・

 

このままでは俺が見極める前に兵達が瓦解してしまう、そうなってしまえば戦うまでも無く勝負は決してしまう

 

だが、背中越しに兵士達から動揺はあまり感じられない、詠が兵を落ち着かせてくれているんだ

 

まだだ、まだいける、信じろ仲間を・・・魔王などに俺の仲間を殺させてたまるものか

この男の声も重苦しい威圧感もまだ耐えられる、だが優しささえ感じるその声は死への甘い誘惑だというのか

 

何だ?何か変だ、この男の目に何か違う色が・・・・・・

 

「・・・・・・動揺・・・しているのか?」

 

俺はいつの間にか呟いていた

 

「曹孟徳・・・いや、華琳のやっていることは、侵略に過ぎない。

 力を持って他を制圧する、その『覇王』こそが、民の平穏を奪っている張本人。

 徳なき奸雄に従うお前達こそが、民の害毒に他ならん」

 

動揺だと?何に動揺をしている?なぜこの男は動揺をした?その瞳でなにを見たんだ?解らない

だが少し見えた、この男の根の部分がっ

 

目の前の男が華琳の名を呼んだときに痛みと喜び、いや愛情に似た感情が光のように見えた

それがおそらくこの魔王と呼ばれる男の心根なのかもしれない、舌戦は終わりだ、俺は

 

「そんなことは知ってるよ。戦を起こす意味も、そのせいで沢山の人が死ぬことも、華琳は

それを全て背負っている。たった一人で、王だからといって」

 

俺は自分の感じたままの華琳をこの男に答えよう、きっとこの男はそれを望んでいるのだろうから

 

「華琳はただの女の子、でも自分が人を救える力があると理解しているから全てを背負うと決めたんだ

王は玉座に独り座るもの、華琳の心は寂しく戦で苦しむ人たちの心を一人背負っている。

だから俺はアイツを一人にしない為にこの眼を持ったんだ」

 

 

 

 

 

華琳の為に俺は邑を作った、衛生兵を作った、華琳の心に掛かる負担を少しでも減らす為に

戦で苦しむ人を少しでも減らすことが出来れば、きっとそれは華琳の負担を減らせると思ったから

そしてこの眼があれば華琳の心をわかってやれる。あいつが休める場所になってやれる

 

「華琳が徳が無いとか民の害毒とか言われても俺達は何も思わないよ、知らない奴には言わせておくさ

この乱世で力が無ければ誰も守れない、だからこそアイツは覇道を歩むと決めた。

それなら俺達は覇王の心を守る為に生き残り、戦い続けるだけだ」

 

ようやく見えてきた、お前は俺から言わせたら魔王などではないよ

 

お前は羅刹だ、可畏・暴悪そして護者、大事なものを守る為になんとしてでも生きる俺とは逆だ

 

己を捨ててまで何を守りたいと言うんだ魔王よ、そんなものは・・・・・・

 

「未熟な舌戦だな、御使い。

 侵略を繰り返す、虐殺者・曹孟徳の軍に属する全ての兵の首を、稲穂を刈るが如く打ち落とす。

 加わる全てのものは勅命に抗う逆賊とし、末代まで不忠者と誹られるが良い」

 

そういって魔王は俺に背を向け行ってしまう、魔王の舌戦での効果は絶大だっただろう、きっと俺の兄弟

達は動揺してしまっているに違いない、だが・・・

 

「あ・・・」

 

涙、俺は泣いているのか?「魔王」と呼ばれるこの男の心に、美しいと思えるものが確かにある

 

それは俺と同じで、一途にただ大切なものを思う、護りたい、幸せにしたい、そんな純粋な綺麗な光

 

彼はきっと誰かを想い続けているのだろう、道は違えども俺と同じだ秋蘭を想う俺と・・・・・・

 

戻らなきゃ秋蘭の所に、皆が待っている

 

「御帰り、泣いているのか?」

 

自陣に戻ると涙を流す俺を心配して秋蘭が駆け寄り、手ぬぐいで顔を拭き始めた

戦場だと言うのにまるで町に居るような雰囲気に周りの兵も思わず和む

 

これなら舌戦での敗北はそれほど大した意味はもたない、詠がうまくやってくれたのだろう

 

「ああ、魔王と呼ばれる者の正体が解ったよ」

 

秋蘭との話を隣で聞いていた詠が驚き、俺に駆け寄って腕を掴んでくる

その顔は不安と期待を混ぜ合わせた複雑な顔で、俺は少し笑いそうになってしまった

 

「正体って?」

 

「・・・同じ人間だよ、それも綺麗な心を隠し持っている。とても純粋な人間だ」

 

それを聞いた詠は呆れ顔になるが、秋蘭は大きく笑い出し眼の端に涙を浮かべて俺の手を握ってきた

周りの兵たちも思わず秋蘭に釣られて笑い出す

 

「同じ人間なら我等曹魏の精兵が負けるはずが無いな」

 

「そうだ、俺の眼を信じろ」

 

その言葉に周りの兵たちは何時もの様にその目に固い意志を刻む、そして槍を握る手に力がこもり始めた

流石だよ秋蘭、俺の言葉に笑い声を乗せるだけで先ほどの舌戦の負けを帳消しにしてくれた

 

詠は兵たちを何時ものニヤリとした笑顔で見回すと、その顔が軍師の顔になり自信が漲っていくのがわかる

 

「良い感じね、舞台は僕が整えてあげる。存分に舞いなさい」

 

「ああ、頼むぞ」

 

男は秋蘭から手渡された「桜」を二本受け取ると鞘から抜き、秋蘭は男の後ろで弓に弦を張る

二本の桜は美しく研ぎ澄まされ、まるで濡れているように光を放ち、秋蘭の弓は張られた糸で美しい音を奏でた

 

「聞け兄弟達、相手は魔王などでは無い、俺たちと同じ人間だ!恐れるな俺の眼を、俺を信じろっ!」

 

兵たちは男の声に導かれるように修羅の顔を取り戻し、信頼、敬愛、そして信念と覚悟を秘める

 

「さぁ行くわよ、右翼と左翼に伝令、敵の初撃を受け流し中央で囲む、その間に中軍は剣を用意」

 

「「応っ!!」」

 

兵士達が詠の声で一斉に声を上げる、男は蒼い外套を風になびかせ背中の文字を旗のように見せ

刀を振り上げ力の限り叫ぶ

 

「迎え撃て!抜刀っ!」

 

兵達は抜き放った刀を次々に地面へと突き刺していく、十本、二十本、四十本、八十本、

見る間に出来上がる剣の草原、俺一人の舞台

 

男は銀の稲穂の草原に進み、中央で止まるとゆっくりと息を吐き出し

両手に持つ刀をだらりと力を抜いてぶら下げた

 

「演舞壱式、戦神」

 

男の目に強固な信念と覚悟の火が灯る。それは兵たちを上回る眼の輝き、男の体から殺気にも似た

気迫が周りの空気を支配する。だがそれは何処か優しく、仲間を優しく包む守る者の気迫

 

来い、俺達は負けない!必ず生き残る。大事な者を、愛する者を守る為、俺は死なないっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                    嘘でした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月11日、十日遅れのエイプリールフール・ネタお楽しみいただけたでしょうか


 
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