金城から許昌に戻り、華琳に馬騰との会話内容を全て伝えると華琳は口の端を吊り上げ
もの凄いとしか良い様の無い笑顔を俺に見せた。よほど馬騰を気に入ったのだろう
「嬉しそうだな、だが次の戦は今までで一番のものとなるだろう」
「貴方も嬉しそうよ、貴方の眼にはどう映ったのかしら?」
俺が嬉しいだと?確かにその通りだよ、あれほどの英雄に会えたのだから。華琳以外でこんなに心を揺さぶられる
人物は今までいなかった。そう、あの孫策や劉備でさえもあの二人の男から比べればまだ雛鳥だ
「馬騰は一言で言うなら侠、それも義侠の者だ。韓遂はそれを支えるもの、二人はまさに英雄としか言えない」
俺の評価を聞いて華琳は大声で笑う、嬉しいのだろう。劉備との戦いで出来なかった英雄との戦いが今実現
しようとしている。そして己を今度こそ天に問うことが出来る、無理に望まずともだ
「鉄の心とはよく言ったものだ、揺るがぬ忠義を持っている。韓遂は真名の通り柔らかい思考を持っているようだが」
「彼らを超えれば私は覇王として高みに登ることが出来る。ところでその子、馬良と言ったかしら」
華琳は相変わらず俺の脚にしがみ付いている扁風を見ると少し複雑な顔をしていた。それもそうだろう今から俺たちは
この子の父親と戦うことになるのだから、自分から魏に来たとはいえその姿勢はいたたまれない
「良かったら貴方の真名を教えてもらえるかしら、これから魏で過ごすことになるのだし」
「あのな、華琳」
「貴方には聞いてないわよ」
俺が何か言おうとするのをぴしゃりと止めて扁風に話を促した。まったく面倒な事になるぞ
「・・・あ~の~、わ~た~し~の~ま~な~は~・・・え~っと~ふぇ~い~ふぉ~ん~と~い~い~」
「・・・・・・ごめんなさい、昭お願いできる?私が悪かったわ」
扁風の話し方を聞いて解ったようだ、どうやら扁風は話すのが苦手、というよりも物凄くゆっくりで実際ここに
来る途中春蘭と話をした時に、あまりの遅さに春蘭がなぜか俺に怒鳴りにきていた。まぁ扁風は小さいから
怒れなかったのだろうが
「性は馬、名は良、字は季常、真名を扁風と言うらしい、馬騰に言わせると頭がとてもよい子らしいぞ」
「そう、風が入るのなら読めないわね。いいわ、私の事はこれから華琳と呼びなさい」
扁風はコクリと頷くと背中に背負った木管と携帯用の筆と硯を取り出すと物凄い速さで文字を書いていく、流れるように
筆を滑らせると、木管を俺に手渡してきた
「なに、昭」
「扁風は書くほうが話すより早いんだよ、なになに」
この度は突然の面会と私が魏に降ることを許していただき感謝しております。早速ではございますが私、扁風は
覇王様の文官として御役に立ちとうございます。手始めに西涼から馬を千ほど引き連れて・・・
「千頭ですって!そんなにつれてきているの?」
「え?いやそんな話は聞いていないし、連れて来てはいないぞ」
扁風のほうに眼を向けるとまた背中の新しい木管を取り出すとサラサラと言うよりはガリガリガリガリと凄い勢いで
文字を書いていく、なのにもかかわらずその文字は美しくとても読みやすい
「ええっと・・・」
馬はそのまま引き連れては目立ちますので姜族と交渉し、長城の外側を移動させてあります
今頃涼州の父は目を丸くしておられるでしょう
「・・・・・・フフッ、あはははははははっ!」
華琳は笑っていた。目の前にいる小さな少女は誰にも思いつかない方法で馬を魏へと移動させていたのだ
確かに姜族とのつながりは多少あるのを知ってはいるが、まさかそれを使うなど
「良いわね、今日から私に文官として仕えなさい。軍師としてはその筆記が邪魔ね、戦では使えないわ」
「それは良いことだ、わざわざこんな小さい子が戦場に出る必要は無い」
扁風は華琳にぺこりと頭を下げるとまた脚にしがみ付いてきた。まぁ来たばかりだから仕方ないな
それにしても安心した、扁風が戦に出ないのならばこの子の願いは叶うことになる
「さて、馬騰との戦だけど・・・」
「華琳様、無礼を承知で申し上げます。どうか御考え直しを」
華琳の言うことを察したのか桂花が口を開く前に再考をと、これは進言ではない顔には覚悟が見て取れる
己の命を引き換えにしてでも止めるつもりだ。軍師として当たり前だろう、これから始まるのは力を均等にした
ただのぶつかり合いだ、大国である俺達がわざわざ敵と同じ土俵に上がる事はない
「・・・・・・有り難う桂花、貴方のような優秀な軍師がいてくれて私はなんて恵まれているのかしら」
「ああ・・・華琳様」
「でもごめんなさい、この戦いからは逃げるわけにはいかないの、逃げれば私は二度と覇王を名乗れない」
「そんな逃げるなどと、敵より多くの数で当たるのは当たり前のことです」
そういう桂花に華琳は少し寂しい顔をする。そういうことじゃない、そういうことじゃないんだよ桂花。俺たちが
馬騰達からの信頼を裏切ればそれは奉戴する天子さまを裏切るも同じ、そして裏切りは俺たちから誇りを奪い去る
「馬騰は私達を通して忠義を天子様に見せた、ならば私達はその信頼を裏切る行為をしてはいけない」
「裏切れば俺たちは大陸全土から真に天子様を狡賢く利用する者達に映るだろう」
「そんな・・・」
だからこそ鉄の心か、さすがは馬騰だ周りの者達の心を汲み取り、己の忠義は決して曲げず愚直に侠を貫く
桂花には悪いが今回軍師の活躍はあまり無いかもしれない、真っ向勝負をするだろうからな
「敵の将は?」
「は、馬騰、韓遂、馬超、馬岱 の四人です。特に韓遂は頭の切れる男、参謀役ですね」
「ならば出撃は私と三夏のみとする。他の将はついてくるのは構わないけど戦には出さないわ」
華琳の言葉に皆はざわめき霞は納得がいかないと華琳の前に出ると食ってかかる
「待てや、なんでウチらが出られへんねん!そこまであわす必要あるんか!」
「・・・あるわ、私には優秀な将が多い、それこそ敵に神速と恐れられる霞がいるようにね」
「褒められたってうれしない!ウチだって昭にあそこまで評価される英雄馬騰とやりあいたいんや!」
霞の言う事はわかる。武を誇る霞なら絶対に馬騰と戦いたいだろう、それならば戦で役に立たない俺が
「駄目よ昭、貴方は私と共に馬騰を超えなければ成らない。貴方は馬騰に認められたのだから」
「華琳・・・」
俺の隣に秋蘭が歩み寄り、俺の手を握って来た。その顔は笑顔で、俺が馬騰を超えられると信じている眼だ
「霞、貴方なら解ると思うの、春蘭と一騎打ちをした時に目に矢が当たった時のことを」
その言葉で春蘭が眼を失った時の事を思い出した霞はうなだれてしまう、あの時霞は春蘭と真正面から
己の力のみでぶつかり合っていた。そこに邪魔が入り春蘭との戦いは穢されてしまった、純粋に己の力
での戦いだったはずなのに、今回の戦いも同じなのだ純粋な力のぶつかり合い、そこに過剰な力はいらない
将の数も揃え己の知と力のみでの戦いを、まるで一騎打ちのように誇り高い戦いを望んでいるのだ
「あ・・・・・・う、確かに。穢すことになるなウチらが出て行ったら、でも昭は解るけど惇ちゃんたちはなんで?」
「そんな戦いの中、私との連携が即座に取れるのは春蘭と秋蘭意外にいないわ」
「確かに・・・確かにそうやな。ウチらより付き合いの長い三人や当たり前の人選てわけか」
俺は霞の肩に手を置くと仕方が無いなぁと言った顔をして俺の手に重ねてくる。その眼からは武が競えない
残念さとやはり心配の色が見えた。霞は元々優しい、華琳や俺達の身を案じてくれているんだ
「ありがとう霞」
「ううん、よく考えたらウチ昭に手合わせしてもろうたし今回は後ろで見といたる。皆も必ず行くで!」
周りの将達もやはり心配そうな顔をするが眼には俺たちを信じている色が伺えた、なんと信頼されているのか
華琳は、大丈夫だ華琳は必ず皆の信頼に答える。俺たちは負けない、華琳は、三人は俺が守る
「おー!隊長が良い顔しとる!こりゃ心配ないで、あの顔する時は必ずうまく行くからなー」
「そうだな真桜、信じています隊長。必ず勝つと」
「その通りなのー!負けたら許さないのー!」
コイツラの信頼を裏切るわけには行かないな、そう思って頭を順番に撫でているとふといつもと違う姿に気がついた
真桜も凪も沙和も、それどころか一馬まで何処かで見たことのあるようなものを着ている
「お前達それ・・・」
「やぁーっと気がついた!」
「どうですか兄者、凪さんたちが作ってくれたんですよ」
そういって一馬はベストのようなものを俺に見せてくる。やはりそうだ、これは前に着ていた俺の外套
「苦労したでー、黒い外套の色抜きしてそこから青く着色するんは骨やった」
「そこから凪ちゃんと沙和が四つに分けてー」
「それぞれの装備に着けさせてもらいました」
そういって真桜は左腕のアームカバー、凪は右腕の閻王、沙和は腰の防具に貼り付け、一馬はベストのように着ている
あの戦で無くしたと思っていたらこんな風になっていたとは
「あの戦でボロボロだったんをウチがもろてな、皆で分けようと思って」
「詠ちゃんは要らないって言うからー、沙和たち四人で分けたのー!」
「隊長の真名は叢雲、私達も隊長に寄り添う一つの雲です」
「すみません兄者、勝手なことをして」
俺は一馬の頭をいつものように撫でる。ありがとう、心配するな怒らないよ。これほど皆が思ってくれるのだ
嬉しさ以外に俺は何も無い
「大事にしてくれよ、それは秋蘭が俺に始めて作ってくれた物だ」
俺が笑顔で答えると四人は顔が強張り、真桜に至っては泣きそうになってしまっている。
「ご、ごめん隊長!そんな大事なもんてウチしらんかったからっ!」
「何を謝る?うれしいよ真桜、いつもお前は俺を喜ばせてくれるな。戦で勝ったら今度はそれを着けて
孫策や劉備たちに目に物みせてやろう」
「で、でもっ」
俺は凪たち三人を抱きしめた。仕方がないやつらだ、俺は嬉しいと思っているのにいつも気を使って秋蘭のことまで
心配してくれるのだから、三人を放すと俺はまた一馬の頭をガシガシと撫でた
「私も気にしていない、それを大事にしてくれれば良い。ところでその叢の刺繍は良い出来だな、誰が?」
近くで話を聞いていた秋蘭が微笑みながら沙和に歩み寄り、防具を見て感心したような顔をする
「それは真桜ちゃんなのー!何回も何回もやり直して隊長の背中と同じ龍を作って、中に叢って」
「そうか、後で私にも教えてくれないか?私の防具にも叢と入れたいのでな」
「は、はいっ!」
秋蘭は真桜に優しく微笑むと頭を撫でていた。まるで優しい姉のように真桜と刺繍の話をして真桜の気持ちを
大事にしている。本当に秋蘭は気にしてはいないだろう、俺と同じように嬉しいと思っているに違いない
秋蘭達のやり取りを眺めていると華琳が俺の横に立ち、俺のほうを微笑みながら見ている
脚の扁風はいつの間にやら秋蘭たちに混ざって刺繍を珍しそうに見ていた
「叢雲が率いる修羅の軍ね、馬騰との戦が終わったら二つに分けましょう。二面作戦にも対応できるし
孫策や劉備との戦いでも貴方なら私の動きに合わせられるでしょう?」
「もう勝った時の話しか?馬騰と変わらんぞ」
「当たり前よ、私は覇王ですからね」
「違いない、そういえば今回仕置きは無しだろう?成功したどころか将を一人連れ帰ったんだから」
「あるに決まっているじゃない」
「失敗して無いだろう?」
「私の楽しみなんだから関係ないわ」
「はぁ・・・せめて勝ってからにしてくれ」
「そうね、楽しみは後に取っておかないと」
そういって笑い合う、華琳からも緊張が感じられる。相手は英雄、あの強固な厚い壁を俺たちは乗り越えられるのか
不安なのだろう、支えなければ、俺達の忠義は馬騰に劣らぬことを証明し覇王の道を切り開いてやる
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涼州攻略準備中 次回も準備いたします
馬騰と韓遂、二人のおっさんがなにやら人気があるようで
無理やり馬騰を男にして良かったと思っております^^
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