No.133762

真・恋姫†無双 ~祭の日々~24

rocketさん

あれよあれよというまに4月1日も終わってしまいましたね。Basesonさんのエイプリル企画もおもしろかったです^^
ラウンジのほうではみなさんPSPの話題で持ちきりみたいですけど、ソースってどこからなんでしょうかね?
ちなみに私はPSPを持っていないというマヌケっぷり・・・Σ(゚д゚lll)ガーン

2010-04-02 00:09:21 投稿 / 全6ページ    総閲覧数:6170   閲覧ユーザー数:5134

 

・・・ぱっと見た感じでは、特に荒れているようには見えないなあ。

それが、成都に到着してすぐの俺の感想だった。

 

「一刀、どう思う?」

隣にいた蓮華にそう問いかけられて、俺は静かに首を振った。

「特になにかあるようには思えない。内乱自体、冥琳の杞憂だったんじゃ・・・?」

俺がそういうと、祭さんが小突くように俺の肩を叩いた。

「冥琳が杞憂程度の事をしたためたりするものか。権殿までわざわざ派遣させているくらいなんじゃぞ」

なるほど言われてみればその通りだった。

俺はまだ冥琳のことをよく知っているとは言いがたいが、軽率なことをするようには思えないし、実際彼女はしないだろう。

軍師という人種は、実に冷静で、物事を俯瞰して見ることに長けているものだから。

・・・いや、俺がよく知る猫耳フードは冷静とは言いがたいけれども。

「ただ・・・」

星が思案げにつぶやいた。

「火種がある、ということは確かなのかもしれませんな。いや、あった、といったほうがよろしいか」

蜀の人間として、その言葉の重みは俺たちのそれとは比べ物にならなかった。

重く、深く――そして後悔のようなものが、見え隠れしているようだった。

「戦も終わったばかりで、民に不安が残るのは当然のことだがな」

「うーん・・・鈴々にはよくわかんないのだ」

彼女が言うとおり、俺にもよくわからない。

星の口ぶりからすると、これから起こるとも思えないらしい。ということは・・・。

「・・・みんなが何とかしてくれたんだね、きっと」

桃香が街を見ながらつぶやいた。

それはどこか、悲しんでさえいるようだった。

 

大騒ぎしたものの、どうやら内乱は不発に終わっていたらしかった。

 

一行は、なかなかに長い道のりを経て、成都へと到着した。

このメンバーでかんたんに旅が乗り越えられるはずがない――そんな考えを持っていた俺は、意外にも真面目に旅路を進もうとする皆に驚かされていた。

いや、もちろん内乱が起こるかどうかの瀬戸際なんだから先を急ぐのは当然なのだが、俺は妙に心配をせずにいられなかったのだ。それは俺の経験不足からなんだろうけど、とにかく俺以外の皆は冷静に事を運んでいるように見えた。

俺だけが焦っているのかもしれなかった。

彼女たちは、雑談などはしていたが、けして悪戯にふざけたりはしなかった。それどころか、あえて笑顔を絶やさぬよう努力しているようにも見えた。

主にその努力をしているのは、星だった。

ちょっと目を離すと考えに沈みこんでしまう蓮華や桃香の気を抜いてやるのが、星は上手かった。

そのうえで、時に祭と酒を交わしたり、鈴々の相手をしてやりながら、秋蘭と情報交換のようなことまでしていた。

「星はすごいな」

旅の途中、雑談の一環として、俺はそんなことを口にしていた。

それをきいた星は、おや、とでも言いたそうな顔で俺を見返してきた。

「一刀殿に褒められるようなことを、私はしていましたかな」

「色々とね。星を見ていると、俺だけがわたわたしているみたいで恥ずかしくなるよ」

「おやおや」

「星って、なんでもできるんじゃないか?」

武官の仕事も文官の仕事も、飄々とこなせてしまえるイメージがあった。

「そんなことはありませぬよ。どちらかといえば、祭殿のほうが何でもよくできるのではありませんか」

「祭が?」

「ええ、呉の将はみな、六芸に富んでいると聞きます。得手不得手はありましょうが、一通りはこなせるのではないかな」

六芸とは、すなわち「礼(礼法)」「楽(音楽)」「射(弓)」「御(乗馬)」「書(習字)」「数(数学)」のことで、士に必修とされる六つの技芸のことだ。

確かに、武官は武官、文官は文官と偏りのある魏や蜀に比べて、呉の人たちは随分とオールマイティな気がする。

斥侯だといって遥か前を歩いている祭さんを見る。意識したことはなかったが、確かに彼女はなんでもできるのかもしれなかった。

肩をすくめて見せると、星は袖で口を隠しながら微かに笑う。

「ですが確かに、一刀殿は焦っておられるようだ。急がなくてはならないのは当然ですが、急ぎすぎては体を壊して余計に時間がかかってしまうものです。もう少し力を抜かれてはいかがかな」

「間に合わなかったらどうしようって思わないか?ほんの少しの差で手の打ちようがない事態になったらとは?」

「そんな心配は無用ですよ」

あっけらかんと言ってのける星の表情は、本当にまったくなにも心配していないようだ。

「どうして?」

「一刀殿」

目をじっと見つめられる。普段は飄々としている彼女だが、この時ばかりは真剣なのだといやでもわかった。

「あまり我らを舐めないでいただきたい。主が不在であるからと腑抜けになる我らではありませんぞ」

国には、諸葛孔明がいれば鳳統もいる。関羽将軍や馬超将軍、他にもたくさんの文官たちだっている。

主がいなくなれば士気こそ落ちるだろうが、国が簡単に傾くほど弱い国ではない。

――星はそういっていた。

「私はね、一刀殿」

いつも見せる飄々とした笑みを浮かべて、さきほどの真剣さをどこかに隠して彼女は言った。

「内乱の一件に関しては、あまり急ぐ必要もないのではないかとさえ思っております。我らが軍師がそれに気づいておらぬとも思えないし、手を打っていないとも思えない。いえ、もちろん桃香様を連れ戻すのは一刻も早く行ったほうがよろしいが。愛紗――関羽将軍が心労で倒れぬうちにね」

劉備・関羽・張飛は桃園の誓いで有名な義兄弟だ。他二人が不在、しかも情緒不安定であったなら、心配しないほうがおかしい。

「あれは生真面目な性格をしておりまして、何事も真っ直ぐにしか解決できないのです。

――帰ったら、半日はお説教を覚悟しておいたほうがよろしいでしょうな?」

と、後ろにいた桃香と鈴々を振り返りながら星は笑う。

桃香は苦笑し、鈴々は苦りきった顔で舌を出した。

「うえー・・・なのだ」

「お説教で済んだらいいんだけどねー・・・」

そんな二人を見て、俺と星は顔を見合わせて笑った。

 

こんなふうにして俺達は滞りなく成都まで辿り着き、このときの星の言葉が真であったことを知るのだった。

 

成都に到着した日、俺達は宿をとった。

ただ、星だけは城に帰っている。桃香と鈴々を無事連れ帰せたことを報告するためだ。

急に連れ帰ったのでは混乱を招くし、それこそ牢に閉じ込めろと言われてしまうだろう。

星は桃香が乱心していたこと、そして今は心を取り戻したことを伝えるために一足先に帰ったのだった。

俺達は翌日、連れ立って城へ赴くことを決めていた。

 

宿での夕食を終えた後、俺は肩を落として部屋を出て行く桃香の姿を見た。

「・・・?」

逃げるのではないか。そんな考えがふっと浮かび、しかしすぐに取り消した。

王としての誇りを取り戻した今、彼女がそんなことをするようには思えなかったからだ。

俺はいけないとは思いつつも、彼女の後を追った。

 

といっても、追うのにそう苦労はしなかった。

桃香は宿を少し出たところで、ぼうっと月を眺めていたからだ。

「桃香?」

思わず声をかけてしまって、しまった、と思った。なにか考え事があるのなら、ひとりにしてやったほうがよかったのかもしれない。しかし既に彼女はこちらを振り向いてしまっていて、どうにも引っ込みがつかなくなってしまった。

仕方なく俺は隣に行き、言い訳めいた言葉を連ねるしかなかった。

「ええと、出で行くのが見えたから。どうしたのかなって。邪魔ならすぐ戻るよ。ああ、でも危ないからあまり外には出ないほうが・・・」

「心配してくれたんですか」

気を落とした声のまま、しかし少しだけ嬉しそうに桃香は言った。その笑みはやわらかくて、だけど寂しそうで。

俺はなんとかして彼女の元気を取り戻してやりたいと思った。

「どうかしたのか」

「え?」

「元気がないみたいだけど」

俺がそういうと、桃香は乾いた笑いを浮かべながら、視線を地に下ろした。

地面がぽつぽつと濡れていくのを見て、俺はあわてて彼女から視線をはずし、月を眺めることにした。

・・・桃香は泣いていた。

「怖いのか」

死刑になるかもしれないこと。

しかし、彼女は首を横に振った。

「・・・内乱、が」

「え?」

「内乱が、収まっていましたよね」

「・・・ああ」

「あれを見て、ああやっぱり、って思ったんです」

「やっぱり?」

「私は要らないんだなあ、って」

それを口にする瞬間、桃香は針でも飲み込んだかのような顔をしていた。

そのとき俺ははっとひらめくものを感じていた。

“華琳さんが妬ましかった”――桃香は自分の憂鬱をそう語っていたが、本当はこれこそが彼女のそれではないのか・・・?

「要らないって・・・そんなことはないだろ」

「いいえ、だって、私がいなくたって万事滞りないじゃないですか。それどころか今回にいたっては私が騒ぎの中心です。私は――私は迷惑をかけているだけで」

「それは・・・」

「本当はわかってたの。華琳さんも雪蓮さんも、方法こそ違うけど・・・大陸に平和をもたらすことを望んでいたって。ただその難しさを知っているから、口には出さなかっただけなんだって」

「・・・」

「ねえ、一刀さん」

涙で頬をぬらしたまま、桃香は俺を見つめてきた。

「ん?」

「もし華琳さんが不在になったら、どうなると思いますか?」

「華琳が不在になったら・・・?それは、魏にってことか?」

「ええ、そうです。所用で出かけたとかじゃなくて、行方不明って意味で」

「そりゃ困るだろう。魏はもちろん華琳だけで回っているってわけじゃないけど、それでも華琳がいるからこそって部分もあるし・・・なにより」

彼女が危険に晒されていると知って、平然としていられる者が配下にいるとは思えない。

夏侯姉妹は何が何でも捜索の先陣を切るだろうし、三軍師だって知恵を絞って行方を捜すだろう。季衣と流琉は親衛隊だから捜索に加わるだろうし、三羽烏は市内で聞き込みかな。霞は・・・探しに行きたくても、他の人の分まで仕事を回されてそうだな。

俺がそう考え込んでいると、桃香は寂しさをより強くしたみたいだった。

 

「華琳さんはそうだと思います。きっと雪蓮さんも。・・・私だけが、そうじゃない」

再び視線は地に落ちる。彼女がうつむいたからだ。

「私がいなくても、政務は回ります。現に内乱だって起こる前に収めることができた。・・・最高責任者が代わるから、むしろ効率良くなるのかもしれませんね」

「・・・桃香」

「ずっと不安だった。私は要らないんじゃないかって。愛紗ちゃんたちは私についてきてくれたけど、いつ見放されるのかと思うと怖くてたまらなかった。いつ、華琳さんのほうが、雪蓮さんのほうがよかったって言われるのかって・・・」

 

「それは皆に失礼というものじゃぞ、桃香殿!」

 

俺が手を出しあぐねていたとき、ふと背後から声がかかった。

少し低めの、芯の通った耳障りの良いその声は――祭さんのものだった。

桃香は驚きながらも、祭さんの言葉が気になったらしく、目を見開いて祭さんを見ていた。

「失礼・・・?」

「そうじゃ。我ら臣下が、何をもって主に仕えるとお思いか。たくさん給金をくれるから?それとも名誉が与えられるから?――本当にその程度の理由だとお思いか?ならば貴方様は真に主たる資格がない!」

祭さんは怒っていた。

眼を怒りに染め上げ、腕を振りながらこちらへ近寄ってきた。

その歩みは、桃香の眼前に至ってようやく止まる。

「それは・・・それは、違います。だって愛紗ちゃんたちは私の志に触れたからって・・・」

自分で言って、桃香は何かに気づいたようだった。さっと顔を青ざめさせる。

「そこまで臣下に言われておきながら、なぜそのようなくだらない不安に苛まれることがある。皆々、貴方様の心に――志に共感したから、あなたの下でならそれが叶えられると信じたからついてきたに決まっておるじゃろうが!」

祭さんほどその言葉を桃香に伝えるのにふさわしい人はいないだろう。

誰よりも主の尊さを、それを慕う臣下の想いを知っている彼女だから。

「もし貴方様の言うとおり、臣下が離れていってしまうとしたら――それは貴方様が己の心に背いたときじゃろうに」

「あ・・・ああ・・・」

桃香は愕然として、立っている事さえままならない有様だった。

そんな桃香の肩をしっかと掴み、祭さんは語りかけるように言った。

「臣下を信じてやってくだされ。貴方様ご自身が信じられずとも、せめて貴方様を慕う臣下だけは」

主は臣下を信じ、臣下は主を慕う――これこそが、真の主従関係であるのだと。それが桃香にならできるはずなのだと。

「私・・・、なんてことをしてしまったんだろう。そんなことにも気づけないで、みんなを裏切ってしまった・・・」

彼女はひとしきり悔やみ、そして顔を上げる。

「私は・・・私はまだ、やり直せるでしょうか。みんなに謝ることが、その資格がありますか・・・?」

「謝るのに資格なんかいらないだろう。それに、たとえ許してもらえなかったとしても・・・それでも努力すべきなんじゃないかな」

俺がそういうと、桃香は微かに笑みを浮かべてくれて、俺は少しだけ嬉しくなった。

不意に振り返った祭さんがにやにやしながら、生意気なことを言いよる、とでも言いたそうな目で見てきたのが少し恥ずかしかったけど。

 

俺たちはほっとしていた。

彼女の悩みを理解できて、それが良い方向へと改善されたのがわかって、油断していた。

・・・だから、そのとき誰も反応できなかったのかもしれない。

 

どろり、と。

ぬかるんだ地面から人影が現れる。

その人影はぎらりと輝く刃物を、躊躇なく突き出していた。

 

 

 

―――俺に。


 
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