No.134299 夫婦喧嘩は猫も食わない2010-04-04 11:01:55 投稿 / 全3ページ 総閲覧数:789 閲覧ユーザー数:771 |
あたしの名前はクロ。
ティエンラン国の宮廷、東宮に住んでいる猫よ。
そうなの、あたしのご主人様は国の王さまなの。
輝く藍色の髪に陶器のような白い肌、子持ちとは思えないとても美しい方なの。
この名前を付けてくれたのもご主人様。
捻りも何もない、とかシンプルすぎる、とか言われるけれど、失笑だわ。
変に捻りまくるより、シンプルな方がいいと思わない?
あたしは自分の名前を気に入っているの。
ついでにいえば、外見も自慢よ。
きれいに整えられた上質なビロウドのような毛並み。
毎日熱心にお手入れしている甲斐があるってもんだわ。
女の美しさは日々の無駄ともいえる努力の末に実られるものよ。
だから、最初の名前が「シラギ」だったと聞いたときは憤慨したものだわ。
冗談じゃないわよ、ただ黒いだけであんな男と同じ名前だなんて。
レディーに対して失礼よ。
シラギとあたしはライバルなの。
というより邪魔よ、あれ。
シラギが、あたしごとご主人様を抱きしめるもんだから、何回か潰されそうになったり。
二人が仲良くぴったりくっついているものだから、あたしもあたしも~って仲間に入れてもらおうとしたら、じろりと睨まれたり。
でも、あたしは子供じゃないの。
気に入らないからって、拗ねたりしないわ。
せいぜい、引っ掻いてやるくらいよ。
あたしはお昼、よくお散歩をするの。
ほら、ずっと部屋の中にいるのも美容に悪いじゃない?
で、何だっけ…。そうそう、ある暑い日のことだったわ。
ヒマにあかせて修練場まで足を延ばしてみたの。
そしたらたまたま、シラギが銀髪の男と打ち合っているのを見たのよ。
剣術っていうのかしら。たくさんのギャラリーに囲まれて。
あの時のシラギの目付きはすごかったわ。
獲物を狙う獣の目よ。そのくせ顔は笑っているの。
戦うのが楽しくて仕方ないって感じね。
銀髪の男も中々しぶとかったわ。
猫のあたしでさえ…。ううん、猫だからこそその気迫をはっきり感じた。
感じすぎちゃって気持ちが悪くなったくらい。
だからお家の東宮に戻ったの。丁度暗くなったころだったしね。
ご主人様はまだ帰ってなかったわ。
喉が渇いてお水を飲んでいたら、いきなり扉がバーンと開いて。
あたし、思わず飛び上がっちゃった。
ご主人様だったの。だけど様子がおかしくて、なんだかとっても怒っている?
「にゃああ(おかえりなさい)」
鳴いてみても、ものすごい怒りのオーラを発しながらどっかり長いすに座りこんじゃった。
「陛下、お帰りなさいませ」
「まあ、如何なさいましたの」
「黒将軍様はご一緒ではないのですか」
「あんな馬鹿、どうだっていい!」
いつもご主人様の世話をする三人娘(てゆう年でももうないと思うのだけど)にカッと怒鳴った後、イライラするように腕を組んだ。
ねえねえ、どうしたの?
「へーいーかー…。そんなことで怒るなんて、シラギさまも…」
お付きのトモキがため息をついたとき、そのシラギがやってきたの。
ねえねえ、喧嘩したの?
「…出ていけ」
ご主人様が怖―い声を出した。
「この東宮から出ていけ!そして二度と私の前に顔を見せるな!」
シラギは困ったみたいに、頭を一度撫でて、片手を上げたわ。
トモキと三人娘がクスクスと笑いながら部屋を出て行った。
「陛下」
長椅子の前に膝をついて、シラギはご主人様の顔を見上げる。
ご主人様は腕を組んだまま、ぷいと顔をそらせる。
「なぜそのように拗ねているのだ」
「…今日、お前とカグラ、打ち合っただろう」
そらせたまま、小さな声でごにょごにょと。
「全然知らなくて。聞いたのはモクレンの口からだぞ。あら、ご存じなかったのですか、とても見事な剣術でしたのに、だと。モクレンは見たのに、わたしだって見たかったのに、なんであんな勝ち誇ったように言われなきゃいけないんだ…」
あら、ご主人様。それって本当に拗ねているだけじゃない。
シラギも、困っている顔からなんだか嬉しそうな顔になっちゃったわよ。
「あなたは本当に」
跪いている男の手がゆっくりと上がる。
「可愛い人だ」
そしてこういう時、シラギはご主人様の名前を呼ぶの。
「リウヒ」
ゾクゾクするような色気のある声で。
あたしの髭が立っちゃうくらいだもの。ご主人様なんて、顔まっ赤よ。
その後の二人は――。
うふふ、レディーの口からは語れないわ。
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ティエンランシリーズ番外編。
リウヒ&シラギを飼い猫クロの視点から。
おっさんは、馬と猫から邪魔者扱いされている(笑)。