「はぁっ!」
「ぐはっ」
石突を喰らい吹き飛び地面を転がる男は、突かれた腹を押さえながら剣を杖代わりに立ち上がってくる
「くっそ、槍の穂がっ!」
攻撃を喰らわせ優位に立っているはずの馬超は、自分の十文字槍「銀狼」の穂先を苦虫を噛み潰したような
表情で見つめる。穂先は錆びた刃のようにボロボロに削られ、柄までもところどころ削られてしまっていた
「はっ、はぁっ、まだまだ俺の身体は持つぞ、俺の体が先かその槍が先か勝負だな」
「強くない、強くないのに何でこんなにやりにくいんだ!」
急所を狙う必殺の一撃を全て剣で防ぎ、それ以外のは諦めて体に受ける。回りに剣の草原が無い今
男は馬超の攻撃を絞り、打撃技は全て捨てていた。
このままじゃあたしの槍がまずい、どうしたら良いんだ・・・・・・
馬超の表情は曇り汗が額を伝う、きっと男は槍を破壊するまで倒れる事はないだろう
男の目に鉄のような覚悟と信念が宿っていた
「どうした?はぁっ、はぁっ、かかって・・・こないのか?」
「うう・・・」
優位に攻めているというのに馬超は後ずさってしまう、その姿に周りの兵たちも歓喜の声を上げ始めた
なんとかいけそうだ、まだまだ身体はもつ武器を破壊したら華琳を、いやそれは望まないか・・・
「どうした翠、何を手間取っている」
「父様っ!」
男が兵達の声に気を取られた瞬間、目の前には何故か華琳と戦っていた馬騰が立っていた
「なっ!華琳はっ!?」
男は先ほどまで二人が対峙していた方に眼を向けるとそこには驚いてこちらを向く華琳と眼が合った
どうやら戦闘中にいきなり男と馬超の間に飛び込んできたようだ
「無事かっ!」
「馬鹿っ!前をみなさいっ!」
華琳の言葉で慌てて馬騰の方に目を向けると、馬騰はゆっくり槍を中段に構え柄の中ほどを持つと男に
穂先を向けてきた
「一度だけ見せる、覚えろ」
「うんっ!」
槍が来るっ!だが馬騰の動きは華琳との戦いをやられながら眼に入れた。何とかあわせるくらいは出来るはず
「・・・シッ」
ガキッィィィィィィイイイイン!!!!!
凄まじい金属音とともに男が吹き飛ばされ地面を砂煙を上げて転がり倒れる
まるで何か大きいものが男の身体に衝突したかのような衝撃が周りで見る者達にも伝わってきた
倒れる男は地面に臥せったままピクリとも動かない
「昭っ!」
華琳の声に反応するように男は震える手で剣を掴みなおし、口から血を流しながら地面に剣を突きたて身を起こす
くそっ、剣の腹を狙ってきやがった。俺の剣が僅かに傾いた瞬間を狙って剣ごと俺を吹き飛ばすとは・・・・
ガハッ
男の口から血が吐き出される様を見て華琳は弾かれるように馬騰に切りかかる
「貴方の相手は私よっ!」
「そうだったな、翠よ後は任せる」
馬騰は襲い掛かってくる鎌を槍で弾いていなし、馬超に軽く笑いかけると元の場所へと歩いていく
華琳の連続攻撃を槍で次々にいなしてゆっくりと元の対峙していた場所に戻り、腰を落とし槍を構える
華琳は男が無事に立ち上がることを横目で確認すると、馬騰に向かって鎌を構えなおす
「すまないな、まずは感謝しておこう」
「なんのことかしら」
馬騰は歯を見せて笑うと殺気が抜け落ち、優しい顔を覗かせる。その顔に華琳は誰かを重ねてみたのか
華琳からも殺気が抜け落ちてしまう
「わざわざ偃月に組み替えた、己の陣を見て意味を理解したのだろう?」
「フッ、回りくどいのよ一騎打ちがしたいなら兵など使わず最初からそういえば良いでしょう?」
「周りの奴らはそんなことを許さない、盟主としての仕事をしただけだ」
やはり、馬騰は元から兵士が無駄に死ぬのを避けることを考えていたのだろう、だから己が先頭に立ち
私との一騎打ちで戦を決めるつもりだったんだ、わざわざ兵を動かしたのは盟主として周りを納得させる
ためか・・・
「英雄も何かと面倒でな、己はやはり一人の兵が似合っている」
「ならば私が使ってあげるわ、貴方に勝ってね」
二人は大声で笑い合う、そしてお互いの武器を向け合うと必殺の気合をぶつけ合い地を蹴り飛び出す
「はぁっ!」
華琳は鎌を縦に振り、回転とともに自分自身も回転し切り付ける。馬騰は半身で避けると華琳に向かい
真横から突き入れた
「フンッ」
華琳は馬騰の横から来る突きを鎌の背で上に逸らすと、柄を短く持ち馬騰の体に突き刺そうと押し出す
しかし馬騰はそれを肘と膝で挟み込みガッシリ捕まえた
ミシッ
鉄で出来た「絶」から悲鳴のような音が聞こえる。馬騰は挟み込んだまま鎌を破壊してしまう、そう思った
華琳はとっさに馬騰の腹に掌底を叩き込む
「喰らいなさいっ!」
華琳の動きに素早く反応した馬騰は武器を挟んだ腕を引き戻し、小さく折りたたみ体の捻りだけで
同じように掌底を合わせてきた
ドシィッ!!
まるで御互いの手を握り合うようになって二人の動きはとまる。
「中々やるな覇王、しかし己を超えるにはまだ力不足よ」
「さすがね、だけどこの程度で私の力の全てを見たと思われても困るわ」
華琳は距離を取るため後ろへ飛びのき様に武器を振る、馬騰はその場を動かず鎌の一撃を弾くと
また槍を中段にゆっくりと構え、華琳は着地と同時に斬りかかる。二人の武器は戦場に金属音の音楽を
奏でていった
「あっちは父様が勝つ、こっちはあたしの勝ちで決まりだな。攻撃方法はわかった」
横目で馬騰と華琳の攻防を見ながら槍を回し父と同じように中段に構えて腰を落とす
「ゴボッ・・・はぁっ、はぁっ・・・くっ!」
男は先ほどの衝撃が抜けないのか脚を震わせ、今にも地面に倒れこみそうになっていた
くそっ、なんて攻撃だ見えていたのにかわせなかった。それどころかこんな強い衝撃、今まで喰らったこと無い
まるで季衣の鉄球を受けたようだ・・・
「父様の攻撃で防ぐ所じゃなさそうだな。弱ってる相手を弄るようで悪いけどアンタにはここで死んでもらう」
馬超の槍が満身創痍の男の喉を狙い、素早い突きが繰り出される
「お姉さま危ないっ!!」
男の喉に槍が突き刺さる瞬間、馬超の槍を三本の矢が柄の傷に正確に突き刺さりへし折ってしまった
「・・・・・・貴様、命は無いものと思え」
「な、あたしの槍がっ!」
兵達の間から回りを絶対零度の冷気のような殺気で包み込み、秋蘭が男に歩み寄ってくる
その尋常ではない殺気に馬超は穂の無い槍で身構えてしまった
「ふぅ、危なかった~」
「おい蒲公英っ!お前、夏候淵を抑えに行ったんじゃないのか!?」
馬岱は命からがら逃げてきたのか、兵士の間から抜け出すと走り寄って抱きつき、後ろに隠れてしまう
「ええっ!無理無理っ!あんなの抑えきれないよ、それに銅心おじ様も適当にって言ってたし」
「はぁ、まったく!でもちょうど良かった「影閃」を貸してくれ、あたしの槍はもう使い物にならない」
そう答える馬岱に大きな溜息をつき、槍を受け取ると男と秋蘭に向けて槍を構えた
「大丈夫か?やったのは馬超か?」
「いや馬騰だ、アイツは化け物だ、華琳が危ない」
「そうか、ならば早々にあやつを倒し、馬騰を」
男のあせるような声に秋蘭は何かを感じたのだろう、本来であるならば望んだ戦いをしている華琳の
邪魔をするような事はしないのだが秋蘭ははっきりと助太刀に入ると口にした
「俺も一緒に後で怒られるよ、悪いが舞いも使う」
「無理をするな、足が動かないのだろう?」
男は苦笑いを返すと秋蘭は優しく笑い返し、男の前に盾のように立つと先ほどより強く、冷たい殺気を放ち始める
「馬超、悪いがお前には為す術無く死んでもらう」
「そうは行くか、舞王が相手じゃないならあたしの勝ちだっ!」
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涼州攻略編
少し短いです
馬騰の超人的な強さに書いてる私が一寸だけ唖然としています。
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