「そうか・・・そっちにも来たか」
「ああ、出し抜けすぎてびっくりしたぜ。思春・・・甘寧なんか今にも飛び掛りそうでさ」
「・・・玲二、どうみる?」
「俺は曹操と直にあったことはないが・・・おそらく旦那は伝えていないだろう。この赤壁で何が起こるのか」
「そもそもこの外史は私たちが知っている歴史とは既に違う方向へと歩んでいる」
「そうなのか?」
前に三国志の歴史を知らないと彼が言っていたのを思い出す。
「本来なら赤壁の戦いの後に蜀が建国される」
「ってことは・・・この戦い、こっちが勝つとは限らないってことか」
「ああ」
二人の御遣いの前には長江が横たわっていた。
流れは穏やかで、これから始まる大きな渦を思わせない静けさだった。
二十七話 五虎将軍 ~FOXHOUND~
魏が動いた。
樊城から一気に江陵まで進出してきたのだ。数は百万。蒲公英の言葉を借りればデタラメである。
柴桑では呉蜀の御遣いが顔を揃えていた。
各個撃破を避けるため防衛線を下げ決戦に備える。そのために蜀軍は江陵にいる呉の将を撤退させるために陽動を行うこととなった。
蜀の参戦を宣言した後、夏口で呉蜀が合流し決戦に望む構えだ。
「そうか、マグナが・・・」
「すまん、仇を討たせてやれなくて」
「死人に口なし。仇を討ったところでそれを望んでいたのか聞きようもないしな」
御遣い二人は正史の作戦について話し合っていた。残る目標は後二つ・・・実質一つとなっていた。
「おかしいと思わないか?」
「アシッドのことか?」
一刀の言葉に玲二が頭を横に振る。
「違う、PMCの連中だ。連中、この世界がほしいくせになぜ仕掛けてこない?なぜ三人のエージェントを送り込んだ。それだけだ。しかも一人はまったく任務を行う気がないフォックスだ」
「偵察や調査・・・?」
玲二はフォックスに言われたように大局を見る目に優れていた。次世代ハイテク部隊FOXHOUNDにスカウトされるだけのことはあった。
「多分FOXHOUNDは罠にかかっている。連中の顔振りを見ろ。元FOXHOUND隊員トーレ・フォックス。元アメリカ特殊作戦軍カウンターテロ部隊マグナ。そしてお前の兄弟であるアシッド・スネーク。いくらなんでも因縁ありすぎだろ?」
「まさか連中、この世界が要らないってことか?」
「俺は正史から厄介な連中を取っ払いたかったんじゃないかと思ってる。つまり奴らは正史から慣らし作業したかったってことさ」
「だが私たちがこちらの世界にくるという保証はないだろ。FOXHOUNDの隊員は私たち以外にも多数いる」
「だが何の援護も受けず、単独で任務を遂行できるのは・・・多分俺たちか司令くらいだ。連中はそれを読んで、三人を送り込んだ。俺たちがもっとも苦戦するであろう三人を」
「そして私たちが外史から戻れないところを叩くって寸法か」
なるほど、理にかなっている。そう続けた。
「俺たちは正史で軍がPMCに押されていないのを願って、アシッドを叩くしかない。同時にこの三国・・・勢力で言えば二つだが・・・戦争を終わらせ、いつ正史の連中が攻め込んできても迎撃できる体勢を整えておかなくてはな」
「ならフォックスをここで墜とす」
「憂いを断つって事か・・・けどどうするんだ?前は四人がかり、キレたお前が出て行ってもいなされる。旦那・・・フォックスの実力は底が知れない」
「四人でもダメならさらに数を積めばいい。戦史研究が趣味のお前に言わせれば単純だと言うだろうが」
「だが理には適っている。どうするんだ?」
「先ほど江陵付近から戻ってきた伝令が輜重隊と補給路を見つけた。そこに・・・フォックスもいる」
「なるほどな。それにさっき孔明ちゃんが言ってた蜀の参戦も大々的に宣伝できるしな」
「そろそろ準備もできただろう、フォックスを叩きに行ってくる」
そう言って一刀は玲二に背を向ける。
「おい、戻ってきた伝令を労わってやれよ。文字通り命からがらだったはずだ」
その一言に、一刀は手を振るだけだった。
「・・・」
「どないしたん、隊長?急に黙り込んで・・・」
フォックス率いる部隊は輜重隊の護衛と補給路の確保に勤しんでいた。
両脇は崖であり、強襲される可能性が非常に高い環境であるためか、それとも前線よりも重要な任務であるためか、部隊は緊張気味であった。
そんな空気を和ませようと、フォックスはいつもの調子で冗談を言っていた最中だった。
「沙和、斥候は帰ってきているか?」
「そろそろ帰ってくると思うの」
沙和がそう答えた瞬間、あたりに地響きが響く。フォックスの後ろの崖が爆発し、石塊が落ちてくる。
「凪、真桜、沙和!お前たちは退避しろ!」
実に都合よく退路が断たれた。もっとも数を裂くためであり、彼とあとの少数は残っていても構わないという判断だろうが。
しかし狐は不敵に笑っていた。
彼の目の前には関羽、張飛、趙雲、馬超。崖の上には黄忠と・・・。
「・・・スネーク」
「ここで狩らせてもらうぞ、フォックス」
「五虎将軍がFOXHOUNDということか!?面白い!」
あたりが殺気に満ちる。フォックスの顔に絶望はなく、今から始まる殺し合いが愉しみで仕方ない。そんな表情だ。
「紫苑、奴の死角から狙いまくれ。ここで奴を仕留めないと後の禍根になる。誇りは捨てろ」
「了解しました」
紫苑に指示を出した一刀は高周波ブレードを抜き放ち、助走をつけ一気に崖を駆け落ちる。
それと共に崖下にいる四人が一気にフォックスに迫った。
「来い!英雄達!!」
そう叫びながらフォックスも走り出し四人を迎撃する。
四人の長物の突きがほぼ同時にフォックスに向けられる。しかしフォックスはそれを体を僅かにねじるだけですべて回避し、おもむろに剣を握っている右手を四人に向けて上げる。切っ先には一番背の低い鈴々の目に向いている。
「にゃ!?」
鈴々が転がりそれを回避する。残りの三人はフォックスの横を通り過ぎ反転するも、フォックスは既に鈴々に向けて剣を振り下ろしていた。鈴々は得物でそれを受け止めるものの倒れてしまっている身では明らかに不利だ。
「鈴々!」
愛紗がフォックスの切りかかり、鈴々を援護する。
鈴々の危機を救ったことで僅かに安心した隙をフォックスは見逃さなかった。空中にいるフォックスの蛇腹剣が愛紗に伸びる。
「油断するな!」
今度は崖から走りこんでいた一刀がそれを受け止めた。
「星!翠!いけぇ!!」
一刀の脇を二人が突っ込んだ。
「一瞬の油断も躊躇もするな!六対一でも下手をすれば負けるぞ!」
「一刀たち・・・うまくやっているようね」
江陵に無事たどり着いた呉軍は、撤退を始めていた。
蜀の参戦による動揺もあり、比較的痛手もなく事が進んでいた。
「一刀はこの戦いでフォックスを叩くつもりらしい」
「あの化け物・・・倒せるの?」
雪蓮はケインとは先の謁見でしか会ったことがない。しかしそのときに彼の強さはわかっているはずだ。
「・・・わからん。ただ数の暴力で墜とすとしか聞いてなくてな」
「まあ蜀の将がよってたかったらさすがに・・・ね」
* *
「さすがにきつい・・・か」
五虎将軍の連携もさることながら、一刀の攻防における貢献が計り知れなかった。
剣よりも取り回しに劣る槍の隙を一刀が埋め、その一刀の隙を紫苑が埋めている。
まさに総力戦だった。その一対六の状況を互角で押さえているフォックスは、まさしく化け物であった。
常に崖を背に、そして爆破された石塊を利用して攻撃を制限していた。
「仕方あるまい・・・」
愛紗の青龍偃月刀で吹っ飛ばされた反動で、何度目かの壁際に追い込まれる。
後ろから攻撃される心配がないため、動きを止め静かに蛇腹剣を左手に持ち変える。
「剣を持ち替えたのだ?」
「気をつけろ、みんな。奴が本気を出すぞ」
「右手から左手に持ち替えただけで本気になるのか?」
翠の疑問も尤もだ。
長年の付き合いである一刀だからこそわかる違いだった。
「ああ、フォックスは・・・」
「左利きだ」
そう。フォックスはとんでもない足かせをつけながら五虎将軍と交戦していたのだ。
左手に持ち替えた蛇腹剣は明らかに威力を増していた。
今まで蛇腹剣の薙ぎ払いをいなせていたのが、簡単に吹っ飛ばされるようになっていた。
翠が吹っ飛ばされた隙に、星が突進する。しかしその突撃をフォックスは柄で受け止める。サイボーグ特有の怪力でそれを星を吹っ飛ばす。
「くっ」
一刀は吹っ飛ばされた星を受け止める。
「ちぃ、戦い方も変えやがった」
一刀の戦法である待ち戦法だ。相手の攻撃をいなし防御し続け、わずかな隙を見逃さず、的確の急所を穿つ。
他より戦闘能力が劣る一刀が、自分より高い技量を持った相手に対する戦法。その戦法を正史最強の戦士が実践するのだ。舌打ちくらいしたくなる。
「同時攻撃で行くぞ!」
一刀の掛け声と共に、愛紗と鈴々がそれぞれフォックスの左右から得物を振り下ろす。
左の青龍偃月刀は蛇腹剣で受け止め、右の丈八蛇矛は刃の無い部位を素手で受け止める。
二人の間から紫苑の矢がケインの顔に向かって飛ぶ。ケインはそれを歯で受け止めた。
その隙に一刀が、壁走りで第四の方向から頭からの突きで突っ込む。
「うおおおお!!」
咆哮と共に愛紗が吹っ飛び、鈴々がフォックスと紫苑の射線を遮るように投げつけられる。
両手が自由になったところで、一刀の突撃を柄で受け止める。
「壁張り付き・・・なるほど、ファンデルワールス力で足と壁を固定しているのだな。これでお前の鍔迫り合いの強さも分かったということだ」
言葉が言い終えると二人が間合いを開けるように、後ろに飛ぶ。しかしケインは石塊群に飛び込む。
それを見た蜀の将たちも石塊群に突っ込んだ。
「せっかくの地の利を生かせていないぞ!スネーク!!」
戦いの一流は地の利を活かした。石塊で構成された戦場は、長物使いの四人の攻撃を阻み、射手の射角を遮る。
一刀とフォックスは、長物より遥かに短い片刃のブレードと両刃の剣だ。
石塊入り乱れる戦場では事実上一対一となったいた。
状況が悪いと判断した一刀は目を見開き、全身の血流を加速させる。
―――!!
一刀がスネークに変わる。蜀の時と同じく雷の鎧と翼を纏い、髪が一気に逆立つ。
「とうとう使う気になったんだな、サンダーボルトを」
フォックスが一瞬、兄の顔に戻る。
しかしスネークの顔はまさしく化け物そのものだった。
「その力で戦争を終わらせろ!スネーク!!」
逆手の高周波ブレードと蛇腹剣が鍔迫り合いとなる。
それにはじかれた一刀は器用に石塊群に張り付き、時に空中から電撃と共に一撃を加える。
しかしフォックスにとっては、その攻撃はまったく脅威とは思わなかった。
「バーサーカーを発現した途端に連携が無くなったな!?」
一刀の奇抜とも言える機動力に他の将がついていけないのだ。
「破ぁ!!」
着地隙を狙ったフォックスの薙ぎ払いに引っかかり一刀が石塊群から放り出され、地面に叩きつけられる。
「ご主人様!」
「ちぃ!」
放り出された一刀の周りに、彼を守るべく長物四人が取り囲んだ。一刀の目は既に白く戻ってしまっていた。
「さすがに危なかったぞ、平地で殺りあってたら既に死んでいるだろうな」
余裕があるのか、それともすぐに石塊群に逃げ込めるのか。フォックスが前に出てくる。
「まだだ!終わってない!!」
一刀が何度目か知れない突きの突撃だ。しかしフォックスは静かに言い放った。
「まあ・・・時間切れだ」
爆破した崖が崩れはじめ、一人が一刀に向かって拳から突っ込んでくる。一刀は突撃を止め、その拳を高周波ブレードの柄の先で受け止める。
解き放たれた道からは魏の将が見える。ケインの目的は最初から時間稼ぎだった。味方が退路を開いてくれると信じていたのだ。
「狐部隊の楽進文謙!」
「・・・北郷一刀だ!」
相手の戦法が拳である以上このまま密着するのは不味い。止まっている高周波ブレードを強引に振り回し、間合いをあける。
しかし凪は食らいついた。
「やめろ!凪!」
叫んだのはケインだった。しかし凪はかまわず一刀に右の拳を向ける。しかしその拳が彼に当たることなく、逆に手首が強く握られる。
「気孔か、初めて見る」
凪の耳にそう届いた次の瞬間、右の腕が捻り上げられる。体は痛みから逃げる本能に従い、凪は彼に背を向けてしまう。一刀の動きは止まらない。すかさず足を払い、高周波ブレードを持った手で後頭部から彼女を地面に突き落とす。
凪は地面までの間で体勢を変え、間合いをあけるべく下から上への裏拳を放つ。
一刀は冷静に間合いをあけ、こう言い放った。
「やめておけ。剛の拳では柔の拳には勝てん」
さも興味をなくしたようにそっぽを向くが、凪は構わず彼に拳を突き出す。
「楽進!!」
先ほどとは違う、真名とは違う呼び方に凪の動きが止まる。
「一刀の言うとおりだ。今のお前では勝てん」
「しかし・・・」
「下がれ!」
凪は納得いかないというよりかは、悔しいという顔だった。
「お前も下がれ、スネーク。ここはお前たちの宣戦布告だけで充分だろ」
フォックスが一刀に向き直るが、彼は切っ先をこちらに向けている。
「次は・・・潰す」
「楽しみにしておこう」
おまけ:設定資料
壁走り:アトモス・スネークが使用する彼固有の技術。楽盛城における垂直の城壁登りはこの技術で駆け上っている。
足と壁をファンデルワールス力で固定する。そのまま固定と解放を繰り返すと垂直の壁を登ることも可能。もちろん垂直の壁に張り付いたままも可能。アトモスはこの技術を鍔迫り合いの時も使用しているため、非常に鍔迫り合いに強い。
MGS2のヴァンプ、MGS4のヘイヴントルーパーが同じ技術で実践している。
* *
おまけ:次回予告
消えゆく命、消えゆく魂。
長江の色が紅く染まる。
二十八話 Ghost ~幽体行列~
名は体を表す。彼の名は幽霊。彼の身体は何処。
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・真・恋姫†無双をベースにMGSの設定を使用しています。
・クロスオーバーが苦手な方には本当におすすめできない。
・俺のMGSを汚すんじゃねぇって方もリアルにお勧めできない。
・ちなみにその設定は知っていれば、にやりとできる程度のものです。
・この作品は随分と厨作品です
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