「今帰ったぞ親友」
「華佗、ご苦労だったな」
華佗はそういって俺のほうに近づいてくると肩に腕を回してくる。華佗の話しだと馬騰の治療も終わり
金城からすぐに戦の準備をしているこの隴西へと来たらしい。戦はもうすぐ始まってしまう、怪我人も多く
出るだろうから華佗はここへ留まり医師として治療を始めるだろう
「あとで酒に付き合ってくれないか?」
「・・・ああ」
そういうと華佗は身を翻し俺のほうを振り返らず手だけ振って診療所へと歩いていってしまった
「お兄さーん、親衛隊に鉄刀「桜」を持たせました。でもあまり無理をしてはいけませんよー」
「有り難う風、そこまで刀が出来ていたんだな」
頷く風の頭を優しく撫でる。真桜達が頑張ってくれたようだ、まさか華琳の親衛隊に一本ずつ持たせることが出来るとは
親衛隊に渡したのは俺の刀の量産品、切れ味はわざとあまり良くないように作ってある。俺の腕が持つようにだ
真桜の話しだと切れ味が鋭いのは俺に渡した無印の桜と正式な一本目の桜のみ、量産品は切れ味が鈍い
「さて、俺はこれから桂花の所へ行ってくる。後をお願いして良いか?」
「はいはいー、兵科は弩弓兵と重装歩兵でしたねー。騎馬は霞ちゃんたちが居なければ負けるのが目に見えてますから」
その通りだ、兵科までは合わせられない同じ騎馬ならこちらは負ける。それに俺達が騎馬で行ったら馬騰はがっかり
するだろう、それどころか戦をせずに帰ってしまうかもしれない。俺たちは俺達の全力を、弩弓兵を秋蘭が重装歩兵を春蘭が
率いた方が勝てる。馬騰を満足さてやる、そして超えてやるあの英雄を
「ところでお兄さん、その箱はなんでしょうか?」
「これは華琳から桂花へ贈り物だ」
「ほうほう、桂花ちゃんはこの間進言が聞き入れられず。今回は軍師を連れて行かない戦いをしますし少し気を落として
いるようなので丁度良かったのですよ」
「そうか、そいつは良かった」
俺はそういって風に手を振ると桂花の下へと歩く、もしかしたら自分の部屋にこもっているかも知れない
華琳に進言を却下された時は落ち込んでいたからな。取り合えず城に行ってみるか
部屋の前に着くと中からごそごそと音がする。何をしているんだいったい?覗くのは趣味じゃないからな
とりあえずノックでもしてみるか
「桂花いるか?」
ガタンッ!ガラガラガラガッ!
部屋の中から何かが崩れる音が聞こえ、心配になった俺は扉をすぐに開けると木管の山があり、間から辛うじて
桂花のものであろう猫耳のフードが出ていた。
「おい、大丈夫か!」
すぐさま木管をどけて桂花を引きずり出すと、木管が乾いてなかったのか顔には墨の文字が移ってしまっている
「怪我は無いか?何があったんだ?」
「はぁ~う~」
変な声を上げて眼を回している桂花はまともに答えることが出来ないようで仕方なく椅子に座らせた
良かった怪我は無いようだ、その時脚に軽い衝撃が走り、そこには扁風ががっしりとしがみ付いていた
「何があった?」
俺の問いに扁風は近くの木管を拾い上げると筆で素早く文字を書き上げる。内容は・・・
「なになに、先ほどまで桂花さんと話をしていて話が盛り上がり、いつの間にか大量の木簡が・・・・・・」
どうやら積み上げられた大量の木簡が崩れそうになってしまい、静かに下ろそうとしていたら俺が来て一気に
木管が崩れてしまったようだ、悪いことをした
「いたたたた、まったく何なのよアンタはっ!狙ってやったんじゃないでしょうね!」
「すまないな、そんなこととは知らなかったんだ」
俺は近くにあった手ぬぐいを桂花に差し出すと、ひったくるように俺から取り上げ、冷めたお茶用の湯をかけ絞ると
墨だらけになった顔をごしごしと拭いている
「それで何の用よ」
「ああ、華琳から桂花に贈り物だ」
「えっ!華琳様がっ!」
差し出した美しい箱を受け取ると満面の笑顔になり、キラキラと眼を輝かせている。本当に華琳が好きなのだなと
改めておもった。そして受け取った箱の紐をいそいそと開けると
「・・・・・・そ、そんな」
箱の中身は空、空の箱を見つめるその身体は小さく振るえ、しだいに瞳には涙が溢れ出し
頬から涙が伝い箱にぽたぽたと落ちる
「わ、わたしはっ、私はもう用済みと言うことですかっ?もはや私に上げるものはないと」
そういうと桂花は果物を切る為の小刀を掴み自分の首目掛けて突き刺そうとする
「まてっ!何を勘違いしてるんだっ!」
「放してよっ!華琳様に見捨てられたら生きている意味なんかっ!」
咄嗟に桂花の腕を掴むと無理やり小刀を取り上げ桂花を椅子に座らせた。よかった握力だけは強くて
「うっ・・・ううぅぅぅ」
「はぁ、まったく何を勘違いしてるんだか」
「かんちがいなんかじゃっ・・・・ぐしゅっ・・・なぃ~」
やれやれ、俺は頭を掻きながら呆れた顔で桂花を見ていた。良い意味でも悪い意味でも本当に華琳に心酔している
んだな。華琳が死ねと言ったら喜んで死ぬだろう・・・・・・まぁそんな事は言わないし、魏の将なら普通に死ぬか
「桂花の華琳に対する愛情って貰うだけのものなのか?」
「うぐぅ・・・ひっぅ・・・あぅ・・・?」
「華琳は桂花に何か貰いたいんだよ、それときっと褒めてもらいたいんだ桂花に」
だから空の箱、自分から愛情を与えるだけではなく桂花からも何か貰いたいと、そこまで桂花を信頼しているのか
そんな信頼している桂花に今回の戦が終わったら褒めてもらいたいんだな、私の指揮はどうだった?と
「・・・・・・わたしに?」
「ああ、だから桂花と色々なものを交換したりするのに空の箱なんだろう、羨ましいよそこまで信頼されてるなんて」
「華琳さま・・・う・・・うぅぅぅ」
華琳の名を呟くと顔をほころばせ、箱を大事そうに抱きしめるとまた泣いてしまった。俺は扁風を抱き上げると
桂花の頭を一なでして部屋を出る
「必ず・・・うぐっ・・・かちなさい、よっ・・・」
「ああ、約束するよ」
出る寸前に桂花からそんなことを言われた。必ず約束は守る、俺たちは生き残り皆で魏に帰ってくる
そう一言に込めて部屋を後にした。
「フェイ、桂花との話は楽しかったか?」
抱きかかえられる扁風は首をコクリ縦に振ると背中越しに桂花の部屋の方を見ている。相変わらず真名のせいで
考えを読む事は出来ないが、心配をしているのだろうか?表情からはなんとなくそう読み取れた
「ん?どうした?」
扁風は俺の頬をぴたぴたと撫でると腕から降りて地面に文字を書き始める
「えっと、今度は地面に書いて話しをします。鳳さんの所へ・・・わかった行ってらっしゃい」
俺に微かに笑い顔を見せるとスタスタと髪の毛をなびかせながら歩いていってしまう
そのうちあのぼさぼさの髪をどうにかしてあげないとな、女の子なんだから
「昭、準備は整ったのか?」
「秋蘭、風が手伝ってくれたからもうすぐ終わるよ」
秋蘭はいつものように歩み寄り、俺の腕を抱き寄せる。いつもの武装とその手には弽が
「その弽・・・」
「ああ、真桜に教えてもらってな。早速縫ってみた、どうだ?」
左手の弽には小さく叢と刺繍してあり、綺麗に龍で囲んである。手を俺の顔に近づけて
眼が褒めてくれと言っていた、俺は柔らかく微笑むと秋蘭を優しく抱きしめる
「凄いな、嬉しいよ秋蘭」
「フフッ、そうだろう?時間が無かったから弽にしか出来なかったが」
「十分だよ、真桜は?」
腕の中でもぞもぞと頬を俺の胸に擦り付けている。聞こえてないのか・・・・・・
「秋蘭」
「んん?」
「真桜は何と言っていた?」
「私がお礼を言ったら喜んでいた。心配ないさ」
そういうと今度は自分から腕を俺に回して擦り付けてくる。秋蘭・・・不安なんだな、屋敷でならともかく
外でこういう風に甘えてくる事はない。俺は安心させるように両腕で抱きしめた
「最近そうやってくるのが多くなったな」
「朝いつもやっている」
「俺が寝ている時にやっているのか?起こせば良いのに」
「駄目だ、こうされるのが心地よくて離れられない、仕事に遅れる」
「たまには良いさ、華琳もそのほうが俺を怒りやすい」
「余計に駄目だ、誰にも渡さん」
そういうと少し強めに顔を埋めてくる
愛しい・・・この愛しい人の為に俺は戦い続けるんだ、生きる為に、守る為に、修羅の如く
だから・・・・・・決して負けるものか、たとえそれが英雄であろうとも
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涼州攻略準備完了
少し短めです^^;
次は戦です
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