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真・恋姫†無双 〜白馬将軍 龐徳伝〜 第1章 放浪の鷹 2話

フィオロさん

白馬将軍龐徳伝の1章2話目です。
今回から二人オリキャラ登場です。
どの作品のどのキャラが元になっているかは、言うまでもないでしょうね、此処の住人ならば。

2010-04-06 23:44:18 投稿 / 全8ページ    総閲覧数:3274   閲覧ユーザー数:2782

 

 

中・北荊州の現状を記した書簡を片付けると、宿に残した私物も片付ける。

 

日が昇り、明るい日差しが差し込み始める頃。現代と違って、人間の活動時間が早く始まり、早く終わるのが、今世の世の中だ(例外もあるが)。

 

依頼者側はこの時間帯に出発し、日が紅くなる頃には水鏡学院と言う、竹林で囲まれた学び舎に到着する予定である。

 

今回鷹が受けた依頼は、その水鏡学院までの護衛である。最近、賊徒の動きが活発化しており、それを狩り続けた鷹ではあるが、だからと言って減りはしても無くなる訳ではない。

 

賊徒の襲撃に遭った村や町は枚挙に暇が無く、その度に鷹や一時的に借り受けた荊州軍と共に賊徒を殲滅する(正確には荊州牧劉表の依頼を受けて、一時的に軍を預かっている)のだが、叩いても叩いても無くすまでには時間がかかってしまうのだ。

 

ある意味、自分が蒔いた種と言えなくも無いので、鷹はこの依頼を報酬額を聞かずに受けたのである。

 

依頼者は女性二人。と聞くと鷹一人で荷馬車と女性も守らなくてはならない様に感じるが、その二人の女性は鷹から見てもなかなかの技量の武人であった。

 

それだけ聞くと、鷹の力は無用では? と感じるだろうが、守りながら戦うと言うのは非常に難しい事。少しでも戦力が欲しいと思うのは当然だろう。

 

 

 

 

 

「よし、準備完了。行くか。」

 

 

自分の日用品を纏め、部屋を出る。この宿の廊下を歩いたのも、もう結構な日数になる。生まれ故郷の次に、長く過ごした場所と言って良い。もちろん今回の依頼が終わったら戻って来るかも知れないが、そろそろ別の地域に旅立つ事を考えているため、その可能性は低い。

 

涼州から襄陽まで1ヶ月、さらにこの襄陽で2ヶ月。ずいぶん長く過ごしたものだ。

 

 

「女将よ。随分世話になった。」

 

「私としちゃ何時までも逗留してくれてても構わなかったんだけどねぇ。」

 

「修行中の身なのでな、何時までも一カ所に留まるわけにはいかん。それに次の仕事の依頼者を待たせている。では、達者でな。」

 

 

金を宿の女将に渡し、宿から出ると、既に其処には二人の女性と荷馬車が鷹を待っていた。

 

 

 

 

 

「おはよう。姜維殿、鄧艾殿。お待たせしてしまったかな?」

 

「おはようございます。龐徳さん。私たちも今此処に来た所ですよ。」

 

「おはようございます、今日はよろしくお願いしますね。」

 

 

今回の依頼者である二人の内、金髪碧眼で、腰まで届く長い髪の毛をポニーテールに纏めている女性は姜維、字を伯約と言う。

ふくよかで、それで居て引き締まる所は引き締まった、男を魅了するには十分過ぎる美しい肉体を、黒を基本とした上着と甲冑に薄桃色のスカート、黒い外套に身を包み、斧槍を持つ姿は、それとは対照的な真っ白い素肌と凛々しい顔立ちと意志の強そうな瞳から、非常に周囲の目を引く出で立ちである。

しかしその彼女の細腕は想像出来ない程の力を秘めており、一度斧槍の薙ぎ払いが繰り出されれば、敵兵の4・5人は一度に両断してしまう剣力を秘めている。

 

一方、澄んだ黒い瞳と栗色の髪の毛をツインテールにし、白と蒼を基本とした衣装に胸元の紅いリボン、両腕の青い小手と、所々対照的ではあるが、出る所は出ていて、引き締まる所は引き締り、表情も整った美しい女性と言う意味合いで周囲の目を引く、似ていない様で似た存在なのが鄧艾、字を士載。

凛々しさが目立つ姜維とは対照的に、穏やかさを感じさせる雰囲気を持つ女性である。

しかしその彼女も二本の片刃の剣を腰に佩いており、一度その宝剣が抜き放たれれば、ファルファルと言う音と共に次から次へと敵を切り伏せる、一流の戦士に変貌する。

また、彼女は弓の腕前も優れており、騎射でも遠くの敵すら打ち抜く命中力を誇るが、それ以上に甲冑さえ貫き砕くその一矢は、星をも打ち落とすと錯覚してしまう程だと言う。

 

 

姜維と鄧艾二人共、容姿端麗であり男を魅了するその肢体を、浄衣(軍服の事)と甲冑に身を包み、それぞれの得物を構えたその姿には、戦女神と言う言葉が相応しい。

 

 

 

 

 

「出発の準備が整うのはもう少しです。朝食はまだでしたよね?」

 

「ああ、出来れば出発は腹ごしらえしてからで良いか?」

 

「ふふ、私達も今から近くのお店で朝ご飯の予定です。龐徳さんもご一緒にいかがです?」

 

「そうさせてもらおう。仕事前だからほどほどに食べておきたいしな。」

 

「この朝食代は私達が出しますから、遠慮なく食べて下さいね。」

 

「む、そういう訳には・・・自分の分は自分で出すさ。」

 

 

鷹が遠慮するが、姜維が首を横に振る。

 

 

「今回は一日護衛をお願いしていますから。その分の食事代は、こちらが負担します。」

 

「今や襄陽や樊城の周辺で知らない人は居ない、と言える位の龐徳さんを一日中護衛として傭う訳ですから。遠慮しないの。

それに私達、もう龐徳さんの護衛を受けている、と言えますしね。さあ、行きましょ。」

 

 

鄧艾が鷹の右腕を掴むと宿の向かいの店に引っ張り込もうとする。

 

 

「と、おいおい。何も引っ張らなくても。まあ、其処まで言われたら断る訳にもいかんか。ありがたくいただこう。」

 

「もう所縁(ゆかり 鄧艾の真名)! 引っ張っちゃダメよ。」

 

「にゃはは、私も朝ご飯まだだからお腹空いて来たの。七(なな 姜維の真名)ちゃんもお腹空いて」

 

 

くー・・・・・・・・

 

所縁と呼ばれた女性、鄧艾が言い切ろうとしたその言葉が止まってしまう、ある擬音が響いた。それは、腹の虫が無く音・・・

 

 

「・・・さて、折角美女二人から護衛の依頼と来たんだ。しかも一緒に食事が出来ると言うのは望外の出来事。楽しませてもらおう。」

 

「にゃはは、龐徳さんったらお上手なの。さ、七ちゃん、行くよー。」

 

「あ、あうう~~~・・・」

 

 

ぷしゅーっと、まさにタコが熱湯で茹でられた様に、耳まで真っ赤っかに染まった七こと姜維であった。戦女神と言えど、空腹には敵わないのだ。

 

聞かなかった事にしてさっさと店に入る鷹と、それに合わせて明るく振る舞う鄧艾の優しさが、姜維の羞恥心をさらに刺激した。

 

 

 

 

 

襄陽と樊城を隔てているのは漢水。長江の支流であるこの河は飲み水として、農業用水として、その他諸々の河の恵みをもたらしている。

 

何が言いたいのかと言うと、食事が美味いのだ。そして涼州ではなかなかお目にかかれない水産物が、いつでも簡単に食べられる。

 

前線で巨大な武器である鷹の宝刀を振るうその肉体は非常に鍛え込まれており、背丈も高い鷹。当然その食事量は常人のそれに比べて圧倒的に多い。

 

今もまた、鷹達3人が囲む食卓の上には、空になった皿がいくつも積み重なっている。

 

3人が手をつける前までは、清蒸(丸ごとの魚を蒸して熱した油をかけたもの)、鯉の丸ごと唐揚げ甘酢あんかけ、鯰のすり身の揚げ物、川エビの辛味煮と河の恵みをふんだんに使った料理が、シュウマイ、小龍包、水餃子、麻婆豆腐、回鍋肉と言った肉を使った料理が、食卓を埋め尽くしていた(ちなみに、鷹達が利用した食卓は、普通3人どころか6人が使う食卓であった)。

 

のだが、既に大量の空き皿が積み重なるばかり。鷹の旺盛な食欲もさることながら、姜維と鄧艾もまた、料理が盛られた皿を数多く空にしたのである。

 

良く見てみると、それぞれの周りに重なっている皿の数は、僅かに鷹が多い位で、それほど差は無い。

 

まだ朝日が昇って少し経った程度のこの時間帯、飲食店は稼ぎ時に向けて仕込みをしている最中であったろうが、予想外の時間帯に予想外の大量注文だったので店の者はしばらくてんやわんやであった。

 

そして、鷹が最後の小龍包を口に運ぶと、全ての皿は空になり、店の者が淹れてくれたお茶を飲んで、一息ついた。

 

姜維と鄧艾も十分に腹を満たしてご満悦、と言った様相だ。

 

 

 

 

 

「ふう、ご馳走様でした。」

 

「ご馳走様でした。ふふ、龐徳さん、良い食べっぷりでしたよ。」

 

「美味しかったの。龐徳さん、食べている時凄く良い表情でしたよ。私まで笑顔になっちゃいます。」

 

「はは、3度の食事が大好きな大喰らいな者でな。食べるなら美味いものを食べたいし、それに戦場を駆け巡るとなると生半可な食事ではすぐに力が尽きてしまうのでな。どうしても食べる量は多めになる。

俺からすれば、二人共なかなかの健啖家ではないか。まあ、賊徒の100や200程度ものともしない君達ならそれも当然か。」

 

 

女性らしく少しずつ、それでも確実に料理が盛られた皿を空にして行った二人の食べっぷりもなかなかのものであった。

 

線の細い女性ではあるものの、重たい斧槍を振り回す姜維、二本の剣を目にも留まらぬ早業で振るう鄧艾、外見にそぐわぬ武人としての強さを持つ彼女達の肉体を維持するためには、やはり相当の栄養を必要とするのだ。

 

 

「うう~~~、擁護して下さるのは嬉しいんですけど・・・」

 

「にゃはは、お腹が空いてちゃ戦えませーん。」

 

 

鄧艾は割り切っているので、多く食べる事にはそれほど抵抗が無い様だが、姜維は女性らしさが強めなので、多く食べる所を男性に見られるのは、恥ずかしいと感じる様だ。

 

しかも鷹は面識が無かった男性である。その鷹からの言葉はどうしても気になるものだったが、武人として理解してもらえるのは良かった。

 

が・・・

 

 

「でも・・・女として見られていない様な気がします・・・。」

 

「七ちゃん・・・それを言うと私まで落ち込むの・・・。」

 

 

鷹が女性としてではなく武人として擁護したので、それはそれで女として見られてはいない、と言う事になり、これまた落ち込む原因となってしまったのである。

 

自他共に認める(と言うより他人からの評価が非常に高いので、自分達がそれなりに魅力ある女性と思われている事を自覚しただけなので、自覚は薄い)美女二人である。

 

 

 

 

 

(不味ったか?)

 

 

鷹は、翠と言う極めて大喰らいな女性を知っている。林檎や菖蒲も蒲公英も食べる量は決して少なく無い。

 

周囲に武人の女性がそれなりに居るので、女性が多く食べる事を見慣れている鷹からすれば、姜維と鄧艾が健啖家なのは普通の事として捉えられるのである。

 

だが、姜維や鄧艾の周囲に、二人の様な戦える女性は居ない。世の中や歴史上の人物には存在するのだが、二人の周囲には居ないのだ。

 

だから鷹の擁護は、二人を一応安心させたのだが、一つ安心させたら今度は別の件で不安になってしまったと言う訳だ。

 

 

(どうしたものか・・・折角美女二人と荷馬車の護衛、こんなのそうそう無いシチュエーションだからな。)

 

 

鷹は健康な男性である。女性と、しかも美女二人と一日だけとは言え護衛として旅(と言う程大仰でもないが)をするのである。暗い雰囲気のまま行程を進むのは避けたい。

 

と言う訳で鷹はなんとかご機嫌取りに考えた結論が・・・

 

 

「何、他の周囲がどう思おうが二人は二人の生き方を貫けば良いだけだ。いちいちその程度で悩む事等無いだろう。」

 

「そ、そう言っていただけるのは「それに、だ」は、はい!?」

 

「多少量を多めに食べるからと言って、その程度の事で批判する様な奴等、才色兼備の君達には勿体無いだろうよ。そんな奴らは無視してしまえ。

君達は何も間違ってはいない。」

 

 

茹で蛸が二つ出来た。

 

 

 

 

 

 

白馬将軍龐徳伝1章2話目を読んでいただき、ありがとうございます。

 

はい、結局何時もとあんまり変わらないページ数になりました。すんません。

 

改めて、オリジナルキャラ二人、姜維(七)と鄧艾(所縁)を登場させました。

 

二人は諸葛亮や司馬懿と言った三国時代の中期を担った存在達のさらに一世代未来、三国時代後期に主な活躍をした人物です。

 

いずれも軍事的に秀でた才能を持っていた武将で、特に鄧艾は蜀を滅ぼした名将として知られ、またその末路は歴史上屈指の名将、白起になぞらえる等極めて優秀な人物です。

 

一方の姜維は度々魏に侵攻しながらも、あまりの国力差の前に捗々しい成果を上げられず、鄧艾の策略によって國を滅ぼされてしまいました。賛否両論ありますが、私は姜維無くしては蜀はもっと早く滅んでしまったと私は考えています。鄧艾は姜維を避けて別の道を通って成都を陥落させましたから、姜維の武威を避けたかったのだと考えています。

 

 

本作では、主人公の鷹と同年代、もしくは少し年下くらいにしています。なので諸葛亮達と年齢は殆ど変わりません。ちょっと年上でしょうか。その辺はまた本編で書こうと思います。

 

それでは、また次回でお会いしましょう。


 
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