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真・恋姫†無双 頑張れ一刀くん その12

多くは語らず。


小覇王の落日

2010-04-09 05:48:08 投稿 / 全19ページ    総閲覧数:21559   閲覧ユーザー数:14984

 

 

 

袁術から独立し、揚州全土を制圧した雪蓮たちは内政に追われていた。

 

 

そんなある日、雪蓮は一刀をある場所に誘っていた。

 

 

雪蓮に連れられた一刀がやって来たのは、城からほんの少し離れた森の中にある小川だった。

 

 

一刀はここに何かあるのかと雪蓮に尋ねる。

 

 

「ん。ここにね……母様が眠っているの」

 

「え……?」

 

 

そこには薄汚れた石が存在していた。

 

 

「袁術の城は元々、母様が落とした城。……母様が死んでからは袁術に奪われちゃったんだけどね」

 

 

雪蓮は淡々と話す。

 

 

「そうだったんだ……でも、それじゃあどうしてちゃんとしたお墓を建てないんだ?」

 

「母様が言ってたのよ。……死んでまで王としての形式に縛られたくないってね」

 

 

苦笑いしながら話す雪蓮も、ちゃんとしたお墓を建てればいいのにと思っているようだった。

 

 

「戦ばかりの毎日だったからね。……死んだあとぐらいはのんびりしたかったんじゃないかしら」

 

 

孫堅は一代で呉の基盤を作った人物。それは戦いの日々によって作られたものというのを幼いころから戦場に出ていた雪蓮は知っていた。そして同時に戦のない日々を過ごしたいと思っていた。それを母、孫堅に重ねているようだった。

 

 

そう言った雪蓮は、持ってきた布で墓石を磨き始めた。

 

 

「あ、手伝うよ」

 

「ありがと。……」

 

 

雪蓮に倣い、一刀は川から水をくみ上げては布で磨く。それをしばらくした後は周囲の掃除を始めた。

 

 

 

 

二人が墓参りに出かけている頃、揚州では大変なことが起こっていた。

 

 

そしてそれは城にも伝わる。

 

 

「申し上げます! 我が国に曹操軍が大挙侵入してきました! 現在、敵の先鋒部隊がこの城に向かってきております!」

 

 

執務室で政務中だった冥琳は顔をしかめた。

 

 

「どういうことだそれは! 国境線の守備隊は何をしていた!」

 

 

冥琳は怒声を張り上げるが、報告を聞くとそれを鎮めた。

 

 

守備隊から放たれた伝令は、曹操軍によってすべて捕殺されていたのだ。しかしなんとか城に辿り着いた者がいたが、伝令を伝えると共に息絶えた。

 

 

「……そうか。その者の親族には充分報いてやってくれ」

 

 

意気消沈している暇はなく冥琳は軍師の表情に切り替え、兵士から報告を聞き、現状の把握に努める。

 

 

曹操軍はすでに城から五里ほどに距離に来ており、囲まれるのは時間の問題ということだ。

 

 

報告をした兵士を下がらせ、すぐに穏とこれからについて話し始める。

 

 

なぜ曹操が北方の袁紹をおいて、揚州に攻めてきたかはわからない。だが今やるべきことは曹操軍を撃退すること。一刻の猶予も許されない中、冥琳たちは動き始めた。

 

 

今、最大の危機が孫呉に迫っていた。

 

 

 

 

城でそんなことがあったとは思いもしない二人は、墓石を磨き終えていた。すっかり綺麗になった墓石は、立派とはいえないまでも、充分に威厳を備えるものだった。

 

 

一刀は雪蓮に孫堅がどのような人物だったか尋ねる。

 

 

雪蓮はスラスラと孫堅との思い出を話していく。その表情は憎まれ口をたたきながらも穏やかな表情だった。

 

 

そして雪蓮はそっと墓石の前に跪く。

 

 

「母さん……ようやくここまで来れたわ」

 

 

母さんと呼ぶ雪蓮は、親に話しかける娘の様だった。君主の娘ではなく、孫堅という一人の女性の娘として。

 

 

「あなたが広げ、志半ばで去らなければいけなくなった……私たちの故郷。その故郷は今、孫家と、呉の民たちの下に戻ってきた……」

 

 

奪われた自分たちの故郷を取り戻したことを報告する雪蓮。

 

 

「見てる? 母様……。今から我ら孫家の悲願が始まるわよ」

 

「孫家の悲願。……天下統一だっけ」

 

 

しかし雪蓮は首を横に振る。雪蓮が本当に求めているのは天下統一などではなく、呉の民たち、そして自分の仲間たちが笑って過ごせる時代が来ることだった。天下だの権力だのには何の興味も持っていなかったのだ。

 

 

「笑顔で過ごせる時代、か。……今の時代、そういうのって難しいよな」

 

 

雪蓮の本心を聞いた一刀は少し桃香を思い出していた。そして雪蓮も桃香も似ているなと思っていた。そしてだからこそ劉備軍との同盟を結んだのだと理解した。

 

 

雪蓮にとって天下統一は手段であって目的ではない。むしろ呉を脅かさないのであれば誰が天下をとってもいいという感じだった。

 

 

「それが我ら孫家の願い。……だから私はこれからも戦うの」

 

 

そう言って雪蓮は立ちあがる。

 

 

一刀はそんな雪蓮の思いを理解し、支えようと思った。

 

 

 

 

 

 

「俺がどれほどの力があるのか。どうすれば雪蓮を助けてあげられるのか。……それは分からないけど。でも俺は全力を尽くして雪蓮を助けたいって、そう思ってる」

 

「……ふふ」

 

 

一刀の思いを聞いた雪蓮は微笑む。

 

 

「な、何だよ? 俺、おかしなこと言ったか?」

 

しかし雪蓮はそれを否定する。

 

「ううん。……やっぱり蓮華に譲ったの、失敗だったなぁ~って」

 

「またそういうことを言う……」

 

 

一刀はからかうなと言った感じで言い返す。だがそれは雪蓮の本心だった。

 

 

「だって一刀、いい男なんだもん。……独占しとけば良かったかな~?」

 

「ははっ……雪蓮も少しは嫉妬してくれるんだ?」

 

「するわよ~。私、独占欲強いもの」

 

「うそだぁ?」

 

 

笑顔で話す雪蓮を見てあまり信じられない一刀だった。

 

 

「ホントだってば。けど……良いの。一刀はみんなのものだから。時々独占できるってことで満足しとく。……じゃないと蓮華に怒られそうだもの」

 

 

そう言って雪蓮は喉を鳴らして笑ってみせた。

 

 

「さ、そろそろ帰ろ。本当に蓮華が怒鳴り込んできそうだし」

 

「もう良いのか?」

 

「ん。充分よ」

 

 

大きく頷いた雪蓮が一刀を抱き上げ再び墓石の前に跪く。

 

 

 

 

「結局抱っこなのか?」

 

「いいじゃない♪ 母様に一刀の事自慢したいしね」

 

 

一刀を抱き上げたまま雪蓮は言葉を紡いでいく。

 

 

「そろそろ行くわね。母様」

 

 

しばらく忙しくて会いに来れないと、母様が思い描いた未来を、あなたの娘は命ある限り戦うと、そしてあなたの娘の戦いぶりと呉の輝かしい未来を天国から見守っていてと伝える。

 

 

そして雪蓮は立ち上がろうとする。

 

 

その時、一刀は雪蓮の肩越しから茂みで動く何かを見つけた。

 

 

「雪蓮!」

 

「へっ? …………きゃっ!」

 

 

茂みから放たれた数本の矢は雪蓮の背後を射ぬこうとしたが、それに気付いた一刀が腕の中から雪蓮を全力で蹴飛ばした。

 

 

幸い立ち上がろうとしていて体制が良くなかったのか雪蓮は一刀から離れ尻もちをついた。その瞬間雪蓮の頭上を矢が通り過ぎた。

 

 

「ぐっ!」

 

 

しかし空中に投げだされていた一刀の左腕に一本の矢が掠めた。

 

 

「か、一刀! おのれ! 何者だ!」

 

 

すぐに状況を理解した雪蓮が周りを見渡す。

 

 

「ひ、ひっ!」

 

 

そこには弓を持った数名の兵士が茂みに隠れていた。見つけられた兵士たちは脱兎のごとく逃げ出した。

 

 

「貴様ら! 殺してやるわ!」

 

 

それを見た雪蓮は南海覇王を抜刀し、走り出そうとしたが一刀がそれを止めた。

 

 

「待て! 雪蓮! 追いかけちゃダメだ!」

 

「一刀……何でよっ!?」

 

 

雪蓮の表情は怒りに燃えていて、今すぐにでも駆けだしそうだった。

 

 

「敵がまだ他にもいるかもしれないだろ? それに雪蓮にもしものことがあったら……みんなが悲しむだろ? 雪蓮は……王様なんだから」

 

 

この状況でも自分の事を心配する一刀を見て、雪蓮の頭は落ち着いていった。

 

 

 

 

「……分かったわ。それより怪我を見せなさい」

 

 

雪蓮は先程から一刀の様子がおかしいことに気付いた。額からは脂汗を流し、顔色も良くなかった。雪蓮は素早く一刀の上着を脱がし傷口を見る。掠った部分がどす黒く変色していることからそれが毒だと気付いた。意識がはっきりしていることから即効性の毒ではないと判断するが、危険な状態には変わりなかった。

 

 

「一刀、ごめんね。ちょっと痛いけど我慢してね」

 

 

雪蓮は左手を一刀の口に噛ませ、南海覇王で一気に傷口を切り取った。

 

 

「ぐっ! ふーふー! うぁぁぁぁ!」

 

 

一刀は声にならない叫び声をあげ、雪蓮の手を思い切り噛む。

 

 

一刀の左腕の傷口は綺麗に切り取られていた。しかし既に身体に回ってしまった毒まではどうしようもない。雪蓮は一刀を抱え立ち上がった。

 

 

「姉様っ! 城で緊急事態が……!」

 

 

そこに蓮華が急ぎ足で現れた。

 

 

「蓮華! ここよ!」

 

 

蓮華は声が聞こえた方へ走りだし、その光景に驚く。雪蓮の腕の中には上着を脱いだ一刀がぐったりとしていたからだ。

 

 

「一刀っ!? 何があったのですか姉様っ!?」

 

「私を狙った刺客から一刀が守ってくれたの…………怪我はその時に」

 

「何だとぉ……っ!? すぐに犯人を捜し出し、八つ裂きにしてくれる!」

 

 

今すぐ駆けだしそうな蓮華を見て、雪蓮は自分に似ていると思った。

 

 

「落ち着きなさい蓮華」

 

 

蓮華を静かに諭す雪蓮。

 

 

「しかしっ!」

 

 

そこで蓮華は言葉を止める。雪蓮の瞳が今までになく冷めきっていたからだ。

 

 

「……それより緊急事態って?」

 

「は、はい。曹操が国境を越えて我が国に侵入。すでに本城の近くまで迫っているようです」

 

 

それを聞いた雪蓮は先程の刺客は曹操軍だと判断する。反董卓連合の時に見た曹操はこのような手段をとるような人物ではなかったが、部下の手綱を扱い切れなかったのは主の責任だ。

 

 

「状況は理解したわ。蓮華、すぐに城に戻るわよ」

 

 

一刀の治療の事もあり、雪蓮と蓮華は素早く城に向かった。

 

 

 

 

その頃、曹操軍では。

 

「華琳様、右翼から秋蘭の部隊が合流します。……これで状況は整いました」

 

「ありがとう。……いよいよ英雄孫策との決戦。……胸が高鳴るわね」

 

 

桂花は華琳に部隊が整ったこと報告する。それを聞いた華琳が江東の小覇王と言われている英雄孫策との決戦に胸を躍らせる。

 

 

宣戦布告もなしに決戦と言えるのかは甚だ疑問であるが、これも乱世のなせることだろう。

 

 

華琳の隣にいる程昱、風は先鋒の新兵について不安をもらす。

 

 

「意気地のない新兵を奮い立たせるには、褒美をちらつかせるのが一番」

 

 

桂花は名のある武将を討ち取った者に千金を与える触れを出していた。……それが今回のようなことに繋がったとは夢にも思わなかったであろうが。

 

 

「しかし一部の部隊が抜け駆けの気配を見せてますからねぇ~。気をつけなければ」

 

 

華琳は戦いの中で兵を調練しようと考えているので、あまり統率がとれていない兵ばかりだった。

 

 

「ふむ……春蘭にさえ手に負えない部隊か。……どこの部隊かしら?」

 

 

それは、かつて呉で雪蓮たちに弾圧された許貢の残党だった。

 

 

「その部隊に数名をつけ、挙動を監視しなさい。英雄との戦いを無粋な愚人に穢されたくはない」

 

「御意」

 

 

しかし全ては手遅れだった。

 

 

「しかし……孫策さんの動きが読めませんね。……どうしてこんなに動きが遅いのでしょう?」

 

 

雪蓮たちは未だに城に籠もっていたのだ。

 

 

「そうね。それは私も気になっていたの。……がっかりさせて欲しくは無いな」

 

「……巨大な敵を正々堂々倒してこそ、この曹孟徳の覇道が華やかに彩られる。……孫策、良い戦をしたいものね」

 

 

華琳はあくまで覇道のために動くのであった。覇道という大事に囚われ、自らの失態で戦いを穢すことになるとは思いもしない華琳だった。

 

 

そこでようやく呉の部隊が展開を始めた。

 

 

魏の将たちは動きの遅さを疑問に思うが、それも全ては天命と称し、手加減をする気はなかった。

 

 

 

 

 

「雪蓮! ……北郷はどうしたのだ!?」

 

 

城に着いた雪蓮を迎えたのは冥琳。

 

 

「曹操の刺客にやられたの。冥琳、医者を呼んでちょうだい」

 

「あ、ああ。分かった」

 

 

冥琳も蓮華同様、雪蓮の気迫に圧倒されるが、何とか返事を返す。

 

 

「冥琳、出陣準備は整っているわね?」

 

「ええ、あとはあなたの一声で全て動くわ」

 

 

それを聞いた一刀は雪蓮に声をかける。

 

 

「雪蓮……」

 

「……なに?」

 

「俺の、事はいいからさ…………雪蓮の、かっこいいところを……見せてくれよ」

 

 

途切れ途切れに話す一刀。それを聞いた雪蓮は頷く。

 

 

「任せなさい。だから一刀は安心して治療を受けなさい。あなたの家は私たちが必ず守るわ……!」

 

「……おう」

 

 

雪蓮は一刀を蓮華に預け、出陣した。

 

 

 

 

部隊の先頭に着いた雪蓮は馬から下りて曹操軍へと歩き出す。

 

 

 

「敵軍より単騎で出てくる影あり。……あれは誰でしょうか?」

 

 

楽進、凪は雪蓮の影を捉え華琳に報告する。

 

 

「あれは孫策。侵略してきた我らの非を鳴らし、兵を鼓舞するため舌戦を仕掛ける、か。……定石ね」

 

「その舌鋒はどこまで私の心に響いてくるのか。……大人しく聞いてあげましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見ていてね、一刀。……私のかっこいいところを」

 

 

雪蓮は南海覇王を敵に向けた。

 

 

 

 

「呉の将兵よ! 我が朋友たちよ!

 

我らは父祖の代より受け継いできたこの土地を、袁術の手より取り返した!

 

だが!

 

今、愚かにもこの地を欲し、無法にも大軍をもって押し寄せてきた敵がいる!

 

敵は卑劣にも我が身を消し去らんと刺客を放ち、この身を毒に侵させようとした!

 

しかし、我が身を天の御遣いが身を挺して守ってくれた!

 

その代償は大きく、天の御遣い、北郷一刀はその身を毒に侵された!

 

この孫伯符、呉の人間を傷付けられて黙っているような者ではない!

 

勇敢なる呉の将兵よ! その猛き心を! その誇り高き振る舞いを! その勇敢なる姿を我に示せ!

 

我はその姿を焼き付け、修羅となりて敵を討ち滅ぼそう!

 

呉の将兵を! 我が友よ!

 

愛すべき仲間よ! 愛しき民よ!

 

孫伯符、怒りの炎を燃やし、ここに大号令を発す!

 

天に向かって叫べ! 心の奥底より叫べ! 己の誇りを胸に叫べ!

 

その雄叫びと共に、敵を討ち滅ぼせ!」

 

 

 

うおぉぉぉぉぉぉぉおおおーーーーーーーー!!!!

 

 

雪蓮の大号令になって呉の兵たちの士気は今までになく高くなっていた。それは今まで一刀が呉のためにしてきたことに意味があったことを表している。

 

 

 

 

「どういうことだ! 誰が孫策を、天の御遣いを暗殺せよと命じたのだ!」

 

 

号令を聞いた華琳の動揺はひどかった。まさかこのようなことになるとは夢にも思わなかったのである。

 

 

「か、華琳様ーーーーーーー!」

 

 

そこに桂花と郭嘉、凛がやってくる。

 

 

「事情が判明しました! 許貢の残党で形成された一団が孫策を暗殺しようとしたところ天の御遣いがそれを庇ったようです!」

 

「その者どもの首を刎ねよ!」

 

「えっ!?」

 

 

桂花は驚くが、華琳の怒りは治まらない。

 

 

「智勇の全てを賭ける英雄同士の聖戦を、下衆に穢された怒りが分からないのかっ! その者ども、全ての首を刎ねよ」

 

「ぎょっ御意っ!」

 

 

そして華琳は呉へ弔問の使者を出し、退くことを指示する。

 

 

秋蘭は危険だと進言するが、華琳にとってこの戦いはすでに意味はなくこれ以上戦うことは出来なかった。

 

 

しかしすでに呉は突撃を開始していた。

 

 

 

 

自分を王族ではなく女の子として扱ってくれた者を傷付けられ怒り狂う蓮華。

 

自分より若い者が王を守ったことを称え、しかし怒りを隠せないる祭。

 

過ごした期間は短いが慕っていた者が傷つき悲しむ亜莎。

 

大切な者を傷付けられ、敵を皆殺しにする思春。

 

二度も守れなかったと自分を叱責しながら敵に突撃する明命。

 

そして目の前で愛する者を傷付けられ鬼神のごとく敵を殺す雪蓮。

 

 

雪蓮は今、孫呉の王としてこの場に立っている。王としては孫呉の民を守るために曹操を撃退しなければならないが、女の雪蓮としては今すぐ一刀の下に駆け付けたい気持ちで一杯だった。

 

 

「一刀……!」

 

 

何度も何度も一刀の名を呼び、自らを鼓舞する雪蓮。涙で視界が曇りそうになりながらも敵兵を血祭りにあげる。

 

 

呉の将兵たちは一丸となり敵を滅ぼしていった。

 

 

 

冥琳は状況を冷静に判断して、この状況がいつまでも続かないことを理解し、敵の殿に痛撃を与えるために全軍を投入する。

 

 

曹操軍は本陣が退却したことにより、殿も退却を始めた。

 

 

それを見た蓮華などは追撃を指示するが雪蓮がそれを止める。

 

 

「何故ですか姉様っ!? ……姉様は一刀が傷付けられて悲しくないのですか!?」

 

「悲しくないわけないわよ! 一刀は私を守って傷ついたのよ! 私だってこのまま曹操の頸を取りたいわよ! ……でも、それじゃダメなのよ」

 

 

雪蓮は周りを見渡す。そこには疲れ切った呉の兵たちがいた。一時は死兵となって曹操軍を襲ったものの時間が経てばそうもいかない。疲れを自覚した時、逆襲される恐れがあるのだ。

 

 

「蓮華、感情に流されてはダメよ。私たちの戦いはこれで終わりではないのだから。だから軍を退くわ」

 

「……分かりました」

 

 

雪蓮に諭され蓮華は頷く。もし追撃が失敗して軍が瓦解でもするとそれこそ一刀が望まない状況になってしまうことを理解したのだ。

 

 

こうして曹操軍は撤退し、雪蓮たちは結果として呉を守り抜いたのである。

 

 

 

 

 

戦いが終わり雪蓮たちは一刀がいる天幕へと向かった。

 

 

「一刀!」

 

 

天幕に入った雪蓮は寝台で横になっている一刀に近づく。

 

 

「見てたよ……雪蓮。……かっこいいところが見れてよかった」

 

 

一刀は相変わらず顔色が悪いままだった。

 

 

「そうでしょ? 惚れ直したかしら?」

 

「ああ。……好きだ」

 

雪蓮は必死に笑顔を作る。そして隣にいる老医師に話を聞く。

 

 

「北郷様の容体は非常に悪い状態です。……応急措置が早かったおかげで命はとりとめておりますが、このままではいつ急変するやもしれません」

 

 

老医師は自分に出来ることはないと言って謝り天幕を出て行った。

 

 

「そんな……、そんなことって……」

 

 

打つ手なしと聞いた雪蓮たちは大きなショックを受けた。特に雪蓮は自分を大きく責めた。

 

 

「泣くなよ雪蓮……」

 

「だって、だってぇ」

 

 

一刀は雪蓮を慰めるが、優しい言葉をかける度に雪蓮はどんどん涙が溢れていく。

 

 

「言っただろ? 雪蓮は……俺が、守るって」

 

 

一刀には不思議と後悔は全くと言っていいほどなかった。それよりもし雪蓮をここで死なせてしまっていたら一生後悔していただろう。

 

 

「好きな人を守れた。……それだけでも、俺がこの世界に来た意味があるんだと思う」

 

 

初めは好奇心で拾っただけであった。しかし一刀と触れ合っていくうちに一刀の優しさに触れ、心の底から好きになっていた。雪蓮の頭の中は一刀との思い出で溢れかえっていた。

 

 

雪蓮だけではない。蓮華も冥琳も祭も穏も思春も明命も亜莎も小蓮も一刀の優しさに触れ、知らずのうちに好きになっていたのである。

 

 

そんな悲しみが溢れる天幕に一人の男が現れた。

 

 

「あきらめたらそこで試合終了だ!」

 

 

赤髪の男は、神医と呼ばれる華佗だった。

 

 

 

 

「あなたは誰? 用がないなら出て行きなさい」

 

 

雪蓮はいきなり現れた華佗に鋭い視線をぶつける。

 

 

「俺は華佗、医者だ!」

 

「……華佗って、もしかしてあの有名な?」

 

 

いつか冥琳が言っていた気がすると雪蓮は記憶を探る。

 

 

「有名かは知らんが、我が五斗米道に治せない病はない! ……あるとしたら恋の病ぐらいだ」

 

「ホントに!? 一刀を治せるの!?」

 

「ああ。任せてくれ! だがなるべく早くしないと危険な状態だ」

 

 

一刀を一目見ただけでだいたいの症状が分かる華佗は緊急ということを伝える。

 

 

「お願い華佗……。一刀を助けて……」

 

 

藁にもすがりたい思いの雪蓮は華佗に懇願する。

 

 

「ああ! 俺に任せろ! 早速だが治療を行うので他の者は外に出ていてくれ」

 

 

それを聞いた雪蓮たちは華佗に望みを託し、天幕の外に出た。

 

 

 

「お姉様。……あの華佗とかいう男、大丈夫なのですか?」

 

 

華佗についていまいち知らない蓮華は雪蓮に尋ねる。

 

 

「分からないわ。……でも今一刀を救えるとしたら華佗だけよ」

 

 

それを聞いた蓮華は祈るように天幕を見つめた。

 

 

すると中から華佗の声が聞こえてきた。

 

 

「我が身、我が鍼と一つなり! 一鍼同体! 全力全快っ! 必察必治癒……病魔覆滅! でえええええええええいっ! げ・ん・き・に・なれぇぇぇぇぇっ!」

 

 

 

 

華佗から許しを得て、雪蓮たちは天幕に入る。

 

 

そこには眠っている一刀がいた。

 

 

「一刀は!? 一刀はどうなったの!?」

 

 

雪蓮は凄い勢いで華佗に迫る。

 

 

しかし華佗の表情は思わしくなかった。

 

 

「治療は成功した。……だか体力の少ない子供では乗り切れるかわからない」

 

 

治療は成功したが目覚めるかは一刀次第と言うことだ。

 

 

「そう……。ありがとう華佗」

 

「ああ、すまない。くそっ! 俺にもっと力があれば!」

 

 

皆が一刀を見守る中、華佗は自分の力不足を嘆いた。

 

 

その時、雪蓮たちは天幕の外から地響きが聞こえた。さらにその地響きはどんどん大きくなっていく。

 

 

そして、

 

 

「だーーーーーーりーーーーーーーん!」

 

「ごーーーーーーしゅーーーーじんーーーーーさまーーーー!」

 

 

二つの筋肉が天幕の中に入って来た。

 

 

数名は悲鳴を上げた。

 

 

「何者だ貴様ら!」

 

 

思春は気持ち悪がりながらも皆を守るために前に出る。

 

 

「あらぁん、管輅ちゃんが言ってた通りこの外史のご主人様は小さくって可愛いわねぇん」

 

 

もみあげを三つ編みにした筋肉、貂蝉は身体をくねくねとさせながら熱っぽい視線を一刀に向ける。

 

 

「卑弥呼! 貂蝉!」

 

 

華佗の知り合いということに驚くが一応は納得することにした雪蓮たち。

 

 

 

 

「おお、なにやら可愛らしいオノコじゃのう」

 

「卑弥呼、ご主人様は渡さないわよぉん」

 

 

何やら言い争う二人をよそに雪蓮たちはポカンとする。

 

 

「ん~、このご主人様弱っているわねぇ」

 

 

そこで華佗は貂蝉に説明する。

 

 

「ぬわぁんですってぇ! ご主人様が死んでしまうなんて許さないわぁ! 卑弥呼! あの技を使うわよぉん」

 

「うむ。確かにこのようなオノコを放っておくことは出来ん。元に戻す程度ならば我らが力を合わせれば造作もないことよ」

 

 

よく分からないことを話す筋肉たちだが、雪蓮は少なくとも一刀を助けようとしていることが分かった。

 

 

「一刀は助かるの?」

 

「うっっっふぅぅぅぅぅん。そんな泣きそうな顔しなくても大丈夫よ孫策ちゃん。ご主人様はわたしの愛の力で必ず目覚めるわぁん」

 

 

筋肉を盛り上がらせながら答える貂蝉に雪蓮は一刀を託すことにした。……こんなときでもなければ一刀に近づかせたくない雪蓮たちだった。

 

 

とりあえず一行は城に戻ってから一刀の治療を行うこととなった。

 

 

雪蓮たちは不安を隠せないまま城へと帰って来た。

 

 

華佗と貂蝉と卑弥呼は一刀を部屋まで運び、部屋を閉め切った。

 

 

理由は集中しなければ成功しないからだと言う。

 

 

一刀の貞操が心配だったが、華佗がいるから大丈夫だろうと判断した。

 

 

 

 

 

「それじゃあ始めるわよん」

 

「おう」

 

 

一体何が始まるか分からない華佗はどんな治療法か興味津々だった。

 

 

「行くぞ! んふぅぅぅっ!」

 

「うっっっふぅぅぅぅんっ!」

 

 

裸に燕尾服の筋肉と裸ビキニの筋肉が目を光らせ、その筋肉を盛り上がらせる。

 

 

「す、凄い! 貂蝉と卑弥呼から凄まじいほどの氣があふれ出ている!」

 

 

二人から出た氣は、一刀を包みこんだ。

 

 

そしてこれは一晩中続けられたのであった。

 

 

 

 

次の日の夕方、一刀は目を覚ました。

 

 

「ん……? ここは……俺の部屋だな。……なんだか嫌な夢を見ていた気がする」

 

 

思わず身体がぶるっと震える一刀だった。

 

 

「それにしても…………生きてたんだな」

 

 

正直一刀はもうダメだと思っていた。自分が死ぬと雪蓮たちを悲しませることになるが、雪蓮を守れてよかったと思っていた。しかし実際生きているとなると、嬉しさが込み上げてくる。またこれからも雪蓮たちと過ごせると思うと自然と笑みがこぼれた。

 

 

その時部屋の扉が開き、華佗が入って来た。

 

 

「おっ、目覚めんだな。よかった」

 

「えっと、華佗さんだっけ?」

 

 

その辺の記憶が曖昧なので一刀は尋ねた。

 

 

「ああ。でも華佗さんじゃなくて華佗でいいぞ北郷殿」

 

「じゃあ俺も呼び捨てでいいや」

 

 

お互い自己紹介を済ませると一刀は華佗が自分を見ていることに気付く。

 

 

「あの、俺の顔になんかついてる?」

 

「い、いやすまん。だいぶ変わったなって思ってな」

 

 

何の事をいってるか分からない一刀だった。

 

 

「もしかしてまだ気付いてないのか?」

 

「なにが?」

 

「百聞は一見に如かずだ。そこの鏡で自分を見てみろ」

 

 

華佗に促され、一刀は部屋に備え付きの化粧台の前に立つ。

 

 

そこには普段見慣れた自分の顔があった。ただしこの世界では初めて見る顔だ。

 

 

「なんじゃこりゃあああああああああ!?」

 

 

一刀は大声をあげて驚いた。なぜならそこにいたのは高校二年生の北郷一刀だった。

 

 

「なんで!? なんで戻ってるんだ!?」

 

「落ち着け北郷! 今説明してやる」

 

 

一刀は一旦落ち着いて華佗から説明を受けた。

 

 

「……つまりその卑弥呼と貂蝉っていう人? が助けてくれたんだな」

 

「ああ。そう言うことだ。それより俺は皆に知らせてくる。この部屋は立ち入り禁止だったから皆心配しているからな」

 

 

華佗はそう言って部屋を出て行った。

 

 

 

 

「んー、目線が高いっていいなぁ」

 

 

一刀は華佗の言葉を忘れ廊下を歩いていた。若干だるさは残っているが歩けないほどではなかった。

 

 

ぶらぶらと歩いていた一刀がたどり着いたのは中庭。ここに来るまで誰にも会わなかったのは戦後処理で人員が足りなかったからだ。

 

 

中庭に来た一刀はあずまやで机に突っ伏している人物を発見した。

 

 

孫呉の王様雪蓮だ。

 

 

一刀はゆっくりとあずまやに近づいたが雪蓮が気付く気配はなかった。なぜなら雪蓮は眠っていたからだ。机の上には何本もの空き瓶が置いてあった。

 

 

「こんなところで寝てたら風邪ひくぞ」

 

 

一刀は自分が来ていた制服の上着を脱いで雪蓮にかけた。

 

 

「それにしても制服まで元のサイズに戻っちゃったなぁ」

 

 

一刀の言うとおりトレードマークの聖フランチェスカ学園の制服も元のサイズに戻り、部屋にかけられていたのだ。

 

 

考えても仕方ないと、一刀は雪蓮の寝顔を見つめる。

 

 

何度も涙を流したことにより目は腫れていた。それを見た一刀は罪悪感を感じる。

 

 

「ん……」

 

 

雪蓮はゆっくりと目を開け、目の前にいる人物を見る。

 

 

「あ、おはよう雪蓮。……って言ってももう夕方だけどね」

 

 

苦笑いしながら話す一刀。

 

 

「かず、となの?」

 

「ああ。どうやら元の身体に戻ったらしい。それにしても雪蓮、目の下がデーゲームの野球選手みたいになってるぞ」

 

 

一刀はボケたつもりだがこの時代の人間が理解できるはずもない。というよりも雪蓮は話を聞いてなかった。

 

 

「一刀……っ!」

 

「おわっ」

 

 

雪蓮は勢いよく目の前にいる一刀に飛びついた。それを一刀は優しく抱きとめる。

 

 

「よかった! ホントによかった! 私、一刀が死んじゃったらって思うと……グスっ」

 

 

そこで雪蓮は泣き出してしまい言葉にならなかった。

 

 

一刀はそんな雪蓮を抱きしめ優しく頭を撫でる。

 

 

「ごめんな雪蓮。たくさん心配かけちゃったな……。……でも俺は生きている。だから泣きやんで?」

 

 

一刀は雪蓮が落ち着くまでずっと頭を撫でていた。

 

 

 

 

「一刀……」

 

「ん?」

 

 

落ち着いた雪蓮は一刀の横の椅子に腰掛けた。

 

 

「もう二度とあんなことしないで……」

 

 

何がとは聞かない。

 

 

「……それは無理かな」

 

「……どうして?」

 

 

雪蓮の願いを一蹴する一刀。

 

 

「今回もそうだけど、俺は雪蓮を、雪蓮たちを守れずに死なせてしまったらきっと一生後悔しちゃうからさ。……それこそ死にたくなるほど。だから……それは約束出来ない」

 

 

自分と親しい人が死んでしまうのは一刀には耐えきれないこと。それを自覚しているからそれは約束出来なかった。

 

 

「莫迦ね……」

 

「ああ。でもなるべく怪我とかしないようにするよ。……悲しませるのも嫌だからな」

 

「一刀……」

 

「雪蓮……」

 

 

二人の距離は自然となくなり唇が重な…………りそうなところで邪魔が入る。

 

 

「一刀! …………とお姉様!」

 

「なによー蓮華! せっかく一刀と良い雰囲気だったのにー!」

 

「なにがですか! それにお姉様だけずるいです! わ、私だって大人の一刀と……その……」

 

 

最後の方はもじもじして何も聞こえなかった。

 

 

そこに冥琳たちも集まっていた。

 

 

「北郷! 華佗が目覚めと言うから部屋に行ったら誰もいないとはどういうことかしら?」

 

「め、冥琳! それには訳が……」

 

他の者も黙っていない。

 

 

「一刀くんが…………一刀くんが……!」

 

「ほう。なかなかいい男になったものじゃ」

 

「はぅわ! これじゃあ一刀様にモフモフできません!」

 

「一刀さん、かっこよくなっちゃいましたね~」

 

「一刀様、輝かしいです!」

 

「一刀の妃はシャオなんだからねー!」

 

 

一刀の周りには人が集まるのだった。

 

 

「ふふっ。一刀は私のものなんだもーん♪」

 

そう言って雪蓮は一刀に口づけをする。

 

『あー!』

 

 

こうして曹操軍を追い払った呉はさらに絆を深めたのであった。 

 

 

 

 

<おまけ>

 

 

没ネタです。

 

 

刺客の放った矢が雪蓮の背中に突き刺さる。

 

 

「くそーー! 誰だ!? でてこい!」

 

 

その時雪蓮の身体が光りだした。

 

 

「しぇ、雪蓮ーー!」

 

 

やがて光が収まり、そこにいたのは、

 

 

「う~ん、一刀?」

 

「しぇ、雪蓮!?」

 

「そうだけど、どうなっちゃったの?」

 

「ち、小さくなってる!」

 

 

そこにいた雪蓮は一刀とおなじように小さくなっていた。

 

 

「わっ! 一刀みたいになっちゃった」

 

「なっちゃったじゃねーよ。どうすんだよ……」

 

「んー、いいじゃない♪ このまま一緒に大人になるっていうのも」

 

「こ、これは幼馴染フラグか!?」

 

「なにそれー?」

 

 

 

 

 

完。

 

 

なんか変な感じになっちゃいましたね?笑

 

まぁいっか( ^,_ゝ^)


 
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